亜莉菜は美しく成長した
長ずるに及んで、亜莉菜は美しく成長した。
高校生になると、それこそ毎日にように靴箱にラブレターが入れられるようになった。葉月は目立たない女の子のままだった。
二人の位置関係が逆転した――と亜莉菜は思った。時には胸がときめく相手からラブレターをもらうことがあった。恋人がいたこともあった。だが、長くは続かなかった。
高校時代、葉月がずっと思い続けていた男の子と付き合ったことがあった。
葉月は口にしたことはなかったが、彼のことが好きなことは、態度を見ていて分かった。その彼から告白された時、「御免ね」と亜莉菜は葉月に言った。すると、葉月は「何故、私に謝ったりするの?私と彼とは何の関係もないよ。彼ね、ずっと亜莉菜のことが好きだったみたい。彼と仲良くしてね」と言われた。
彼のことが好きで、ずっと見ていたからこそ、彼が亜莉菜のことを好きだと知っていたのだ。
葉月がずっと好きだった子が、私のことを好きだと言ってくれた――ただそれだけの理由で、彼と付き合い始めた。別に葉月のことが憎かった訳ではない。勿論、葉月に対抗心を燃やした訳でもない。ほんのちょっとした悪戯心だった。
そんな不純な動機で付き合い始めたのだ。正直、外見も性格も、亜莉菜の好みではなかった。一か月で別れた。別れを告げた時、「そんな・・・・付き合い始めたばかりなのに・・・・」と言って、彼は泣いた。
そんな女々しいところも嫌いだった。
頭の出来は五十歩百歩、二人は同じ大学に進学した。この時期から、両親が経営する喫茶店は経営が悪化していたのだが、亜莉菜は気がつかなかった。
大学に入学して、テニス・サークルに所属した。
葉月は運動音痴で体を動かすことが苦手だった。「一緒に入ろう」と言う亜莉菜の希望に合わせただけだった。
テニス・サークルの二つ上の先輩に、柚木信がいた。
細面でアイドル・グループにいそうなイケメンで、手足が長く、スタイルが良い。それでいて筋肉質、細マッチョと呼ばれる体型だ。次期キャプテン候補に挙げられており、サークル内での人望が厚く、決断力があって頼れる先輩だった。
亜莉菜にとって理想の男性、好みのド真ん中にいるような男だった。当然、入会して直ぐに柚木のことが好きになった。
彼の前では、今までの付き合った男たちが霞んで見えた。
――特定の彼女はいない。
と聞いた時には、チャンスだと思った。周りを見回しても、自分より美しい女はいない。彼はきっと自分を選ぶだろう。そう思った。
だが、柚木は別の女を選んだ。
よりによって、柚木が選んだのは葉月だった。地味で目立たない葉月を選んだ。葉月が柚木に憧れていたことは間違いない。誰かを好きになると、態度を見ているだけで直ぐに分かった。その葉月がのぼせた赤い顔をして、「柚木先輩から告白された・・・・どうしよう?」と相談を持ち掛けて来た時、亜莉菜は(嘘だろう――⁉)と思った。自分が選ばれるものだと、思い込んでいたからだ。サークル外の美女ならともかく、よりによって柚木が葉月を選ぶなんて思ってもいなかった。
(嫌だ。何で、何であの子なの)と亜莉菜は思った。
葉月が亜莉菜に勝っているところなんて、胸の大きさくらいだろう。
「柚木先輩のお母様、美人だけどとても厳しい人で、先輩、私みたいに、トロくさい女の子が良いんだって~」葉月が嬉しそうに言う。
おっとりしているという面では、まさに葉月はその典型だ。鈍感と言えた。実際、亜莉菜が柚木のことを好きだったことに、露ほども気がついていなかった。
(なるほど。柚木先輩のお母さんは私みたいな人間なのね。だから、葉月みたいな鈍い人間の方が良いんだ)
柚木が葉月を選んだ理由は納得できたが、嫉妬だけが残った。




