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勇者と魔王のマッチアップ

「レクスギア王朝、第21代目皇帝、ミミ・レクスギア陛下、ご入来」


 玉座へ続く大扉が開かれて、小さな皇帝は王への道を歩み始めた。

 ミミ・レクスギア。弱い7歳にして、父であった工程の崩御と共に戴冠する。

 荒れに荒れたまさに戦国時代、レクスギア王朝は大陸の大半を弓と馬で支配し続けた。

 時代の寵児、天才軍略家の一族、レクスギア家もしかし、寿命に抗う術はなかった。

 まだ幼き皇帝をかどわかし、この隙に権力抗争を勝ち抜かんとする政治屋の野心が、ミミを取り込むはず、だった。

 しかし、ミミもまた、レクスギア家の人間であった。


「これより官僚の数を減らし、税制度を見直す。また、貴族性を廃止し、余を唯一の象徴として国を再建する」

「何を仰いますか、皇帝陛下。そのような世迷言を――」

「余を何と心得る。その不心得者を捕らえよ」

「そんな、離せ! 後悔するぞ! そんな暴挙で、国を何と心得るか!」

「朕こそ国家である」


 こうして、ミミによる国の改革が始まった。

 肥大しすぎた国が遠くない内に崩壊する未来を想定した天才による内政固め。

 民の不満を解消し、富をある程度平均化したことで人口が増えた。

 10年もすれば、ミミは誰もが認める皇帝となった。

 背丈だけは成長していなかったが、命を狙われ続けたことで精神的に大きく成長したミミは、父が成せなかった世界統一の道を歩むことになる。

 連戦連勝。指揮が高く、そもそも強い軍隊が万全の準備をして大陸制覇に乗り出したというのだから、そうなることも当たり前だった。

 覇道を駆け抜けるミミの前に立ちはだかったのは、勇者だった。

 英雄。何故か分からないが、ミミの想定を超え、あるいは潜り、戦闘に勝ち続ける。戦争を戦争ではなくし続ける。

 偉大な力を前に周辺諸国も味方につけ、レクスギア王朝は世界を敵に至る場所で戦線を押し付けられる形になった。


「案ずるな、朕は国家なり。必ず余が、勝利に導いてやろうぞ」


 ミミの言葉を、誰一人信じなかった。

 皮肉な事にも、一%の勝率を本気で信じたのはミミただひとりだった。

 ミミの作戦は、忠臣の一人が裏切ったことで瓦解し、ミミは捕らえられた。

 かつてミミによって更迭された元貴族や官僚も勇者につき、ミミは最後、縛られた上に、体を一部ずつ、ナイフで剥ぎ取られて行った。

 死の間際、ミミは最後まで皇帝であり続けた。


   †


「クソみたいな過去にサヨナラ告げて、お前は今を生きろよ。なあ、幼帝」


 大爆発の中、ミミの体をそっと抱いて、俺は爆発を打ち消す風を身に纏った。

 さすがにそれだけじゃ足りない。防御術式も合わせて展開しその辺の瓦礫を吸い寄せる魔法で吸い寄せて外壁を作った。

 まるで頑丈なダンゴムシ。まったく、めちゃくちゃしやがるな。

 この大爆発、人間の物じゃねえ……城一つが蒸発する程の威力――神託装置を自爆させたか。やはり考えることが奇抜で普通じゃない。

 爆発が収まるまでの間、俺は胸の中で蹲る幼帝をしっかりと守った。

 体がズキズキ痛む。すまねえな、ユリエル。魔法使うなって言われたが、移動とこの岩防御で合計4つ使っちまった。たぶんよくないのは重々知っちゃあいるんだが、本当に許してください。


「うぬ……なにをしておるのじゃ」

「あ? 味方救いに来てんだよ。味方の機器が分かる魔法でな」

「馬鹿が、今うぬが使ったものは成功確率が二割を切っとるんじゃぞ! 死ぬぞ、馬鹿が」

「かもな。だけどなぁ、お前ならその2割をどうにか成功に導いてくれるんじゃないかと思って信じてみた」

「信じ……馬鹿かうぬは!」

「馬鹿馬鹿うっせえなぁ馬鹿が! 助けてくれてありがとうございますだろうが!」


 幼帝は言葉を失っていたようだった。

 憎まれ口をたたいているが、幼帝がいた場所は、俺の持っている魔法を上手く使えば本当にギリギリ助かるような場所だった。

 事実、幼帝のいた場所だけ被害が抑えられていた。

 無意識か、奴の中に眠る魔法が、戦いではなく、生き残る確率の高い行動を選ばせたかは分からない。いずれにせよ、俺が来なければ死んでいたのは間違いない。

 気づいていたはずだ、俺に助けを求めれば、助かるかもしれなかったことに。

 そうしなかったのは、もう一度裏切られないため。人を信じない、それがお前のこれからの弱点だな。


「帰るぞ。俺の移動は俺しか移動できねえ。退路は」

「……さすがに考えてない。余はここで死ぬ予定じゃった」

「じゃあ、歩くとしよ――」

「待ちなさい」


 おいおい、嘘だろ?

