第33話 「同郷の少女と新たな絆」
王都は完全に平和を取り戻し、街には活気が満ちていた。市場では商人たちが元気に声を張り上げ、子供たちが笑いながら路地を駆け回っている。
俺――一ノ瀬悠真は、自宅のダイニングでゆっくりと朝食を取っていた。
「悠真さん、パンのおかわりいかがですか?」
リナリアが優雅な手つきで焼きたてのパンを差し出してくれる。香ばしい匂いが食欲をそそる。
「ああ、ありがとう」
俺が受け取ると、リナリアは微笑んで自分の席に戻った。
テーブルには、シルヴィアが作った朝食が並んでいる。ふわふわのオムレツ、カリカリに焼かれたベーコン、新鮮なサラダ、そして焼きたてのパン。どれも絶品
だ。
「シルヴィアの料理は本当に美味いな」
「ありがとうございます、悠真様。皆様が喜んでくださると、わたくしも嬉しゅうございます」
シルヴィアが控えめに微笑む。
エリアは朝から帳簿と格闘していた。几帳面な彼女は、商会の収支を毎日きちんと記録している。
「ふむふむ……今月の利益は先月比で115%……順調ですね」
「エリア、朝から仕事はほどほどにしろよ。朝食くらいゆっくり食べないと」
「あ、はい。すみません」
エリアが慌てて帳簿を閉じる。
リリィは既に朝食を食べ終え、窓際で本を読んでいた。最近、彼女は読書にハマっているらしい。
「リリィ、その本面白いか?」
「うん!冒険者の物語なんだけど、すっごくドキドキするの!」
リリィが目を輝かせながら答える。
エリーゼは朝から軽い運動をしていたようで、少し汗をかいていた。
「ふう……やはり朝の鍛錬は気持ちいいわね」
「エリーゼは本当に真面目だな。毎朝欠かさず訓練してるもんな」
「当然よ。剣士は一日怠ければ、取り戻すのに三日かかるって言うでしょう?」
エリーゼが凛とした表情で答える。
その時、俺の膝の上でアイが小さく伸びをした。
「ふぁ~……おはようございます、旦那様♪」
アイが眠そうな目をこすりながら顔を上げる。
第四進化を果たしたアイは、今や完全な実体を持っている。触れることができ、抱きしめることもできる。ただし、人前では姿を消すという習慣は変わっていな
い。
「おはよう、アイ。よく眠れたか?」
「はい♪旦那様の膝の上は、最高の寝心地です」
アイが嬉しそうに微笑む。
その光景を見て、リナリアが少しだけ頬を膨らませた。
「アイさんばかりずるいです……」
「え?何が?」
「い、いえ!なんでもございません!」
リナリアが慌てて否定する。その様子に、みんなが笑った。
「ふふ、リナリア様、お顔が真っ赤ですわよ」
シルヴィアがクスクスと笑う。
「もう!からかわないでください!」
リナリアが恥ずかしそうに顔を伏せる。
こんな平和な朝の時間が、俺はとても好きだった。
戦いの日々を経て、ようやく掴んだ穏やかな日常。
これを守るためなら、俺はどんな困難にも立ち向かえる気がした。
朝食を終えた後、俺とアイは訓練場へ向かった。
魔王を倒してから、大きな戦いはない。だが、だからこそ訓練を怠ってはいけない。
エリーゼの言う通り、一日怠れば取り戻すのに三日かかるのだ。
「それじゃあ、始めるか」
「はい♪今日は何を訓練しますか?」
アイが訓練着姿で尋ねてくる。彼女の訓練着は、動きやすさを重視した青と白のデザインだ。
「本格的な連携訓練、今日はそれをやろう」
「連携訓練ですか……楽しみです♪」
アイが嬉しそうに微笑む。
