魔王パーティーの魔王
「クソみたいな歴史だな、ユリエル」
「あはは……だよ、ね。でも、王国、なくなっちゃったみたいで。私を捕らえた、氷理教会だけは、ずっと続いてる、みたい」
「なるほど。最高の魔力量を誇る魔法使い、氷魔法の使い手を礎にしたから氷理教会か。罪悪感か、贖罪のつもりか」
「やってみろって、思うよ。無関係な人を、自分の関係者だからと殺されて、1000年、ずっと、痛い、苦しい……今でも、まだ、体が勝手に、痛むの」
少女を襲った恐怖と苦痛は計り知れない物だった。
だけど、ルカのご飯を食べた時だけ、一瞬だけ、幸福感に満たされた。
ルカはユリエルの元へ寄ると、頭を撫でた。
「魔女狩りの歴史。2000年前に今の魔法の礎を作った魔法使い、か。お前は優しいな。人のために自分を捧げた奴は、大体勇者として歴史に名を遺す」
「詳しいんだね、歴史に」
「俺の魔法で未来が見えたんだ。だけどな、過去も見ないとそいつがなんで未来でそんな選択肢を取るのか分からないってことが多くあった。だから俺は歴史を学んだ。ユリエル、お前は間違っちゃいない。これからはもう見えなくなっちまったが、少なくとも昨日よりは最高の物になる」
「そう、かな」
「知らねぇ」
「めちゃくちゃ、だね」
「知らねえけど、少なくとも俺や他の連中、俺の作った最高のパーティーは、明日が楽しくなるように生きてるんだよ。一度死んだんだ、手前の人生を楽しみな」
「……ありがと。がんばるね」
「頑張ってどうすんだよ」
「え?」
「休むことを軽視するな。大体の人間はな、頑張って生きてんだよ。そこにかけて頑張るなんて言葉は呪いでしかない。魔術師、お前が作ってたのは魔法じゃねえだろ、人の笑顔を作ろうってやつが休まず倒れちゃ、悲しむ奴も生むんだよ。だから休むことを頑張れ、以上」
「……ルカさん、変だよ」
「魔王の息子で正常なやつがいたら連れて来てくれよ」
「……っぽい人はいたけど……どちらかというと、ウチの時代の魔王はたぶん……ウチだね」
「みんな同じようなもんだ」
†
「落ち着いて、そう。このタイミングを逃せば全員の昼食がパーになる」
「何故プレッシャーをかけるんですか、勇者フィーネ」
「信頼の表れ」
「信頼の押し付けの間違えでは?」
「ねーえー、お腹空いた」
「だったらお前が作ればいいだろうが」
「は? あーしが作ったら大体爆発すんだけどいいわけ? ねえ!」
「腹減ってるからって俺に当たんなよ」
「なら、ヴァイスが作ってもいいのですよ」
「飯は女が作るもんだ」
「あんた最低だね」
「うるせえ。男はその代わり外で死ぬんだよ」
「黙って。集中します」
偉大なる勇者の傍を守り続けた聖騎士アーヴェルは緊張の面持ちで、へらをパンケーキの裏に刺し込んだ。
焼き加減は完璧だ。へらから伝わる感触と重量感が、成功への青写真を彩る。
あとは、返すだけ。
世界が、ひっくり返る――
『おおおお!』
どよめく、勇者パーティー。アーヴェルは見事にパンケーキを裏返し、人数分の昼食を作った。最後のバターを乗せて、同時並行で調理していたフィーネがベーコンエッグを別皿に盛る。
完成。パンケートベーコンエッグディッシュ。
テントの中で飯を食らう勇者一行。王国軍の到着を待っている間に作戦を立てつつ、腹が減っては戦が出来ぬと、急遽昼食の時間になった。
「それで? アーヴェル。手前の言ったことが本当なら、落ちたんだな?」
「伝令曰く、まず間違いないかと」
「クソ、厄介じゃね? あーしら一気に未来が見えなくなったわけだけど。ねえ、フィーネ」
「オラクルバスティオン陥落。頭の痛い話ね」
「話によると要塞の外側に目立った戦闘痕はない。中からやられたな。平和ボケした連中の警備がざるなんだ」
「ヴァイス。口が過ぎる。今は失ったものよりどう勝ち取るかを考えましょう」
「まあ無視してやってもいいが、さすがにナンセンスが過ぎる。連中が神託を使ってこっちの動きを把握、なんてことされたら手に負えねえ。他の戦線にもかなりの圧迫だ」
「では、ヴァイスがその手立てを考えて」
「わかりました、わかりましたよお嬢様。厄介な相手だってのにまた……」
後頭部を掻き毟るヴァイスに、ミラは不思議そうに首を傾げた。
「要塞奪い返すだけっしょ? あーしが爆破するよ」
「神託装置を破壊せずにか?」
「うーん、場所さえ分かれば防御術式を張るよ」
「悪くないが却下だ。相手がもし、本物のミミ・レクスギアならその辺も想定してくる」
「それ、何なの? この間もちょっと騒いでたけど、何なのその人」
「千年前、俺たちの国が出来るより前に一度大陸のほとんどを手中に収め、歴史書のいくつかでは魔王と書かれた皇帝だ」
「でも1000年前っしょ? 今の方が魔法強力だしいけるっしょ」
「バカ女が。考えろ、1000年前より遥かに発展して何でもできるんだ。発想が止まらない皇帝を俺は止めらんねえ」
「ヴァイス、あなたにしては弱気ね」
「ミミ・レクスギアは、ガキの頃俺が呼んで参考にした、人生の師匠だからな」




