第36話 永遠の箱庭 後編 「永遠の箱庭で咲く笑顔」
町に戻った俺たちは、宿に荷物を置いてから、夕食をとった。
だが、食事中も会話は少なく、みんな沈んだ表情をしている。
セシリアの日記と手紙を読んだことで、エミリアの悲しい過去を知ってしまったからだ。
「……旦那様」
アイが心配そうに俺を見る。
「ああ、大丈夫だ。ただ、エミリアにどう伝えればいいか……考えてるんだ」
俺が答えると、アイは優しく頷いた。
「エミリアさん、きっと悲しむよね……」
桜が小声で呟く。
「……そうだな」
リナリアが頷く。
「でも、知る権利はある。母親が自分のために何をしたのか……それを知るべきだと、わたくしは思います」
「リナリアの言う通りだ」
俺が頷く。
「エミリアには、真実を伝える。それが、俺たちにできることだ」
「はい」
全員が頷く。
食事を終えると、俺たちは部屋に戻った。
「それじゃあ、夜になったら蝋人形館に行こう」
俺が言うと、全員が頷いた。
日が沈み、町に夜の静けさが訪れた。
俺たちは宿を出て、蝋人形館へと向かう。
月明かりに照らされた道を歩きながら、俺は懐に入れたセシリアの手紙を確認する。
エミリアに渡すべき、最後の手紙。
母から娘への、愛の証。
「旦那様、大丈夫ですか?」
アイが俺の手を握る。
「ああ、大丈夫だ」
俺が頷くと、アイは微笑んだ。
森の中を進むと、やがて蝋人形館が見えてくる。
月明かりに照らされた館は、昼間以上に不気味な雰囲気を放っている。
「……相変わらず、不気味な館ですね」
エリアが呟く。
「ああ。でも、今日はエミリアに会いに来たんだ。気を引き締めていこう」
俺が言うと、全員が頷いた。
館の扉を開ける。
ギィィィ……
扉が軋む音が、静寂の中に響く。
中に入ると、広間には蝋人形たちが並んでいる。
昼間と同じ光景だが、夜の暗闇の中では、より一層不気味に見える。
「エミリア!」
桜が大きな声で呼びかける。
しばらくすると、奥の部屋から足音が聞こえてきた。
「……桜ちゃん?」
エミリアが姿を現す。
白いドレスを着た、美しい少女。
だが、その体は蝋でできており、夜にしか動けない。
「エミリア!」
桜が駆け寄り、エミリアに抱きつく。
「桜ちゃん……どうしたの? また来てくれたの?」
エミリアが優しく微笑む。
「うん。悠真さんたちが、エミリアに伝えたいことがあるって」
「伝えたいこと……?」
エミリアが俺を見る。
「ああ。エミリア、少し話がある」
俺が前に出る。
「……はい」
エミリアが頷く。
俺たちは、館の中の広間に座った。
エミリアが俺たちの前に座る。
「それで、お話って……?」
エミリアが尋ねる。
俺は深呼吸をしてから、懐から手紙を取り出した。
「エミリア、これを……」
俺が手紙を差し出す。
「これは……?」
エミリアが手紙を受け取る。
「君の母親、セシリア・ローゼンバーグからの手紙だ」
「……!」
エミリアの目が見開かれる。
「お母様……からの……手紙……?」
エミリアの声が震える。
「ああ。クリスタルレイクの湖底にある古代遺跡で見つけた」
「湖底……?」
「ああ。そこに、セシリアの研究室があった。そして……」
俺が言葉を詰まらせる。
「……そして?」
エミリアが俺を見る。
「そこに、セシリアの遺体があった」
「……!」
エミリアが息を飲む。
「お母様が……死んで……?」
「ああ。おそらく、数十年前に……」
俺が頷く。
エミリアは、しばらく言葉を失っていた。
そして、手紙をゆっくりと開く。
月明かりに照らされた手紙を、エミリアは静かに読み始めた。
手紙には、セシリアの愛が綴られている。
娘を愛し、娘を生き返らせようとして、失敗したこと。
そして、娘に永遠の命を与えられなかったことへの謝罪。
最後に、娘の幸せを願う言葉。
エミリアは、手紙を読み終えると、静かに手紙を胸に抱いた。
「……お母様……」
エミリアが呟く。
だが、その目から涙は流れない。
人形の体では、涙を流すことができないのだ。
「エミリア……」
桜が心配そうにエミリアを見る。
「……ありがとう、悠真さん」
エミリアが俺を見る。
「お母様の手紙を、届けてくれて……ありがとう」
「いや、これは俺が当然やるべきことだ」
俺が頷く。
「お母様は……わたしのために、こんなにも……」
エミリアが手紙を見つめる。
「でも、わたしは……涙を流すこともできない……この体では……」
エミリアの声が震える。
人形の体では、どんなに悲しくても、涙を流すことができない。
それが、エミリアにとって何よりも辛いことなのだろう。
「エミリア……」
桜がエミリアの手を握る。
「大丈夫。わたしが、エミリアの涙の代わりに泣いてあげる」
「桜ちゃん……」
エミリアが桜を見る。
桜の目から、涙が溢れる。
「エミリア、悲しいよね……お母さんが、エミリアのためにこんなに頑張ったのに……」
桜が泣きながら言う。
「うん……悲しい……でも、同時に嬉しい……」
エミリアが微笑む。
「お母様が、わたしのことを愛してくれていたって……それがわかって……嬉しい」
「エミリア……」
桜がエミリアに抱きつく。
二人は、しばらく抱き合っていた。
俺たちは、その光景を静かに見守る。
やがて、エミリアが顔を上げた。
「悠真さん……一つ、お願いがあるんです」
「何だ?」
「手紙の中に、『永遠の箱庭』という言葉がありました」
「永遠の箱庭……?」
俺が手紙を思い出す。
確かに、セシリアの手紙には『あなたと庭園に行けなくてごめんなさい』という一文があった。
