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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第39話 「皇女を救え――帝国騎士の誓い」

――帝国国境近くの町、酒場。


 エリーゼとレイナルドは、テーブルに座り、老人から情報を聞き出そうとしていた。


「怪しい組織……?」


 エリーゼが身を乗り出す。


「ああ。確か名前は―――『深淵盟約ディープ・アビス・コヴナント』とか言ったかな」


「深淵盟約……」


 レイナルドが眉をひそめる。


「聞いたことのない名前ですね」


「当然だろうな。最近になって急に現れた組織らしい。しかも、表に出てこない。影で暗躍しているって話だ。思うに深淵の使徒に触発された奴らが作ったと思っている」


 老人はさらに声を潜めた。


「その組織が……何をしているんですか?」


 エリーゼが尋ねる。


「詳しくは知らないが……帝国の貴族や軍の高官に接触して、何か企んでいるらしい。ルドルフ様に薬を渡したのも、おそらく……」


「その組織……」


 エリーゼの表情が険しくなる。


「どこで活動しているか、わかりますか?」


「さあな……ただ、噂では帝都の地下に秘密の拠点があるとか」


「地下……」


「それと、もう一つ。その組織のメンバーは、特殊な刺青を入れているらしい」


「刺青?」


「ああ。黒い蛇が円を描いているような刺青だ。それを見たら、気をつけた方がいい」


 老人は周囲を見回してから、さらに続けた。


「実は……わしの知り合いの商人が、その組織のメンバーらしき人物を見たって言ってたんだ」


「本当ですか!?」


 エリーゼが驚く。


「ああ。三日前、帝都の西門近くの倉庫街で見かけたそうだ。怪しい黒マントを着た連中が、大量の荷物を運び込んでいたって」


「西門近くの倉庫街……」


 レイナルドが記憶を辿る。


「あそこは古い倉庫が立ち並ぶ場所です。普段はあまり人が立ち入らない」


「そうだ。だからこそ、怪しい連中が集まるには都合がいいんだろうな」


 老人はそう言って、酒を一口飲んだ。


「ありがとうございます。貴重な情報です」


 エリーゼが立ち上がる。


「気をつけるんだぞ、嬢ちゃんたち。その組織、只者じゃないらしいからな」


「はい。気をつけます」


 エリーゼとレイナルドは酒場を後にした。


 外に出ると、太陽が西に傾き始めていた。


「エリーゼ様、どうなさいますか?」


 レイナルドが尋ねる。


「西門近くの倉庫街に向かいます。今すぐに」


「了解しました。しかし、慎重に行動しましょう。罠の可能性もあります」


「ええ、わかっています」


 二人は帝都への道を急いだ。


 帝都に到着したのは、日が完全に沈んだ後だった。


 西門は既に閉まっており、警備兵が立っている。


「どうしますか?」


「正面からは入れませんね……」


 エリーゼが考え込む。


「エリーゼ様、私に考えがあります」


 レイナルドが言う。


「城壁の外を回り込み、倉庫街の裏手から入りましょう。あそこなら警備が手薄なはずです」


「わかりました」


 二人は城壁沿いに移動し、やがて古い倉庫街の裏手に到達した。


 倉庫街は薄暗く、月明かりだけが頼りだ。


 建物の影に身を隠しながら、二人は慎重に進む。


「レイナルド、あれを」


 エリーゼが指差す。


 倉庫の一つから、微かに灯りが漏れている。


「人がいるようですね」


「行きましょう」


 二人は音を立てずに倉庫に近づいた。


 窓から中を覗くと、五人の男たちが何かを話し合っている。


 男たちは全員、黒いローブを纏っている。


「あれが……深淵盟約のメンバーでしょうか」


 エリーゼが小声で言う。


「おそらく。腕に刺青があるか確認しましょう」


 レイナルドが注意深く観察する。


 その時、一人の男がローブの袖をまくった。


 その腕には、黒い蛇が円を描いている刺青があった。


「間違いありません」


 レイナルドが頷く。


「話を聞きましょう」


 二人は耳を澄ます。


「……計画は順調だ。第二皇子の反乱は失敗したが、我々の存在は露見していない」


 一人の男が言う。


「次の段階に進むべきだ。帝国の軍部にさらに工作員を送り込む」


「了解した。しかし、第一皇女が戻ってきたのは誤算だったな」


「ああ。あの女は厄介だ。レイナルドという騎士も傍についている」


「レイナルド……帝国騎士団長だった男か」


「ああ。あいつは強すぎる。正面から戦っても勝ち目はない」


 男たちの会話が続く。


「ならば、暗殺するしかあるまい」


「その通りだ。明日の夜、エリーゼを城から誘い出す。そして……」


 その時――


 バキッ!


 エリーゼが踏んでいた木の板が、音を立てて割れた。


「何だ!?」


 倉庫の中の男たちが一斉に立ち上がる。


「しまった……!」


 エリーゼが舌打ちする。


「エリーゼ様、下がってください」


 レイナルドが前に出る。


 倉庫の扉が開き、五人の男たちが飛び出してくる。


「誰だ、貴様ら!」


 男の一人が叫ぶ。


 月明かりの下、エリーゼとレイナルドの姿が露わになる。


「……エリーゼ!?」


「そして……レイナルド……!」


 男たちの顔色が変わる。


「やはり、貴様らが深淵盟約のメンバーか」


 エリーゼが剣を抜く。


「ルドルフに薬を渡したのも、貴様らだな」


「フン……気づいていたか」


 男たちも武器を構える。


「しかし、ここで会ったのが運の尽きだ。エリーゼ、貴女にはここで死んでもらう」


「やれるものなら、やってみるがいい」


 エリーゼの声には、皇女としての威厳が込められている。


「エリーゼ様、お下がりください。私が相手をします」


 レイナルドが一歩前に出る。


「いえ、レイナルド。私も戦います」


「……わかりました。では、私が三人、エリーゼ様が二人でいかがでしょうか」


「了解しました」


 次の瞬間――


 戦闘が始まった。


 五人の男たちが一斉に襲いかかる。


 しかし、レイナルドは動じない。


 ただ、腰の剣に手を当てたまま、静止している。


 男たちが間合いに入った瞬間――


 シュン。


 一閃。


 レイナルドの剣が鞘から抜かれ、そして納められる。


 その動作は、あまりにも速く、まるで剣を抜いていないかのようだった。


 しかし――


 カラン、カラン、カラン。


 三人の男の剣が、全て真っ二つに切断され、地面に落ちた。


「な……に……!?」


 男たちが呆然とする。


「貴様ら……剣を失った。投降しろ」


 レイナルドの冷たい声が響く。


「くっ……!」


 男たちは剣を失っても諦めず、素手で襲いかかってくる。


 しかし、レイナルドは僅かに体を動かすだけで、全ての攻撃を回避する。


 そして――


 パン、パン、パン。


 三度、掌底が繰り出される。


 男たちは一瞬で意識を失い、地面に倒れた。


「速い……」


 エリーゼも驚きを隠せない。


 一方、エリーゼは残り二人の男と対峙していた。


「女だからといって容赦はしないぞ!」


 男の一人が剣を振り下ろす。


 しかし、エリーゼはその剣を軽々と受け流した。


「《紅蓮の剣・爆炎斬》!」


 エリーゼの剣が炎を纏う。


 そして、一閃――


 ドォン!


