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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第35話 永遠の箱庭 中編 「セシリアの願い」

「それで、悠真さん。どうするんですか?」


 リナリアが紅茶を淹れながら尋ねてくる。


「ああ。今日、クリスタルレイクの湖底を調べに行く」


 俺が答えると、みんなが真剣な表情になった。


「湖底……ですか」


 エリアが眼鏡を直しながら言う。


「そこに、エミリアのお母さんがいるかもしれないんですよね」


 桜が不安そうに尋ねる。


「ああ。昨夜、エミリアから聞いた話だと、『永遠の庭園』への入口が湖底にあるらしい」


 俺が説明する。


「でも……湖底に行くって、どうやって……?」


 リリィが首を傾げる。


 確かに、湖底に行くのは簡単ではない。


 水深がどれくらいあるのか分からないし、普通に潜っても呼吸ができない。


「それなんだけど……」


 俺が考え込む。


『旦那様、何か策はありますか?』


 アイが脳内で尋ねてくる。


「うーん……水中呼吸の魔法とか、あればいいんだけどな」


「水中呼吸の魔法……わたくしは知りませんね」


 エリアが首を横に振る。


「わたしも知らないです」


 リナリアも同じく首を横に振る。


「困ったな……」


 俺が頭を掻く。


 その時、アイが提案してきた。


『旦那様、わたしが空気の膜を作ることができます。それで呼吸はできますが……水圧が問題ですね』


「水圧か……確かに、深い場所だと水圧で潰されかねないな」


 俺が頷く。


「うーん……」


 みんなで考え込む。


 その時――


 俺の脳裏に、ある記憶が蘇った。


「そうだ!」


 俺が立ち上がる。


「どうしました?」


 リナリアが驚く。


「俺、《ウォーター・マスター》ってスキルを持ってたんだ!」


「ウォーター・マスター……?」


「ああ。海神の加護を受けたスキルで、水を自在に操ることができる」


 俺が説明する。


「それなら……湖の水を操って、道を作ることができるんじゃないか?」


「なるほど……!」


 エリアが目を輝かせる。


「旦那様、それは素晴らしいアイデアです!《ウォーター・マスター》なら、湖の水を左右に分けて、海を割るモーゼのように道を作ることができるはずです」


 アイが興奮気味に言う。


「よし、それで行こう」


 俺が決意する。


「それで……誰が湖底に行くんですか?」


 桜が尋ねる。


「そうだな……全員で行くのは危険だ。少数精鋭でいこう」


 俺が答える。


「わたくしも行きます」


 リナリアが即座に手を挙げる。


「わたくしも」


 エリアも手を挙げる。


「わたしも……お手伝いしたいです……」


 桜が小さく手を挙げる。


「桜……でも、危険かもしれないぞ?」


「……大丈夫です。わたし、みなさんの役に立ちたいんです」


 桜が真剣な表情で言う。


 その目には、強い決意が宿っている。


「……わかった。それじゃあ、俺とアイ、リナリア、エリア、桜の五人で行こう」


「では、わたくしたちは?」


 シルヴィアが尋ねる。


「シルヴィア、リリィ、エリーゼには、町で待っていてもらいたい。何かあった時のために」


「わかりました」


 シルヴィアが頷く。


「えー、わたしも行きたかったのに……」


 リリィが不満そうに頬を膨らませる。


「リリィ、今回は我慢して。次は一緒に行こうな」


 俺がリリィの頭を撫でると、リリィは渋々頷いた。


「うん……わかった……」


「それじゃあ、準備をしよう」


 こうして、俺たちは湖底探索の準備を始めた。


 武器、回復薬、食料、ロープ、明かりになる魔法の石……必要なものをすべて《アイテムボックス》に詰め込む。


「準備完了です」


 エリアが報告する。


「よし。それじゃあ、出発するか」


 俺が《空間転移》を発動する準備をする。


『旦那様、座標を設定します』


 アイが魔法陣を展開する。


「みんな、準備はいいか?」


「はい」


 全員が頷く。


「それじゃあ――《空間転移》!」


 周囲が光に包まれる。


 一瞬の浮遊感。


 そして――


 目を開けると、そこはクリスタルレイクの湖畔だった。


「着きましたね」


 リナリアが湖を見つめる。


 湖は相変わらず美しい。透明な水が、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。


「それじゃあ、始めるか」


 俺が湖に近づく。


 水際に立ち、深呼吸をする。


「《ウォーター・マスター》……発動!」


 俺が魔力を解放する。


 瞬間――


 湖の水が反応した。


 水面が波打ち始める。


 ゴゴゴゴゴ……


