表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

歪み崩壊の物語1頁目

「さて、この辺りに魔王軍の残党の姿を確認したとの情報ですが……ミラさん。魔王軍がいれば即座に爆撃してください。魔王軍の制空能力は異常です。生物だけで空の支配をほしいままにしている」


 カイン・アークライトは小高い丘から下に点在する村を見下ろしながら振り返った。


「あーしに命令しないで。そんなことわかってる。あーしなら、被害ゼロでやれる」


 対するミラは、フィーネとの一件があって以来、カインに対して強い警戒心を抱いていた。

 ただ、正面から戦って負けるつもりもなかった。それほどまでに、勇者パーティーの中でミラの強さは抜きんでていた。


「勘違いしないでほしいんですが、僕は別にあなたと敵対したいわけではありません。姉とは確執がありますが、あなたと同じように魔王軍を討ちたいという気持ちに変わりはありません」

「そうだぜ、お嬢ちゃん。この人は生まれる時代を間違えなきゃ勇者だと言われている。知略も俺並みにあるし武勇もある」

「なにそれ、じゃあフィーネが生まれなきゃよかったってこと?」

「んなこと言ってねぇ。フィーネは今大規模作戦の指揮を執ってる。大きな陽動だ。俺たちの真の目的はただひとつ」

「七魔将狩りでしょ。全部理解してるわ」

「してねえよ。直接戦ったら嫌でも気づく。連中は連中で、一人で世界をひっくり返せる資質を持ってんのは間違いねえ。聖杯を使って召喚したってのも確定した今、戦えるフィーネを囮にしてそれ以外の全力で七魔将を削る」