 炎の斬撃が男に直撃し、男は吹き飛ばされる。


「ぐあああ!」


 男は地面を転がり、動かなくなった。


「一人……!」


 エリーゼが残りの男に向き直る。


「くそっ……!」


 最後の男が逃げようとする。


 しかし――


「逃がしません」


 エリーゼが素早く間合いを詰める。


 その剣技は、レイナルドに鍛えられただけあって、洗練されている。


 男が振り向きざまに剣を振るうが、エリーゼはそれを読んでいた。


 剣を下から弾き上げ、男の剣を宙に飛ばす。


 そして――


 エリーゼの剣が、男の喉元に突きつけられた。


「動くな」


「く……」


 男は諦めたように手を上げた。


「エリーゼ様、お見事です」


 レイナルドが近づいてくる。


「ありがとうございます、レイナルド」


 エリーゼが微笑む。


「それでは、この者たちを拘束しましょう」


「はい」


 レイナルドが持っていたロープで、五人の男たちを縛り上げる。


 しばらくすると、男たちが意識を取り戻し始めた。


「う……」


「目を覚ましたか」


 レイナルドが男の一人に近づく。


「さあ、質問に答えてもらおうか」


 レイナルドが男の前に膝をつく。


「貴様らは深淵盟約のメンバーか?」


「……」


 男は黙り込む。


「答えろ」


 レイナルドの声が、一段と低くなる。


 その声には、絶対的な威圧感が込められている。


「……ああ、そうだ」


 男が観念したように答える。


「深淵盟約とは、何だ? 目的は?」


「……知ったところで、貴様らに止められるものか」


 男が嘲笑う。


「我々の目的は……ベルガリア帝国の滅亡だ」


「帝国の滅亡……!」


 エリーゼが息を呑む。


「なぜ、そんなことを……」


「フフフ……理由など教える必要はない。だが、言っておいてやる。我々は既に帝国の中枢に深く入り込んでいる。軍部、貴族、官僚……至る所に我々の仲間が

いる」


「嘘を……」


「嘘ではない。ルドルフ様に薬を渡したのも、我々だ。そして、次は……」


 男がニヤリと笑う。


「次は、皇帝陛下を……いや、それ以上のことを企んでいる」


「貴様……!」


 エリーゼが剣を握りしめる。


「エリーゼ様、落ち着いてください」


 レイナルドが制止する。


「この男から、もっと情報を引き出す必要があります」


「……わかりました」


 エリーゼが深呼吸をする。


「深淵盟約の拠点はどこだ?」


 レイナルドが尋ねる。


「教えるわけがないだろう」


「ならば、拷問も辞さない」


「フン……やってみろ。だが、我々は拷問にも屈しないように訓練されている」


 男が不敵に笑う。


 その時――


 エリーゼが男の腕を掴んだ。


 そして、ローブの袖をまくり上げる。


 黒い蛇が円を描いている刺青が露わになる。


「この刺青……何か意味があるのですか?」


「……」


 男は答えない。


 エリーゼは刺青をじっと見つめた。


 そして、気づく。


 刺青の蛇の目の部分に、極小の文字が刻まれている。


「レイナルド、これを……」


 レイナルドも刺青を観察する。


「……これは、座標か?」


「座標……?」


「ええ。おそらく、この数字は緯度と経度を表しています」


 レイナルドが分析する。


「この座標が示す場所は……」


 レイナルドが頭の中で地図を思い浮かべる。


「帝都の南東、約三十キロの地点……古い鉱山跡地があります」


「鉱山跡地……」


「ええ。十年前に閉鎖された場所です。今は誰も近づかない」


「そこが……深淵盟約の拠点……?」


「可能性が高いです」


 男の顔色が変わる。


「貴様ら……よくも……」


「図星のようですね、体に情報を刻むとはあまり賢くないようです」


 レイナルドが冷たく言う。


「他に何か情報は?」


「……」


 男は再び黙り込む。


「では、他の者に聞きましょう」


 レイナルドが別の男に近づく。


「待て……!」


 最初の男が叫ぶ。


「何だ?」


「……わかった。話す」


 男が観念する。


「深淵盟約は……三ヶ月前に結成された組織だ。目的は、ベルガリア帝国を内部から崩壊させること」


「誰が結成したんだ?」


「それは……知らない。我々のような末端の構成員は、上層部の顔も知らされていない」


「では、お前たちの直属の上司は?」


「……『影の司令官』と呼ばれている人物だ。その者の命令で、我々は動いている」


「影の司令官……名前は?」


「知らない。顔も見たことがない。命令は全て、文書で届く」


 男が続ける。


「我々は、帝国の要人を暗殺したり、混乱を引き起こしたりするように命じられている」


「ルドルフ様への薬も、その命令か?」


「ああ。ルドルフ様に薬を渡し、反乱を起こさせろと命じられた」


「なぜ、そんなことを……」


 エリーゼが尋ねる。


「帝国を弱体化させるためだ。皇帝と皇子の対立、内乱……そういったものが、我々の目的を達成するのに都合がいい」


「では、最終目的は何なんだ?」


「……帝国を滅ぼした後、新たな国を建国することだ。深淵盟約が支配する、新しい秩序の国を」


「狂っている……」


 エリーゼが呟く。


「狂っているだと? 違う。これは、革命だ」


 男が目を輝かせる。


「旧い秩序を壊し、新しい世界を創る。それが、我々の使命だ」


「革命などと……民を苦しめるだけだ」


「民など、どうでもいい。強者が弱者を支配する。それが、この世界の真理だ」


「貴様……!」


 エリーゼが怒りを露わにする。


「エリーゼ様、もう十分です」


 レイナルドが制止する。


「この者たちを城に連れて行き、皇帝陛下に報告しましょう」


「……はい」


 エリーゼが頷く。


 レイナルドは五人の男たちを縄で繋ぎ、城へと連行した。


 城に到着すると、深夜だというのに、皇帝はすぐに二人を謁見室に呼んだ。


「エリーゼ、レイナルド。報告を聞かせてくれ」


 皇帝が真剣な表情で言う。


 エリーゼは、深淵盟約について、そしてこれまでの調査結果を詳しく報告した。


 皇帝の表情は、報告を聞くにつれて厳しくなっていく。


「……そうか。やはり、ルドルフの背後には黒幕がいたのだな」


 皇帝が深いため息をつく。


「そして、その黒幕は……帝国を滅ぼそうとしている」


「はい。彼らは既に帝国の中枢に入り込んでいるようです」


 エリーゼが答える。


「厄介だな……」


 その時、扉がノックされた。


「失礼します」


 カタリナが入ってくる。


「父上、エリーゼお姉様。深夜にお帰りになったと聞きました」


「カタリナ、ちょうど良かった。お前にも聞いてもらいたいことがある」


 皇帝がカタリナを手招きする。


 エリーゼは再び、深淵盟約について説明した。


「……そんな組織が……」


 カタリナが驚愕する。


「我々は、この組織を壊滅させなければならない」


 皇帝が立ち上がる。


「エリーゼ、レイナルド。二人に勅命を下す」


「はい」


 二人が膝をつく。


「深淵盟約の拠点――南東の鉱山跡地を調査し、可能であれば壊滅させよ」


「承知いたしました」


「ただし、無理はするな。もし危険だと判断したら、すぐに撤退するように」


「はい」


「それと……」


 皇帝が真剣な表情で続ける。


「もし、お前たちだけでは手に負えないと判断したら、ルストニア王国の一ノ瀬殿に助力を求めてもいい」


「父上……」


「一ノ瀬殿は、魔王を討伐した英雄だ。彼の力があれば、必ず勝てる」


「わかりました」


 エリーゼが頷く。


「では、明日の朝、出発せよ」


「はい」


 二人は謁見室を後にした。



 翌朝。



 エリーゼとレイナルドは、城を出発した。


 帝都の南東へ向かう道は、人通りが少ない。


 二人は馬に乗り、森の中の道を進んでいく。


「エリーゼ様、警戒を怠らないでください」


 レイナルドが言う。


「はい」


 エリーゼが頷く。


 数時間後、二人は古い鉱山跡地に到着した。


 そこは、荒れ果てた場所だった。


 古びた建物が点在し、鉱山の入口は木の板で封鎖されている。


「ここが……深淵盟約の拠点……」


 エリーゼが呟く。


「一見すると、誰もいないように見えますが……」


 レイナルドが周囲を観察する。


「草が踏み固められています。最近、人が出入りしている証拠です」


「では、中に入りましょう」


 二人は馬を降り、鉱山の入口に近づいた。


 封鎖されている木の板を外すと、暗い坑道が現れた。


「松明を」


 レイナルドが松明に火を灯す。


 二人は慎重に坑道を進んでいく。


 坑道は深く、曲がりくねっている。


 しばらく進むと、前方から微かな灯りが見えてきた。


「人がいるようです」


「静かに……」


 二人は音を立てずに進む。


 やがて、広い空間に出た。


 そこには、驚くべき光景が広がっていた。


 数十人の黒ローブの男たちが、何かの儀式を行っている。


 中央には、巨大な魔法陣が描かれており、その上に黒い祭壇がある。


「これは……」


 エリーゼが息を呑む。


「何かの召喚儀式のようです」


 レイナルドが小声で言う。


 その時――


 バチン!


 エリーゼの足元で、小石が音を立てた。


「誰だ!?」


 黒ローブの男たちが一斉に振り返る。


「またやってしまった……!」


 エリーゼとレイナルドの姿が露わになる。


「侵入者だ! 捕らえろ!」


 男たちが一斉に襲いかかってくる。


「エリーゼ様、私の後ろに!」


 レイナルドが前に出る。


 しかし、その時――


 ドォン!