 湖全体が震え始める。


「すごい……」


 桜が驚きの声を上げる。


 俺は両手を広げ、魔力を集中させる。


 水を操る。


 左右に分ける。


 まるで目に見えない巨大な手で、湖の水を掴んで引き裂くように。


 ザアアアアアア……


 湖の水が、左右に分かれ始めた。


 中央から、湖底が露わになっていく。


 泥と岩でできた湖底。水草が絡まり、小さな魚が跳ねている。


「すごい……本当に海を割ってる……」


 エリアが感嘆の声を上げる。


 俺は集中を切らさず、さらに魔力を注ぎ込む。


 水の壁が、左右に高く聳え立つ。


 まるで、巨大な水のカーテンのように。


 水の壁は透明で、向こう側が見える。魚たちが混乱して泳ぎ回っている。


「旦那様、この状態を維持できますか?」


 リナリアが心配そうに尋ねる。


「ああ……でも、あまり長くは持たない。早く探索しよう」


 俺が答える。


「旦那様、わたしが魔力を供給します」


 アイが俺の肩に手を置く。


 温かい魔力が、俺の体に流れ込んでくる。


「助かる、アイ」


「ふふ、当然です♪」


 アイが微笑む。


「それじゃあ、行こう」


 俺たちは、水の壁の間を進み始めた。


 湖底は泥でぬかるんでおり、歩きにくい。


 靴が泥に沈み込む。


「うわっ……」


 桜が足を取られて、よろける。


「大丈夫か?」


 俺が桜の手を取る。


「はい……ありがとうございます……」


 桜が照れながら答える。


 俺たちは慎重に湖底を歩く。


 周囲には、水草や岩が散乱している。


 時々、取り残された魚が跳ねている。


「何か……不思議な光景ですね……」


 エリアが呟く。


「ああ。まるで、別世界にいるみたいだ」


 俺も同意する。


 左右には、巨大な水の壁が聳え立っている。その向こうには、湖の深部が見える。


「あ……あそこ……」


 リナリアが前方を指差す。


 見ると、湖底の中央に、大きな岩の塊があった。


「あれは……」


 俺たちが近づく。


 岩の塊には、人工的な跡がある。


 まるで、何かを隠すように積み上げられたような……。


「この岩、人が積んだものですね」


 エリアが岩を調べる。


「ああ。この下に、何かあるかもしれない」


 俺が岩を動かそうとする。


「《身体能力強化》!」


 筋力が増強される。


 俺が岩を持ち上げる。


 ズシン……


 重い。


 でも、何とか動かせる。


「手伝います!」


 リナリアも一緒に岩を押す。


「わたくしも!」


 エリアも加わる。


 三人で力を合わせ、岩を動かしていく。


 一つ、また一つ……。


 岩を取り除いていくと――


「あった!」


 岩の下に、洞窟の入口が現れた。


 暗闇が口を開けている。


「これが……入口……」


 桜が呟く。


「ああ。ここから入れそうだな」


 俺が洞窟を覗き込む。


 中は真っ暗で、何も見えない。


『旦那様、わたしが明かりを作ります』


 アイが手を振ると、光の球が現れた。


 光の球が洞窟の中に浮かび、内部を照らす。


「階段がありますね」


 リナリアが言う。


 確かに、洞窟の入口から下へと続く石の階段が見える。


「それじゃあ、入るか」


 俺が先頭に立つ。


「みんな、気をつけて。何があるか分からない」


「はい」


 全員が頷く。


 俺たちは、洞窟の中へと足を踏み入れた。


 階段を降りていく。


 石の階段は古く、苔が生えている。


 足元が滑りやすい。


「気をつけて」


 俺が桜の手を取る。


「ありがとうございます……」


 桜が小さく微笑む。


 階段を降りきると、そこは広い空間になっていた。


「これは……」


 俺たちが驚く。


 そこは、古代遺跡だった。


 石造りの壁、天井、床。すべてが精巧に作られている。


 壁には、複雑な文様が刻まれており、魔法陣のようなものも見える。


「すごい……古代魔法文明の遺跡ですね……庭園ではなさそうですが…」


 エリアが目を輝かせる。


「セシリアさんは、こんな場所に……」


 リナリアが呟く。


 俺たちは遺跡の中を進み始めた。


 廊下は長く、いくつもの部屋が並んでいる。


「この遺跡、かなり大きいな……」


 俺が呟く。


『旦那様、この遺跡には魔力反応が多数あります。おそらく、罠が仕掛けられています』


 アイが警告する。


「罠……か」


 俺が警戒する。


 その時――


 カチッ


 俺の足元で、何かが音を立てた。


「まずい!」


 俺が反射的に後ろに跳ぶ。


 次の瞬間――


 ヒュンヒュンヒュン!


 壁から、無数の矢が飛び出してきた。


「きゃあ!」


 桜が悲鳴を上げる。


「《バリア》!」


 俺が防御魔法を展開する。


 バリアが矢を防ぐ。


 カンカンカン!