「はい。お母様は、『あなたと庭園に行けなくてごめんなさい』と書いていました。それが何なのか……調べてもらえませんか?」
「箱庭……」
俺が呟く。
「わかった。調べてみよう」
「ありがとうございます」
エミリアが深くお辞儀をする。
「いや、気にしないでくれ。これも、セシリアとエミリアのためだ」
俺が頷く。
「それじゃあ、明日から調査を始める。エミリア、何か手がかりはあるか?」
「……ごめんなさい、わたしもよくわからないんです」
エミリアが首を振る。
「お母様が『私たちの永遠の箱庭』という言葉を使っていたのは覚えているんですが……記憶が曖昧で……」
「そうか……」
俺が考え込む。
「旦那様、図書館で調べるのはいかがですか?」
アイが提案する。
「ああ、そうだな。明日、王城の図書館に行って調べてみよう」
「はい」
アイが頷く。
「エミリア、俺たちは明日から調べる。何かわかったら、また報告に来る」
「ありがとうございます……」
エミリアが微笑む。
俺たちは、エミリアと別れて館を出た。
月明かりに照らされた道を歩きながら、俺は考える。
永遠の箱庭……それは一体何なのか。
翌朝、俺たちは王都へと戻った。
《空間転移》を使えば一瞬だ。
「それじゃあ、早速図書館に行こう」
俺が言うと、全員が頷いた。
王城の図書館は、膨大な蔵書を誇る場所だ。
古代の文献から、最新の魔法書まで、あらゆる本が揃っている。
「いらっしゃいませ、悠真様」
図書館の司書が俺たちを迎える。
「ああ、今日は『永遠の箱庭』について調べたいんだが」
「永遠の箱庭……ですか?」
司書が首を傾げる。
「ええ、聞いたことはありますか?」
「少々お待ちください」
司書が書棚の奥に消える。
しばらくすると、分厚い本を抱えて戻ってきた。
「こちらに、『永遠の箱庭』に関する記述があるかもしれません」
「ありがとう」
俺が本を受け取る。
本のタイトルは『古代魔法大全』。
ページをめくると、様々な魔法に関する記述が並んでいる。
「旦那様、わたしが解析します」
アイが本を覗き込む。
『解析中……』
アイの目が光る。
『見つけました。641ページに『永遠の箱庭』に関する記述があります』
「641ページ……」
俺がページをめくる。
そこには、『永遠の箱庭』についての記述があった。
「『永遠の箱庭とは、古代において大切な人と過ごす場所を指す言葉である。多くの場合、個人の思い出の場所や、心の拠り所となる場所を意味する』……」
俺が声に出して読む。
「大切な人と過ごす場所……」
リナリアが呟く。
「つまり、人それぞれ違う場所ってことか」
俺が頷く。
「そうですね。セシリア様にとっての『永遠の箱庭』は、過去にエミリア様と過ごした特別な場所なのでしょう」
エリアが言う。
「でも、それがどこなのか……」
俺が考え込む。
「もう一度、エミリアに聞いてみるしかないですね」
リリィが言う。
「ああ、そうだな」
俺が頷く。
その時、桜が何かを思い出したように言った。
「あ、そういえば……エミリアさん、『記憶が曖昧』って言ってましたよね」
「ああ、そうだな」
「もしかしたら、蝋人形館に何か手がかりがあるかもしれません」
桜が続ける。
「手がかり……?」
「はい。お母さんの研究室とか、エミリアさんの部屋とか……」
「そうか! 確かに、あの館を詳しく調べてないな」
俺が頷く。
「それじゃあ、もう一度蝋人形館に行こう」
「はい!」
全員が頷く。
俺が《空間転移》を発動し、俺たちは再びクリスタルレイクの町へと向かった。
町に到着した俺たちは、すぐに蝋人形館へと向かった。
昼間の館は、夜ほど不気味ではないが、やはり静寂が支配している。
「エミリアは、夜にしか動けないから……今は静かだな」
俺が呟く。
「それじゃあ、館を捜索しましょう」
リナリアが言う。
「ああ。手分けして探そう」
俺が頷く。
俺たちは、館の中を探索し始めた。
広間、廊下、客室……様々な部屋を調べていく。
だが、特に目立ったものは見つからない。
「旦那様、こちらです!」
アイの声が聞こえる。
俺が駆けつけると、アイは二階の一室の前に立っていた。
「どうした?」
「この部屋……リナリアさんたちが閉じ込められていたという部屋です」
「ああ、そうか」
俺が扉を開ける。
中は、人形たちが並んでいた部屋だ。
だが、今は人形たちは動いていない。
「この部屋に、何かあるのか?」
「わかりません。でも、この部屋だけ……何か違う雰囲気を感じます」
アイが言う。
俺は部屋の中を見回す。
壁、床、天井……特に変わったところはない。
だが、壁いっぱいに少女の絵が飾られているが、その中の一枚の絵が気になった。
「これは……」
俺が絵に近づく。
絵には、美しい風景が描かれていた。
遠くに山が見え、その麓には小さな家がある。
そして、家の周りには綺麗な池と、木々に囲まれた庭が広がっている。
庭の中央には、一人の少女が立っている。
金色の髪、青い瞳……エミリアだ。
「これは……エミリアの絵か?」
俺が呟く。
「旦那様、他のみんなも呼びましょう」
アイが提案する。
「ああ、そうだな」
俺がみんなを呼ぶ。
しばらくすると、全員が部屋に集まった。
「悠真さん、どうしたんですか?」
桜が尋ねる。
「この絵を見てくれ」
俺が絵を指差す。
みんなが絵を見る。
「これは……エミリアさんの絵ですね」
リリィが言う。
「ああ。そして、この風景……もしかしたら、これが『永遠の箱庭』じゃないか?」
俺が言う。
「確かに……大切な人と過ごす場所……エミリアとセシリアが一緒に過ごした場所かもしれません」
