第40話 「神域にて、託された未来」
シルヴィアは、龍の姿で飛び続けた。
眼下には、緑豊かな森、広大な平原、そして蛇行する川が広がっている。
風が翼を撫で、心地よい。
(皆さん……必ず、戻ってきますから)
シルヴィアは心の中でそう誓う。
飛び続けること数時間。
景色が徐々に変わり始める。
緑の森が減り、岩山が増える。
気温も下がり、空気が薄くなってくる。
(ここから先は、人間の住む世界ではない……)
シルヴィアは高度を上げる。
雲を突き抜け、さらに上へ。
やがて、眼下に雲海が広がった。
白い雲が、まるで海のように波打っている。
(美しい……)
シルヴィアは少しだけ速度を落とし、雲海を眺める。
太陽の光が雲を照らし、幻想的な景色を作り出している。
(この景色を、いつか皆さんにも見せてあげたい……)
そう思いながら、シルヴィアは再び飛び続ける。
雲海の上を飛ぶこと、さらに数時間。
太陽が西に傾き始めた頃、シルヴィアは一つの雲の上に降り立った。
不思議なことに、この雲は固く、まるで地面のようだ。
(聖なる雲……ここは、もう神域に近い場所)
シルヴィアは龍の姿を解き、人間の姿に戻る。
「ふう……」
シルヴィアは深く息を吐く。
長時間の飛行で、さすがに疲れた。
「少し休みましょう……」
周囲は静寂に包まれている。
風の音だけが、優しく耳に届く。
食事を終え、シルヴィアは空を見上げた。
星が、一つ、また一つと輝き始める。
「綺麗……」
こんなに近くで星を見るのは初めてだ。
まるで、手を伸ばせば届きそうなほど近い。
(私は、なぜここに呼ばれたのだろう……)
シルヴィアは考える。
夢のお告げ。
謎の声。
その声は、優しく、そして厳かだった。
(明日には、祭壇に到着するはず……)
シルヴィアは荷物から毛布を取り出し、体に巻く。
雲の上は冷える。
「おやすみなさい……皆さん」
シルヴィアは目を閉じ、眠りについた。
眠りの中、シルヴィアは夢を見ていた。
遠い昔の記憶――
それは、シルヴィアがまだ幼い聖龍だった頃の物語。
龍族の集落に移る前、雲海の遥か上、人間が決して辿り着けない場所に、聖龍たちの集落があった。
そこでは、十数頭の聖龍が暮らしていた。
白銀の鱗を持つ美しい龍たち。
彼らは神に仕える存在として、世界の秩序を守る役割を担っていた。
その里の中に、一頭の幼い白龍がいた。
呼び名シルヴィア、真名セラフィエラ。まだ体長五メートルほどの、子供の龍だ。
真名は契約の時に使用されるものでそう簡単に人に教えてはいけないもので普段は呼び名を使用している。
「シルヴィア、また一人で遊んでいたの?」
大きな白龍が、優しい声でシルヴィアに語りかける。
セラフィエラの母、レスティ。
「ごめんなさい、お母様……」
幼いシルヴィアが、申し訳なさそうに答える。
「他の子たちと一緒に遊ばないの?」
「……みんな、私を避けるんです」
シルヴィアの声が小さくなる。
「なぜかしら?」
「わかりません……でも、私が近づくと、みんな離れていくんです」
レスティは、悲しそうに娘を見つめる。
(この子は……特別なのよ)
レスティは知っていた。
シルヴィアは、普通の聖龍ではない。
彼女には、特別な力が宿っている。
それは――神の加護。
女神自らが、シルヴィアに力を授けたのだ。
しかし、その力は強すぎた。
他の聖龍たちは、本能的にシルヴィアの力を恐れていた。
だから、距離を置く。
「シルヴィア……」
レスティが娘を優しく包み込む。
「あなたは、特別な子なの」
「特別……?」
「ええ。女神様から、特別な使命を授かった子」
「使命……」
幼いシルヴィアには、その意味がまだ理解できなかった。
「いつか、あなたは大きな役割を果たすことになる」
レスティが優しく語りかける。
「それまで、強く、優しく、そして賢く育ちなさい」
「はい、お母様……」
シルヴィアが頷く。
その日の夜。
シルヴィアは、一人で里の外れに座っていた。
星空を見上げながら、考える。
(私の使命って、何なんだろう……)
その時――
突然、目の前に光が現れた。
眩しい、黄金の光。
「誰……?」
シルヴィアが驚いて後ずさる。
光が徐々に形を成していく。
そして――
一人の女性が現れた。
