勝利への布石
聖剣を引き抜いた勇者に、魔族は決して慄かない。
むしろ、積年の恨みを晴らすとばかりにあちらこちらから檄が聞こえ、激しい戦闘が始まる。
町の防衛システムでは魔族の使う防御魔法に対して有効な攻撃は出来ない。
弾丸に対して驚異的な防御力を誇る防御魔法に対して、現時点で有効なのは衝撃ではなく斬撃の術式が付与された剣で叩き割ることだ。
フィーネが駆け抜け、その影をアーヴェルが追う。
追い込んだところにミラの爆裂術式が付与された広範囲を破壊可能な魔法が焼いた。
無論、ミラを野放しにするわけがなく、魔族は空の覇者である飛竜を差し向ける。
既に防御としては大した機能を有しない大砲や迫撃砲をミラは自身の周りに浮かせて配置し、飛竜たちを屠る。
鉄壁の防御と絶対的な攻撃のバランスこそが、彼女を現代最高の間歩王使いにした。
フィーネが進む度、魔族が魔力の粒子となって消えていく。
フィーネの取りこぼしをアーヴェルが討ち、その隙を狙う魔族をヴァイスの指揮で動く衛兵が討つ。
さらに、ミラの爆撃が100パーセント発揮するよう他を誘導する高い指揮力。
既にヴァイスは、無言で動く勇者パーティーを完全に掌握していた。
「おのれ……勇者……いつか必ず、次代の、魔王様が――」
「ソレを倒すために、私はここにいます」
「ならば、この命で、せめてこの町を!」
魔族の一人が自身の心臓に腕を突き刺す。
爆裂術式を自身に付与することで起きる、魔力の暴走。自爆だ――
すぐに腕を斬り落とすが、既に遅かった。
将軍は最後に血を吐き笑いながら、自信の体を爆ぜさせた――
瞬間、見えない球体の中に体が閉じ込められ、爆発と同時に赤い球に収縮し、地面に落ちた。
フィーネは剣をくるくると回して鞘に戻し、空を見上げた。
詰まらなそうな表情で空を浮かぶミラが、杖で軽く空を切ると、球体が爆ぜ、魔力の残滓が地面に沁み込んでいった。
「爆発だけが能じゃないわ。魔力で閉じ込めた。あんたたち魔族の術式も魔法研究も、あーしの魔法の前じゃ、非効率でしかないわ」
光の剣が出現し、森の形を変える程の斬撃が空から堕ちた。
仮に、将軍が生きていれば手痛い反撃を食らった可能性はあった。それほどまでに、魔族は警戒しなくてはいけない。
フィーネがいなければミラは危うく、ミラがいなければフィーネは死んでいた。
これが、勇者パーティー。
「とてもいい魔法ね、ミラ」
「全式解析。あーしは魔法の術式を見るだけで使うことができる。例えそれが人の作ったものでも、魔族の作ったものでも、見るだけで模倣できるの」
得意気に笑うミラに、フィーネもまた笑顔で頷いた。
「魔法は、術式を決まった方法で何度も書き直してようやく理想の物に出力する、だったっけ?」
「そ。めちゃしんどいんよね。書いた人以外に理解できなきゃ、まず魔導書そのものを解析するとこから始まる。魔法研究って地味なんだよねぇ」
「勇者フィーネ。敵が近くの要塞に撤退していった。追いますか?」
「いや、本土から応援が来るまでここを守護する。連中、端からこの町を襲う様な布陣だった。その癖、フィーネの嬢ちゃんの姿を見て勇者の存在にようやく気づいた素振りだ。それと、聖騎士、神託がまたなかったようだが?」
「さすがに僕もおかしいと思って確認しましたが、連絡が繋がりません。今は使者を送って様子を確認させています」
アーヴェルの問いに待ったをかけたヴァイスは、速めの美酒とばかりにビールをあおった。
ひとしきり喉を鳴らした後に服の袖で口元を拭うと、瞳を細める。
「連中の内戦のどさくさに、俺らを使いやがった。舐めた真似してくれるじゃねえか、魔王軍」
「なに、どういうこと? あーしらにわかるように言って」
「こいつらが持っていた物だ。見てみな」
「なにこれ、手紙? ええと――」