エリアが頷く。
「でも、この場所……どこにあるんだろう?」
桜が絵を見つめる。
「この山……どこかで見たことあるような……」
シルヴィアが呟く。
「シルヴィア、見たことあるのか?」
俺がシルヴィアを見る。
「はい……以前、聖龍の姿で飛んでいた時に、偶然見たような気がします」
「どこだ?」
「確か……ベルガリア帝国の南東にある山だったと思います」
「ベルガリア帝国……!」
俺が驚く。
「それじゃあ、今夜、エミリアにこの絵を見せよう。もしかしたら、記憶が戻るかもしれない」
俺が言うと、全員が頷いた。
夜になり、俺たちは再び蝋人形館を訪れた。
エミリアが俺たちを迎える。
「悠真さん、何かわかりましたか?」
「ああ。エミリア、この絵を見てくれ」
俺が絵を持ってくる。
俺はエミリアを、絵のある部屋へと案内した。
「この絵……」
エミリアが絵を見る。
その瞬間、エミリアの目が見開かれた。
「……!」
「エミリア?」
桜が心配そうに尋ねる。
「この場所……知ってる……」
エミリアが呟く。
「知ってるのか!?」
俺が驚く。
「はい……お母様と一緒に、よく行った場所……」
エミリアが絵を見つめる。
「わたしが小さい頃……お母様と二人で、この庭で遊んだ……」
エミリアの声が震える。
「ここが……『永遠の箱庭』……私たちの大切な場所……」
「そうか……」
俺が頷く。
「エミリア、この場所に行きたいか?」
「……行きたいです」
エミリアが頷く。
「でも……わたしは、この体では……この場所から動けません」
エミリアが悲しそうに言う。
「そんな……」
桜が悔しそうに拳を握る。
「エミリアを助けてあげたい……でも、わたしには何もできない……」
桜が涙を流す。
その時だった。
桜の体が、淡い光に包まれた。
「……!」
全員が驚く。
「桜ちゃん……?」
エミリアが桜を見る。
桜の体から、眩い光が溢れ出す。
最初は微かな光だったが、次第に強くなっていく。
まるで、桜の内側から何かが目覚めようとしているかのように。
「これは……!」
アイが驚愕する。
『《創造の神》スキル……覚醒!?』
「創造の神……?」
俺が驚く。
桜の周りに、無数の光の粒子が舞い始める。
それは、まるで星屑のように美しく輝いている。
金色、銀色、青色、緑色……様々な色の光の粒子が、桜を中心に渦を巻く。
「わたしは……エミリアを助けたい……」
桜が呟く。
その声は、普段の桜とは違う、どこか神聖な響きを持っていた。
「エミリアに……本当の体を……本当の人生を……」
桜の目が、金色に輝く。
その瞳には、強い意志が宿っている。
「わたしは……エミリアが笑顔で生きてほしい……涙を流せる体がほしい……」
桜の想いが、言葉となって溢れ出す。
その想いに呼応するように、光の粒子がさらに増えていく。
「旦那様……これは……」
アイが俺を見る。
「完全に覚醒しています……私が持っている創造のちからよりさらに上位の力です。このスキルに創造できないものはありません」
アイが説明してくれる。
「この力……創造に限って言えば、神の領域です……」
アイの声が震える。
俺も、その光景に息を飲む。
桜の体から放たれる光は、神々しいほどに美しい。
そして、その光には、温かさがあった。
まるで、母親が子供を抱きしめるような、優しい温もり。
「エミリアに……本当の体を……」
桜が手を前に伸ばす。
その手のひらから、さらに強い光が放たれる。
光の粒子が、桜の手の前に集まり始める。
最初は小さな光の球だったが、次第に大きくなっていく。
そして、その光の中から、人の形が現れ始めた。
頭、胴体、手、足……
一つ一つのパーツが、光の粒子から形作られていく。
それは、まるで神が人間を創造する瞬間を見ているかのようだった。
「すごい……」
リナリアが呟く。
「これが……《創造の神》の力……」
エリアも、その光景に見入っている。
桜の額には、汗が浮かんでいる。
だが、その表情は真剣そのものだ。
「エミリア……あなたに……幸せになってほしい……」
桜が祈るように呟く。
その言葉に、光の粒子がさらに激しく舞う。
そして、光の中の人の形が、より鮮明になっていく。
金色の髪、青い瞳、美しい顔立ち……
それは、間違いなくエミリアの姿だった。
「これは……」
俺が息を飲む。
光の中から現れたのは、一人の少女だった。
金色の髪、青い瞳、美しい顔立ち。
エミリアと全く同じ姿だ。
だが、その体は蝋ではなく、本物の人間の体だった。
「……肉体……」
エリアが呟く。
「桜が……エミリアの肉体を創造した……?」
「信じられません……」
アイが驚愕する。
「肉体を創造するなんて……」
「桜ちゃん……」
エミリアが桜を見る。
光が収まり、桜の前には、エミリアの肉体が横たわっていた。
だが、その体には魂が宿っていない。
ただの空っぽの器だ。
「はぁ……はぁ……」
桜が膝をつく。
「桜!」
俺が駆け寄る。
「大丈夫……です……」
桜が微笑む。
「エミリアの……体……作りました……」
「桜ちゃん……ありがとう……」
エミリアが桜に駆け寄る。
「でも……どうやって、この体に魂を移すの……?」
エミリアが尋ねる。
「それは……」
桜が考える。
「わたしが手伝います」
アイが前に出る。
「桜さんが創造した肉体に、エミリアさんの魂を転送する魔法を使います」
「そんなことができるのか?」
俺が驚く。
「はい。創造で先ほどの奇跡を行うことは今の私にはできませんが、私も万能ですから♪」
アイが頷く。
