教会の掟
「リラ様。この町の制圧も完了しました。ご命令通り、教会は焼き払っておりますが……よろしいのでしょうか」
「何がでしょう」
焼き払った村の炎を静かに見つめるリラは、部下の魔族に向き直る。
ここ数日、共に破壊と略奪を続けた魔族たちはリラの厳命に従い、余計な人殺しも人さらいもしなかった。行軍に必要な低限の物資を奪い、ただ前へ走り続けていた。
文句も言わず戦う兵士の一人が、ここでリラに具申する。
「総司令の命は皆殺しでございました」
「私が従わないことは織り込み済みのはずです。ある程度、信用しましょう」
「ご命令のままに」
「リラ様!」
兵士の一人が馬に乗って現れ、リラの前に出ると同時に跪いた。
「何事ですか」
「勇者軍が、すぐそこに布陣しています! その数、およそ2万! 機械化歩兵と装甲戦車の姿もあり、最前線の近代化された精鋭かと」
近代化兵装勇者軍2万に対し、リラの略奪軍は300だ。正気であればこの差では絶対に戦うことはない。
「ミミさん。お聞きしたいことがあります」
『秘密回線を使えと言っているじゃろうが。何の用じゃ、まさか近くに敵はおらんじゃろうん』
「約二万の機械化歩兵部隊がすぐそこまで」
『うぬは……で、何の用じゃ』
「この間奇妙な遺言を残して以来、何の連絡も寄こしてこないのでこちらから連絡した次第です」
『うぬは――』
「冗談です。別に二万の軍隊を相手することは構わないのですが、判断を仰ごうと思いまして」
『向こうの進軍速度が明らかに襲い。少数精鋭のうぬらならその場を離脱できようて。それよりも、現地で随分生き残りを作っておるようじゃの』
「あなたが総司令になったからと言って、私は興味のないことはしません」
『……そうじゃの、余も、信頼するべきじゃの……では、うぬのやりたいことは何じゃ。言うてみい。余が組み立ててやる』
「やりたい……この世界の神は、争いを生む聖杯を信仰していました。聖杯を失った今、彼らの神はどこにいるのでしょう。彼らの救いはどこにあるのでしょう。私はそれを問うてみたい。氷理教会の総本山がこのまま南下すれば、あるみたいですね」
『……大体わかった。では作戦概要を暗号通信で教える。やりたいことは好きにさせてやったんじゃ、作戦には従うんじゃろうな?』
「お約束します」
『通信終了』
あえて、傍受されやすい通信で今後の策を相談したのには訳があった。
元よりこの地で略奪と焼き討ち作戦を開始して以降、ゴールは氷理教会の総本山、ラウンドベースと呼ばれる場所に決めていた。
かつて自身が仕え信じた神を信仰する教会が、聖杯を失っても尚存在する理由を知りたかった。
それは、リラが神に会いたいと願うのとほとんど変わらない理由だった。
そして、今話題の魔王軍、リラが攻めてくると勇者軍が知れば、まず間違いなく氷理教会を守るために駆け付けて来る。
元々時間を稼ぐための陽動こそがリラの役目だった。すぐにミミもそれを察して作戦案を作り出すだろう。
ただ、進むだけで十分だった。
「全軍このまま全速力で南下します。目標は、氷理教会草本罪、ラウンドベース」