訓練場は王都の外れにある、広大な敷地だ。国王から借りている場所で、自由に魔法や武器を使うことができる。
「まずは基本から確認していこう。アイ、精神リンクを確立してくれ」
「はい♪」
アイが目を閉じ、集中する。
次の瞬間、俺の意識にアイの意識が流れ込んできた。
まるで二つの心が一つになったような感覚。アイが感じていることが、手に取るように分かる。
『旦那様、リンク確立しました』
アイの声が、直接脳内に響く。
「よし。それじゃあ、お前の視界を俺に共有してくれ」
『了解です♪』
瞬間、俺の視界が二重になった。
自分の目で見ている景色と、アイの目で見ている景色。二つの視点が同時に脳内に流れ込む。
最初は混乱しそうになったが、すぐに慣れた。
「これはすごいな……」
『第四進化により、私の演算能力が飛躍的に向上しましたからね。旦那様の脳への負担を最小限にしながら、情報を共有できます』
「なるほど……それじゃあ、次は動きの同調を試してみよう」
『はい♪』
俺が一歩前に踏み出すと、アイも同じタイミングで前に出る。
俺が右手を上げると、アイも右手を上げる。
俺が回転すると、アイも回転する。
まるで鏡に映った自分を見ているような感覚だ。
「完璧だな」
『ふふ、当然です♪私と旦那様は、もう一心同体ですから』
アイが誇らしげに言う。
「それじゃあ、次は戦闘動作を試してみるぞ」
俺が腰のナイフを抜く。
アイも剣を構える。第四進化により、アイは自分の武器を具現化できるようになった。
「いくぞ!」
俺が訓練用の的に向かって突進する。
アイも同じタイミングで飛翔する。
俺がナイフで斬りつけると、アイも剣で斬りつける。
二つの刃が、ほぼ同時に的に命中する。
「よし!次は連続攻撃だ!」
俺が連続で斬撃を繰り出す。
アイもそれに合わせて、連続攻撃を繰り出す。
「すごいな……それじゃあ、次はスキルとの組み合わせを試してみよう」
俺が《身体能力強化》を発動する。
瞬間、筋力と反射神経が飛躍的に向上する。
「《時間操作》!」
周囲の時間の流れが遅くなる。
この状態なら、敵の攻撃をゆっくりと見ることができる。
『旦那様、私も同調します』
アイが同じタイミングで《身体能力強化》を発動する。
『それでは、コンビネーション攻撃の練習をしましょう』
「ああ。お前が魔法で敵を拘束して、俺が物理攻撃で仕留める……そんなパターンでいいか?」
『いいえ、もっと効率的な方法があります』
アイが微笑む。
『私が敵の行動パターンを予測し、旦那様に最適な攻撃位置と攻撃タイミングを指示します。そして、私の魔法と旦那様の物理攻撃を完全に同期させることで、
敵に反応する隙を与えません』
「なるほど……それは強力だな」
『では、実際にやってみましょう』
アイが手を振ると、訓練場に魔法で作られた人型の的が10体出現した。
「これは……」
『私が作った魔法の的です。ある程度の知性を持っており、攻撃を回避したり反撃したりします。実戦に近い訓練ができますよ』
「さすがアイだな」
『ふふ、褒めても何も出ませんよ♪……それでは、始めます!』
アイの合図と同時に、10体の的が一斉に動き出した。
『旦那様、まずは右前方の敵から。3、2、1、今!』
アイの指示に従い、俺が右前方に突進する。
同時に、アイが魔法を放つ。
「《ウィンドカッター》!」
風の刃が敵の足元を狙う。
敵が一瞬よろめく。
その隙に、俺がナイフで斬りつける。
「はあっ!」
ズバッ!