「それじゃあ……わたし、本当の体を……?」
エミリアが希望に満ちた目でアイを見る。
「はい。ただし、一つ条件があります」
アイが真剣な表情で言う。
「この肉体に魂を移すと、エミリアさんは人形の体に戻ることはできません」
「……!」
エミリアが息を飲む。
「つまり、人間として生きることになります。寿命もあります。病気にもかかります。人形の時のような不死性は失われます」
「……」
エミリアが黙り込む。
しばらくの沈黙の後、エミリアが微笑んだ。
「それでもいいです」
「エミリア……」
桜がエミリアを見る。
「わたしは……本当の体がほしい。涙を流せる体がほしい。お母様に会いに行きたい」
エミリアが決意を込めて言う。
「たとえ寿命があっても……それが、人間として生きるということなら……わたしは受け入れます」
「エミリア……」
俺が頷く。
「わかった。それじゃあ、アイ、頼む」
「はい」
アイがエミリアと、桜が創造した肉体の間に立つ。
「それでは、始めます」
アイの体が光り始める。
眩い光が、エミリアと肉体を包む。
『魂転送魔法』
アイが詠唱する。
エミリアの人形の体から、淡い光が抜け出す。
それは、エミリアの魂だ。
魂は、ゆっくりと肉体へと移動していく。
そして、肉体の胸に吸い込まれた。
光が収まる。
人形の体は、力なく倒れる。
そして、肉体が……ゆっくりと目を開けた。
「……あ……」
エミリアが声を出す。
本物の声だ。
人形の時とは違う、温かみのある声。
「エミリア……!」
桜が駆け寄る。
「桜ちゃん……」
エミリアが桜を見る。
そして、自分の手を見る。
「これが……わたしの体……」
エミリアが手を握る。
温かい。柔らかい。本物の人間の手だ。
「ありがとう……桜ちゃん……アイさん……」
エミリアが涙を流す。
本物の涙だ。
「わたし……涙が出る……」
エミリアが自分の涙に触れる。
「嬉しい……本当に嬉しい……」
エミリアが泣きながら笑う。
「エミリア……!」
桜がエミリアに抱きつく。
二人は、抱き合いながら泣いた。
俺たちは、その光景を温かく見守る。
やがて、エミリアが顔を上げた。
「悠真さん……お願いがあります」
「何だ?」
「あの場所……『私たちの永遠の箱庭』に、連れて行ってください」
エミリアが真剣な目で言う。
「お母様に……会いに行きたいんです」
「わかった」
俺が頷く。
「みんなで行こう。エミリアを、お母さんのもとへ」
「はい!」
全員が頷いた。
翌朝、俺たちはベルガリア帝国へと向かう準備を整えた。
エミリアは、新しい体に慣れるため、一晩宿で休んだ。
「体の調子はどうだ?」
俺がエミリアに尋ねる。
「はい、大丈夫です。少し不思議な感じですが……でも、とても嬉しいです」
エミリアが微笑む。
「それじゃあ、出発しよう」
俺が《空間転移》を発動する。
目的地は、ベルガリア帝国南東の山。
シルヴィアの記憶を頼りに、座標を設定する。
「みんな、準備はいいか?」
「はい!」
全員が頷く。
光が俺たちを包み、次の瞬間、俺たちはベルガリア帝国の山岳地帯に立っていた。
「ここは……」
エミリアが周囲を見回す。
目の前には、緑豊かな山々が広がっている。
そして、遠くに小さな家が見える。
「あれだ!」
シルヴィアが指差す。
「あの家……絵に描かれていた家です!」
「本当だ……」
エミリアが目を輝かせる。
俺たちは、家へと向かって歩き始めた。
山道を進むと、やがて家の前に着く。
だが、家はだいぶ廃れていた。
壁は崩れかけ、窓ガラスは割れている。
庭も、雑草が生い茂り、かつての美しさは失われている。
「ここが……お母様と過ごした場所……」
エミリアが呟く。
「でも……こんなに荒れて……」
「おそらく、セシリアが亡くなってから、誰も手入れをしていなかったんだろう」
俺が言う。
「……そうですね」
エミリアが頷く。
「それじゃあ、中に入ろう」
俺が家の扉を開ける。
ギィィィ……
古い扉が軋む。
中は、埃が積もり、薄暗い。
だが、家の中には、家具が残されている。
テーブル、椅子、本棚……生活の痕跡が、そこにはあった。
「お母様……昔はここで暮らしていたんですね……」
エミリアが家の中を見回す。
俺たちは、家の中を探索し始めた。
リビング、キッチン、寝室……様々な部屋を見て回る。
そして、エミリアの部屋と思われる場所に辿り着いた。
小さなベッド、机、そして壁には……絵が飾られていた。
額縁に入った、一枚の絵。
そこには、幼いエミリアが描かれている。
金色の髪、青い瞳、無邪気な笑顔。
絵の下には、文字が刻まれていた。
『愛しき我が子、エミリアへ』
「……!」
エミリアが絵に駆け寄る。
「これは……お母様が描いた……わたしの絵……」
エミリアが絵に触れる。
その瞬間、エミリアの目から涙が溢れた。
「お母様……」
エミリアが泣く。
「お母様……わたし、ここに来ました……」
エミリアが絵に向かって話しかける。
「お母様の手紙、読みました……お母様が、わたしのために……こんなにも頑張ってくれたこと……知りました……」
エミリアの涙が止まらない。
「ありがとう……お母様……わたしを愛してくれて……ありがとう……」
エミリアが絵を抱きしめる。
俺たちは、静かにその光景を見守る。
エミリアは、しばらく泣き続けた。
やがて、エミリアが顔を上げた。
「悠真さん……みなさん……」
エミリアが俺たちを見る。
「ありがとうございました。わたしを、ここまで連れてきてくれて」
「いや、俺たちは当然のことをしただけだ」
俺が頷く。
「エミリア、これからどうするんだ?」