 矢がバリアに弾かれ、地面に落ちる。


「ふう……危なかった……」


 俺が安堵の息を吐く。


「大丈夫ですか、桜さん?」


 リナリアが桜に駆け寄る。


「は、はい……ありがとうございます……」


 桜が震えながら答える。


「やはり、罠がありますね……」


 エリアが床を調べる。


「この床の石、踏むと罠が作動する仕組みになっています」


「なるほど……」


 俺が頷く。


『旦那様、わたしが罠の位置を解析します』


 アイが目を閉じる。


 数秒後――


『解析完了です。この先の罠の位置を共有します』


 アイが俺の脳内に、罠の位置情報を送ってくる。


 俺の視界に、床の危険な場所が赤く光って見えるようになった。


「これなら……避けられるな」


 俺が慎重に進む。


 赤く光っている場所を避けながら、廊下を進む。


「みんな、俺の後についてきて。俺が踏んだ場所だけを踏むんだ」


「はい」


 全員が俺の後に続く。


 慎重に、一歩一歩、進んでいく。


 廊下を抜けると、大きな部屋に出た。


 部屋の中央には、石の台があり、その上に本が置かれている。


「本……?」


 俺が近づく。


 本は古く、革の表紙が色あせている。


「これは……日記のようですね」


 エリアが本を手に取る。


「開けてみていいですか?」


「ああ」


 俺が頷く。


 エリアが本を開く。


 ページをめくると、そこには手書きの文字が書かれていた。


「これは……セシリアさんの日記です……」


 エリアが驚く。


「本当に?」


 リナリアが覗き込む。


 エリアが声に出して読み始める。


「『娘のエミリアが、病に倒れた。医者は、もう助からないと言う。私は、この事実を受け入れられない』」


「『魔法使いとして、私は人形に命を吹き込む技術を研究してきた。もしかしたら、この技術を使えば、エミリアを救えるかもしれない』」


「『だが、人形に魂を宿らせるだけでは、本当の意味で生き返らせたことにはならない。私は、エミリアの肉体そのものを再生させる方法を探さなければならな

 い』」


 エリアが読み終えると、沈黙が訪れた。


「セシリアさんは……娘を生き返らせようとしていたんですね……」


 リナリアが悲しそうに言う。


「母の愛……ですね……」


 桜が呟く。


「でも、それは可能なのか? 死んだ人間を生き返らせるなんて……」


 俺が尋ねる。


『理論上は可能です。古代魔法には、失われた肉体を再生させる技術がありました。ただし、それには膨大な魔力と、特殊な素材が必要です』


 アイが説明する。


「特殊な素材……」


「ええ。おそらく、セシリアさんはそれを求めて、この遺跡を巡ったのでしょう」


 エリアが推測する。


「なるほど……」


 俺が頷く。


「それじゃあ、先に進もう。もっと手がかりがあるかもしれない」