 突然、魔法陣が光り輝いた。


「これは……転移魔法!?」


 レイナルドが驚く。


 光がエリーゼを包み込む。


「エリーゼ様!」


 レイナルドが手を伸ばすが、間に合わない。


「レイナルド!」


 エリーゼの声が響く。


 次の瞬間――


 エリーゼの姿が消えた。


「エリーゼ様……!」


 レイナルドの目が、鋭く光る。


「貴様ら……エリーゼ様をどこへやった!」


 レイナルドの声が、怒りに震える。


「フフフ……第一皇女は、我々の本拠地へ転送された」


 黒ローブの男が笑う。


「本拠地だと……!?」


「ああ。ここは囮だ。我々は、お前たちが来ることを予測していた」


「くっ……罠だったのか……!」


 レイナルドが歯噛みする。


「そして、お前も――ここで死ぬのだ!」


 男たちが一斉に襲いかかる。


 数は、五十人以上。


 しかし――


 レイナルドの目には、一切の迷いがなかった。


「……エリーゼ様を……返してもらう」


 レイナルドの声が、低く、そして恐ろしいほど冷たくなる。


 その瞬間――


 周囲の空気が、一変した。


 恐ろしいほどの殺気が、坑道全体を満たす。


 男たちが、一瞬、動きを止める。


「な……何だ、この圧力……!」


「……これが、レイナルドの本気……」


 男たちの顔に、恐怖が浮かぶ。


 レイナルドは、ゆっくりと剣に手をかけた。


 そして――


 次の瞬間。


 レイナルドの姿が消えた。


 いや、消えたのではない。


 動きが、速すぎて見えないのだ。


 シュン、シュン、シュン、シュン――


 剣が閃く。


 一瞬の間に、十回、二十回、三十回――


 無数の斬撃が繰り出される。


 そして――


 カラン、カラン、カラン、カラン……


 五十人以上の男たちの武器が、全て真っ二つに切断され、地面に落ちた。


 男たちは、何が起きたのか理解できないまま、呆然と立ち尽くしている。


「……これが、帝国最強の剣士……」


 一人の男が呟く。


「化け物か……」


 レイナルドは、再び剣を納めた。


 そして、冷たい声で言う。


「貴様ら……武器を失った。投降するなら、今だ」


「くっ……」


 男たちは、レイナルドの圧倒的な強さに、戦意を喪失していた。


 しかし、一人の男が叫ぶ。


「まだだ! 我々には、まだ切り札がある!」


 男が何かを取り出す。


 それは、小さな瓶だった。


「これは……ルドルフ様に渡した洗脳の薬の改良版だ!」


 男が瓶を開け、中身を一気に飲み干す。


「やめろ!」


 レイナルドが叫ぶが、間に合わない。


 男の目が、赤く光る。


「ウオオオオオオ!」


 男が雄叫びを上げる。


 その体が、急速に膨れ上がっていく。


 筋肉が異常に発達し、身長も二メートルを超える。


「薬の力で……強化したのか……」


 レイナルドが眉をひそめる。


「死ねえええええ!」


 男が拳を振り下ろす。


 しかし――


 レイナルドは、僅かに体を動かすだけで、その拳を回避した。


 男の拳は、地面に激突し、石畳を粉砕する。


「力だけが上がっても……技術がなければ、意味がない」


 レイナルドが冷静に言う。


 男が再び襲いかかるが、レイナルドは全ての攻撃を回避し続ける。


 そして――


 男の動きが鈍くなった瞬間。


 レイナルドの剣が、一閃。


 シュン。


 男の体に、無数の斬撃が刻まれる。


 しかし、致命傷は与えていない。


 全て、急所を外した、気絶させるための斬撃だ。


「ぐ……あ……」


 男は膝をつき、そのまま倒れた。


「……終わりだ」


 レイナルドが剣を納める。


 残りの男たちは、完全に戦意を喪失し、その場にへたり込んでいた。


「さあ、答えろ。エリーゼ様は、どこへ転送された?」


 レイナルドが男たちに詰め寄る。


「わ……わからない……本当に……」


 男が震える声で答える。


「我々は……ただ、命令に従っただけだ……転送先は……知らされていない……」


「嘘をつくな!」


 レイナルドの声が、さらに厳しくなる。


「本当です! 我々のような末端は……何も知らされていないんです!」


 男が泣きそうな顔で言う。


「くっ……」


 レイナルドは、男たちから情報を引き出すことを諦めた。


「……わかった。貴様らは、全員拘束する」


 レイナルドは、男たちを全員縛り上げた。


 そして、一人で城へと戻った。


 城に到着すると、レイナルドはすぐに皇帝に報告した。


「何だと……エリーゼが捕まっただと!?」


 皇帝が驚愕する。


「申し訳ございません……私の不覚です……」


 レイナルドが深く頭を下げる。


「レイナルド、お前を責めているわけではない。しかし……エリーゼが……」


 皇帝の声が震える。


「陛下、必ずエリーゼ様を取り戻します」


 レイナルドが顔を上げる。


 その目には、絶対的な決意が宿っている。


「しかし、転送先もわからないのだろう?」


「はい……ですが、必ず見つけ出します」


「レイナルド……」


 その時、カタリナが部屋に入ってきた。


「父上、お姉様が……」


 カタリナの目には、涙が浮かんでいる。


「カタリナ……」


「お姉様を……助けてください……」


「もちろんです。必ず助けます」


 皇帝が力強く言う。


「レイナルド、すぐにルストニア王国に使者を送れ。一ノ瀬殿に、助力を求めるのだ」


「承知しました」


「そして、帝国軍を総動員する。深淵盟約の拠点を、全て洗い出せ」


「はい」


 皇帝が立ち上がる。


「エリーゼは、私の大切な娘だ。何としても、取り戻す」


 皇帝の声には、父としての愛情と、皇帝としての威厳が込められていた。


 一方――


 エリーゼは、見知らぬ場所で目を覚ました。


 石造りの部屋。


 窓はなく、扉には鉄格子がはまっている。


 牢獄だ。


「ここは……」


 エリーゼが立ち上がる。


 体に怪我はないが、武器は全て奪われている。


「目を覚ましましたか、エリーゼ様」


 扉の向こうから、声が聞こえる。


 エリーゼが振り向くと、黒いローブを纏った人物が立っていた。


 しかし、この人物は他の構成員とは明らかに違う。


 ローブの質が高く、立ち振る舞いにも品がある。


「貴様……誰だ」


 エリーゼが警戒する。


「私は……深淵盟約の首領です」


 人物がフードを外す。


 その下から現れたのは、三十代ほどの男性の顔だった。


 整った顔立ちだが、その目には狂気が宿っている。


「首領……」


「はい。お会いできて光栄です、エリーゼ様」


 男が丁寧に礼をする。


「何が目的だ。なぜ、私を捕らえた」


「目的ですか? 簡単です。人質です」


「人質……」