俺が尋ねる。
エミリアは、しばらく考えてから、微笑んだ。
「わたしは……ここに残ります」
「ここに……?」
桜が驚く。
「はい。ここは、お母様とわたしの『永遠の箱庭』です」
エミリアが家を見回す。
「わたしは、ここでお母様の思い出と共に生きていきたいんです」
「でも……一人で大丈夫なのか?」
俺が心配そうに尋ねる。
「はい。桜ちゃんとアイさんが、わたしに本当の体をくれました」
エミリアが微笑む。
「だから、わたしは人間として生きることができます。ここで、畑を作って、野菜を育てて……お母様が望んだように、幸せに生きます」
「エミリア……」
桜が涙を流す。
「でも……寂しいです……エミリアと離れるの……」
「桜ちゃん……」
エミリアが桜に近づく。
「わたしも寂しいです。でも……これがわたしの選んだ道です」
エミリアが桜の手を握る。
「桜ちゃん、今までありがとう。あなたのおかげで、わたしは本当の体を手に入れることができました」
「エミリア……」
桜がエミリアに抱きつく。
二人は、しばらく抱き合っていた。
「また……会いに来てくれますか?」
エミリアが桜に尋ねる。
「うん! 絶対に会いに来る!」
桜が頷く。
「約束だよ!」
「はい、約束です」
エミリアが微笑む。
俺たちは、エミリアと別れの言葉を交わした。
「エミリア、何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ」
俺が言う。
「はい、ありがとうございます」
エミリアが深くお辞儀をする。
「それじゃあ、元気でな」
「はい。みなさんも、お元気で」
エミリアが手を振る。
俺が《空間転移》を発動し、俺たちは王都へと戻った。
王都に戻った俺たちは、自宅に戻った。
みんなで居間に集まり、お茶を飲む。
「エミリア、幸せになってくれるといいな」
桜が呟く。
「ああ、きっと幸せになるさ」
俺が頷く。
「桜ちゃんが、エミリアに本当の体をあげたんだもんね」
リリィが微笑む。
「でも……わたし、あの時、どうして《創造の神》スキルが使えたのかわからないんです……」
桜が不思議そうに言う。
「それは、桜さんの強い想いが、スキルを覚醒させたんです」
アイが説明する。
「《創造の神》スキルは、非常に強力なスキルです。通常、使うことはできません」
「でも、桜さんは、エミリアさんを助けたいという強い想いで、スキルを覚醒させました」
「わたしの想い……」
桜が呟く。
「桜は優しいからな」
俺が桜の頭を撫でる。
「その優しさが、スキルを目覚めさせたんだ」
「悠真さん……」
桜が微笑む。
「でも、これからは《創造の神》スキルを使う時は気をつけてな。すごく魔力を消費するから」
「はい!」
桜が頷く。
俺たちは、しばらくお茶を飲みながら、今回の冒険について語り合った。
セシリアとエミリアの物語。
母と娘の愛。
そして、桜の優しさが起こした奇跡。
「それにしても……『永遠の箱庭』か……」
俺が呟く。
「大切な人と過ごす場所……」
リナリアが微笑む。
「悠真さんにとっての『永遠の箱庭』は、どこですか?」
桜が尋ねる。
「俺にとっての箱庭……」
俺が考える。
そして、周囲を見回す。
リナリア、エリア、リリィ、エリーゼ、シルヴィア、桜、そしてアイ。
大切な仲間たちが、ここにいる。
「ここだよ」
俺が微笑む。
「みんなと一緒にいるこの場所が、俺にとっての『永遠の箱庭』だ」
「悠真さん……」
リナリアが嬉しそうに微笑む。
「わたくしも……ここが、わたくしの箱庭です」
「わたしもです」
エリアが頷く。
「わたしも♪」
リリィが笑う。
「わたくしもですわ」
エリーゼが微笑む。
「わたくしも、ここが一番落ち着きます」
シルヴィアが優しく言う。
「わたしも……ここが大好きです」
桜が微笑む。
「わたしも、旦那様たちと一緒にいられるこの場所が大好きです」
アイが嬉しそうに言う。
俺は、みんなの笑顔を見て、心から思った。
ここが、俺たちの『永遠の箱庭』だ。
大切な仲間たちと過ごす、かけがえのない場所。
俺は、この幸せをずっと守っていこうと、心に誓った。
その夜、俺は一人でベランダに立っていた。
星空を見上げながら、今日の出来事を思い返す。
エミリアは、今頃、あの家で何をしているだろうか。
母の思い出に囲まれて、幸せに暮らしているだろうか。
「旦那様」
アイが隣に立つ。
「ああ、アイか」
「はい。一人で何を考えているんですか?」
「いや、エミリアのことを考えてたんだ」
俺が微笑む。
「彼女は、きっと幸せになるさ。桜が本当の体をあげたんだから」
「はい。桜さんの《創造の神》……本当に驚きました」
アイが呟く。
「あんな力を持っていたなんて……」
「ああ。でも、桜は優しいから、その力を正しく使ってくれるはずだ」
俺が頷く。
「そうですね」
アイが微笑む。
しばらく、二人で星空を見上げる。
「アイ」
「はい?」
「お前がいてくれて、本当に良かった」
俺が言う。
「今回も、お前の力がなければ、エミリアを助けることはできなかった」
「いえ、わたしは旦那様の力になりたいだけです」
アイが微笑む。
「これからも、ずっと一緒にいてくれよ」
「はい。わたしは、旦那様とずっと一緒です」
アイが俺の手を握る。
温かい手だ。
進化で実体化したアイの手は、まるで本物の人間のように温かい。
「ありがとう、アイ」
「いえ、こちらこそ」
二人で星空を見上げる。
満天の星が、美しく輝いている。
俺は、この平和な日々が、ずっと続くことを願った。