 俺たちは部屋を出て、さらに奥へと進んだ。


 次の部屋には、また本が置かれていた。


 エリアが読み上げる。


「『古代遺跡を発見した。この遺跡には、肉体再生の秘術が記されているという。私は、この秘術を解明し、エミリアの肉体を作り上げる』」


「『しかし、秘術は複雑だ。何年かかるか分からない。でも、私は諦めない。エミリアのために』」


 セシリアの決意が、文章から伝わってくる。


「セシリアさん……」


 桜が涙ぐむ。


「大丈夫か、桜?」


「はい……ただ……セシリアさんの気持ちが……分かるんです……」


 桜が言う。


「わたしも……日本にいる家族に会いたい……だから……セシリアさんの気持ちが……」


 桜の目から、涙がこぼれる。


「桜……」


 俺が桜の肩を抱く。


「大丈夫だ。いつか、必ず日本に帰る方法を見つけるから」


「……ありがとうございます……」


 桜が微笑む。


 俺たちは、さらに奥へと進んだ。


 廊下を進むと、突然――


 ザバァ!


 前方から、水が溢れ出してきた。


「なに!?」


 俺が驚く。


 水は瞬く間に廊下を満たし、俺たちの足元まで来た。


「水が……!」


 リナリアが叫ぶ。


 水の中から、何かが現れた。


 それは――水でできた魔物だった。


 人型の形をしているが、体は透明な水でできている。


「水性魔物……!」


 エリアが叫ぶ。


 水性魔物は、一体だけではなかった。


 次々と、水の中から現れてくる。


 二体、三体、四体……


 あっという間に、十体以上の水性魔物が俺たちを囲んだ。


「まずい……囲まれた……」


 俺が武器を構える。


 水性魔物たちが、一斉に襲いかかってきた。


「くっ!」


 俺が《次元斬》を放つ。


 空間を切り裂く斬撃が、水性魔物を真っ二つにする。


 しかし――


 水性魔物は、すぐに再生した。


 切り裂かれた体が、水として融合し、元の形に戻る。


「再生した!?」


「物理攻撃が効かないのか……」


 俺が歯噛みする。


『旦那様、水性魔物には魔法攻撃が有効です。特に、雷系や火系の魔法が効果的です』


 アイが助言する。


「わかった! リナリア、エリア! 魔法で攻撃してくれ!」


「はい!」


 リナリアが魔法を放つ。


「《ファイアボルト》!」


 炎の弾が、水性魔物に命中する。


 ジュウウウ……


 水性魔物が蒸発し、消滅する。


「効いた!」


「わたくしも! 《サンダーボルト》!」


 エリアが雷撃を放つ。


 バリバリバリ!


 雷が水性魔物を貫く。


 水性魔物が痙攣し、崩れ落ちる。


「よし! その調子だ!」


 俺も魔法を放つ。


「アイ、サポート頼む!」


「了解です♪」


 アイが俺の魔力を増幅する。


「《サンダーボルト》!」


 俺の雷撃が、複数の水性魔物を貫く。


 バリバリバリバリ!


