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魔王誕生

「全世界よ、刮目せよ! ここに、新魔王の誕生を! 勇者は恐れよ、新たなる覇道を! 亜人よ、魔王の名の下へ集え! 我らが魔王の名を刻むがよい!」


 水晶板の前で、幼帝が鷹揚に手を広げた。

 芝居がかった演出も、パーティーで最も意外性のある見た目をした自信を起用したのも全てが筋書。

 俺はただ、マントと王冠を被り、玉座にふんぞり返るだけでいい。

 先の戦でオラクルバスティオンを自爆させたことで残党軍の全てを屠り、俺は名実ともに魔王に即位した。

 というより、抵抗し、反抗する勢力が全て黙ったのだ。

 それほどまでに、勇者とやり合い、旧魔王軍残党を全て討った功績は大きかった。


「では、新魔王、壇上へ」


 幼帝は慇懃に礼をし、節度とマナーと気品に満ちた所作で一歩引いた。

 俺は立ち上がることもせず、淡々と口を開く。


「これより、我が軍は勇者の聖剣を奪還するため戦いに挑む。聖杯は多くの命を奪う魔道具であり、この世界にあってはいけない。しかし、悪戯に勇者に渡せば魔族全てを消し去るなどという暴挙に走りかねない。そこで俺は決意した」


 スポットライトが、幼帝に当たる。


「亡国の王、ミミ・レクスギアを魔王軍総司令官とし、聖剣を奪う。恐れることはない、聖剣さえ奪えば、我々は攻撃を止める。しかし、反抗するというのなら、容赦はしない」

「既に、我が先槍であるリラ・オルタノートが勇者軍主要施設を攻撃し続けている。諸君に時間はない」

「別に降伏の要求も支配もしない。ただ、聖剣を持ってくればそれでいい」

「賢明な判断を、勇者フィーネ・アークライトに望む。以上」


 慣れない撮影を終えて、俺たちはどっと溜息を吐いた。


「え、これ必要?」

「当たり前じゃ。今と昔邪戦争の体系が違うんじゃ。余らは勇者ではなく、勇者を応援する民の心を揺さぶる。既に、オラクルバスティオンの陥落は世界に回った。それでも魔王軍を退けたと連中は嘘をばら撒くじゃろうから、手は打っておいたんじゃ」


 幼帝は衣装を着たまま適当な椅子に腰かけて首をぐるぐる回した。こいつまだ、十代だよな。所作が老けすぎている。


「リラか?」

「そうじゃ。リラに周辺の町を全て焼かせた。オラクルバスティオンの兵士全員を引き抜いての。リラは今、行く先々の町を燃やして物資を強奪、次の町へ進軍を続けておる。酔うさうや陣地を築かず、物資は現地調達。破壊だけが目的の行脚じゃ」

「世界の反感を買いそうだな」

「奴は宗教関連以外は無駄に殺さない。反抗する者には容赦はないが、意外と施設以外の被害は少なかろう。目撃者が多ければ多い程、王国が流す公式情報よりも、尾ひれのついた噂が力を着け始める。余らはオラクルバスティオンを落とし、神託装置を破壊した時点ですでに勝っておったのじゃ。うぬが勇者に勝っておれば、まあおまけがついた感じかの」

「だがいいのか? 俺はもう未来が見えねえ。神託装置を破壊するなんて」

「ああ。着こう手見たんじゃが、変わらんかった」

「何が」

「余が考え付いた未来以上の未来を見せることはなかった」

「……天才かよ」

「今気づいたのか? そういう意味ではおぬしも不死身じゃの。その……体の調子はどうじゃ」

「ユリエルにブチ切れられて俺は今口を利いてもらってないが、大丈夫だ、問題ない」

「本当か?」


 幼帝は始めて見せる不安そうな表情で俺を振り返った。

 珍しくしおらしいのは……責任を感じているんだろうな。自分のせいで、俺が命を落としかけていたことに。

 歴史に残る皇帝感とはあまりに違うが……これが本当の彼女の姿だ。年相応に優しく、臆病。強く見せる必要があったから、見せているんだろう。

 俺は幼帝に近寄って頭を撫でた。


「お前は俺のパーティーに必要だ。もちろんみんなも。信じたお陰で勝てた」

「……うぬは、何故信じたんじゃ?」

「信じろって言ったからだ」

「……馬鹿じゃの」

「お前に言われたかねえよ。本当に心配するな、最後の手段として俺の持つ術式をいくつも破壊して切除した。魔法をかなり失ったが、体調は元通りにしてもらったよ。ユリエルは人を救う天才だな」

「皮肉なものじゃ。同じパーティーに、人を救う天才と、殺す天才がおるとは」

「……で? 俺は次何をすればいい」

「魔王軍は今、残党の蜂起で8割を失った。とてもじゃないが戦えたものじゃない。うぬには新たな魔王軍の将軍や大魔族、四天王の選定を行ってもらう。まず、大魔族と将軍と四天王をひとまとめにし、七魔将を作る。リラ、ユリエル、あとソレの他に四名選定するのじゃ。ある程度は余でまとめた」

「仕事が速いな」

「貴族制も廃止する。これからは魔王軍は七魔将がそれぞれ土地を持ち、守護する。それぞれの土地が統一された税制で収益を出し、最後にこの魔王城に集中させる。ただ、ソレやリラは戦場に出るため、同時にふたり副官を着けることにしておる。そこでうぬの出番じゃ。魔族はそう言うシステムに適応できそうか? 竜人族と人類、亜人のいた朕の国は何とかなったが、魔族はいなかった」

「魔族も人と変わらん。変わるのは魔法へのプライドと、ほんの少し野心家が多いが、他の人種の指揮でも作戦を完璧に遂行する真面目さはある。職人気質、かな」

「理解したのじゃ。リラが暴れてくれておる内に内政を固めるぞ。勇者もそろそろ手を打つ頃じゃろう。余の作戦は勇者を相手にしない。勇者じゃ守れない物を多く作り出し、盤面を一気に、ひっくり返す」


 駒が大量に載っていた世界の地図をひっくり返して、最後に黒いキングの駒を叩きつけた。

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