そして、大切な仲間たちと共に、この『永遠の箱庭』で幸せに暮らしていこうと、心に誓った。
数日後、桜がエミリアに会いに行きたいと言い出した。
「悠真さん、わたし、エミリアに会いに行きたいです」
「ああ、いいぞ」
俺が頷く。
「一緒に行くか?」
「はい!」
桜が嬉しそうに頷く。
俺と桜、そしてアイの三人で、ベルガリア帝国の山へと向かった。
《空間転移》で一瞬だ。
家の前に着くと、そこには……
綺麗に整えられた庭があった。
「わぁ……」
桜が驚く。
雑草は刈り取られ、花が植えられている。
池も綺麗に掃除され、水が澄んでいる。
そして、家の前には、エミリアが立っていた。
「桜ちゃん!」
エミリアが笑顔で手を振る。
その笑顔は、本当に幸せそうだった。
人形だった頃とは違う、生き生きとした表情だ。
「エミリア!」
桜が駆け寄る。
二人は、抱き合って再会を喜ぶ。
「エミリア、元気そうだな」
俺が微笑む。
「はい! 毎日、庭の手入れをして、野菜を育てています」
エミリアが嬉しそうに言う。
その声は、活き活きとしている。
「それに、近くの町にも時々行って、買い物をしています」
「町に?」
俺が驚く。
「はい。最初は不安でしたけど……でも、町の人たちは優しくて」
エミリアが微笑む。
「『セシリア様のお嬢さんですか?』って聞かれて……お母様のことを知っている人がいたんです」
「そうか……」
俺が頷く。
「その人は、お母様のことをよく覚えていて……『セシリア様は優しい方でした』って言ってくれました」
エミリアが嬉しそうに語る。
「それで、わたしのこともすぐに受け入れてくれて……今では、町に行くのが楽しみなんです」
「良かった……」
桜が涙ぐむ。
「エミリア、本当に幸せそう」
「はい。桜ちゃんのおかげです」
エミリアが桜の手を握る。
「桜ちゃんが、わたしに本当の体をくれたから……わたしは、こうして人間として生きることができています」
「エミリア……」
桜がエミリアに抱きつく。
「本当に良かったです」
アイも微笑む。
「エミリアさんが幸せそうで、わたしも嬉しいです」
「アイさんも、ありがとうございます」
エミリアが深くお辞儀をする。
「アイさんが魂を転送してくれなかったら……わたしは今でも人形のままでした」
「いえ、わたしは当然のことをしただけです」
アイが首を振る。
そして、エミリアが言った。
「それで……実は、報告があるんです」
「報告?」
俺が尋ねる。
「はい。実は……町で出会った人の中に、同じように一人で暮らしている老人がいて……」
エミリアが少し恥ずかしそうに言う。
「その人が、『もし良かったら、一緒に畑仕事を手伝ってくれないか』と誘ってくれたんです」
「へぇ、それで?」
「それで、わたし……その人の畑を手伝うことにしました」
エミリアが微笑む。
「その人は、優しくて……畑仕事のことをいろいろ教えてくれるんです」
「そうか、良かったな」
俺が頷く。
「エミリア、友達ができたんだね」
桜が嬉しそうに言う。
「はい。その人は、わたしに『孫のようだ』って言ってくれました」
エミリアが照れる。
「それに、町の他の人たちも、わたしを温かく迎えてくれて……」
「本当に良かった」
俺が心から言う。
「セシリアも、きっと喜んでいるよ」
「はい……」
エミリアが空を見上げる。
「お母様……わたし、幸せに暮らしています」
エミリアが呟く。
その声は、感謝に満ちていた。
「それじゃあ、少しだけお邪魔してもいいか?」
「はい! どうぞ!」
エミリアが家に招いてくれる。
家の中は、綺麗に片付けられていた。
埃も掃除され、家具も磨かれている。
そして、壁には……エミリアの絵が飾られている。
『愛しき我が子、エミリアへ』
その文字を見て、俺は改めて思った。
母親の愛の深さを。
「エミリア、一人で全部やったのか?」
「はい。最初は大変でしたけど……でも、楽しいです」
エミリアが微笑む。
「お母様が暮らしていた家を、綺麗にすることができて……嬉しいです」
「そして、この家で、わたしも新しい思い出を作っていきたいんです」
エミリアが家を見回す。
「お母様の思い出と、わたしの新しい思い出が、一緒にあるこの家で」
「エミリア……」
桜が感動する。
俺たちは、エミリアが淹れてくれたお茶を飲みながら、しばらく話をした。
エミリアの新しい生活について。
庭で育てている野菜について。
近くの町の人々について。
畑仕事を教えてくれる老人について。
エミリアは、本当に幸せそうだった。
そして、俺は気づいた。
エミリアは、もう一人じゃない。
町の人々、畑仕事を教えてくれる老人、そして俺たち。
エミリアには、大切な人たちができた。
新しい『箱庭』が、エミリアの周りに広がっている。
「それじゃあ、そろそろ帰るよ」
俺が立ち上がる。
「はい。今日は来てくれてありがとうございました」
エミリアが深くお辞儀をする。
「また来るからな」
桜が言う。
「はい! 待ってます」
エミリアが笑顔で答える。
「次は、みんなで来たいです」
桜が続ける。
「リナリアさんも、エリアさんも、リリィさんも……みんなでエミリアに会いに来たいです」
「本当ですか!?」
エミリアが目を輝かせる。
「ああ、もちろんだ」
俺が頷く。
「みんな、エミリアのことを心配してるからな」
「ありがとうございます……」
エミリアが涙ぐむ。
「わたし……本当に幸せです……」
「エミリア……」
桜が再びエミリアに抱きつく。
二人は、しばらく抱き合っていた。
俺は、その光景を見ながら思った。