的が真っ二つに裂ける。
『次、左後方!回り込んで背後から!』
俺が素早く左に移動し、敵の背後に回る。
アイが《ファイアボルト》を放ち、敵の注意を引く。
敵が炎に気を取られた瞬間、俺が背後から斬りつける。
「二体目!」
『素晴らしいです、旦那様♪次は3体同時に相手します!』
前方に3体の敵が現れる。
『左の敵は私が拘束します。中央は旦那様が正面から。右は旦那様が倒した後、私が仕留めます』
「了解!」
アイが《アイスバインド》を発動し、左の敵の足を氷で固める。
俺が中央の敵に突進し、《次元斬》を放つ。
空間を切り裂く斬撃が、敵を両断する。
そして、右の敵に向かおうとした瞬間――
『旦那様、そのままの勢いで後方に跳躍してください!』
「え?」
疑問に思う間もなく、俺は反射的に後方に跳ぶ。
次の瞬間、俺がいた場所に3体の敵が突進してきた。
「あぶねえ!」
『背後からの奇襲です。でも、私が予測していました』
「助かった……」
『では、カウンターです。今!』
アイが《サンダーボルト》を放つ。
雷撃が3体の敵を貫く。
敵が痺れて動けなくなる。
その隙に、俺が連続斬撃を叩き込む。
「せいやっ!」
ズバババババッ!
3体の敵が一瞬で消滅する。
『残り4体です。一気に畳み掛けましょう!』
「ああ!」
アイが空中に浮かび上がる。
『旦那様、《空間転移》で敵の中央に飛び込んでください。私が周囲を制圧します』
「わかった!」
俺が《空間転移》を発動し、敵の中央に瞬間移動する。
アイが俺の周囲に魔法陣を展開する。
『《サークル・エクスプロージョン》!』
俺を中心に、円形の爆発が発生する。
ただし、俺にはダメージがない。アイが俺を保護する魔法陣を同時に展開していたのだ。
「うおっ!」
爆発に巻き込まれた敵たちが吹き飛ぶ。
そして、最後の一体。
『旦那様、トドメです。私と同時に攻撃を!』
「ああ!」
俺とアイが同時に攻撃態勢に入る。
俺がナイフを構え、アイが魔法を構える。
『3……2……1……今!』
「《次元斬》!」
「《ホーリーレーザー》!」
同時に敵に命中する。敵が爆散し、訓練場に静寂が戻る。
「はあ……はあ……」
俺が息を整える。
『お疲れ様です、旦那様♪完璧でしたよ』
アイが俺の肩に座る。
「お前の指示のおかげだよ。まるで未来が見えてるみたいだった」
『ふふ、未来予知ではありませんが、敵の動きのパターンを瞬時に解析して、最も確率の高い行動を予測しています。第四進化により、その精度が99.9%まで向上
しました』
「99.9%……ほぼ完璧じゃないか」
『はい♪これなら、どんな敵が相手でも、旦那様と私なら勝てます』
アイが自信満々に言う。
「頼もしいな」
俺がアイの頭を撫でると、アイは嬉しそうに目を細めた。
「えへへ……」
「それにしても、精神リンクも視覚共有も、動きの同調も完璧だった。お前と一緒なら、もう怖いものなしだな」
『当然です♪私と旦那様は最強のコンビですから』
「ああ、そうだな」
俺が微笑むと、アイも微笑んだ。
「それじゃあ、次はもっと複雑なパターンを試してみるか」
『はい♪どんどん来てください!』
アイが意気込む。
その後、俺たちは様々なパターンの訓練を繰り返した。
複数の敵との戦闘。遠距離と近距離の切り替え。防御と攻撃のバランス。魔法と物理攻撃のコンビネーション。
どれも完璧にこなすことができた。
アイの指示は的確で、俺の動きとアイの魔法が完全に同期している。
まるで一つの生命体が戦っているような感覚だった。
「すごいな……これが第四進化の力か……」
アイが微笑む。
その時、突然地面が揺れた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
俺とアイが慌ててバランスを取る。
揺れは次第に激しくなり、訓練場の壁にひびが入る。
「地震!?この世界にもあるのか?」
