無知の知
「はい、というわけで、リラ先生の大活躍によって我々はまた一つ歴史に悪名を刻みました。本人は怪我のため治療中ですので、代わりに復活したソレさんとミミ、ユリエルで飯です。本日のメニューはヴラッドゼグゼサーモンのムニエルとラトリエルアエラ牛のテールスープですボナペティ!」
『いただきます」
全員で食卓を囲うというのはあまりない。
ないが、俺が料理を作る機会というのはぜひ奪わないでほしいと懇願したところ、ミミがない時間を作ってくれた。
皆黙々と食べているが、もう何も言わない。こいつらマズけりゃ食わないから美味いんだろう。
「ルカさん、これ、美味しい」
ユリエルは満面の笑みだ。魔王パーティーの癒し枠担当。しばらく口を利いてくれなかったが機嫌を直してくれたようだ。
「ありがとう。ありがとう」
「なんで、二回?」
「大事なことだからじゃろ。まったく、たまには人に任せるのも良い物じゃの。あやつはあの大けがでラウンドベースを落としきった。バケモンじゃの」
「幼帝、お前にしては随分面白い作戦変更だな」
「はっ、たまには信じてみただけじゃ。いつも誰かさんが馬鹿みたいに余を信じるからの。しかし結果は僥倖。氷理教会を潰すなどと言う発想は余にない。これで勇者パーティーは追い詰められた」
「どうし、て?」
「リラが散々町を荒らし回り、教会まで落ちた。オラクルバスティオンも消え去った今、何も守れない勇者に批判が殺到するじゃろう」
「なるほど……勇者側の進行も、止まってるし」
「ああ。今、余らは絶対的に勝っている。局所的に負けても全体で勝てば余が死のうがなんだろうが問題はない」
「いや、だよ。ミミさんもリラさんも、ルカさんも、ソレさんも、皆、死なないで」
「黙れ。強い者が勝つ。それだけだ」
「期待してるぞバーサーカー。ミミ、それはどうせ作戦に従わない」
「分かっておる。手綱を握って見せようぞ」
「くだらん」
席を立つソレ。口ではガタガタ言っているが、しっかり料理は完食している。
実際、ソレの武力はリラに次ぐ物かそれ以上。死地に何度も足を踏み入れることで、弱体化しまくった俺よりも強いかもしれない。
もしかしたら、勇者を殺すのは俺じゃなく、あいつかもな。
「ユリエル、勉強はどうだ?」
「楽しい、よ。人を守る魔法、たくさんあるから。でも、相手の武器、戦車とか、強いね」
「そうじゃの。最新兵器を作る工業力が魔王軍にはない。リラもそう言う近代兵器からは逃げて砦の中での戦闘に集中しているお陰で勝てているが……正面で戦えば今の魔王軍は数が減りすぎた。おいガキ魔王、七魔将の件はどうなった」
「お前が推薦してくれた人間全員をテストした。丁度いい、紹介しよう」
指を鳴らすと、外で待ってくれていた三人が部屋の中に入って来た。
色白で銀髪、左耳が少し長い優しげな表情の亜人族。
紅い髪で小さな翼が生えた少女。めちゃめちゃ露出が高い。
めちゃめちゃ高身長で眼鏡をかけた黒髪の青年。黒手袋とステッキを持っている。
「左の銀髪から、自己紹介を」
「ネクロン・ダークと申します。フロスティアさんと共に魔法研究に携わることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。種族は鬼人族とエルフのハーフです」
「やっほ、ウチはエリン・ヴラッド。吸血鬼だよー! ミミっちの傍付きとして採用されたんでよろしくぅ! 魔王軍Win!」
「お初にお目にかかります、ゼハート・フルクラムと申します。種族は蛇人族。私は魔王軍全体の事務及び兵器運用について担当させていただきます。政治屋です」
「何じゃこのふざけた連中は。余の傍付きにこんな子娘を」
「え、やっば、ウチミミっちより年上だよ? 仲良くしてね?」
「はい、俺の命令は絶対なので仲良くしてあげてください」
「ふざけるな、こんな不当人事」
「まあまあ、分かんねえじゃんってそんなん。ユリエル、ダークは大魔族の家系だ。俺が潰してなければ実際に大魔族になってただろう人材だから、二人で革新的な魔法を探してくれ」
「わかった……ウチ、あんまり、不得意かもしれないけど、よろしく、ダークさん。ウチのこと、ユリエルでいい」
「では、私もネクロンと」
「ミミっちー、ウチもエリンでええよー!」
「黙れ殺すぞガキが」
「あっひゃ、ツンデレウケるー」
「こいつ……」
「魔王様、先の侵攻作戦の件ですが、新たな兵装と、周辺諸国で魔王軍に就く可能性のある国をいくつか見つけてまいりました。私と共に外遊に出ていただくことは可能でしょうか」
「ああ。問題ねえ。魔王城は一度リラと俺の親衛隊に守護させる。これで七魔将完成だ。お前ら、俺たちが勇者に勝った時、この場の全員がいるとは限らない。それでも、お前らの願いは誰かが必ず引き継ぐ。勝ち負けじゃない、信じ抜け。いいな」
『ご命令のままに』
「よし、解散とする。ゼハート、すぐに発つぞ」
「はい。魔王様。ユリエル、一度研究はネクロンに任せてお前も来い」
「う、ウチ?」
「お前にとって重要な仕事だ」
「わ、分かった」
ミミのお陰で勇者軍の名声は地に落ちた。
何も戦いに勝ち続けるのが戦いじゃねえ。勝てるところを勝って削り続ける。
親父が負けた以上、俺は親父と違うやり方でないと、勝てはしない。
親父は強かった。だからこそ、最期の一人になって戦う道を選んだ。俺にそんな力は、ねえ。身の丈を知っているのが俺の強みだろうか。