 水性魔物たちが次々と倒れていく。


「すごい……」


 桜が驚く。


 しかし、水性魔物はまだ現れてくる。


 水の中から、次々と這い出してくる。


「きりがない……!」


 リナリアが焦る。


「旦那様、そもそも水そのものを操って、魔物を消滅させることができるはずです」


 アイが提案する。


「水を操る……?」


「はい。《ウォーター・マスター》を使えば、水自体を支配できます」


「なるほど……!」


 俺が《ウォーター・マスター》を発動する。


 俺が魔力を解放する。


 瞬間――


 廊下を満たしている水が、俺の意志に従い始めた。


 水性魔物たちが、動きを止める。


「なに……?」


 水性魔物たちが混乱する。


「今だ! 全員、魔法を放て!」


「はい!」


 全員が一斉に魔法を放つ。


「《ファイアボルト》!」


「《サンダーボルト》!」


「《ウィンドカッター》!」


 炎、雷、風の魔法が、水性魔物たちを襲う。


 動きを封じられた水性魔物たちは、回避することができない。


 次々と命中し、消滅していく。


「やった……!」


 エリアが喜ぶ。


 最後の一体が消滅すると、静寂が戻った。


「ふう……」


 俺が息を吐く。


「大丈夫ですか、みなさん?」


 桜が心配そうに尋ねる。


「ああ、大丈夫だ」


 俺が答える。


 水は徐々に引いていき、廊下は元の状態に戻った。


「それじゃあ、先に進もう」


 俺たちは、さらに奥へと進んだ。


 次の部屋にも、セシリアの日記があった。


 エリアが読み上げる。


「『研究は進んでいる。肉体再生の秘術、その核心に近づいている。必要な素材も揃いつつある』」


「『だが、一つ問題がある。この秘術には、膨大な魔力が必要だ。私一人の魔力では、到底足りない』」


「『しかし、諦めるわけにはいかない。エミリアを生き返らせる。それが、私の使命だ』」


「セシリアさん……本当に必死だったんですね……」


 リナリアが呟く。


「ああ……」


 俺も頷く。


 俺たちは、さらに奥へと進んだ。


 やがて、大きな扉の前に辿り着いた。


 扉は重厚で、魔法陣が刻まれている。


「この先に……何かあるのか……」


 俺が扉に手を当てる。


『旦那様、この扉の向こうには強力な魔力反応があります。おそらく、守護者がいます』


 アイが警告する。


「守護者……か」


 俺が身構える。


「みんな、準備はいいか?」


「はい」


 全員が頷く。


 俺が扉を押す。


 ギィィィ……


 重い音を立てて、扉が開く。


 扉の向こうは、巨大な部屋だった。


 天井は高く、壁には複雑な魔法陣が刻まれている。


 そして、部屋の中央には――


 巨大なゴーレムが立っていた。


 石でできた体。身長は三メートルはある。


 両腕は太く、拳は岩のように硬そうだ。


 目は赤く光っており、俺たちを見つめている。


「ゴーレム……!」


 エリアが叫ぶ。


 ゴーレムが動き出す。


 ドシン、ドシン、ドシン……


 重い足音を立てて、こちらに向かってくる。


「来るぞ!」


 俺が武器を構える。


 ゴーレムが拳を振り上げる。


「《身体能力強化》!」


 俺がスキルを発動しようとする。


 しかし――


「!?」


 スキルが発動しない。


「なに……?」


 俺が驚く。


「《ファイアボルト》!」


 リナリアが魔法を放とうとする。


 しかし――


「発動しない……!?」


 リナリアも驚く。


「《サンダーボルト》!」


 エリアも魔法を放とうとするが、やはり発動しない。


「どうして……!?」


「旦那様、この部屋は特殊です。スキルや魔法の使用を制限する魔法陣が刻まれています」


 アイが説明する。


「スキルが使えない……!?」


 俺が焦る。


 その間にも、ゴーレムが近づいてくる。


「まずい! 逃げろ!」


 俺が叫ぶ。


 全員が散開する。


 ゴーレムの拳が、俺がいた場所に叩きつけられる。


 ドゴォン!


 床が砕け、破片が飛び散る。


「くっ……!」


 俺が転がって回避する。


「悠真さん!」


 リナリアが心配そうに叫ぶ。


「大丈夫だ!」


 俺が立ち上がる。


 しかし、スキルが使えない今、どうやって戦えばいいのか……。


「旦那様、わたしは大丈夫です」


 アイが言う。


「アイ……?」


「わたしは単なるスキルではありません。この部屋の制限も、わたしには効きません」


「本当か!?」


「はい。でも……」


 アイが桜を見る。


 桜は部屋の隅で、震えながら座り込んでいる。


「桜さんを守りながら戦うと、少し時間がかかるかもしれません」


「そうか……」


 俺が考える。


「リナリア、エリア! 桜を守ってくれ!」


「はい!」


 二人が桜のもとに駆け寄る。


「アイ、頼む!」


「了解です♪」


 アイが前に出る。


 ゴーレムがアイに向かって拳を振り下ろす。


 しかし、アイは動じない。


「《時空間シールド》」


 アイの周りに、金色の盾が現れる。


 ゴーレムの拳が盾にぶつかり、弾かれる。


 ガキィン!