『はい!震源地は……王都の北西、約50キロ地点!マグニチュード6.5程度です!』
アイが瞬時に分析する。
「6.5……結構大きいな!」
揺れが続く。
訓練場の一部が崩れ始める。
「まずい!このままじゃ訓練場が崩壊する!」
『旦那様、《空間転移》で脱出しましょう!』
「ああ!」
俺が《空間転移》を発動し、訓練場の外に瞬間移動する。
外に出ると、王都中が混乱していた。
建物が揺れ、人々が悲鳴を上げている。
「大丈夫か!?」
俺が近くの人に声をかける。
「だ、大丈夫です……でも、建物が……」
見ると、いくつかの建物が倒壊している。
「くっ……」
『旦那様、リナリア様たちは無事です。自宅の建物は魔法で強化されているので、倒壊の心配はありません』
「そうか……よかった」
俺が安堵する。
その時、揺れが止まった。
静寂が戻る。
「……終わったか?」
『はい。余震の可能性はありますが、今のところ大丈夫です』
「よし……それじゃあ、被害状況を確認しないと」
俺が周囲を見回す。
幸い、王都の被害はそれほど大きくなかった。倒壊した建物は数軒程度で、死傷者も出ていないようだ。
「魔法で強化された建物が多いからな……それが幸いしたか」
『ええ。でも、油断はできません。余震が来る可能性もあります』
「そうだな……」
俺が自宅に戻ろうとした時、遠くから使者が走ってくるのが見えた。
「一ノ瀬悠真殿!」
「ん?」
息を切らせた使者が俺の前で立ち止まる。
「国王陛下が、至急お呼びです!」
「また城からか……」
俺が思わず苦笑する。
最近、城からの呼び出しが本当に多い。魔王討伐の後、様々な相談事や依頼が舞い込んでくる。
「最近多いなぁ……」
『旦那様、人望がある証拠ですよ♪』
アイが笑う。
「そうかもしれないけど、ゆっくりしたいんだよなぁ……」
『ふふ、文句を言いながらも、断らないのが旦那様の優しいところです』
「うるさいぞ」
俺が軽く頭を小突くと、アイは「痛いです~」と可愛く抗議した。
「わかった。すぐに向かう」
使者に答え、俺は城へと向かった。
王城に到着すると、いつものように謁見の間に通された。
「一ノ瀬悠真、参上しました」
俺が片膝をつくと、玉座からアルフレッド国王が立ち上がった。
「悠真殿、来てくれたか。すまないな、急な呼び出しで」
「いえ、大丈夫です。それで、今日はどのような御用でしょう?」
俺が尋ねると、国王は少し困った顔をした。
「実は……今回は私ではなく、妻からの依頼なのだ」
「地震の話じゃないのですか?」
俺が驚く。
「ああ、そちらの対応は余が行う」
「…」
玉座の横からイザベラ王妃が優雅に現れた。
「お久しぶりです、悠真様」
「王妃様……お久しぶりです」
俺が一礼すると、イザベラは柔らかく微笑んだ。
「地震、大丈夫でしたか?」
「はい。幸い、自宅も仲間たちも無事です」
「それは何よりです」
イザベラが安堵の表情を見せる。
「それで、王妃様からの依頼とは?」
俺が尋ねると、イザベラは少し恥ずかしそうに言った。
「実は……三日後の夜、秘密のオークションがあるのです」
「オークション?」
「ええ。王族や貴族だけが参加できる、特別なオークションです。そこで、私はどうしても手に入れたいものがあるのですが……」
イザベラが言葉を選ぶように続ける。
「最近、物騒な事件も多いですし……護衛をお願いできないかと思いまして」
「護衛ですか……」
俺が考える。
確かに、最近は魔族の残党や盗賊団の活動が活発化している。王妃が夜に外出するなら、護衛は必要だろう。
「わかりました。お引き受けいたします」
「本当ですか!ありがとうございます」
イザベラが嬉しそうに微笑む。
「それで、護衛は悠真様お一人でお願いしたいのです」
「一人……ですか?」
「ええ。あまり大勢で行くと、かえって目立ってしまいますから。悠真様ほどの実力者なら、お一人でも十分かと」
