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勇者と魔王の共同生活  作者: ダヴルでんでん丸
一章 魔王が住む森
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2話 身体を操る魔法

 いや、良い。殺す。

 こいつを殺さない方が良い事などある訳が無い。


 今回の魔族との戦争は魔族の進攻から始り、当初は魔族優勢だったが、徐々に戦局は人類側に傾いていった。

 が、そこから数年間魔族は対話も碌にせず、勝てもしない戦争を続けた。

 魔王様の導きを信じろだのなんだの、戦いを挑んでくる魔族は皆そう言っていた。

 それが魔族という種族全体で起こり、戦争が始まり、無謀な戦いを繰り返す。

 ああ――お前さえいなけりゃ...!!


 殺意で腕の力を更に強め、戦斧がゴォと風を切り周囲の木々の幹が風圧によりパキパキと音を立て、針のような葉が落ち始める。

 そして今、戦斧から手を離した。


 つもりだった。


 全身が後方へ引き寄せられた体勢を崩し、斧の刃が大きな音を立て川底に刺さり砂利を散らした。


 【 何が起こった? 】


 ただ困惑した。

 理解出来たのは掌が未だ戦斧の柄を握っていた事だけ。

 


 また、考えるより先に体が動き攻撃を繰り出した。

 

 が、それは意思だけに留まり、指一本と動かなかった。

 困惑が深まり、脳内で「何故?」という己の声がキンキン反響する。


 まず、体が動くかを確かめようと斧を持ち上げようとした。

 成功。斧は持ち上がり、刃から落ちた水滴が水流に飲み込まれる。


 眼球をギロリと動かし、兜の隙間から睨むように魔王の位置を確認する。

 魔王は只立ち尽くしており、髪だけが揺れていた。

 表情は...無。

 何を思っているのか分からない顔、不気味。

質素な服に身を包み、魔族特有の角がある事以外は普通の少女だが、この状況のせいだろうか?不気味さと共に威圧感を感じる。


 もう一度、投擲の構えを取る。成功。先程と同じ角度で体勢を取る事が出来た。そして、再度投擲。

 失敗。また指一本ピクリとも動かず、意思とは違う動きを強制されたからか、たった今動かそうとした腕のみが気絶したかの様に瞬時に力が抜け、戦斧が手から落ち「バシャン」と水飛沫を上げる。


 ここでなんらかの魔法である事を確信した。

 恐らく、攻撃の動作をする瞬間に自動で動作が制限されているのではなかろうか?意識的に使用しているのなら構えを取ろうとした瞬間に力が抜ける筈だ。

そしてそもそも、《《この魔法》》はなんだ?

 魔王がこんな魔法を使うなんて聞いていない。

 確かに、身体を操る魔法とは聞いていた。

 が、それはあくまでも魔王自身の身体の話で、他人の肉体を操るなど無法がすぎる。

 少なくとも何か制限や条件がある筈だ。

 でなければこの程度の戦争、一瞬で魔族側の勝利に終わる。

 だが、そうはなっていない。

 

 そして、魔王がいる方向から水の音が聞こえた。

 音に反応し首を上げると、魔王が歩みを始めている。

 近付いて来るのならば好都合。

 攻撃が出来ないのならばと、近付いてくる魔王へと戦斧の先の槍を向ける。

 失敗。体は動かない。


 これは...直接的な攻撃以外の動作も制限されているのだろうか?

 では構えが取れたのは何故だ?

 構えは攻撃の動作に入らない?

 そんな事を考えている内にも魔王との距離が詰まる。現在約7m。


 【構えが取れるのならば、これは?】


 俺は戦斧の刃を前、つまり魔王へと向くように、上へと掲げた。

 これは成功。あとは待つ。

魔王はこちらの動きなど全く意に介さず、接近を続ける。

 「調子に乗るな」

 そう心の中で威勢を張りながら俺はただ待ち続けた。

 いや、待つ事しか出来なかったのだが。


 5m、4m、3m...魔王が間合いに入った瞬間、僅かな期待を込め斧を振り下ろす。

 すると予測通り腕の力が抜け、戦斧が自重で落下を始め魔王の脳天に直撃する――。


 訳も無く、腕に力が入り落下が止まった。

 まあ...やはりと言うべきか、この魔法は意識的にも使えるのだろう。

 むしろ自動的に動作する方が奇妙だ。

 魔王との距離はもはや目と鼻の先。

 既に攻撃するのは諦めた。いや、先程からどうせ有効では無いだろうと思っていた。その根拠が魔王のこの異常な落ち着き様。戦斧を投擲出来なかった時点でチャンスは失っていたんだろう。

 

 というか...俺...死ぬ?

 だがまあ、殺そうとした相手に殺されても文句は言えないという物だ。

 そう死を覚悟した瞬間『海』という言葉が脳に浮かんできた。

 そういえば、海...見たかったんだったな。まだ匂いすら嗅げていない。

 天国から海を見る事は出来るんだろうか?

 いや...天国なんて在るのだろうか?存在したとして俺は行けるのか?

 



「あなた、何処から来たの?」



 ...話し掛けられた?



 魔法による攻撃が来るだろうと思い身構えていた俺に飛んできたのは、威圧や攻撃とは程遠い声。

 再度、困惑する。何故話し掛ける?何処に俺に話し掛ける必要性があるんだ?

 いや、情報を聞き出すつもりかもしれん。

 相手の体を操る能力なんて諜報に打ってつけではないか。

 とりあえずと、魔王の顔を見てみる。

 改めて見ると、これが魔王か?といった印象を受ける。

 先代の魔王はもっと風格があった筈だ。

 いや、人伝と絵でしか見た事は無いから実際の所は分からないのだが。


「その兜...外して貰えますか?」


 魔王が自らの小さな首をトントンと叩く様な手振りをしながら語り掛けて来るが、俺は無視を続ける。

 その様子から会話をする気がない事を感じ取ったのか、魔王は俺の体を操り始めた。

 つまり、俺の意思とは関係なしに腕が兜を外し始めたのだ。

 

 海を目指し始め数時間。

 密閉され続け蒸れた頭にそよ風が吹き、一種の解放感を感じた。

 そしてこんな状況で爽やかな解放感を感じた事にとてつもない違和感を覚えた。

 死か、拷問か、情報により見方を危険に晒すか。そんな状況で何故俺は爽快感を味わっている?


 「あなたの顔は初めて見るけど...金髪だったんだ。それで?どうしてこんな所に来たの?周辺には何も無い筈だけど...」


 何故ここに居るのか...確かに何でこんな所に居るんだ?


 俺ではなく、魔王が。


 周辺には何も無いのに?

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