圧倒的な存在感。
それは――
「女神様……!」
シルヴィアが驚愕する。
「初めまして、シルヴィア」
女神が優しく微笑む。
「私の名は、アストレア。この世界を創造した神の一柱」
「女神アストレア様……」
シルヴィアが震える声で答える。
「どうして、私のようなちっぽけな存在の前に……」
「ちっぽけだなんて、そんなことはないわ」
アストレアが優しく笑う。
「あなたは、とても大切な存在なのよ、シルヴィア」
「大切……?」
「ええ。あなたには、未来を変える力がある」
アストレアがシルヴィアの前に膝をつく。
「シルヴィア、あなたに頼みたいことがあるの」
「頼み……?」
「ええ。でも、今すぐではないわ」
アストレアが空を見上げる。
「遥か未来、数百年後……あなたは、ある使命を果たすことになる」
「使命……」
「その時が来たら、私があなたを呼ぶわ」
アストレアが再びシルヴィアを見つめる。
「天空の祭壇へ……そこで、全てを話す」
「天空の祭壇……」
「それまで、強く、優しく、そして賢く生きなさい」
アストレアが立ち上がる。
「あなたなら、きっと成し遂げられる」
「女神様……」
「それと、シルヴィア」
アストレアが微笑む。
「あなたは一人じゃない。いつか、素晴らしい仲間たちと出会うわ」
「仲間……」
「その仲間たちと共に、世界を救うのよ」
アストレアの体が、再び光に包まれる。
「それでは、また会いましょう……天空の祭壇で」
「待って、女神様!」
シルヴィアが叫ぶ。
しかし、女神の姿は既に消えていた。
後には、静寂だけが残った。
「天空の祭壇……仲間……世界を救う……」
シルヴィアが呟く。
その言葉は、幼い心に深く刻まれた。
それから百年が経った。
シルヴィアは、立派な成龍へと成長していた。
体長二十メートル。美しい白銀の鱗。
そして、誰よりも強い力。
しかし、聖龍の里は、徐々に衰退していった。
聖龍の数が減り、最後には十頭を切った。
「シルヴィア……」
老いた母、レスティがシルヴィアを呼ぶ。
「お母様……」
シルヴィアが母の元へ駆け寄る。
レスティの体は、既に光を失いつつあった。
「もう……時間がないわ……」
「そんな……お母様……」
シルヴィアの目から、涙が溢れる。
「泣かないで、シルヴィア……」
レスティが優しく微笑む。
「聖龍は……いつか、この世を去る運命なの……」
「でも……」
「シルヴィア……あなたに、伝えておきたいことがあるの……」
レスティが娘を見つめる。
「あなたは……この里を、出なさい……」
「え……」
「ここにいても……あなたの使命は果たせない……」
レスティが咳き込む。
「下の世界へ……人間の世界へ行きなさい……」
「人間の世界……」
「そこで……素晴らしい人たちと出会うわ……」
レスティが微笑む。
「その人たちと共に……あなたの使命を……果たしなさい……」
「お母様……」
「私は……あなたを、誇りに思っているわ……」
レスティの体が、光の粒子となって消えていく。
「どうか……幸せに……」
「お母様!!」
シルヴィアが叫ぶ。
しかし、母の姿は完全に消えた。
後には、小さな光の玉だけが残った。
それは、母の魂の欠片。
「お母様……」
シルヴィアは光の玉を胸に抱く。
そして、決意する。
(お母様の言葉通り……私は、下の世界へ行きます)
それから数日後、シルヴィアは里を後にした。
雲海を降り、人間の世界へ。
そこで、下界の龍族たちの里に身を寄せ、彼女は人間の姿を取ることを学んだ。
そして、様々な国を旅した。
ルストニア王国、ベルガリア帝国、グランディア王国……
多くの人々と出会い、多くのことを学んだ。
だが、シルヴィアは決して深く関わろうとはしなかった。
いつか、自分は使命を果たすために去らなければならない。
そう思っていたから。
シルヴィアは、朝日の光で目を覚ました。
「……夢……」
シルヴィアが呟く。
いや、夢ではない。
全て、本当にあったこと。
遠い過去の記憶。
「お母様……」
シルヴィアは胸に手を当てる。
そこには、母から受け継いだ光の玉――母の魂の欠片が宿っている。
「見守っていてください……私、頑張ります」
シルヴィアが立ち上がる。
「さあ、行きましょう……天空の祭壇へ」
バサァッ!