 幼帝ミミが自爆覚悟で要塞ごと吹き飛ばしたって言うのに……なんでお前が生きてるんだ?

 瓦礫の底から、仲間を守ったせいか、大層傷ついた勇者がゆっくりと体を起こした。


「馬鹿な……余がギリギリ安全圏と踏んだ場所に、何の躊躇いもなくそ奴を連れて走ったというのか……しかも、崩壊の瓦礫が丁度爆風を防ぐ形に……余は悪魔を見ておるのか?」

「それが良いと感じたから、私も、よく分からない。分からないけれど、ここであなたたちを逃すつもりもないわ」

「上等だクソ勇者が。こっちが大層な策を弄しても上から叩き潰してきやがって」

「よせ、ルカ! うぬは魔法を――」

「使えないわけじゃねえし死ぬわけじゃねえ!」


 飛び出しつつ、剣を生成。

 先の未来、魔王と呼ばれる人間が手にしていた伝説の剣の模造品を生成する魔法。

 魔法や能力は一切再現できないが、材質は完璧に複製できる。

 お前の嫌疑を叩き割ってやる。


「まさかあなたが……聖杯を持つ魔王の器だと?」


 勇者は俺の一撃を軽々と受けて見せた。

 剣戟の最中でもおしゃべりする程度の余裕すらチラつかせることに苛立ちを覚えた。


「器じゃねえ、息子だよ!」


 剣を力任せに前に圧しきり、フィーネを飛ばす。

 いや、飛ばされる直前に後ろへ跳んで威力を殺された。

 勇者は着地様に地面を蹴って俺へ一撃ぶつけると見せて一度すかせ、下から返す刀で切り上げた。

 奇妙な技を使う。

 紙一重でかわしながら後ろへグッと体を逸らし、代わりに蹴りを放った。

 勇者は腕を前下に就き出して拳で蹴りが完成する前に弾き、納刀する様なモーションで剣を後方へ。

 すぐさま目にもとまらぬ速度の斬撃が俺の剣を断ち切った。

 おい、勇者に殺されるまで剣と馬で世界を支配しようとした魔王の剣だぞ?


「その技はパパの贈り物か?」

「父は聖剣の加護と共に戦っていた。この剣術は、剣聖と呼ばれた師より教わった物よ」

「奇遇だな、お嬢ちゃん」


 剣を二振り生成する。魔王軍にて、ただの一般魔族でありながら二刀流で将軍に上り詰めた魔族の剣。剣一本で四天王筆頭となり、魔王が討たれた後も勇者に挑み、散った男の剣。


「俺も未来でたくさん習ったよ」


 無論、俺が見た未来は恐らくもう訪れない。俺が大元である現代をかなり改変したからだ、

 俺は未来の英雄を殺す代わりに、今ここで、英雄たちが出来なかった勇者殺しを完遂する。


「あなたが魔王の息子というのなら、それを倒すのが、勇者の娘である私の運命、でしょうか」

「くだらねえ。それは自分で決めるもんだろうが。勝手に未来で決まってますって被害者ずらで握っていい程、その剣は軽くねえぞ」

「分かっている。この剣は、私たち人類の未来を拓く剣」


 私たち、の中に当然俺たち魔族は入ってないんだろうな。

 やれやれ、俺たち魔族は確かに今じゃ世界を統一するために戦っちゃいるが、歴史を見れば魔王と呼ばれた人間が世界を目指した理由なんて様々だ。

 一緒くたに悪とされるのは大変心外だな。


「だから、出来れば投稿してほしい。私の見た未来で、魔族と人はきっと、手をとりあえる。現に、同じ目標のために、私たち魔族は手を組んだ。私ははっきりと見た。打算であろうと何だろうと、手は取り合えるって」