 フィーネは聖剣の加護がある。放っておいても死にはしない。

 それが勇者だ。

 勇者以外の前線力で片づけるというのは理に適っているがこんな田舎に七魔将がいるとは思えない。


「埒が明かないわね。さっさと村に入るわよ」


 ミラが丘を降りたつと、他の勇者軍の兵員も配置につく。

 負けるつもりはただの一つもなかった。

 ただ、アーヴェルを討つほどの人間がいるといるのは確かだ。

 出し惜しみはしない。全力で当たる。アーヴェルの仇討ちという程背負ってはいないが、仲間だったのだから思うところはあった。


「これ、ここに置いておいて。そう。魔法なんか、使わない方が良い。自分で直す方法、教える」


 見つけた――

 最初に、冒険が始まるそのスタートラインで起きた戴冠事変。

 魔王軍の刺客を送り、また逃がした魔法使い。

 ミラは杖を構える。

常に、ミラは強いられていた。力の加減を。全力の制限を。

始めの城ではもちろん、要塞戦でも今も、周りに被害が大きすぎる範囲攻撃を繰り出すミラにとって、戦場はあまりに窮屈過ぎた。

今も変わらない。

力を制限しつつ必殺する技術の習得、それが今の、ミラが見出した答え。


「待って。言いたいこともやりたいことも、分かる。だけど、話を、聞いて」


 水色の髪をした少女はゆっくりとミラに向き直った。

 小さな体躯の中にまるで化物ほどの強力で大量の魔力を感じ取ることができる。

 間違いなく、目の前の少女は偉大な魔法使いだった。


「あんたは魔王軍で、あーしは勇者軍。戦わない理由、なくない?」

「ある、よ。この町は直したばかり、なの。だから、戦いたく、ない。やるなら、ここ以外が、いい」


 腹が立った。

 本来なら勇者軍であるミラが気遣わなければいけないことを、破壊者で略奪者の魔王軍に諭された事実。

 自分で思った以上に頭に血は上っていて余裕がないようだった。

 アーヴェルが死に、代わりに入ったフィーネの弟。誰が裏切っているのか分からない状況でも平静を装うフィーネ。誰もが限界だ。

 その全ての元凶は、負けるはずだった魔王軍を立て直した新生魔王パーティーだ。


「あんたらがいなきゃ、こんな戦いはすぐ終わるはずだったのに」

「ウチらがいなきゃ……もっと死んだ。それより、話、聞いてほしい。ウチは、戦いたくない。人を殺したくない」

「世迷言を……ほざくんじゃない!」


 爆発術式を近距離で発動。

 強烈な選考が迸り、爆音と爆炎がぶち当たる。

 しかし……目の前の魔法使いは、魔道具たる杖も使わず、補助の詠唱も行わず、ただ一瞥だけで、爆炎を氷で包み込んで消し去った。

 高度な魔法。

 ミラの固有魔法は見た術式を完璧に模倣するもの。

 一目見て分かった。

 目の前の偉大なる魔法使いが使っている魔法は、ただの氷魔法だ。

 厳密にいうと、誰でも使える氷魔法を、無限のバリエーションで手足のように扱っている。


「噂通り……千年前に現れた最初の魔女……魔女狩りの、張本人。ユリエル・フロスティア!」

「そう。ウチのせいで、一杯死んだ。だからウチは、魔法を消し去りたい。邪魔は、しないで」


 巨大な氷柱が生成される。ただの氷魔法だ。落ち着いて防御術式と、それこそ無限に模倣してきた魔法を組み合わせて、全て防ぎきる。

 氷を解かす魔法、氷を操る魔法、水を操る魔法、爆発魔法、全ての術式を組み合わせてユリエルの魔法を正面から破壊していく。

 しかし、さらに上から、ユリエルは術式自体を凍結させて解除、氷の雨を降らして襲い掛かる。

 圧倒的な物量が防御術式を容赦なく削っていく。


「こんな強さがあって戦いたくない? 冗談、あんたが一番、脅威!」

「戦いたく、ないよ。ウチは弱い。結局、誰かの背中にいるしかない」