「なるほど……」
俺が納得する。
『旦那様、私も行きます♪』
アイが脳内で主張する。
「あ、ちなみに俺の相棒であるアイも一緒に行くことになりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。アイさんは頼もしい方ですから」
イザベラが笑顔で答える。
「それと……もし悠真様がオークションで欲しいものがあれば、私が購入して差し上げます。お礼として」
「え、いいんですか?」
「ええ。護衛のお礼ですから」
イザベラが優雅に微笑む。
「ありがとうございます」
俺が頭を下げる。
「では、三日後の夜、王城の裏門でお待ちしています」
「承知しました」
こうして、俺はイザベラ王妃の護衛を引き受けることになった。
三日後の夜。
俺は王城の裏門に立っていた。
夜空には満月が輝き、周囲を柔らかく照らしている。
「旦那様、準備はいいですか?」
アイが俺の肩に座りながら尋ねる。
「ああ。でも、まさかお前もついてくることになるとはな」
「当然です♪旦那様を一人にはできませんから」
実は、出発前にアイが「私も行く!」と主張して聞かなかったのだ。
「一人で大丈夫だって言ったのに……」
「ダメです!旦那様が危険な目に遭ったらどうするんですか!」
「危険って……ただのオークションだぞ?」
「でも、もしかしたら敵が襲ってくるかもしれないじゃないですか!」
「それは考えすぎだろ……」
「とにかく、私も行きます!これは譲れません!」
アイが頬を膨らませる。
結局、俺は根負けして、アイも一緒に行くことになった。
「ふふ、アイさんは本当に悠真様のことが大好きなのですね」
後ろから、優雅な声が聞こえた。
振り返ると、イザベラ王妃が立っていた。
深い青のドレスを纏い、金髪を優雅にまとめている。その美しさは、娘であるリナリアにも引けを取らない。
「王妃様」
「お待たせしました、悠真様」
「いえ、こちらこそ」
俺が一礼する。
「それでは、参りましょう」
イザベラが歩き出す。
俺とアイがそれに続く。
裏門を出ると、そこには豪華な馬車が待っていた。
「こちらにお乗りください」
御者が扉を開ける。
俺たちが馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
馬車の中は広々としており、ふかふかのクッションが敷かれている。
「オークション会場は、王都から少し離れた場所にあります。到着まで約一時間ほどかかります」
イザベラが説明する。
「なるほど……それで、今日のオークションではどのようなものが出品されるのですか?」
俺が尋ねると、イザベラは楽しそうに答えた。
「美術品や宝飾品、古代の魔法具、珍しい素材……様々なものが出品されます。中には、とても貴重なものも」
「貴重なもの……」
「ええ。私が欲しいのは、古代魔法文明の遺物です。夫へのプレゼントとして」
「国王陛下へのプレゼントですか」
「ええ。結婚記念日が近いものですから」
イザベラが優しく微笑む。
「王妃様、とても仲が良いんですね♪」
アイが嬉しそうに言う。
「ふふ、ありがとうございます。夫とは長い付き合いですが、今でも大切に思っています」
イザベラの言葉に、温かさを感じた。
馬車は夜道を進む。
窓の外には、月明かりに照らされた森が広がっている。
時々、野生動物の鳴き声が聞こえる。
「旦那様、周囲に敵の気配はありません。安全です」
アイが警戒しながら報告する。
「そうか。でも、油断するなよ」
「はい♪」
一時間後、馬車は森の中の屋敷の前で止まった。
「到着しました」
御者が扉を開ける。
俺たちが馬車から降りると、目の前には豪華な屋敷が聳え立っていた。
石造りの建物で、窓からは暖かい光が漏れている。
「ここが会場ですか……」
「ええ。では、中に入りましょう」