 驚いた……この娘、魔法もなしで……そんな夢みたいな物語を見ることができるのか。

 今の世の中、何よりも珍しい。

 そうか……俺の戦いだけじゃなく、こっから先は、互いの未来の押し付け合いか。


「だったらその聖剣を寄こせ。俺は聖杯を壊せたらソレでいい。聖杯を壊すことができる唯一の魔道具が、その聖杯だ。少なくとも、俺が見た未来では、な」

「うぬの見た未来はまちごうてはおらん。余も調べたが、元々聖杯と聖剣はひとところにあった。聖杯を守るために生まれた氷理教会と、聖剣を持つ家系たる勇者の家系。驚いたことに、尋常ではない力を持つ覇者はのきなみ聖杯を狙い、この聖杯を持つ側が魔王。剣を持つ側が勇者で互いに殺し合う構図が生まれたんじゃ」


 ミミがよろけながらも前に出て来た。

 そう、全ては偶然。

 別に魔族じゃなくても魔王と呼ばれるし、たまたま魔族が魔王となり、それが続いた時代が長かっただけ。

 という、通説を俺は疑った。


「ていうか、そんなもんが偶然なわけねえだろ。恐らくすべて、聖杯が作り出したストーリーラインだ。そもそも聖杯はそう言う道具だ。この世界を最高の茶番に仕上げる魔道具。ぶっ壊さなきゃいけねえんだよ」

「……それが本当だとして、あなたが大人しく聖杯を壊すという保証がなさすぎる。ただ、今ここで聖杯を壊すというのなら、これを渡しましょう」


 勇者はあろうことか、聖剣を俺と自分の丁度中心に投げ突き刺した。

 馬鹿かこいつは――過去、聖剣を失った勇者なんて存在しない。聖剣の加護が、勇者がいかなる時も駆けつけ、決して勇者を殺させない。

 恐らく、聖杯にならぶ理不尽な魔道具だというのに、捨てた? いや、捨てることが出来た?

 罠? そもそも聖剣は手から離れるのか? 試すか? いや、リスクが高すぎる。今聖杯を出して万が一奪われでもしたら俺たちは確実に勝てなくなる。

 そんな俺の一瞬の逡巡を見て取ってか、何かが背後から大斧を落としてきた。

 肩に一撃貰ったが、致命傷じゃない。

 見ると……片腕と顔の半分を失った大魔族が、体から魔力を零しながらも立っていた。


「あなたは、魔王になるべき器ではない。魔族の未来を、託すことなど、出来ない!」


 斧が落とされる。

 軽く避けようとするが、既に聖剣を拾い直した勇者が低い軌道で俺を襲う。

 クソ共が!

 片方の剣を大魔族へ、もう片方を勇者へ。

 マジで偶然二刀流を持っていなけりゃ死んでいた――何気ない選択で命を救われましただ? こっちはガチの偶然で命拾われてんのに勇者はそれがデフォルト。

 大した差だよなまったく!

 勇者は注意力散漫な俺の腕を剣ごと切り上げる。

 剣を握った腕が空へ飛ぶ一瞬をついて、勇者を蹴り上げ、失った腕で大魔族の顔面を叩いた。

 治癒する暇はない。剣を後ろに向けてノールックで突き刺す。

 丁度前に出ていた勇者の顔を……ギリギリで避けて髪を切った。

 無論死なねえよな。だがこっちには、大魔族がいる。

 大魔族の体を足場に空中回転。同時に勇者の背後を取って横一文字に斬る。

 意趣返しのつもりか、背中側に剣を回して攻撃を受け止め、言葉を交わさず大魔族がスイッチ。

 最後に残された強靭な肉体を魔力でさらに強化し、剛腕が落ちて来る。

 剣を横にして失った手を支えに受けきるが、剣にひびが入った。

 大魔族って、別余に枠はない――

 何の因果か、俺の足場に満たされていた俺の血液に、足を取られてしまう。

 まったく腰の入っていない守りの俺な打撃をモロに食らう。

 こうなれば……勇者が来るよな、そりゃ。

 俺に斬られて反撃の構えを取った場所が、丁度俺がもう全く守れない場所と、タイミング。

 俺たちは最善を尽くして戦った。取るべきリスクは取って戦い続けた。

 最後の最後が、運だと?

 ふざ、けるな!