これが、『永遠の箱庭』なんだ。
大切な人と過ごす場所。
エミリアにとっては、この家であり、この庭であり、そして新しく出会った人々との関係だ。
俺にとっては、仲間たちと過ごす王都の家だ。
人それぞれ、『永遠の箱庭』は違う。
でも、そこには共通するものがある。
愛と、温もりと、幸せだ。
俺たちは、エミリアと別れて、王都へと戻った。
王都に戻った俺たちは、みんなに報告した。
「エミリア、元気そうだったよ」
俺が言うと、みんなが安心した表情を見せた。
「それは良かったです」
リナリアが微笑む。
「エミリアさん、幸せに暮らしてるんですね」
リリィが嬉しそうに言う。
「ああ。あの家で、母の思い出と共に、新しい人生を始めたんだ」
俺が頷く。
「それに、町の人たちとも交流があるそうだ。一人じゃないんだ」
「それは良かったですわ」
エリーゼが微笑む。
「桜のおかげだな」
エリーゼが桜を見る。
「えへへ……」
桜が照れる。
「でも、本当に良かったです。エミリアさんが幸せになって」
「ああ、本当にな」
俺が微笑む。
そして、リナリアが言った。
「悠真さん、『永遠の箱庭』について……わたくし、考えたことがあるんです」
「何だ?」
俺がリナリアを見る。
「『永遠の箱庭』というのは、単なる場所ではないのではないでしょうか」
リナリアが真剣な表情で言う。
「場所ではない……?」
「はい。それは……心の中にあるもの、なのではないかと」
リナリアが続ける。
「エミリアさんにとっての『永遠の箱庭』は、あの家と庭でした。でも、それは単なる場所ではなく……お母様との思い出が詰まった場所だったからこそ、特別だったのだと思います」
「なるほど……」
俺が頷く。
「つまり、『永遠の箱庭』というのは……大切な人との思い出や、その人への愛が形になった場所、ということか」
「はい。だからこそ、それは人それぞれ違います」
リナリアが微笑む。
「ある人にとっては、家かもしれません。ある人にとっては、庭かもしれません。ある人にとっては、海かもしれません」
「そして、ある人にとっては……」
エリアが言う。
「仲間たちと過ごす時間や思い出そのものが、『箱庭』なんでしょうね」
「そうだな……」
俺が頷く。
「俺にとっての『永遠の箱庭』は……ここだ」
俺が居間を見回す。
「この家で、みんなと一緒に過ごす時間が、俺にとっての『箱庭』だ」
「わたくしも、ここが『箱庭』です」
リナリアが微笑む。
「わたしも♪」
リリィが手を上げる。
「わたしもです」
エリアが頷く。
「わたくしもですわ」
エリーゼが優雅に微笑む。
「わたくしも、皆様と一緒にいられるこの場所が大好きです」
シルヴィアが優しく言う。
「わたしも……ここが大好きです」
桜が微笑む。
「わたしも、旦那様たちと一緒にいられるこの場所が、一番幸せです」
アイが嬉しそうに言う。
俺は、みんなの笑顔を見て、改めて思った。
これが、俺たちの『永遠の箱庭』だ。
大切な仲間たちと過ごす、かけがえのない時間と場所。
そして、その『箱庭』は、物理的な場所だけではない。
互いへの愛と、信頼と、絆。
それらが形になったものが、『永遠の箱庭』なのだ。
「でも……『永遠』というのは……」
桜が少し不安そうに言う。
「いつか、終わってしまうんですよね……?」
桜の言葉に、みんなが沈黙する。
確かに、『永遠』というのは、現実には存在しない。
人は必ず死ぬ。
別れの時は、いつか来る。
だが、俺は桜の肩に手を置いて言った。
「確かに、物理的な『永遠』は存在しないかもしれない」
俺が優しく言う。
「でも、心の中の『永遠』は存在するんだ」
「心の中の……永遠……?」
桜が俺を見る。
「ああ。たとえ別れの時が来ても……一緒に過ごした時間、思い出、愛……それらは心の中に永遠に残る」
俺が説明する。
「セシリアとエミリアのように……たとえ死が二人を分かっても、愛は永遠に残るんだ」
「愛は……永遠に……」
桜が呟く。
「そうだ。だから、『永遠の箱庭』というのは……心の中に永遠に残る、大切な思い出と愛の場所なんだ」
俺が微笑む。
「なるほど……」
リナリアが頷く。
「つまり、『永遠の箱庭』というのは……物理的な場所というよりも、心の中にある、大切な思い出と愛の集合体……ということですわね」
「そうだな」
俺が頷く。
「そして、その『箱庭』は、生きている限り、ずっと心の中で輝き続ける」
「素敵です……」
リリィが微笑む。
「わたしも、みんなとの思い出を、心の中にたくさん作りたいです」
「ああ、俺もだ」
俺が頷く。
「これからも、みんなで色々な経験をして、思い出を作っていこう」
「はい!」
全員が頷く。
そして、俺は思った。
この冒険を通して、俺たちは大切なことを学んだ。
愛する人を想う気持ちの強さ。
そして、その想いが起こす奇跡。
セシリアはエミリアを愛し、エミリアを生き返らせようとした。
失敗したけれど、その想いは手紙として残り、エミリアに届いた。
そして、桜の優しさが、エミリアに本当の体を与えた。
愛と優しさが繋ぐ、美しい物語。
そして、その物語は、『永遠の箱庭』という概念を通して、俺たちに大切なことを教えてくれた。
大切な人との時間を、心から大切にすること。
その時間が、永遠の思い出となって、心の中に残ること。
そして、その思い出こそが、本当の『永遠』であること。
俺は、この教訓を胸に刻み、これからも仲間たちと共に歩んでいこうと思った。
大切な人たちと共に過ごす、この『永遠の箱庭』で。
その夜、俺は桜と二人で話す機会があった。