「ええ。貴女は、ベルガリア帝国の第一皇女。貴女を人質にすれば、皇帝陛下も無茶なことはできないでしょう」


「卑怯な……」


「卑怯? 違います。これは、戦略です」


 男が笑う。


「我々は、ベルガリア帝国を滅ぼす。そのために、あらゆる手段を使う」


「なぜ、帝国を滅ぼそうとする……」


「理由ですか? それは……」


 男が目を細める。


「この世界の秩序が、間違っているからです」


「何を……」


「貴族が民を支配し、王族が権力を握る。この不平等な世界を、私は許せない」


「だから、帝国を滅ぼす……?」


「ええ。そして、新しい秩序を創る。平等な世界を」


「平等……だと? 貴様のやっていることは、ただの破壊だ」


「破壊なくして、創造なし。古い秩序を壊さなければ、新しい世界は生まれません」


 男の声には、狂信的な響きがある。


「貴様……正気か……」


「正気ですよ。誰よりも、正気です」


 男が一歩近づく。


「エリーゼ様、貴女にも理解してもらいたい。この世界は、変わらなければならないのです」


「私は……貴様の思想など、認めない」


 エリーゼがきっぱりと言う。


「そうですか……残念です」


 男が肩をすくめる。


「では、貴女にはしばらく、ここで大人しくしていてもらいましょう」


「待て!」


 エリーゼが叫ぶが、男は扉を閉めて去っていった。


 エリーゼは、牢獄の中で一人、取り残された。


「レイナルド……悠真……」


 エリーゼが呟く。


「必ず……助けに来てくれると信じています……」


 エリーゼは、希望を捨てなかった。


 彼女は知っていた。


 レイナルドが、必ず自分を助けに来ることを。


 そして、必要であれば、悠真たちも駆けつけてくれることを。


 エリーゼは、窓のない牢獄の中で、静かに待ち続けた。


 救いの手が、届く時を。


 一方、帝国では――


 レイナルドが、ルストニア王国へ向かう使者を送った。


 使者には、皇帝直筆の書状が託されている。


 書状には、事態の詳細と、一ノ瀬悠真への助力要請が記されていた。


「頼む……一ノ瀬殿……エリーゼ様を……助けてくれ……」


 レイナルドが、心の中で祈る。


 そして、レイナルド自身も、エリーゼを探す準備を始めた。


 帝国軍が総動員され、深淵盟約の拠点を捜索する。


 しかし、敵は巧妙に隠れており、なかなか見つからない。


「エリーゼ様……どこにおられるのですか……」


 レイナルドが、窓の外を見つめる。


 夜空には、星々が輝いている。


 その星の一つが、まるでエリーゼのように、美しく輝いていた。


「必ず……必ず、お助けします……」


 レイナルドが、心に誓う。


 そして、夜が明ける。


 新たな一日が始まる。


 エリーゼを救うための、戦いが始まろうとしていた。


 ルストニア王国からの返答を待ちながら、レイナルドは準備を進める。


 いつでも出撃できるように。


 いつでも、エリーゼを救えるように。


 レイナルドの決意は、揺らがなかった。


 たとえ、どんな困難が待っていようと――


 たとえ、どんな強敵が立ちはだかろうと――


 エリーゼを、必ず救い出す。


 それが、レイナルドの誓いだった。



  帝国の城、謁見室。



 皇帝とレイナルドは、ルストニア王国からの返答を待っていた。


 使者を送ってから、三日が経過していた。


「まだ、返答は来ないのか……」


 皇帝が苛立たしげに呟く。


「陛下、もうすぐ到着するはずです」


 レイナルドが答える。


 その時――


 扉がノックされた。


「失礼します。ルストニア王国からの使者が到着いたしました」


 侍従が報告する。


「通せ!」


 皇帝が命じる。


 扉が開き、一人の騎士が入ってくる。


「ルストニア王国、近衛騎士団よりまかり越しました」


 騎士が膝をつく。


「うむ、返答は?」


「はい。アルフレッド陛下より、親書をお預かりしております」


 騎士が書状を差し出す。


 皇帝がそれを受け取り、開封する。


 書状には、こう記されていた。


『ベルガリア帝国皇帝陛下へ


 エリーゼ様の件、承知いたしました。一ノ瀬悠真殿は現在、重要な任務により不在でございますが、代わりに我が国が誇る最強の魔法使い三人を派遣いたしま

す。


 彼らは「三賢人トライステラ」と呼ばれる、王国最強の魔法使いです。必ずや、お力になれるかと存じます。


 エリーゼ様の無事をお祈り申し上げます。


 ルストニア王国国王 アルフレッド・エルディア=ルストニア』


「三賢人……」


 皇帝が呟く。


「陛下、三賢人は既に城門に到着しております」


 騎士が報告する。


「何!? すぐに通せ!」


「はっ!」


 数分後、三人の人物が謁見室に入ってきた。


 一人目は、長い銀髪を持つ優雅な女性。セラフィナ・グレイス。


 二人目は、屈強な体格の男性。マクシミリアン。


 三人目は、知的な雰囲気を纏う女性。エヴァンジェリン。


「ルストニア王国三賢人、謁見いたします」


 セラフィナが優雅に礼をする。


「よく来てくれた。私はベルガリア帝国皇帝だ」


 皇帝が立ち上がる。


「そして、こちらはレイナルド・フォン・シュトラウス。元帝国騎士団長だ」


「初めまして。お噂はかねがね」


 セラフィナがレイナルドに微笑む。


「こちらこそ。三賢人の名は、私も聞いております」


 レイナルドが礼を返す。


「それで……エリーゼ様の状況を、詳しく聞かせていただけますか?」


 マクシミリアンが尋ねる。


 皇帝とレイナルドは、これまでの経緯を詳しく説明した。


 深淵盟約のこと。


 エリーゼが転送魔法で連れ去られたこと。


 転送先が不明であること。


 三賢人は、真剣な表情で聞いていた。


「なるほど……転送魔法で連れ去られたのですね」


 エヴァンジェリンが考え込む。


「ええ。転送先の座標も、魔力の痕跡も、全て消されていました」


 レイナルドが答える。


「困難な状況ですね……しかし、不可能ではありません」


 エヴァンジェリンが自信を持って言う。


「本当か!?」


 皇帝が身を乗り出す。


「はい。転送魔法には、必ず魔力の残滓が残ります。それを追跡すれば、転送先を特定できる可能性があります」


「しかし、現場では魔力の痕跡は消されていたと……」


「表面的には、そうでしょう。しかし、空間そのものには、微細な歪みが残ります」


 エヴァンジェリンが説明する。


「私の魔法で、その歪みを検出し、解析することができます」


「それは……頼もしい」


 レイナルドが安堵の表情を浮かべる。


「では、すぐに現場へ向かいましょう」


 セラフィナが提案する。


「ああ、頼む」


 皇帝が頷く。


 一行は、すぐに南東の鉱山跡地へ向かった。


 レイナルドの案内で、エリーゼが転送された場所に到着する。