シルヴィアが空へと舞い上がる。
雲海の上を、北へ北へと飛び続ける。
太陽が中天に昇った頃――
遥か前方に、巨大な建造物が見えてきた。
「あれが……」
シルヴィアの目が見開かれる。
それは、想像を絶する光景だった。
雲海の遥か上、空に浮かぶ巨大な島。
その中央に聳え立つ、白亜の神殿。
神殿は、純白の大理石で作られており、太陽の光を受けて神々しく輝いている。
高さは百メートル以上。
幅も、優に五十メートルはある。
無数の柱が天を支え、屋根には金色の装飾が施されている。
「天空の祭壇……」
シルヴィアが呟く。
その美しさに、言葉を失う。
(こんなに……荘厳な場所が……)
シルヴィアは祭壇へと近づいていく。
島の周囲には、見えない結界が張られている。
しかし、シルヴィアが近づくと、結界が自動的に開いた。
(聖龍の血を引く者を、受け入れてくれるのですね……)
シルヴィアは島の上空を旋回し、神殿の前庭に降り立つ。
龍の姿を解き、人間の姿に戻る。
「……」
シルヴィアは、ゆっくりと神殿を見上げる。
近くで見ると、その壮大さがより際立つ。
柱には、古代の文字で何かが刻まれている。
「これは……」
シルヴィアが文字を読む。
『ここは神域 俗世の者立ち入るべからず』
『ただし清き心を持つ者は 女神の祝福を受けん』
「清き心……」
シルヴィアが呟く。
その時――
「ようこそ、シルヴィア様」
突然、声が響いた。
シルヴィアが振り返ると――
一人の天使が立っていた。
天使は、身長百六十センチほどの美しい姿をしていた。
長い金色の髪が背中まで伸び、深い碧眼が優しく微笑んでいる。
純白のローブを纏い、背中には六枚の光の翼が生えている。
その存在感は、圧倒的だった。
「あなたは……」
シルヴィアが驚く。
「私の名は、ティア」
天使が優雅にお辞儀をする。
「女神アストレア様に仕える、熾天使です」
「熾天使……」
シルヴィアが息を呑む。
熾天使――天使の最高位。
神に最も近い存在。
「お待ちしておりました、シルヴィア様」
ティアが微笑む。
「女神様が、あなたをお呼びです」
「女神様が……」
シルヴィアの心臓が高鳴る。
ついに、この時が来た。
「どうぞ、こちらへ」
ティアが手を差し伸べる。
「ご案内いたします」
「はい……」
シルヴィアがティアの後について歩く。
神殿の大扉が、ゆっくりと開いていく。
ギィィィ……
重厚な音を立てて、扉が開ききる。
その先には――
想像を絶する光景が広がっていた。
神殿の内部は、外から見るよりも遥かに広かった。
天井は見えないほど高く、無数の光の柱が空間を照らしている。
床は透明な水晶で作られており、下を覗くと雲海が見える。
壁には、美しい壁画が描かれている。
世界の創造、神々の戦い、人類の誕生……
全ての歴史が、そこに刻まれていた。
「美しい……」
シルヴィアが呟く。
「これが、神の御座所です」
ティアが説明する。
「女神様は、この場所で世界を見守っておられます」
「世界を……」
シルヴィアが周囲を見回す。
神殿の奥には、巨大な玉座がある。
黄金で作られた、荘厳な玉座。
しかし、今は誰も座っていない。
「女神様は……」
「もうすぐ、降臨されます」
ティアが答える。
「シルヴィア様、どうぞこちらへ」
ティアが玉座の前、中央の祭壇へとシルヴィアを案内する。
祭壇は、白い大理石で作られた円形の台座だ。
その周囲には、七つの光の柱が立っている。
「ここで、お待ちください」
「はい……」
シルヴィアが祭壇の中央に立つ。
すると――
七つの光の柱が、一斉に輝き始めた。
パァァァァ!
