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勇者の本音

「ヴァイス、もう一度、はっきりと、言ってもらえるかしら」


 勇者軍全軍の指揮を一時的に行い、先刻のオラクルバスティオン戦とリラ・オルタノートの焦土作戦によって失った信用を回復しようとした。

 しかし、返ってきた内容は途方もなくどうしようもない物だった。

 勇者パーティーにして聖騎士、アーヴェルの戦死。氷理教会総本山、ラウンドベースの陥落。

 めまいを覚える程の悪夢が急速にフィーネの体を熱くさせた。


「すまない。俺が向かった時にはもう……最後に傍受した通信記録がこれだ」

『勇者パーティーの一人を倒しました。可能ならば彼を捕らえたいのですが』

『殺せ。連中の参謀は恐らく人質をどうにかする様な――』

「リラ・オルタノートに敗れたと見て間違いないだろう」

「……そう。分かったわ」

「次の作戦を今すぐ観光すべきだ。あいつの死を無駄には出来いねえ」

「分かってる。魔王軍は、私が滅ぼす」


 勇者の顔から笑みが消えた。

 その横で、ヴァイスはほくそ笑んだ。

 全てが自分の思い通りに推移していて笑いが止まらないが、今は喪に服す顔をすべきだと、掌で顔の表面を撫でた。


「そこで、フィーネ。あいつの穴を補充する新たなメンバーが王都から間もなく到着するそうだ」

「誰ですか?」

「僕ですよ、勇者フィーネ」


 現れたのは白金の髪を持つ少年。

 布鎧を身に纏い、腕を後ろで組んだ彼は、フィーネに近づくと薄く笑んだ。


「カイン……どうしてあなたがここに」

「あなたこそ、分かっているんですか? 勇者フィーネ。あなたが遅々として魔王討伐を完遂出来ないせいで民衆は不満と恐怖のどん底にあります。国王も、あなたの力に疑問を持ち始めました。僕が呼ばれるほどに」

「フィーネ、思うところはあると思うが、こいつの力は本物だ。作戦に必要なんだ」

「何も言ってない。ふう……カイン、危険が伴うことは承知ね?」

「もちろんですよ。僕はあなたより先に生まれていれば、その立場にいた。たかだか2年の違い程度で」

「……カイン、私は……」

「分かっていますよ。聖剣の背敵性がないあなたの代わりに、敵性のある僕が補佐を務める。本来こうするべきでした。教会の横やりがなければとっくの昔に僕はここに立っていた。死んで清々します、あの聖騎士も」

「カイン。それ以上は許さない。アーヴェルは私たちの大切な仲間よ」

「下らないと言っています。そんな甘さを戦場で見せないでくださいね、姉さん」


 カイン・アークライト。フィーネの弟にして、聖剣に適性のある真の勇者。

 フィーネではなくカインこそが勇者に相応しいとする声もあったが、教会の横槍もあってパーティーにすら入ることが出来なかった人間。

 運命がカインを表舞台から排除したが、因果が再びカインを舞台に引き戻した。

 歯車が狂いだし、無理やり動かされていく。


「分かってるならいいわ。ヴァイス、あなたが補佐してあげてくれるかしら」

「ああ。そうだな。わかった」


 フィーネはふたりに背を向けて、本陣の幕に入って行った。

 そこにいたのは、任務を終えて帰還していたミラだった。

 ミラはフィーネの姿を見た途端、笑みを浮かべて近づこうとするが、フィーネは剣を抜いてその喉元に突き立てる。

 何の抵抗も見せず、ミラは驚いたように目を見開いた。


「ちょっと、何のつもり? フィーネ」

「とぼけるのは止めて。全部、分かってる」

「だから、何が!」

「これ以上は、先に逝ったアーヴェルに詫びるといい」

「なんでアーヴェルが……何を言ってるんよフィーネ!」


 フィーネの斬撃はミラノ想定をはるかに超えた速度だった。

 まるで追いつく気配のない様子に、フィーネは斬撃を途中で止めた。


「……ごめんなさい。あなたを試させてもらったの」

「だから、何が!」

「……アーヴェルが死んだ」

「は? 何それ意味わか……どういうこと? さっきから何!」

「魔王軍に敗れて殺された。その代りに、私の弟であるカイン・アークライトが入ってきました。恐らく、殺すよう仕向けたのは弟」

「なんで、あんたの弟がそんなことするわけ?」

「カインは私よりも聖剣敵性能力に優れていながら勇者に選ばれなかった。代わりに、出来損ないの私が選ばれた。勇者に対して強いコンプレックスを抱いているの」

「何それ、フィーネが選ばれたのは実力でしょ。手前の力が足りないのを言い訳に視点じゃないわよ」

「……優しいのね、ミラは」

「ムカつくだけよ。だとして、あーしを疑ったのは何ごとなの?」

「……今のパーティーは誰も信用できない。だけど、私はそれでもみんなを信じたい」

「だからあんな無茶な……まあぶっちゃけると、そこまで信頼し続けるのって、もう、考えるのを辞めてるだけだと思うよ。勇者になら何してもいいなんて法律ないんだから」

「それじゃあ、皆と同じ。皆が誰も信じられないから私が信じる。だからミラ、あなたは疑い続けて。他の誰もを。私すらも」

「なんそれ……そんなの、パーティーなの? あーしが見て来た物語は、こんなんじゃなかった」

「ごめんね……ダメな英雄で」


 弱弱しい勇者の姿を見て、ミラはフィーネを抱きしめた。

 背負っていただけ。いや、背負わされていただけで、フィーネはまだ演じ続けるだけの強さはなかった。

 偉大な英雄。仲間を失い雰囲気する、物語の勇者を。


「大丈夫。あんたは私が守るから。とにかく今は、勇者であり続けて」

「分かってる。もう、誰も殺させはしない」

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