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憑き人  作者: 西季幽司
第三章「加害者」
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悪夢の瞬間が訪れる

「就職活動に有利だから」という理由で、気楽にできるスポーツ系のサークルに入部しておくことにした。二人でサークルを回って見学した。そして、サークルの中からスカッシュのサークルを選んだ。スカッシュのサークルもいくつかあったが、練習への参加が自由なサークルを選んだ。

 野球少年だっただけあって、二人共、運動神経は悪くない。直ぐにサークルの中心選手となった。そこそこ熱中しながらサークル活動を楽しんだ。

 大学四年になって就職活動が始まり、初志貫徹、祥吾は商社への就職を決めた。

「やったな」と言うと、「なあに。希望の大手じゃなかったのは残念だが、これで俺も春から商社マンだ」と嬉しそうだった。

 康信も銀行への就職が決まった。

 康信の就職を祝った時、祥吾が言った。「俺の言った通りだろう」

「ああ、確かにお前の言った通りだった。あのまま、野球を続けていたら、今頃、就職活動で苦戦していただろうな」

 結局、康信たちの同期で、プロ入りできたものは皆無だった。(こいつには叶わない。こんなやつがプロに行くんだ)と思った怪物のような同期でも、プロからの指名が無かった。何人かは社会人野球に進むようだが、大半は大学で野球を諦め、就職先を探している。あのまま野球を続けていれば、こうもすんなり就職先が決まっていなかっただろう。

 冬を迎え、「今年もスキーにでも行くか」と言う話になった。

 冬はスキー場でナンパというのが、二人の恒例行事のひとつだった。

「いいね」と話は直ぐにまとまった。

 何にでも計画的な祥吾は野球部を辞めてからアルバイトで金をため、一年生の夏には運転免許を取得していた。就職が決まってからは、実家の援助もあって、車を購入していた。祥吾の実家は普通のサラリーマンだが、夫婦共働きで、一人っ子とあって、余裕がある様だ。

 康信も祥吾に倣って、運転免許だけは早めに取得してあった。だが、妹が大学に進学したばかりなので、祥吾のように実家に車を強請るようなことなど出来なかった。

 二人で交替に車を運転しながらスキー場へ向かった。とは言え、康信はペーパー・ドライバーだ。運転に自信が無かった。どうしても祥吾が運転する時間の方が長くなってしまう。多少、スピード狂の毛がある祥吾は「気にすんなって――」と運転を楽しんでいた。

 二泊三日でスキーを楽しんだ。

 ナンパは上手く行かなかったが、「これが学生生活最後のスキーだ!」とナイター・スキーまで滑りまくった。睡眠もろくに取らずに滑る続けたことが、間違いだった。

 日中、スキーを楽しんだ後、陽が落ちてから家路を目指した。夜間の高速道路を走ることになる。途中、眠気覚ましにサービス・エリアに寄った。

 一息入れた後、「さあ、出発」という段になって、「なあ、井上。ちょっと運転代わってくれないか?」と祥吾が言い出した。遊び疲れが出たのだろう。

「俺がか――⁉正直、夜の高速は自信がないな」

「大丈夫だって」

「そうかな・・・・」

「次のサービス・エリアで運転、代わってやるからさ」

「う~ん・・・・そうだ。じゃあ、ジャンケンで決めよう。俺が勝ったらお前が運転。どうだ?」

「ああ、良いぞ。その代わり、次のサービス・エリアでまた勝負しようぜ」

「OK~」

 こうして、二人はジャンケンをした。康信が勝った。次のサービス・エリアまでは祥吾が運転を続けることになった。

 そして、あの悪夢の瞬間が訪れる。

 昼間の疲れから康信は助手席でうとうとしていた。祥吾に悪いと、寝ずに頑張っていたのだが、眠ってしまったらしい。

 悪夢を見たような気がした。いや、不自然な圧力を体に感じた。

 康信は目を覚ました。目を開けると、目の前の景色がスローモーションのように流れていた。助手席に座った康信は運転席へ押し付けられるように圧力を受けていた。きりきりとシートベルトが腹に食い込んでいる。

 咄嗟に運転席の祥吾を見た。祥吾はがっくりと頭を追って、反対側のドアへ体が押し付けられていた。

(車が――!)

 防衛本能から一瞬で目が覚めた。祥吾が居眠り運転をしたのだ。アクセルを踏んだまま、眠りに落ちた。車はスピードを上げ、制御を失い、そして、左へと急カーブを切った。乗っていた康信と祥吾は進行方向の右側へ遠心力による猛烈な重力を受けていた。

 このままだと猛スピードでガードレールに衝突してしまう。

 だが、康信に出来ることなどない。

「祥吾――!」と大声を上げることしか出来なかった。

 祥吾が目を覚ますより早く、砲弾を受けたような衝撃が車を襲った。康信はガードレールに衝突したのだと思った。

 衝撃を受けた反動で、車は路上でぐるぐると回転を始めた。

 祥吾は「うわわわわ――!」と悲鳴を上げながらブレーキを踏んだ。

 事故だった。

 後続車が祥吾の車に追突したのだ。追越車線を走っていた祥吾の車が、相手を追い越すと同時に進路を変え、後続車の前を塞ぎ、それに後続車が衝突したのだ。後続車は突如、進路を変えて目の前に現れた車を避けきれずに、追突した。

 追突の反動で、後続車は車線を大きく逸れ、ガードレールに突っ込んだ。

 祥吾の車は後続車に弾かれて、路上でスピンしただけだった。

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