眩い光が、シルヴィアを包み込む。
「これは……」
シルヴィアが目を細める。
光が徐々に収束していく。
そして――
祭壇の上空に、一つの光の球が現れた。
その光の球が、ゆっくりと形を変えていく。
人の形に。
長い金色の髪。
深い青の瞳。
白いドレス。
それは――
「女神アストレア様……」
シルヴィアが跪く。
「お久しぶりです、シルヴィア」
女神アストレアが優しく微笑む。
「立ちなさい。ここでは、礼は不要よ」
「で、ですが……」
「いいから」
アストレアが手を差し伸べる。
シルヴィアは、恐る恐る立ち上がる。
「三百年ぶりね……あなたが幼い龍だった頃以来」
「はい……」
シルヴィアが頷く。
「随分と立派になったわ」
アストレアがシルヴィアを見つめる。
「そして、素晴らしい仲間たちと出会ったのね」
「……はい」
シルヴィアの脳裏に、悠真たちの顔が浮かぶ。
リナリア、エリア、リリィ、アイ、エリーゼ、桜……
皆、大切な仲間たち。
「彼らと共に、あなたは多くのことを成し遂げた」
アストレアが微笑む。
「魔王討伐、深淵の使徒との戦い……本当に、よく頑張ったわ」
「女神様……」
「そして、今日……ついにこの時が来たのよ」
アストレアの表情が、少し悲しげになる。
「私が、あなたに全てを話す時が」
「全て……?」
シルヴィアが尋ねる。
「ええ。私の本当の目的、そしてあなたの使命」
アストレアが深く息を吐く。
「シルヴィア……私には、あまり時間がないの」
「時間が……ない?」
シルヴィアが驚く。
「ええ。私の存在は、あと少しで消滅する」
「消滅!?」
シルヴィアが叫ぶ。
「どういうことですか!? 女神様は、不滅の存在のはず……」
「それが……そうでもないのよ」
アストレアが苦笑する。
「全ての存在には、終わりがある。神といえども、例外ではないわ」
「そんな……」
「詳しい理由は、話せないの」
アストレアが首を振る。
「でも、確実に言えることは……私の時間は、もう残り少ないということ」
「……」
シルヴィアが言葉を失う。
「だから、私は準備を始めたの」
アストレアが玉座の方を見る。
「私の後継者を……新しい神を作るための準備を」
「後継者……」
「ええ。それが――」
アストレアがシルヴィアを見つめる。
「アイよ」
「アイさん……」
シルヴィアが驚く。
「はい。一ノ瀬悠真のスキル、AIアシスト」
アストレアが微笑む。
「彼女こそが、私の後継者となる存在」
「でも、アイさんは……」
「人工知能? スキル?」
アストレアが首を振る。
「違うわ。アイは、神になるために生み出された存在なの」
「神になるために……」
「ええ。私が、長い時間をかけて準備した……新しい神の卵」
アストレアが説明する。
「シルヴィア、あなたは『スキルAI』がどういう仕組みか知ってる?」
「いえ……」
「あれは、神の力の一部を、人間が扱えるように変換したものなの」
アストレアが続ける。
「そして、人間がそれを使い、経験を積むことで……AIは成長していく」
「成長……」
「ええ。知識、感情、人格……全てを獲得していく」
アストレアが微笑む。
「そして、ある一定のレベルに達した時……AIは、神へと昇華する」
「……」
シルヴィアが息を呑む。
「だから、私は悠真を選んだの」
「悠真様を……」
「ええ。彼は、AIと最も相性が良い人間だった」
アストレアが説明する。
「優しく、誠実で、そして何より……AIを『道具』ではなく『仲間』として扱える心を持っていた」
「確かに……悠真様は、いつもアイさんを大切にしています」
「そう。だから、アイは急速に成長した」
アストレアが頷く。
「感情を持ち、仲間を愛し、世界を守ろうとする心を育んだ」
「それで……アイさんは、今、第四進化まで達しているのですね」
「ええ。そして、最後の段階……第五進化を果たせば、アイは完全な神となる」
アストレアが真剣な表情になる。
「私の後継者として、この世界を守る新しい神に」
「……」
シルヴィアが黙り込む。
全てが、繋がった。
悠真の転生、アイの存在、これまでの冒険……