「桜、スキルについて……どう思ってる?」
俺が尋ねる。
桜は、少し考えてから答えた。
「正直……まだよくわからないです」
桜が言う。
「あの時、エミリアを助けたいって強く思ったら……自然と体が動いて……」
「そうか……」
俺が頷く。
「でも、すごい力だよな。肉体を創造するなんて」
「はい……アイさんも言ってましたけど……神の領域だって」
桜が不安そうに言う。
「わたし……こんな力を持っていていいんでしょうか……?」
「どうしてそう思うんだ?」
俺が尋ねる。
「だって……肉体を創造するって……命を作るってことですよね……」
桜が震える声で言う。
「そんな力……わたしみたいな普通の人間が持っていていいんでしょうか……」
「桜……」
俺が桜の肩に手を置く。
「お前は、その力を正しく使った」
「え……?」
「エミリアを助けるために、お前はその力を使った。私利私欲のためじゃない。誰かを幸せにするために」
俺が優しく言う。
「それは、素晴らしいことだ」
「でも……」
「桜、力そのものに善悪はない。大切なのは、その力をどう使うかだ」
俺が続ける。
「お前は、優しい心を持っている。だから、その力を正しく使える」
「悠真さん……」
桜が俺を見る。
「俺は、お前を信じてる。お前なら、その力を間違った方向に使うことはない」
「ありがとうございます……」
桜が微笑む。
「でも、一つだけ約束してくれ」
俺が真剣な表情で言う。
「何ですか?」
「その力を使う時は、必ず俺たちに相談してくれ。一人で抱え込まないでくれ」
「はい……」
桜が頷く。
「わかりました。これからは、必ず相談します」
「ああ、よろしく頼む」
俺が桜の頭を撫でる。
そして、俺は考えた。
桜のスキルは、確かに強力だ。
肉体を創造できるということは、理論上、様々なものを創造できるということだ。
武器、防具、道具……場合によっては、生物(魂)さえも。
だが、それは同時に、大きな責任を伴う。
命を創造するということは、その命に対して責任を持つということだ。
エミリアの場合は、魂が既に存在していた。
だから、桜は肉体を創造し、アイが魂を転送した。
だが、もし魂ごと肉体を創造したら……?
それは、神そのものだ。
そのことがばれて悪い奴らに捕らえられたら……?
だからこそ、桜には慎重に力を使ってほしい。
そして、俺たちがサポートしていかなければならない。
桜が、その力に押し潰されないように。
『旦那様』
アイがテレパシーで話しかけてくる。
『はい』
『桜さんの《創造の神》についてですが……わたしが解析した結果、いくつかわかったことがあります』
『何だ?』
『まず、このスキルは非常に強力ですが、同時に大きな制約があります』
アイが説明する。
『制約……?』
『はい。まず、創造できるのは「存在するもの」だけです』
『存在するもの……?』
『つまり、桜さんが見たことがあるもの、触れたことがあるもの、詳細に理解しているもの……そういったものしか創造できません』
アイが続ける。
『エミリアの肉体を創造できたのは、桜さんがエミリアと触れ合い、その体を理解していたからです』
『なるほど……』
『そして、二つ目の制約は……魔力消費が膨大だということです』
アイが言う。
『エミリアの肉体を創造した時、桜さんの魔力はほぼ空になりました』
『そうだったのか……』
『はい。旦那様や私のように魔力があるわけではないので、もし同じことをもう一度やろうとしたら……桜さんは死んでしまうかもしれません』
アイが心配そうに言う。
『それほどまでに、肉体の創造は困難なのです』
『わかった。桜には、無理をしないように言っておく』
『はい。お願いします』
アイとの会話を終えて、俺は改めて桜を見る。
桜は、窓の外を眺めている。
その横顔は、どこか大人びて見えた。
スキルを手に入れたことで、桜は一つ成長したのかもしれない。
大きな力と、それに伴う責任を知ったのだから。
俺は、桜が健やかに成長していくことを願った。
そして、その成長を、俺たち全員でサポートしていこうと心に誓った。
そして、俺は思った。
この冒険を通して、俺たちは大切なことを学んだ。
愛する人を想う気持ちの強さ。
そして、その想いが起こす奇跡。
セシリアはエミリアを愛し、エミリアを生き返らせようとした。
失敗したけれど、その想いは手紙として残り、エミリアに届いた。
そして、桜の優しさが、エミリアに本当の体を与えた。
愛と優しさが繋ぐ、美しい物語。
俺は、この物語を胸に刻み、これからも仲間たちと共に歩んでいこうと思った。
大切な人たちと共に過ごす、この『永遠の箱庭』で。
わたしは、ようやく本当の自分の大切なものを手に入れました。
蝋人形として長い時を過ごし、涙を流すことさえできなかったわたしに、桜ちゃんが本当の体をくれました。そして、お母様の手紙を読んで、わたしがどれほど愛されていたかを知りました。
お母様は、わたしを生き返らせるために全てを捧げてくれました。失敗してしまったけれど、その愛は手紙として、そして『永遠の箱庭』の思い出として残っていました。
桜ちゃんの《創造の神》という奇跡の力、アイさんの魂の転送、そして悠真さんたち全員の優しさ。みんながいてくれたから、わたしは今、ここに立っています。
わたしは決めました。この『永遠の箱庭』で、お母様が望んだように、幸せに生きていくことを。本当の涙を流せる体で、本当の人生を歩んでいきます。
桜ちゃん、またきっと会いに来てください。約束ですよ。
――エミリア・ローゼンベルク