 そこには、巨大な魔法陣が残っていた。


「ここですね」


 エヴァンジェリンが魔法陣を観察する。


「はい。ここで、エリーゼ様が転送されました」


 レイナルドが答える。


「では、解析を始めます。少し時間がかかりますが、お待ちください」


 エヴァンジェリンが魔法陣の中央に立つ。


 そして、両手を広げる。


「《空間解析》」


 エヴァンジェリンの体から、淡い光が放たれる。


 光は魔法陣全体を包み込み、空間を照らし出す。


 すると――


 空気中に、無数の光の糸が浮かび上がった。


「これは……」


 レイナルドが驚く。


「空間の歪みです。転送魔法が使われた時、空間には必ずこのような歪みが生じます」


 エヴァンジェリンが説明する。


「この歪みを辿れば、転送先がわかるのですね」


「その通りです」


 エヴァンジェリンは、光の糸を一本一本、丁寧に解析していく。


 その作業は、まるで複雑な糸を解きほぐすかのようだった。


 数時間後――


「……見つけました」


 エヴァンジェリンが目を開ける。


「本当か!?」


 レイナルドが駆け寄る。


「はい。転送先の座標を特定しました」


 エヴァンジェリンが手を翳すと、空中に地図が浮かび上がる。


 地図には、赤い点が示されている。


「この場所……帝都の北西、約五十キロの地点です」


「北西……あの辺りは、深い森林地帯だったはずだ」


 レイナルドが記憶を辿る。


「ええ。人が滅多に立ち入らない場所です。隠れるには最適でしょう」


「よし、すぐに向かおう」


 レイナルドが立ち上がる。


「待ってください、レイナルド殿」


 マクシミリアンが制止する。


「敵の本拠地に乗り込むのです。万全の準備が必要です」


「しかし、エリーゼ様が……」


「お気持ちはわかります。しかし、焦って失敗すれば、エリーゼ様を救えません」


 セラフィナが優しく言う。


「……わかりました」


 レイナルドが頷く。


「明日の早朝、準備を整えてから出発しましょう」


「了解しました」


 一行は、一旦城に戻った。


 城では、皇帝が待っていた。


「どうだった?」


「陛下、エリーゼ様の居場所が判明しました」


 レイナルドが報告する。


「本当か!」


 皇帝の顔が明るくなる。


「はい。北西の森林地帯です」


「よし、すぐに軍を動員する」


「陛下、お待ちください」


 セラフィナが言う。


「大軍で向かえば、敵に気づかれます。少数精鋭で、奇襲をかける方が賢明かと」


「しかし……」


「私たち三賢人と、レイナルド殿がいれば十分です」


 マクシミリアンが自信を持って言う。


「……わかった。お前たちに任せる」


 皇帝が頷く。


「ただし、もし危険だと判断したら、すぐに撤退するように」


「承知しました」


 その夜、レイナルドたちは作戦会議を開いた。


「敵の本拠地には、おそらく強力な防御が施されているでしょう」


 エヴァンジェリンが言う。


「魔法的な結界や、罠も予想されます」


「私の《ディスペル・フィールド》で、結界は解除できます」


 セラフィナが言う。


「罠については、私が先行して確認します」


 レイナルドが答える。


「戦闘になった場合、私とマクシミリアンが前衛を務めます」


「了解しました」


 マクシミリアンが頷く。


「セラフィナは後方で治療と支援を」


「はい」


「エヴァンジェリンは、敵の魔法を分析し、対策を立ててください」


「承知しました」


 作戦が固まると、レイナルドは自室に戻った。


 ベッドに横になるが、眠れない。


 エリーゼの顔が、頭に浮かぶ。


「エリーゼ様……必ず、お助けします……」


 レイナルドが呟く。


 窓の外を見ると、月が美しく輝いていた。


 その月を見つめながら、レイナルドは決意を新たにした。


 一方――


 エリーゼは、牢獄の中で脱出の機会を窺っていた。


 捕らえられてから、既に数日が経過している。


 一日に一度、食事が運ばれてくるだけで、他に接触する者はいない。


「このままでは……埒が明かない……」


 エリーゼが呟く。


 牢の扉は鉄格子で、鍵がかかっている。


 しかし、エリーゼは諦めていなかった。


 毎日、扉の構造を観察し、脱出の方法を考えていた。


 そして、ついに気づいた。


 扉の蝶番が、古く錆びていることに。


「もしかしたら……」


 エリーゼが扉に近づく。


 蝶番を手で触ると、少し緩んでいる。


「これなら……何とかなるかもしれない」


 エリーゼは、持っていた髪留めの金具を外した。


 そして、それを蝶番の隙間に差し込む。


 少しずつ、少しずつ、蝶番を緩めていく。


 数時間後――


 カチャリ。


 蝶番の一つが、外れた。


「よし……」


 エリーゼが小さくガッツポーズをする。


 次に、もう一つの蝶番に取りかかる。


 慎重に、音を立てないように作業を続ける。


 そして――


 カチャリ。


 二つ目の蝶番も外れた。


「これで……」


 エリーゼが扉を押す。


 扉は、蝶番が外れているため、斜めに傾く。


 その隙間から、エリーゼは外に出ることができた。


「成功……!」


 エリーゼが牢から脱出する。


 廊下を見回すと、誰もいない。


 静かに、音を立てないように進む。


 廊下は長く、複雑に入り組んでいる。


 エリーゼは、慎重に進みながら、武器庫を探した。


 捕らえられた時、武器は全て没収されている。


 武器がなければ、戦うことができない。


 しばらく進むと、扉の一つから金属音が聞こえてきた。


「ここ……?」


 エリーゼが扉に耳を当てる。


 中から、剣や鎧がぶつかり合う音がする。


「武器庫……!」


 エリーゼが扉を開ける。


 中には、様々な武器が保管されていた。


 そして、その中に――


 エリーゼの剣があった。


「私の剣……!」


 エリーゼが剣を手に取る。


 その重みが、心強い。


「これで……戦える」


 エリーゼが剣を腰に差す。


 その時――


 廊下から、足音が聞こえてきた。


「誰かが来る……!」


 エリーゼが武器庫の影に隠れる。


 黒ローブの男が二人、廊下を歩いてくる。


「牢の見回りに行くぞ」


「ああ」


 男たちが牢の方向へ歩いていく。


 エリーゼは、男たちが通り過ぎるのを待った。


 そして、男たちの背後から近づく。


 音を立てずに。


 そして――


 一瞬で、二人の男の首筋を打ち、気絶させた。


「ごめんなさい……」


 エリーゼが呟く。


 男たちを武器庫の中に引きずり込み、扉を閉める。


「さて……ここから、どうやって脱出しよう……」


 エリーゼが考える。


 その時、遠くから警報の音が鳴り響いた。


 キィィィィン! キィィィィン!