イザベラが先頭に立って歩く。
屋敷の入口には、黒いスーツを着た男が立っていた。
「招待状を」
男が無表情で手を差し出す。
イザベラが招待状を渡すと、男はそれを確認して頷いた。
「どうぞ、お入りください」
重厚な扉が開かれる。
中に入ると、豪華なエントランスホールが広がっていた。
シャンデリアが煌々と輝き、赤い絨毯が敷かれている。
周囲には、貴族らしき人々が集まっており、談笑している。
「すごい……」
俺が思わず呟く。
「旦那様、この屋敷、魔法で強化されています。おそらく、外からの侵入を防ぐためですね」
アイが分析する。
「なるほど……セキュリティはしっかりしてるってことか」
「ええ。でも、私たちには関係ありませんね♪」
アイが自信満々に言う。
イザベラに案内され、俺たちはオークション会場へと向かった。
会場は広いホールで、中央には舞台がある。
客席には、豪華な椅子が並んでいる。
「悠真様、こちらへ」
イザベラが俺を案内し、最前列の席に座る。
俺とアイもその隣に座った。
やがて、オークションが始まる。
舞台に、司会者が現れた。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。それでは、オークションを開始いたします」
司会者の声に、会場が静まり返る。
「最初の出品物は、古代魔法文明の壺でございます」
舞台に、美しい壺が運ばれてくる。
青と金で装飾された、芸術的な壺だ。
「こちらの壺は、約千年前の古代魔法文明で作られたもので、魔力を蓄える機能があると言われています。開始価格は、10000ルスです」
「10000ルス!」
すぐに、ある貴族が手を挙げる。
「15000ルス!」
別の貴族が競り上げる。
「20000ルス!」
「25000ルス!」
次々と価格が上がっていく。
最終的に、壺は50000ルスで落札された。
「すごい金額だな……」
俺が呟くと、イザベラが笑った。
「ここに来る人々は、皆お金持ちですから」
「そうですね……」
「旦那様、私たちも負けてられませんね♪」
アイが意気込む。
その後も、様々な品物が出品された。
絵画、彫刻、宝石、魔法具……どれも高額で取引される。
イザベラは、いくつかの美術品を落札した。
「これは、夫の書斎に飾りましょう」
「こちらは、リナリアの部屋に」
「あら、これも素敵ですね」
次々と購入していくイザベラ。
その金額に、俺とアイは思わず顔を見合わせた。
「すごい買い物だな……」
「さすが王妃様……財力が桁違いです……」
アイが呆然としている。
イザベラはすでに10点以上の品物を落札しており、その総額は優に100万ルスを超えている。
「王妃様、そんなに買って大丈夫なんですか……?」
俺が心配になって尋ねると、イザベラは涼しい顔で答えた。
「大丈夫ですよ。国の予算ではなく、私の個人的な貯金ですから」
「個人的な貯金で100万ルス……」
俺が絶句する。
「旦那様、私たちも頑張らないとですね……」
「ああ……」
俺とアイがドン引きしている間にも、オークションは続いていく。
そして――
「さて、次の出品物は……少し特別なものでございます」
司会者の声が、いつもと違う雰囲気を帯びる。
会場がざわめく。
「こちらは……人間でございます」
舞台に、檻が運ばれてくる。
その中には、何人かの人間が座っていた。
「奴隷のオークションか……」
俺が眉をひそめる。
この世界には、奴隷制度が存在する。戦争捕虜や犯罪者、借金を返せなくなった者たちが、奴隷として売買される。
俺はこの制度があまり好きではないが、この世界の文化なので、どうしようもない。
「最初は、こちらの女性です。料理が得意で、貴族の屋敷で働いていた経験があります。開始価格は5000ルスです」
「5000ルス!」
すぐに、ある貴族が手を挙げる。
女性は、すぐに落札された。