「やっぱりアイはすごいな……」


 俺が驚く。


 アイが反撃する。


「《ホーリーレーザー》!」


 光の光線が、ゴーレムに命中する。


 ドォン!


 ゴーレムの胸に穴が開く。


「やった!」


 しかし、ゴーレムはまだ動いている。


 穴が開いても、動きは止まらない。


「さすがゴーレム……頑丈ですね……」


 アイが呟く。


 ゴーレムが両拳を振り回す。


 アイが空中に飛び、回避する。


「旦那様、わたしがこのゴーレムを解析します。少し時間をください」


「わかった! でも、急いでくれ!」


 俺が答える。


 アイが目を閉じる。


 ゴーレムの動きを観察し、構造を解析していく。


 しかし、その間もゴーレムは攻撃を続ける。


 アイが防御しながら、解析を進める。


「くっ……」


 俺も何かできないか考える。


 スキルが使えない。魔法も使えない。


 だが、体は動く。


「物理攻撃なら……!」


 俺が拳を握る。


 スキルなしでも、俺は訓練で鍛えた体がある。


「せいやっ!」


 俺がゴーレムの足元に滑り込む。


 そして、足を蹴り上げる。


 ドン!


 しかし、ゴーレムはびくともしない。


「硬い……!」


 俺が歯噛みする。


 ゴーレムが俺に向かって拳を振り下ろす。


「まずい!」


 俺が横に転がる。


 ドゴォン!


 拳が床に激突する。


「ふう……危なかった……」


 その時、アイが叫んだ。


「解析完了です!」


 アイが目を開ける。


「このゴーレムの弱点は、背中にある魔法陣です。そこを破壊すれば、機能を停止します」


「背中の魔法陣……!」


 俺が立ち上がる。


「でも、どうやって背中に回り込むんだ……」


「旦那様、わたしがゴーレムの注意を引きます。その隙に、背中に回り込んでください」


「わかった!」


 アイがゴーレムの前に立つ。


「こっちです!」


 アイが光の弾を放つ。


 ゴーレムがアイに向かって突進する。


「今だ!」


 俺がゴーレムの横を走り抜ける。


 背中に回り込む。


 ゴーレムの背中には、確かに魔法陣が刻まれている。


「そこか!」


 俺が拳を握りしめる。


 スキルは使えない。


 だが、俺には力がある。


「はああああ!」


 俺が全力で魔法陣を殴る。


 ドゴォ!


 拳が魔法陣に命中する。


 痛い。


 骨が軋む。


 だが、効いている。


 魔法陣にひびが入る。


「もう一発!」


 俺がもう一度殴る。


 ドゴォ!