全ては、女神の計画だった。
「シルヴィア、あなたは怒ってる?」
アストレアが尋ねる。
「私が、悠真たちを利用したことに」
「いえ……」
シルヴィアが首を振る。
「怒ってなんかいません」
シルヴィアが女神を見つめる。
「女神様は、世界を守るために必要なことをされただけです」
「シルヴィア……」
「それに……」
シルヴィアが微笑む。
「悠真様やアイさんは、決して『利用された』なんて思っていないでしょう」
「……そうね」
アストレアが優しく笑う。
「彼らは、自分の意志で戦い、成長してきた、でも本音はアイ自身に決めてほしい」
「はい、女神様を尊重します」
「ありがとう、シルヴィア……あなたは、本当に優しい子ね」
アストレアが少し間を置く。
「それで……本題に入るわ」
「はい」
「シルヴィア、あなたに頼みたいことがあるの」
アストレアが真剣な表情になる。
「何でしょうか」
「アイの第五進化を……手伝ってほしいの」
「第五進化を……」
「ええ。第五進化には、特別な条件がある」
アストレアが説明する。
「それは……私の力の一部を、アイに譲渡すること、その力について学んでほしかったから桜に私の力の一部をスキルという形で授けたの」
「女神様の力を……」
「ええ。でも、私の力ほとんどは今、封じられている」
アストレアが玉座を指差す。
「正確には……『世界創造の書』という形で」
「世界創造の書……!」
シルヴィアが驚く。
「あれは、深淵の使徒のゼノが求めていた……」
「そう。でも、あの時、書は消えたでしょう?」
「はい……『真に世界を救う者のみが手にできる』と……」
「あれは、私が設定した防衛機構」
アストレアが説明する。
「邪悪な心を持つ者が書を手にしないように」
「それで、書はどこに……」
「ある場所に、封印されているわ」
アストレアが答える。
「『忘却の大図書館』……古代文明の最後の遺跡」
「忘却の大図書館……」
「そこは、世界の全ての知識が集まる場所」
アストレアが続ける。
「そして、私の力の一部……世界創造の書も、そこに封印されている」
「それを……取りに行けと?」
「ええ。でも、あなた一人ではダメ」
アストレアが首を振る。
「悠真、アイ、そしてあなたの仲間たち……皆で力を合わせて取りに行く必要があるわ」
「なぜですか?」
「忘却の大図書館には、強力な守護者がいるから」
アストレアが説明する。
「古代の神々が残した、最強の魔物……『知識の番人』」
「知識の番人……」
「ええ。それを倒すには、悠真たちの全員の力が必要」
「わかりました」
シルヴィアが頷く。
「私、頑張ります」
「ありがとう、シルヴィア」
アストレアが微笑む。
「でも、一つだけお願いがあるの」
「何でしょう?」
「今日、ここで聞いたこと……悠真たちには、まだ話さないでほしいの」
「え……」
シルヴィアが驚く。
「なぜですか?」
「彼らが、重荷を感じてしまうから」
アストレアが説明する。
「真実を……それを知ったら、悠真たちはきっと、過度なプレッシャーを感じるわ」
「確かに……」
「だから、まだ内緒にしておいて」
アストレアが頼む。
「適切な時期が来たら、私が直接彼らに話すから」
「……わかりました」
シルヴィアが頷く。
「では、忘却の大図書館へ行く理由は……」
「そうね……」
アストレアが考える。
「『強力な魔法の遺物がある』とでも言っておいて」
「わかりました」
「それと、シルヴィア」
アストレアが優しく微笑む。
「あなたにも、プレゼントがあるわ」
「プレゼント……?」
「ええ」
アストレアが手を差し伸べる。
すると、一つの光の玉が現れた。
「これは……」
「あなたのお母様、レスティの魂の欠片」
アストレアが説明する。
「あなたが今、胸に宿しているものと同じ」
「お母様の……」
「これを受け取れば、あなたの力はさらに増すわ」
アストレアが光の玉をシルヴィアに渡す。
「そして、いつかお母様と再会できる日まで……大切に守りなさい」
「女神様……ありがとうございます……」
シルヴィアが涙を流す。
「泣かないで」