「まずい……牢から脱出したのがバレた……!」


 エリーゼが焦る。


 廊下から、大勢の足音が聞こえてくる。


「囲まれる前に……何とかしないと……」


 エリーゼが剣を抜く。


 廊下に飛び出すと、十人以上の黒ローブの男たちが駆けてくる。


「エリーゼだ! 捕らえろ!」


 男たちが叫ぶ。


「させません!」


 エリーゼが剣を構える。


「《紅蓮の剣・爆炎斬》!」


 エリーゼの剣が炎を纏い、一閃。


 ドォン!


 炎の斬撃が廊下を駆け抜け、男たちを吹き飛ばす。


「ぐああああ!」


 男たちが倒れる。


「私は……ベルガリア帝国第一皇女、エリーゼ・フォン・ベルガリア!」


 エリーゼが堂々と宣言する。


「貴様らごときに、捕らえられたままでいるわけがないでしょう!」


 エリーゼが再び剣を振るう。


 次々と、敵を倒していく。


 その剣技は、レイナルドに鍛えられただけあって、洗練されている。


 敵の攻撃を全て受け流し、反撃する。


「くそっ……強すぎる……!」


 男たちが怯む。


「増援を呼べ!」


「はっ!」


 一人の男が走り去る。


「逃がしません!」


 エリーゼが追いかける。


 廊下を走り、階段を駆け上る。


 やがて、大きな扉の前に出た。


「ここは……」


 扉を開けると、そこは広間だった。


 そして、その中央には――


 あの首領がいた。


「エリーゼ様……脱出されましたか」


 首領が冷静に言う。


「貴様……」


 エリーゼが剣を構える。


「さすがは第一皇女。しかし……」


 首領が手を挙げる。


 すると、広間の四方から、黒ローブの男たちが現れた。


 その数、五十人以上。


「包囲されましたね」


「たとえ包囲されようと……私は戦う」


 エリーゼが決意を込めて言う。


「立派です。しかし、無駄ですよ」


 首領が笑う。


 その時――


 広間の天井が、突然爆発した。


 ドォォォォン!


 瓦礫が降り注ぐ。


 そして、その煙の中から――


 四人の人影が飛び降りてきた。


「エリーゼ様!遅くなりました」


 レイナルドの声が響く。


「レイナルド!」


 エリーゼが驚く。


 レイナルド、セラフィナ、マクシミリアン、エヴァンジェリンの四人が、エリーゼの前に降り立った。


「お待たせしました、エリーゼ様」


 レイナルドが微笑む。


「レイナルド……みんな……」


 エリーゼの目に、涙が浮かぶ。


「さあ、エリーゼ様。私たちと共に、ここを脱出しましょう」


 セラフィナが優しく言う。


「はい!」


 エリーゼが頷く。


「貴様ら……よくもここまで……」


 首領が歯噛みする。


「全員、殺せ!」


 黒ローブの男たちが一斉に襲いかかる。


 しかし――


「《メテオストライク》!」


 マクシミリアンが魔法を発動する。


 空中に、巨大な火球が出現する。


 そして――


 ドォォォォォン!


 火球が地面に激突し、大爆発を起こす。


 男たちが吹き飛ばされる。


「ぐああああ!」


「これが……三賢人の力……」


 エリーゼが驚く。


「まだまだ、これからです」


 エヴァンジェリンが言う。


「《サンダーボルト》!」


 エヴァンジェリンが魔法を発動する。


 空から、無数の雷撃が降り注ぐ。


 バリバリバリバリ!


 男たちが次々と倒れていく。


「なんという……」


 首領が顔色を変える。


「私たちを舐めないでください」


 セラフィナが冷たく言う。


「《ホーリーレーザー》!」


 セラフィナが魔法を発動する。


 聖なる光の柱が、敵を貫く。


 ドォン!


 光の柱が通過した場所には、もう誰も立っていない。


「これが……王国最強の魔法使い……三賢人……」


 首領が呟く。


「そして……」


 レイナルドが一歩前に出る。


「私は、帝国最強の剣士。エリーゼ様を守るため、全力で戦わせていただく」


 レイナルドが剣を抜く。


 その瞬間、空気が変わる。


 恐ろしいほどの殺気が、広間を満たす。


「ひっ……」


 男たちが怯む。


「来い」


 レイナルドが静かに言う。


 男たちが一斉に襲いかかるが――


 シュン、シュン、シュン、シュン。


 レイナルドの剣が閃く。


 一瞬で、二十人以上の男の武器が切断される。


 カラン、カラン、カラン……


 武器が地面に落ちる音だけが響く。


「化け物か……」


 男たちが絶望する。


 その時――


 広間の奥から、一人の男が現れた。


 その男は、他の構成員とは明らかに違う。


 体格が大きく、全身に禍々しい魔力を纏っている。


「ほう……ここまで来るとは」


 男が低い声で言う。


「貴様……」


 レイナルドが警戒する。


「私は、深淵盟約の幹部。ガルムと言う」


 男が名乗る。


「幹部……」


「首領様の命により、お前たちを始末する」


 ガルムが両手を広げる。


 その体から、黒い魔力が溢れ出す。


「この魔力……尋常ではありません」


 エヴァンジェリンが警告する。


「私とマクシミリアンで相手をします」


 セラフィナが前に出る。


「レイナルド殿、エリーゼ様を守ってください」


「承知した」


 レイナルドが頷く。


「では……始めようか」


 ガルムが笑う。


「《ダークネス・ウェーブ》!」


 ガルムが闇の波動を放つ。


 黒い波が、セラフィナたちに襲いかかる。


「《ディヴァイン・ウォール》!」


 セラフィナが防御魔法を発動する。


 聖なる光の壁が、闇の波動を防ぐ。


 ドォン!


 衝撃音が響く。


「ほう……防いだか」


 ガルムが感心する。


「《メガサンダー》!」


 マクシミリアンが反撃する。


 巨大な雷撃が、ガルムに襲いかかる。


 しかし――


 ガルムは、それを片手で受け止めた。


「な……に……!?」


 マクシミリアンが驚く。


「この程度か?」


 ガルムが雷撃を握りつぶす。


「くっ……」


「マクシミリアン、油断しないで!」


 セラフィナが叫ぶ。


「わかっている!」


 マクシミリアンが再び魔法を放つ。


「《ファイナルフレア》!」


 最強の炎魔法が、ガルムを包み込む。


 ドォォォォォン!


 広間全体が、炎に包まれる。


「やった……か?」


 マクシミリアンが呟く。


 しかし――


 炎の中から、ガルムが無傷で歩いてくる。


「まさか……」


「強力な魔法だ。しかし、私には効かない」


 ガルムが不敵に笑う。


「私の体は、あらゆる魔法に耐性を持っている」


「そんな……」


 セラフィナが驚愕する。


「では……これならどうだ!」


 エヴァンジェリンが前に出る。


「《古代魔法解析》!」


 エヴァンジェリンが魔法を発動する。


 ガルムの体を、光が包む。


「何をした……」


 ガルムが訝しむ。


「貴方の魔法耐性……人工的に付与されたものですね」


 エヴァンジェリンが分析結果を述べる。


「おそらく、特殊な薬によるもの」


「……よく見抜いたな」


 ガルムが認める。


「ならば、その耐性を無効化すればいい」


 エヴァンジェリンが微笑む。


「《能力解除》!」


 エヴァンジェリンの魔法が、ガルムを包む。


 すると――


 ガルムの体から、黒い霧が抜けていく。


「な……に……」


 ガルムの顔色が変わる。


「貴様……何をした……」


「貴方の魔法耐性を、解除しました」


 エヴァンジェリンが冷静に答える。


「くそっ……!」


 ガルムが焦る。


「では、もう一度」


 マクシミリアンが魔法を構える。


「《メテオストライク》!」


 巨大な火球が、ガルムに襲いかかる。


 今度は、耐性がない。


 ドォォォォォン!