「だったらさっさと止めなさいよ! 傷つける勇気もなくて、守れるものがあるわけないでしょうが!」


 両手で魔力を捏ねて、払う。

 見えない斬撃を放つ魔法がユリエルに襲い掛かるが、氷の盾が幾重にも張られて魔法を防いだ。


「その勇気を否定してくれた人がいたから」

「はあ? 何よそれ!」


 氷柱と、足場がせり上がって氷の霜が動きを止めて来る。

 即座に空を飛ぶ魔法で浮き上がり、攻撃を反射する魔法で全て弾く。

 ユリエルは見上げながら、涼しい瞳をしている。

 現代最強の大魔法使い。亜人でありながら勇者パーティーに入る実力を持つミラの体は震えていた。

 武者震いなんて高尚なものじゃない。

 目の前の小さな少女を前に、最強の実力を持つからこそ感覚し、恐怖した。

 実力差が、尋常じゃなく間に横たわっている。

 仮に相手が最強の魔法を使う魔法使いならば、それを模倣して勝つ自信がミラにはあった。

 しかし、ユリエル・フロスティアの魔法を模倣したところで手に入るのは一般的な氷を操る術式。魔術そのものじゃない。技術が違うんだ。


「やっぱりお前じゃ荷が重いか。どうする、カイン」

「決まってるでしょう。ヴァイス、あなたの作戦を実行してください」

「了解だ」


 後方に控えていたはずのヴァイス、カインの号令に従い、兵士と装甲車が木々を薙ぎ倒しながら侵入してくる。

 ユリエルは落ち着いて戦車を凍らすが、中から火炎放射器が飛び出して村を焼き始める。


「何を……何をしている! ヴァイス!」

「お前がやれねえからだ。ぐずぐずしてると千載一遇のチャンスを失う! ひとりしかいねえんだぞ、殺さなきゃいけねえ相手が!」


 ヴァイスの言葉通りではあった。

 何をぐずぐず迷っていたのかと、ミラは拳を固めた。

 相手は今、村を助けるために氷を操り辺りを冷やし続ける。

 すぐに兵士が囲い、射撃を繰り返す。背後の家を守るために、ユリエルはあえて動かずその場で防御術式を展開。

 はたと気づかされる。

 一体どっちが、侵略者なのかと。


「ヴァイス! あーしがあいつを倒せば、攻撃は止めさせるわけ?」

「倒せればな。だがあいつは2000年前の史上初の魔女で現新生魔王軍七魔将の一人だ」「それが、なに? あーしは、現代最強の大魔法使いよ!」


 駆け出す――

 遠中距離からの魔法攻撃は辺りを巻き込む。もし倒すなら、近接戦闘。

 ユリエル・フロスティアは明らかに魔法使いの戦い多に準拠し、距離を取っている。

 近接戦闘が苦手であることはまず間違いない。

 剣士の剣術を模倣する魔法と格闘技者の動きを模倣する魔法を使って力の限りぶっ叩く。

 それが、ミラの考えた対魔法使いが最も嫌がる戦術。

 そのためには、ただただ前に出て近づく。

 しかし、さすがに近接嫌いのユリエルは氷魔法を使って足場を凍らせ、壁を作り、近づけさせない。

 絶対零度の不可侵領域が、ミラの足を阻んだ。

 それが、どうした――


「大体、三秒!」


 三秒ごとに、自身を巻き込むレベルの近距離で爆有髪術式を展開。

 爆風と炎で氷を溶かし、突き進む。

 防御術式を同時に展開すると細かい制御が必要なせいで凍り付きかねない。

 自爆覚悟の特効でもしなければ、勝てない。

 それほどの相手――原初の、魔女。

 爆発、氷結、爆発、氷結。

 確実に距離を詰めて、自身の距離に持ち込むミラ。

 落ち着いて、その機を狙う。服が破れる。肌が焼ける。髪が焼ける。

 熱い。痛い。だけど今、ミラは最高に、生きている心地で戦っていた。

 なんでも出来るからこそ、たった一つの強大な力とテクニックに屈したミラ。

 今、自身もまた技術で壁を超える瞬間!