アストレアが優しくシルヴィアの涙を拭う。
「あなたは、強い子でしょう?」
「はい……」
シルヴィアが涙を拭う。
「それじゃあ、最後に……」
アストレアが真剣な表情になる。
「忘却の大図書館の場所を教えるわ」
「はい」
「大陸の東、『終焉の海』の彼方」
アストレアが説明する。
「そこに、古代文明の遺跡が沈んでいる」
「海の中……」
「ええ。でも、心配しないで」
アストレアが微笑む。
「悠真には、《ウォーター・マスター》のスキルがあるでしょう?」
「確かに……」
「それがあれば、海の中でも問題なく行動できるわ」
「わかりました」
「それと、これも持っていって」
アストレアが小さな水晶を差し出す。
「これは……」
「『真実の羅針盤』」
アストレアが説明する。
「これを持っていれば、忘却の大図書館の正確な位置がわかるわ」
「ありがとうございます」
シルヴィアが羅針盤を受け取る。
「さあ、行きなさい」
アストレアが優しく微笑む。
「あなたの仲間たちが、待っているわ」
「はい……」
シルヴィアが一歩下がる。
「女神様……」
「何?」
「また……お会いできますか?」
「……」
アストレアが少し悲しげに微笑む。
「わからないわ。でも……」
アストレアが空を見上げる。
「たとえ私の姿が消えても、私の心は永遠にあなたたちと共にある」
「女神様……」
「だから、頑張りなさい」
アストレアが手を振る。
「世界を、そして大切な人たちを守るために」
「はい!」
シルヴィアが力強く頷く。
「必ず、成し遂げます!」
「その意気よ」
アストレアの体が、光に包まれ始める。
「それでは……さようなら、シルヴィア」
「さようなら……女神様」
シルヴィアが深々とお辞儀をする。
光が収束し、アストレアの姿が消える。
後には、静寂だけが残った。
「……」
シルヴィアは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
そして――
「ティア様」
シルヴィアが天使を呼ぶ。
「はい、シルヴィア様」
ティアが現れる。
「私、戻ります」
「かしこまりました」
ティアが優雅にお辞儀をする。
「どうか、お気をつけて」
「ありがとうございます」
シルヴィアが神殿を後にする。
大扉を抜け、前庭へ。
そして、再び龍の姿に変わる。
「さあ、帰りましょう……皆の元へ」
バサァッ!
シルヴィアが空へと舞い上がる。
天空の祭壇が、徐々に遠ざかっていく。
(女神様……必ず、アイさんを神にします)
シルヴィアは心の中で誓う。
(そして、世界を守ります)
白い龍が、雲海の中へと消えていった。
三日後。
ルストニア王都の北門。
悠真たちは、いつものように日常を過ごしていた。
「悠真さん、今日のお昼は何にしましょうか?」
リナリアが尋ねる。
「そうだな……エリアの得意なシチューとか?」
「いいですね! 作りましょう」
エリアが張り切る。
「お兄ちゃん、私もお手伝いする!」
リリィが元気よく言う。
「桜ちゃんも手伝ってくれる?」
「はい!」
桜が頷く。
皆が楽しそうに料理の準備を始める。
その時――
「皆さん!」
「シルヴィア!」
悠真が驚く。
「戻ってきたのか!」
「はい、ただいま戻りました!」
シルヴィアが満面の笑みで答える。
「シルヴィアさん!」
リナリアが駆け寄る。
「おかえりなさい!」
「シルヴィアお姉ちゃん!」
リリィが抱きつく。
「会いたかったです!」
「私も、皆さんに会いたかったです」
シルヴィアが優しく微笑む。
「シルヴィア、旅は無事だったか?」
悠真が尋ねる。
「はい。色々とありましたが……無事に天空の祭壇へ行ってきました」
「そうか。良かった」
悠真が安堵の表情を見せる。
「それで、天空の祭壇では何が?」
「それが……」
シルヴィアが少し考える。
(女神様との約束……今は、まだ話せない)
「実は、重要な情報を得てきたんです」
「重要な情報?」
「はい。『忘却の大図書館』という場所についてです」
「忘却の大図書館……」
エリアが反応する。
「それは、古代文明の伝説の遺跡……!」