 魔法陣が砕け散る。


 瞬間――


 ゴーレムの動きが止まった。


 赤く光っていた目が、消える。


 そして――


 ドシン。


 ゴーレムが前のめりに倒れる。


「やった……!」


 俺が安堵の息を吐く。


「悠真さん!」


 リナリアが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか?」


「ああ……何とかな……」


 俺が手を見る。


 拳が腫れ上がっている。


「手が……!」


 桜が心配そうに見る。


「大丈夫だ。これくらい……」


 俺が微笑む。


「旦那様、治療します」


 アイが俺の手に触れる。


「《マキシマム・キュア》」


 温かい光が手を包む。


 痛みが消え、腫れが引いていく。


「ありがとう、アイ」


「どういたしまして♪」


 アイが微笑む。


 ゴーレムを倒すと、部屋の奥にある扉が開いた。


「扉が……」


 リナリアが言う。


「あの先に……何があるんでしょうか……」


 エリアが尋ねる。


「行ってみよう」


 俺が先頭に立つ。


 扉をくぐると、そこは小さな部屋だった。


 部屋の中央には、石棺が置かれている。


「石棺……」


 俺が近づく。


 石棺には、花が添えられている。


 枯れてしまっているが、かつては美しい花だったのだろう。


「これは……」


 俺が石棺の蓋に手を当てる。


「開けてもいいか……?」


「……はい」


 リナリアが頷く。


 俺が石棺の蓋を押す。


 ギィィィ……


 重い音を立てて、蓋が開く。


 石棺の中には――


 なぜか腐敗していない女性の遺骸が横たわっていた。


 美しい顔立ちだったであろう女性。


 長い金髪は色あせているが、かつては輝いていたのだろう。


 手には、人形が抱かれている。


 小さな、少女の人形。


「これは……」


 エリアが呟く。


「セシリア・ローゼンバーグ……そして、エミリアの人形……」


 石棺の横には、手紙が置かれていた。


 俺が手紙を手に取る。


 古い羊皮紙に、丁寧な文字で書かれている。


 俺が声に出して読み始める。

「『私はセシリア・ローゼンバーグ。この手紙を読んでいる方へ


 私は、娘のエミリアを病で亡くしました。その悲しみに耐えられず、私は娘を生き返らせる方法を探しました古代の秘術を学び、娘の魂を人形に宿らせました。しかし、それは本当の意味で生き返らせたことにはなりません私は、娘の肉体を再生させる研究を続けました。何年も、何年も……

 しかし、私の魔力では足りませんでした。肉体を再生させるには、神に匹敵するほどの魔力が必要でした。そして海の使いの素材も足りません。

 私は、失敗しました。娘を生き返らせることはできませんでした。

 もし、この手紙を読んでいる方が、私の娘・エミリアに会ったなら……

 どうか、娘に伝えてください。母は、最後まで娘を愛していたと

 そして、娘が幸せになることを、心から願っていると

 あなたと庭園に行けなくて、ごめんなさい。

 そして、ありがとう。あなたを産めて、本当に幸せでした


 愛する娘へ――母より』」


 俺が読み終えると、沈黙が訪れた。


「セシリアさん……」


 桜が涙を流す。


 リナリアも、エリアも、涙ぐんでいる。


「セシリアさんは……最後まで、エミリアさんを愛していたんですね……」


 リナリアが呟く。


「ああ……」


 俺も頷く。


「でも……エミリアに、この事実を伝えるべきか……」


 俺が悩む。


 母が死んでいる。


 そして、自分を生き返らせようとして、失敗した。


 それを知ったら、エミリアはどう思うだろうか。


「……伝えるべきです」


 リナリアが言う。


「エミリアさんは、お母さんを探しています。その答えを知る権利があります」


「……そうだな」


 俺が頷く。


「それじゃあ、この手紙をエミリアに渡そう」


 俺が手紙を大切に仕舞う。


「セシリアさん……安らかに眠ってください……」


 桜が石棺に手を合わせる。


 俺たちも、石棺に手を合わせた。


 しばらくの沈黙の後、俺たちは部屋を出た。


 遺跡を出て、湖底に戻る。


 俺が再び《ウォーター・マスター》を発動し、湖の水を割る。


 水の壁の間を通って、湖畔に戻った。


「ふう……」


 俺が魔力の供給を止めると、水の壁が崩れる。


 ザバァァァ……


 湖の水が元に戻り、波が立つ。


「終わりましたね……」


 エリアが呟く。


「ああ……」


 俺が頷く。


「それじゃあ、町に戻ろう。エミリアに会わないと」


「はい」


 全員が頷く。


 俺が《空間転移》を発動し、俺たちは町へと戻った。



一ノ瀬 悠真だ。


今回の冒険は……正直、胸が苦しくなった。


セシリアさんの日記を読んで、遺骸を見つけて……母親の愛情の深さを思い知らされた。


娘を生き返らせるために、何年も研究を続けた彼女。


でも、結局は叶わなかった。


その無念さ、悲しみ……想像を絶するものだっただろう。


エミリアにこの事実を伝えるのは辛い。


でも、リナリアの言う通り、エミリアには知る権利がある。


母の愛を、母の想いを、ちゃんと伝えなければならない。


次回、俺たちはエミリアに真実を告げる。


彼女がどんな反応を示すのか……正直、怖い。


でも、逃げるわけにはいかない。


それが、俺たちの役目だから…

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