「あーしが、大魔法使いだ!」

「つ――」


 ユリエルは腕をクロスするも、本当に近接に慣れていないせいで腹ががら空きだった。

 空いた腹に杖を打ち込んで叩き潰す。

 吹き飛んだユリエルが家の壁に背中を強か打ち付けて項垂れた。

 すぐに術式を使う。剣を出す魔法。咄嗟に魔法を通さない術式を使われればいくら魔法を売っても意味がない。物理的な壁ならこの剣だけで、今のユリエルは十分倒せる。


「待っておくれ!」


 間に入ったのは一人の老婆だった。

 両手を広げて、剣を握るミラの前に立ち塞がった。


「おばあちゃん、ダメ、中にいてって、言った」

「恩人が死にそうになってるって言うのに何もしないでいるわけがないだろう」

「恩人? 何言ってんのあんた、そいつは、魔王軍よ!」

「それがどうしたって言うんだい?」

「はあ!?」

「壊れた家を直してくれて、花を咲かせてくれて、優しくしてくれて、そんな子が魔王軍だから何だい? 私らのために尽くしてくれるなら、魔王も勇者も、関係ないんだよ」

「何言ってんの? あーしらがどんな思いで戦ってると――」

「この村を壊したのは、魔王軍との戦闘で暴れた、あんたら勇者軍じゃないか」


 言葉が出なかった。

 剣を握る手が震えた。

 確かに七魔将を倒したはずなのに。あと一刺しで英雄になったはずなのに。

 これは一体なんだと、ミラははっきりと狼狽した。

 確かに、民を救うために魔王軍と戦っていたはずだった。

 それなのに気付けば今、自分に向けられているものはまず間違いなく……敵意。


「やめて……そんな目で、あーしを見ないで……」

「勇者軍の人……おはなし、しよ? ウチらは、まだ、話し――」

「撃て」


 一発の銃弾が……老婆ごと、ユリエルを襲った。

 ミラが振り返る間もなく、ただただ、銃撃という結果だけが、赤い染みとなって広がっていく。

 時が止まったような感覚の中、虚ろな目で驚愕を浮かべるユリエルと目が合った。

 もう、立ち止まってはいられない。

 咄嗟だった。衝動的だった。

 ミラは剣を構えて、ユリエルに突き刺す――

 そんなユリエルの前に立ち塞がったのは、鎧の騎士。

 鎧は全く抵抗を見せず、両手を広げて剣を胸で受け止めた。


「たいちょ……親衛隊ちょう……なんで、どうして!」

「申し訳、ありません。ユリエル様。我らが出れば、戦火が広がる、待機、という厳命、果たせませんでした」

「だからって、ウチを庇って……待ってて、今治癒を!」

「ユリエル様!」


 倒れながら、容赦なく襲ってくる次弾からユリエルを守るために騎士は背中を向けてユリエルを庇った。

 いくつもの銃弾が当たる。展開していたであろう防御術式を貫通する術式付与弾頭が、祈りを削っていく。

 治癒魔法を使いながら防御術式は使えない。

 ユリエルは治癒のために術式を解いた。騎士はその隙を咄嗟の判断で、自分の身を挺して守った。

 残されたのは、恐らく蘇生治療が間に合わない瀕死の騎士。


「なんで! どうして! 隊長!」

「ルカ様を……お助けいただきました……私は、鬼人族と魔族のハーフ……ルカ様は、奴隷でしかなかった、私たちに、希望を……」


 体から魔力が漏れ出る。魔族の死の象徴が、近づいて来る。


「喋らな……いや喋ってて! でも、治癒が、あ……勇者軍! ウチの命は後で全部あげる! だから今は攻撃を辞めて! お願い、だから! この人を救わせて!」


 悲痛な叫びに、ミラは剣を力無く落とした。


「聞いて、下さい。ユリエル、様。あなたは、強い。どうか、ルカ様を、お守りください」

「それは、あなたの仕事! 血は止めた、大丈夫、大丈夫!」

「いたたまれないですね。せめて楽にしてあげましょう。あなたと共に」


 容赦なく前に出たのは、勇者の弟、カイン・アークライト。

 剣を深々と騎士に突き刺して、抜くと同時に斜めからユリエルに叩き落とす。


「まったく最近の若者というのは堪えを知りませんね」


 ガキン――

 金切音と共に、長身の男性がステッキで剣を受け止めた。


「……フルクラム、さん……」

「ああ、ただ、ゼハートとお呼びください、ユリエルさん。さて……どのような状況下は把握いたしました。ここは、穏便に済ませましょう。私は、紳士ですので」


 魔法陣展開――

 現れたのは魔力で象られた影の蛇。

 蛇は勇者軍の兵士や装甲車にぐるぐるととぐろを巻きながら襲い掛かる。

 物量による支配と混乱を生み、自身は即座にリーダーと辺りを着けたカインへ襲い掛かる。

 ステッキで叩き落とす。剣で受けるとステッキから出て来た蛇が剣を食いつぶして叩き折る。


「なるほど、七魔将か」

「お初にお目にかかり光栄です。勇者軍。では、すぐに死んでください」


 さらに背後から蛇が大量に出現し、カインを襲う。

 カインはゆっくりと片腕を地面に触れると、地面が隆起。

 尖った岩が蛇を貫き、残りは片腕を器用に振り回して切り刻む。

 表情一つ崩さない所に、姉でアルフィーネの面影を感じた。

 間違いなく、カインは勇者の弟だった。


「ふむ……あなたの情報はなかったのですが……後で主に聞くとしましょう」

「後があるとでも――」


 強襲するカインの前にゼハートは防御術式を展開し、足もとを思い切り擦り上げた。

 見かけによらず力が強いせいか、土煙が起きた。

 カインは体の半分だけ逸らして、片腕を思い切り振り上げると、剣を地面に叩き落とした。

 煙が消え、七魔将ふたりと騎士の姿も消えていた。


「……なるほど、ヴァイス、あなたの言う通り、七魔将は相当な手練れのようです」

「ああ、そうだろう? 内定の情報だと、最初の四人の他に三人、追加されたようだ」

「厄介ですね。このレベルが……まあいいです。ヴァイス、この村は燃やしてください。魔王軍の残党がいる可能性がある」

「了解」

「ちょっと待って――」


 背に手をかけるミラの腕を掴み返し、地面に膝を折らせたカインは溜息を吐いた。


「あなたにはがっかりです、ミラさん。結局あなたは大切な時に剣を振るえない。あなたでは、魔王を殺すとなった時、躊躇する。連中は言葉を使う。逡巡が命取りだ。この町を救えなかったのは、あなたの力不足です。ヴァイス」

「全軍、火を放て」


 ミラの中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