その後も、何人かの奴隷が出品され、次々と落札されていく。
俺は、複雑な気持ちでそれを見ていた。
助けたいという気持ちはある。だが、全員を助けることはできない。
「旦那様……」
アイが俺の気持ちを察して、そっと手を握る。
「ああ……大丈夫だ」
俺がアイに微笑みかける。
その時――
「次の出品物は、こちらの少女です」
司会者が指差す。
舞台に、一人の少女が連れてこられた。
その瞬間、俺は息を呑んだ。
少女は、明らかに俺がいた世界――日本人だった。
黒髪、黒い瞳、整った顔立ち。
そして、ボロボロの服を着ている。
服は、ジーンズとTシャツ……まさに、現代日本の服装だ。
「この少女は、珍しい容姿と、謎の知識を持っています。開始価格は10000ルスです」
「異世界……」
俺が呟く。
少女の目には、恐怖と諦めが混ざっている。
震える体。涙の跡。
見るからに、辛い目に遭ってきたことが分かる。
「旦那様……」
「ああ……助けるぞ」
俺が決意を固める。
「15000ルス!」
俺が手を挙げる。
会場が俺の方を振り返る。
「20000ルス!」
すぐに、別の男が競り上げる。
見ると、太った中年の男だった。下卑た笑みを浮かべ、少女を舐めるように見ている。
明らかに、良からぬことを考えている。
「25000ルス!」
俺が即座に競り上げる。
「30000ルス!」
男がさらに競り上げる。
「35000ルス!」
「40000ルス!」
「50000ルス!」
俺が一気に金額を上げる。
会場がざわめく。
「60000ルス!」
男が負けじと競り上げる。
「くそ……」
俺が歯噛みする。
「旦那様、資金は十分にあります。躊躇う必要はありません」
アイが俺を励ます。
「ああ……そうだな」
俺が深呼吸する。
魔王討伐の報酬や、商売で得た利益で、俺には十分な資金がある。
この少女を助けるためなら、いくらでも出せる。
「100000ルス!」
俺が一気に倍以上の金額を提示する。
会場が静まり返る。
男が、俺を睨みつける。
「くっ……150000ルス!」
「200000ルス!」
俺が即座に競り上げる。
もう、躊躇はしない。
この少女を、絶対に助ける。
「250000ルス!」
「300000ルス!」
「350000ルス!」
「400000ルス!」
俺が冷静に、しかし力強く金額を提示する。
男の顔が歪む。
「くそっ……450000ルス!」
「500000ルス」
俺が静かに、しかし確固とした声で言う。
会場が完全に静まり返る。
50万ルス……日本円にして5000万円だ。
奴隷一人に、この金額を出すのは異常だ。
だが、俺は構わない。
同じ世界から来た少女を、助けることができるなら。
男が、俺を睨みつける。
そして――
「……くそっ!」
男が舌打ちして、手を下ろした。
「500000ルス、他にございませんか?……ございませんね。それでは、こちらの少女は500000ルスで落札です!」
司会者が木槌を叩く。
「やった……」
俺が安堵の息を吐く。
「旦那様、よくやりました♪」
アイが俺の頬にキスをする。
イザベラも、優しく微笑んでいた。
「悠真様、素晴らしい判断です」
「ありがとうございます」
オークションが終わり、俺は少女を引き取りに行った。
別室で、少女が座っていた。
首には奴隷の首輪がつけられ、手には鎖がつけられている。
「……」
少女は俯いており、表情が見えない。
「やあ……」
俺が声をかけると、少女がビクッと体を震わせる。
「大丈夫だ。怖がらなくていい」
俺が優しく声をかける。
「……誰……ですか……?」
少女が小さく、震える声で尋ねる。
「俺は一ノ瀬悠真。君を買った者だ」
「……買った……」
少女の声が絶望に沈む。
「でも、安心してくれ。俺は君を奴隷として扱うつもりはない」
「……え?」
少女が顔を上げる。
涙で濡れた瞳が、俺を見つめる。
「俺は、君を助けたいんだ。だから、まずは名前を教えてくれないか?」
