葉月なんて死んじゃえ
サークル仲間で冬山にスキーに出かけようという話になった時、当然のように亜莉菜も誘われた。だが、断った。二人がベタベタする姿を見せつけられてはかなわないと思った。
そして、思った。
――葉月なんて、死んじゃえ。死んじゃえば良いのに。死んじゃえ、死んじゃえ。スキーで足の骨でも折ってしまえば良い。
つい、そう思ってしまった。
そして、葉月は死んだ。
スキーの帰りに、交通事故に巻き込まれて命を落とした。そのことを聞いてから、亜莉菜の後悔が始まった。亜莉菜は自分のことを責め続けた。
(私は何て人間なのかしら。あれだけ仲が良かった葉月が死ぬことを願ったなんて。本当、私は最低、最悪の人間・・・・)
――亜莉菜ちゃん。そんなに自分を責めないで。本気で葉月ちゃんが死んじゃえば良いなんて、思った訳ではないでしょう。例え、そう思ったとしても、葉月ちゃんの事故はあなたの責任ではないのよ。
毎日のように、亜莉菜の苦悩を聞いて来た。そう慰めてあげたかったが、私の言葉は彼女に届かない。ただ、彼女の苦悩を聞いてあげることしか出来なかった。
そんなある日、亜莉菜は夕食の席で両親から思わぬ話を告げられた。
「大学を辞めて働いてくれないか」と言うのだ。
「何故、一体、どうしたの?何故、私が働かなければならないの?」
「御免な、亜莉菜。近所にデッカイ大手のコーヒーショップのチェーン店が出来て、客足が激減してしまったんだ。もう直ぐ、あのお店は人手に渡ることになる。パパ、次の仕事が見つかるまで、当分、うちは無収入だ。ママも働く。でな、お前の学費までは面倒見切れないんだ。お前の弟や妹はまだ義務教育だ。あいつらの学費を見るだけで精一杯なんだよ」
父親が申し訳なさそうに言った。途中から、言葉が頭に入って来なかった。
(大学を辞める。折角、入った大学なのに――⁉なんで・・・・嫌よ。働きたくなんてない。もう少し、学生生活を楽しみたい)亜莉菜はそう思った。
――亜莉菜ちゃん、しっかりして。
「いや、もちろん。お前がバイトを掛け持ちしてでも、大学を続けたいというのなら、それでも良い。でもな、パパたちは何もしてやれなんだ。家に居て、飯を食わせてやるくらいのことは出来る。でもな、お前の学費の面倒までは、とても見てあげれない」
安易に私学に進学したことを、この時は後悔した。だが、国立大学であっても、バイトひとつしたことがない亜莉菜が何とかできる学費ではなかった。
(そんな、無理よ。私に働けと言われても・・・・)
亜莉菜は混乱した頭で考え続けた。
「御免ね~」と母親も亜莉菜に頭を下げた。そして、春までは学費を払い込んであるので、大学に通って良いが、来年度分の学費を払い込むことは無理だと告げられた。
「まだ時間があるから、よく考えてくれ。働いてくれるのなら、早めに仕事を見つけてくれ。そして、うちに金を入れてくれ」と父親に頼まれた。
(そんなに苦しいの・・・・何故よ!何故、私が犠牲にならなきゃならないの‼)
段々、腹が立ってきた。食事を途中で放り出すと、亜莉菜は自分の部屋に戻って、ベッドに倒れ込んだ。「何で、何でよ!」と喚きながら、ベッドの上を転げ回った。
やがて、怒りが収まって来ると、(これも、葉月を呪った罰なのね)という気がしてきた。
――そんなことない。葉月ちゃんの事故と今度のことは関係ないのよ。
何とか励まそうとするのだが、私の気持ちを彼女に伝えることができない。
(私は最低の女。あれだけよくしてくれた、私みたいな人間を見捨てないでいてくれた葉月を呪ったりなんかしたものだから、神様が罰を与えているんだ)
――違うよ。あなたは最低の女なんかではない。
(そう言えば、葉月が亡くなってから、一度も彼女に会いに行っていない。仏壇に線香ひとつ上げに行っていない。私は本当に冷たい人間)
――仕方ない。葉月ちゃんを失って、あなただってショックだったんだから。
(ああ~葉月。もう一度、会いたい。会って、御免なさいって伝えたい)
――もう~だったら、会いに行けば良いのよ~!
私の感情が爆発した。すると、亜莉菜に伝わったようだった。
(そうね。そうよ。彼女に会いに行こう)という彼女の言葉が頭の中で響いた。