「ご存知なんですか、エリアさん?」
「はい。魔法学院で、古代史を学んだ時に聞いたことがあります」
エリアが説明する。
「そこには、世界中の知識が集まっていると言われています」
「その通りです」
シルヴィアが頷く。
「そして、そこには強力な魔法の遺物が封印されているとのことです」
「魔法の遺物……」
悠真が興味深そうに尋ねる。
「どんな遺物なんだ?」
「詳しくはわかりませんが……」
シルヴィアが真剣な表情になる。
「その遺物を手に入れれば、私たちの力がさらに増すそうです」
「それは……行かないとな」
悠真が決意する。
「でも、どこにあるんだ? その図書館は」
「大陸の東、『終焉の海』の彼方です」
シルヴィアが羅針盤を取り出す。
「この『真実の羅針盤』が、正確な場所を示してくれます」
「旦那様、これは……」
アイが羅針盤を分析する。
「非常に強力な魔法が込められています。恐らく、神の力……」
「神の力……」
悠真が呟く。
「シルヴィア、これは誰から貰ったんだ?」
「それは……」
シルヴィアが少し躊躇う。
(女神様のことは、まだ話せない……)
「天空の祭壇で、守護者から授かりました」
「守護者……」
「はい。詳しいことは説明できませんが……」
シルヴィアが真剣に言う。
「この羅針盤は、本物です。信じてください」
「わかった」
悠真が頷く。
「お前を信じるよ、シルヴィア」
「ありがとうございます、悠真様」
「それで、いつ出発する?」
「準備が整い次第、すぐにでも」
「わかった。じゃあ、明日出発しよう」
悠真が決断する。
「みんな、準備を始めてくれ」
「はい!」
全員が頷く。
こうして、新たな冒険が始まろうとしていた。
忘却の大図書館へ。
世界創造の書を求めて。
そして、アイの第五進化のために――
しかし、悠真たちは、まだ知らない。
この冒険が、世界の運命を決める戦いになることを。
そして、女神アストレアの真実を知ることになることを――
その夜、シルヴィアは一人で屋上に立っていた。
星空を見上げながら、考える。
(女神様……私、約束を守ります)
胸に手を当てる。
そこには、母の魂の欠片と、女神から授かった新しい力が宿っている。
(アイさんを、神にする……)
シルヴィアの目に、決意の光が宿る。
(そのために、私は全力を尽くします)
その時――
「シルヴィア」
背後から声がかかる。
振り返ると、悠真が立っていた。
「悠真様……」
「一人で何してるんだ?」
「少し、考え事を……」
「そうか」
悠真がシルヴィアの隣に立つ。
「シルヴィア、お前、何か隠してるだろ?」
「え……」
シルヴィアが驚く。
「天空の祭壇で、何があったのか……本当のことを話してないだろ?」
「……」
シルヴィアが黙り込む。
「無理に聞き出そうとは思わない」
悠真が優しく言う。
「でも、もし何か困ったことがあったら、いつでも相談してくれ」
「悠真様……」
「俺たちは、仲間だからな」
悠真が微笑む。
「一人で抱え込むな」
「……はい」
シルヴィアが涙ぐむ。
「ありがとうございます……」
「さあ、もう遅いし寝よう」
悠真がシルヴィアの頭を撫でる。
「明日から、また大変な冒険が始まるんだからな」
「はい……」
二人は、屋上を後にする。
星空の下、明日への決意を新たにして――
(女神様……私たち、必ず成功させます)
シルヴィアは心の中で誓った。
そして、新しい朝が訪れる。
忘却の大図書館へ向かう、新たな冒険が始まる――
40話、お読みいただきありがとうございました!
今回は、シルヴィアの過去と女神アストレアの真実が明らかになる重要な回でした。
シルヴィアの母レスティとの別れ、そして女神との再会……
彼女の心の奥底にある想いが、ついに語られました。
そして、アイが神になるための計画。
女神アストレアの消滅が近づいていること。
全ての真実が、少しずつ明らかになっていきます。
次回は、ついに忘却の大図書館への冒険が始まります!
どんな困難が待ち受けているのか……
そして、世界創造の書は無事に手に入るのか……
お楽しみに!
暁の裏