 ガルムが爆発に巻き込まれる。


「ぐああああああ!」


 ガルムが倒れる。


「やった……」


 マクシミリアンが安堵する。


「いえ、まだです」


 エヴァンジェリンが警告する。


 ガルムが、再び立ち上がる。


 しかし、その体はボロボロだ。


「くそ……くそ……」


 ガルムが呻く。


「もう、勝負は決まりました」


 セラフィナが言う。


「大人しく投降なさい」


「……ふざけるな……」


 ガルムが最後の力を振り絞る。


「せめて……お前たちを道連れに……」


 ガルムが自爆魔法を発動しようとする。


 しかし――


 シュン。


 一閃。


 レイナルドの剣が、ガルムの腕を切り落とす。


「ぐあああ!」


 ガルムが絶叫する。


「自爆は、させない」


 レイナルドが冷たく言う。


 ガルムは、力尽きてその場に倒れた。


「……終わったか」


 レイナルドが剣を納める。


「ええ。お疲れ様でした、レイナルド殿」


 セラフィナが微笑む。


「いえ、貴女方の力があってこそです」


 レイナルドが礼を言う。


 その時――


 広間の奥から、首領が逃げようとしているのが見えた。


「待て!」


 エリーゼが叫ぶ。


 エリーゼが首領を追いかける。


 レイナルドたちも続く。


 首領は、裏口から外に逃げようとしていた。


 しかし――


 エリーゼの剣が、首領の前を遮る。


「逃がしません」


 エリーゼが言う。


「くっ……」


 首領が剣を抜く。


「貴女一人なら、まだ勝機はある」


 首領がエリーゼに斬りかかる。


 しかし、エリーゼはその剣を軽々と受け流す。


「貴方の剣技……見切りました」


 エリーゼが反撃する。


 その剣は、首領の剣を弾き飛ばす。


 カキィン!


 首領の剣が、宙を舞う。


「な……」


 そして、エリーゼの剣が、首領の喉元に突きつけられた。


「終わりです」


 エリーゼが宣言する。


「くそ……」


 首領が諦めたように膝をつく。


「大人しく、拘束されなさい」


 レイナルドが首領に手錠をかける。


「……これで、深淵盟約は終わりだ」


 レイナルドが言う。


「ええ。長い戦いでした」


 セラフィナが微笑む。


「エリーゼ様、お疲れ様でした」


 マクシミリアンが言う。


「ありがとうございます、皆さん」


 エリーゼが深々と頭を下げる。


「では、城に戻りましょう」


「はい」


 一行は、首領とガルムを拘束し、城へと向かった。


 城に到着すると、皇帝が待っていた。


「エリーゼ!」


 皇帝が駆け寄る。


「父上……」


 エリーゼが抱きつく。


「無事で……本当に良かった……」


 皇帝の目には、涙が浮かんでいる。


「ご心配をおかけしました」


「いや……お前が無事なら、それでいい」


 皇帝がエリーゼの頭を撫でる。


 そして、レイナルドたちに向き直る。


「レイナルド、そして三賢人の皆様。本当にありがとう」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 レイナルドが答える。


「そして……これが、深淵盟約の首領です」


 レイナルドが首領を引き出す。


「貴様が……首領か」


 皇帝が首領を睨む。


「……」


 首領は何も答えない。


「牢に入れろ。厳重に監視するように」


「はっ!」


 兵士たちが首領を連行する。


「ガルムも同様に」


「承知しました」


 ガルムも連行される。


「さて……」


 皇帝が深く息を吐く。


「これで、深淵盟約の脅威は去った。しかし、組織の残党がまだいるかもしれない」


「はい。徹底的に調査する必要があります」


 レイナルドが答える。


「それは、私に任せてください」


 エヴァンジェリンが言う。


「私の魔法で、帝国内の不審な魔力を全て検出します」


「頼もしい。よろしく頼む」


 皇帝が頭を下げる。


「それでは、今夜は皆で祝宴を開こう」


「祝宴……ですか?」


 エリーゼが驚く。


「ああ。エリーゼが無事に戻ってきたこと、そして深淵盟約を壊滅させたこと。これは祝うべきことだ」


「父上……」


「さあ、みんな、準備をしよう」


 その夜、城の大広間で盛大な祝宴が開かれた。


 エリーゼ、レイナルド、三賢人、そして皇帝とカタリナが一堂に会する。


「では、乾杯!」


 皇帝がグラスを掲げる。


「乾杯!」


 全員がグラスを合わせる。


 祝宴は、和やかな雰囲気で進む。


 料理は豪華で、音楽も素晴らしい。


「エリーゼお姉様、本当に無事で良かった……」


 カタリナがエリーゼの手を握る。


「カタリナ……心配をかけてごめんなさい」


「いえ……お姉様が無事なら、それでいいんです」


 カタリナの目には、涙が浮かんでいる。


「ありがとう、カタリナ」


 エリーゼがカタリナを抱きしめる。


 二人の姉妹の絆が、深まった瞬間だった。


 祝宴が終わると、エリーゼたちはそれぞれ客室に案内された。


 翌日から、エリーゼたちは数日間、帝都で休むことにした。


 戦いの疲れを癒すために。


 