「な――」

「腰が入ってねえんだよ馬鹿が!」


 勇者の斬撃を胸で受け止め、剣を生成。

 名もなき魔王候補が歴史にすら残らない偉業を成し遂げた際に持っていたただの剣。

 反撃に出た俺の体が、悲鳴を上げた。

 魔族風邪――

 咳が血と一緒に口から吐き出され、俺の剣線がずれた。

 勇者がそんなあからさまな隙を見逃すわけがなく、掌底打で俺を吹き飛ばす。


「がっは……運命に呪われようと、俺は死なねえ! 折れねぇ! 屈しねえ! 魔族の未来も人類の未来も、俺が守る。聖杯をぶっ壊して、平和な世界を作り出す!」

「私の仕事だ!」


 勇者の素直な剣線は恐らく、迷い。

 俺の言葉を信じるか迷っているからこそ、機械的な動きになっている。

 とは言っても、全てが致命傷。全てが必殺級の攻撃であることは変わりない。

 これはもう高次元の話し。

 隙でも運でもない、決まるかかどうか、一%の可能性を持った必然。

 俺の考えた最強の魔王パーティーには、そんな一%を一〇〇に変える馬鹿がいる!


「ミミ!」

「余を信じて地面を全力で貫け!」

「了解だ!」


 心では分かっていた。爆発のせいで瓦礫やら、何故か崩れていた山やらが残されているこの場で、んなことするのは自殺行為。

 だが、仲間が信じろって言ってんだ、やるっきゃねえだろ。

 振動を起こす魔法――

 魔力全開、残った力を全て使って地面を穿つ!

 まるで何かがしたから殴って来るように、衝撃が俺たちを一瞬地面から空へ打ち上げた。

 空を歩く魔法――

 作り出した足場を使って勇者に近づき、逆に足場がなく抵抗できない勇者に斬撃を放つ。

 取った!

 俺の叫びもむなしく、偶然そこにいただけの大魔族に、剣が突き刺さった。


「……クソが」

「やっと見つけた。馬鹿みたいな爆破のせいで吹き飛ばされちゃったけど、これで終わり」


 空には現代最強の魔法使いの姿が見えた。今、この大魔族ごと焼かれたら俺は死ぬ。

 死んで、溜まるかよ。


「……先の言葉、嘘ではないな?」

「ああ!? 嘘言ったことねえよ馬鹿が!」


 大魔族は微かに笑ったように息を零し、自らの背中で、魔法使いの魔法を受けた。

 最期の瞬間「魔王様のために」と呟き、魔力となって消える。

 魔力の残滓が消える中、大魔族の影から……一人の男が現れた。


「影踏……ようやく隙を見せましたね、魔王」

「はっ、そういう時は、黙って殺すんだよ、ガキが!」


 大魔族が死の直前に放出した大量の魔力を固めて最大の防御術式、を、撃ち出す。

 壁にぶち当たって、僅かに騎士との間に隙間が……できる前に、勇者が防御術式斬り割いて、ふたり同時に斬りかかる。

 受けざるを得ない。むしろ、後ろへ行った二人の腕を掴んで前に突き飛ばし、蹴りに発で無理やり壁際に吹き飛ばした。

 クロスに刻まれた傷口から血が出て行く。マジでふざけんなよ、なんで俺ばっか傷ついてるんだ。


「さすがに魔王候補、硬いですね」

「油断しないで。さっきから聖剣が震えてる」

「黙って殺せっつってんだろ、一世一代のチャンス――」

「ルカ、潮時じゃ」

「まだやれる――」


 遠くの空に見える、航空機編隊。爆弾を大量に抱えた飛行機をの姿を見て、俺は構えを解いた。

 時間稼ぎってのは分かっていた。

 ミミがしゃべって前に出始めたところで、何らかの目途が立っていたことには気づいていた。何も言わない耳を信じて戦った甲斐は、あったようだ。

 逆の空から現れたのは……飛竜を従えた、銀の竜の姿。


「レクスギア家は竜人族の家系じゃ。やれやれよかったぞ、千年前から脈々とその血を絶やさずにいてくれたようでな」


 ドラゴンが舞い、超速で地面に降り立つと同時に翼を広げ、風圧で俺たち以外を全て吹き飛ばした。

 稼がれた時間の中で、ミミは俺の手を引いてドラゴンに乗せた。

 白竜の背中に捕まると、また異常な速度で舞い上がる。

一瞬の瞬きの後、既にそこは、青く気持ちのいい空の中だった。


「すまねえな、幼帝。勝てなかった」

「これが負けじゃと? まったく、最近のガキは大局が見えてなくて敵わんのう」


 ミミは笑顔を浮かべて笑った。

 俺は後に、幼帝ミミが仕掛けた作戦の全容を知ることになるだろう。

 ただ今は……寝よう。マジで、疲れた。

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