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憑き人  作者: 西季幽司
第三章「加害者」
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康信は高校球児だった

 そして、今、康信はその強過ぎる正義感に苛まれていた。

(あの時、俺が――)と、そのことばかり考えていた。

 康信には友人がいる。小磯祥吾(こいそしょうご)、それが彼の名前だ。

 康信は高校球児だった。甲子園を目指したが、県予選の二回戦辺りで敗戦するのが常で、甲子園に出場していない。プロからスカウトが来るような選手ではなかったし、大学に野球で推薦されるような選手でもなかった。ごく普通の高校球児だった。

 大学に入ったら野球を続けるかどうか迷っていたが、先輩から「一度、遊びに来れば良い」と誘われ、サークルに顔を出したのが運の尽きだった。

 その日から野球部に入部したことになった。

 翌日より厳しい練習が始まった。高校野球で鍛えた康信には(また、高校時代が戻って来たようだ)としか感じなかった。

 同じように、サークルに入部してきた同期の一人に、小磯祥吾がいた。

 もっとも祥吾は康信より多少、名の売れた高校球児だった。甲子園に出場した甲子園組では無かったが、三年生の時の県予選で準決勝まで進み、四割以上の打率と二本のホームランを放って地元の野球通に注目された。

 それでも、甲子園組や推薦組に比べると、注目度は低かった。

 入部して早々、康信は祥吾とちょっとした言い争いになった。ベース・カバーを巡って、意見が対立したのだが、二人の言い争いに気がついた同期たちは、「喧嘩になると。どちらが勝つか」で賭けを始めた。

「やっぱり小磯だろう」

「じゃあ、大穴で井上に千円!」

 同期たちはにやにやしながら、二人の言い争いを見守った。

「お前らなあ・・・・」真面目に言い争っていることが馬鹿らしくなった。そして、以来、それまであまり話をしたことが無かった祥吾と親しくなった。

 入部して三か月が過ぎようとしている頃、康信はサークル活動に急速に興味を失ってしまった。甲子園組や推薦組の部員の圧倒的なパフォーマンスを見ている内に、自分の才能の限界を感じてしまったからだ。

 高校時代はレギュラーだった。だが、大学はレベルが高く、このまま四年間、サークル活動を続けても、レギュラーになれそうもなかった。

(折角、大学生になったんだ。部活に精を出してなんかいないで、羽を伸ばしたい)と思ってしまった。

「サークルを辞めたいんだけど――」と祥吾に相談すると、「そうか。じゃあ、俺も辞めるよ」と言い出した。

「待て、待て。俺と違って、お前ならレギュラーになれるかもしれない。辞めるなんて勿体ないじゃないか」と康信が諫めると、「レギュラーになって、それからどうする?」と祥吾が言った。

「うちの大学でレギュラーになって活躍できれば、野球で一流企業に採用してもらえるかもしれないじゃないか。それに、もしかしたらプロにだって、なれるかもしれない」

「プロ――⁉本当にそう思うか?」

「それは・・・・」と康信が口籠る。

 常々、二人で話していたのは、甲子園組や推薦組は自分たちとはレベルが違うということだ。一緒に練習していて、(ああいうやつらがプロになるんだ)と思うし、「プロになれたからと言って、成功するやつは、そのまたほんの一握りだ」と言うことだ。

 高校時代は多少、自信があり、お山の大将だった。だが、大学に進学して、全国からお山の大将が集まってみると、上には上がいるということを思い知らされた。

「お前も俺も、プロになって金を稼ぐような選手にはなれないってことだよ。だったら、野球には早めに見切りをつけて、別の道を探した方が良い。大学の四年間をもっと有意義に使いたい。社会勉強だ。部活に精を出していないで、羽を伸ばして遊んでみるのも悪くない。少しは勉強して単位を取って、きちんと四年で大学を卒業して、良い会社に就職しなきゃあな。実はな――」と言って、祥吾は意外な夢を話して聞かせた。「誰にも言ったことが無いんだが、俺な。大学を卒業したら、商社に就職したいんだ。英語なんかペラペラになって、海外で活躍したい」

 康信は驚いた。祥吾程明確に将来の設計図など、描いていなかった。(少しは真面目に将来のこと、考えないといけないな)と思った。

 こうして、二人は野球部を辞めた。

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