 エリーゼとカタリナは、二人で庭園を散歩した。


「お姉様、最近のこと、色々と教えてください」


 カタリナが尋ねる。


「ええ、もちろん」


 エリーゼが微笑む。


 二人は、ベンチに座り、様々なことを話した。


 政治のこと。


 民のこと。


 そして、未来のこと。


「カタリナ、貴女は立派な皇帝になれるわ」


 エリーゼが優しく言う。


「本当に……そう思いますか?」


「ええ。貴女は優しく、聡明で、そして何より……人の心を理解できる」


「お姉様……」


「私も、できる限りサポートするわ」


「ありがとうございます、お姉様」


 カタリナが嬉しそうに微笑む。



 二日目。



 エリーゼは、レイナルドと共に剣の稽古をした。


 城の訓練場で、二人は剣を交える。


 カキン、カキン、カキン。


 剣と剣がぶつかり合う音が響く。


「エリーゼ様、以前より強くなられましたね」


 レイナルドが言う。


「それは、貴方のおかげです、レイナルド」


 エリーゼが答える。


「いえ、エリーゼ様ご自身の努力の賜物です」


 レイナルドが微笑む。


 稽古が終わると、二人はベンチに座った。


「レイナルド、貴方がいてくれて、本当に良かった」


 エリーゼが言う。


「貴方が助けに来てくれると、信じていました」


「当然です。私は、エリーゼ様の騎士ですから」


 レイナルドが力強く答える。


「これからも、よろしくお願いします」


「はい。命に代えても、お守りいたします」


 レイナルドが誓う。



 三日目。



 エリーゼ、カタリナ、そして三賢人は、帝都の街を視察した。


 街は、深淵盟約の脅威が去り、活気を取り戻しつつあった。


 商店が開き、人々が笑顔で行き交っている。


「街が、元気になってきましたね」


 カタリナが嬉しそうに言う。


「ええ。これも、みんなの努力のおかげです」


 エリーゼが答える。


 街の人々は、カタリナとエリーゼを見ると、深々と頭を下げる。


「エリーゼ様、カタリナ様、ありがとうございます!」


「帝国を守ってくださって、感謝いたします!」


 人々の声が、二人を包む。


「私たちこそ、皆さんに感謝しています」


 エリーゼが微笑む。


「これからも、帝国のために尽くします」


 カタリナが宣言する。


 人々から、歓声が上がる。


「カタリナ様万歳!」


「エリーゼ様万歳!」


 エリーゼとカタリナは、手を振って応える。


 その光景を見て、セラフィナが微笑む。


「素晴らしい姉妹ですね」


「ええ。帝国の未来は、明るいでしょう」


 マクシミリアンが頷く。



 四日目。



 エリーゼは、カタリナと共に、父である皇帝と食事をした。


「カタリナ、エリーゼ。二人とも、本当に立派になった」


 皇帝が感慨深げに言う。


「父上のおかげです」


 エリーゼが答える。


「いや、お前たち自身の努力だ」


 皇帝が微笑む。


「カタリナ、お前には帝国の未来を託す。しかし、焦る必要はない。ゆっくりと、学んでいけばいい」


「はい、父上」


 カタリナが頷く。


「そして、エリーゼ。お前は騎士として生きることを選んだ。その選択を、私は誇りに思う」


「ありがとうございます、父上」


 エリーゼが涙ぐむ。


「お前たちは、帝国の宝だ。これからも、共に帝国を支えていこう」


「はい!」


 二人が声を揃えて答える。


 温かい時間が流れる。


 家族の絆が、深まった瞬間だった。


 

 五日目。



 エリーゼとレイナルド、そして三賢人は、帝国を発つ準備を始めた。


「もう、帰られるのですか……」


 カタリナが寂しそうに言う。


「ええ。ルストニア王国で、私を待っている人たちがいますから」


 エリーゼが優しく答える。


「そうですか……」


「でも、また必ず会いに来るわ」


「本当ですか!?」


「ええ。約束する」


 エリーゼがカタリナの手を握る。


「お姉様……」


 カタリナが涙ぐむ。


「カタリナ、頑張ってね」


「はい……お姉様も、お元気で」


 二人は抱き合う。


 皇帝も、見送りに来ていた。


「エリーゼ、レイナルド、三賢人の皆様。本当にありがとう」


 皇帝が深々と頭を下げる。


「いえ、当然のことをしたまでです」


 エリーゼが答える。


「また、いつでも帝国にいらしてください」


「はい。ありがとうございます、陛下」


 セラフィナが微笑む。


「では、行きましょう」


 レイナルドが言う。


 一行は、帝国の城を後にした。


 帝都の門を出ると、エリーゼは振り返った。


 城が、遠くに見える。


「さようなら、帝国……」


 エリーゼが小さく呟く。


「また、必ず戻ってきます」


 エリーゼが決意する。


 一行は、ルストニア王国への道を進む。


 数日後、王都に到着した。


 城の門では、悠真たちが待っていた。


「エリーゼ!」


 悠真が駆け寄る。


「悠真!」


 エリーゼが微笑む。


「無事で良かった」


「はい。レイナルドと三賢人の皆様のおかげです」


 エリーゼが感謝の言葉を述べる。


「セラフィナ、マクシミリアン、エヴァンジェリン。ありがとう、助かった」


 悠真が三賢人に礼を言う。


「いえ、当然のことをしたまでです」


 セラフィナが微笑む。


「それにしても、レイナルド殿の強さには驚きました」


 マクシミリアンが言う。


「あの剣技……人の領域を超えています」


 エヴァンジェリンが感心する。


「いえ、貴女方の魔法の方が、よほど凄まじいものでした」


 レイナルドが謙遜する。


「さあ、みんな、屋敷に戻ろう」


 悠真が言う。


 一行は、悠真たちの屋敷へ向かった。


 屋敷では、リナリア、エリア、リリィ、桜が待っていた。


「エリーゼさん、お帰りなさい!」


 リナリアが笑顔で迎える。


「ただいま、リナリア」


 エリーゼが微笑む。


「レイナルドさんも、お疲れ様でした」


 エリアが言う。


「いえ、皆様のご心配をおかけしました」


 レイナルドが頭を下げる。


「お兄ちゃん、エリーゼお姉ちゃんが無事で良かったね」


 リリィが嬉しそうに言う。


「ああ、本当に良かった」


 悠真が微笑む。


 その夜、屋敷では歓迎の宴が開かれた。


 シルヴィアが腕を振るった料理が並び、みんなで楽しく食事をする。


「それにしても、深淵盟約……厄介な組織でしたね」


 リナリアが言う。


「ええ。しかし、首領を捕らえたことで、組織は壊滅しました」


 エリーゼが答える。


「帝国も、これで平和になるでしょう」


 レイナルドが言う。


「良かった……」


 桜が安堵の表情を浮かべる。


 宴は、和やかな雰囲気で進む。


 みんなの笑顔が、部屋を明るく照らす。


 エリーゼは、この温かい雰囲気に包まれながら、思った。


「ここが……私の帰る場所……」


 エリーゼが心の中で呟く。


「悠真、みんな……これからも、よろしくお願いします」


 エリーゼが微笑む。


「もちろんだ。俺たちは、仲間だからな」


 悠真が答える。


「仲間……」


 エリーゼが嬉しそうに呟く。


 そして、夜が更けていく。


 みんなで語り合い、笑い合う。


 この平和な時間が、いつまでも続けばいい。


 エリーゼは、そう願った。


 そして、物語は続いていく。


 新たな冒険が、彼らを待っている。


 しかし、今は――


 この平和な日常を、大切に過ごす。


 仲間たちと共に。


 それが、何よりも幸せなことだから。


 夜空には、満天の星が輝いている。


 その星の一つ一つが、まるで未来への希望のように――


 静かに、そして優しく、彼らを見守っていた。


 エリーゼは、窓の外を見つめる。


 星空の向こうには、帝国がある。


 父と妹が待っている。


「いつか、また帰ります……」


 エリーゼが心の中で誓う。


「でも、今は……ここで、みんなと共に」


 エリーゼが振り返ると、悠真たちが楽しそうに話している。


 その光景を見て、エリーゼは微笑んだ。


「ここが……私の居場所」


 エリーゼが確信する。


 そして、エリーゼは仲間たちの輪に加わった。


 みんなで笑い、語り合う。


 この温かい時間が、エリーゼにとって何よりも大切なものだった。


 こうして、深淵盟約との戦いは終わった。


 エリーゼは無事に救出され、帝国にも平和が戻った。


 そして、新たな絆が生まれた。


 エリーゼとカタリナの姉妹の絆。


 レイナルドと三賢人の友情。


 そして、悠真たちとの仲間の絆。


 これらの絆が、これから先の物語を支えていく。


 どんな困難が待っていようと――


 どんな試練が訪れようと――


 彼らは、共に乗り越えていく。


お姉様が帰ってきた時、私は本当に嬉しくて……涙が止まりませんでした。


深淵盟約という恐ろしい組織が帝国を狙っていたなんて。お姉様が捕らわれた時は、心臓が止まりそうなほど怖かったです。でも、レイナルド様と三賢人の皆様が助けてくださって……お姉様は、本当に素晴ら

しい仲間に恵まれているのですね。


帝都で過ごした数日間は、私の宝物です。お姉様と二人で庭園を歩いて、たくさん話をして。「立派な皇帝になれる」と言ってくださった時、胸が熱くなりました。


父上も、お姉様も、私を信じてくれています。だから……私も頑張らなくては。

お姉様がルストニア王国へ帰る時は寂しかったけれど、「また必ず会いに来る」と約束してくれました。

その言葉を信じて、私は帝国の未来のために、全力を尽くします。


お姉様、レイナルド様、三賢人の皆様。そして、一ノ瀬様たち。本当にありがとうございました。


カタリナ

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