俺が優しく尋ねる。
少女は、しばらく俺を見つめた後、小さく答えた。
「……志賀桜……です……」
「桜……いい名前だな」
俺が微笑む。
「俺は一ノ瀬悠真。改めてよろしく、桜」
「……よろしく……」
桜が小さく頷く。
「それと、これは俺の相棒のアイだ」
「はじめまして、桜さん♪私はアイです」
アイが挨拶する。
桜は、アイを見て驚いた表情を見せた。
「天使様……?」
「ええ、まあそんなところです♪」
アイが微笑む。
「それで、桜。君に伝えたいことがあるんだ」
俺が真剣な表情で言う。
「……なんですか……?」
「俺も、君と同じ世界から来たんだ」
「……え?」
桜の目が見開かれる。
「俺も、日本から異世界に転生してきた。だから、君の気持ちがよくわかる」
「……本当に……?」
桜の声が震える。
「ああ、本当だ」
俺が頷く。
その瞬間――
「うああああん!」
桜が泣き出した。
そして、俺に抱きついてきた。
「よかった……よかったです……同じ世界の人が……助けてくれて……」
桜が俺の胸で泣く。
俺は、そっと桜の背中を撫でる。
「大丈夫だ。もう安心していい」
「……怖かったんです……この世界に来てから……ずっと……」
桜が震えながら話す。
「最初は、女神様に召喚されて……でも、気づいたら奴隷商人に捕まっていて……」
「奴隷商人に……?」
「はい……女神様が、私を間違った場所に転生させてしまったみたいで……」
桜が涙を流しながら説明する。
「私は、いきなり奴隷市場に現れたんです……そして、すぐに捕まって……」
「それから、色々な人に買われて……売られて……」
桜の声が震える。
「辛い目に……遭いました……暴力を受けたり……食事を与えられなかったり……」
俺の拳が、思わず握りしめられる。
「そうか……辛かったな」
「……はい……」
桜が頷く。
「でも、もう大丈夫だ。俺が君を守る」
俺が優しく言う。
「……本当に……?」
「ああ、本当だ。君はもう、奴隷じゃない。自由だ」
俺が桜の首輪に手を当てる。
俺が魔力を流し込むと、首輪が光り、そして砕け散る。
「え……」
桜が驚く。
「これで、君は自由だ」
俺が微笑む。
桜は、自分の首に手を当てる。
首輪がない。
自由だ。
「……ありがとう……ございます……」
桜がまた泣き出す。
今度は、嬉しさの涙だった。
「本当に……ありがとうございます……」
桜が何度も何度も、お礼を言う。
「気にするな。同じ日本人として、放っておけなかっただけだ」
俺が桜の頭を撫でる。
「それで、桜。これからどうしたい?」
「……え?」
「君は自由だ。だから、これからのことは君が決めていい。俺の家で一緒に暮らすこともできるし、別の場所に行くこともできる」
俺が優しく尋ねる。
桜は、しばらく考えた後、小さく答えた。
「……一緒に……いてもいいですか……?」
「もちろんだ」
俺が即答する。
「ありがとうございます……」
桜が安心した表情を見せる。
『桜さん、これから仲良くしましょうね♪』
アイが微笑む。
「……はい……よろしくお願いします……」
桜が小さく微笑んだ。
その笑顔を見て、俺は心から安心した。
桜を助けることができて、本当によかった。
オークション会場を出ると、イザベラが待っていた。
「悠真様、お疲れ様でした」
「王妃様、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。護衛をしていただき、ありがとうございました」
イザベラが優雅にお辞儀をする。
「それで……その子が?」
イザベラが桜を見る。
「はい、桜と言います」
「そうですか……」
イザベラが優しく微笑む。
「悠真様は、本当に優しい方ですね」
「いえ……当然のことをしただけです」
俺が謙遜する。
「それでは、お帰りになられますか?」
「はい」
俺たちは馬車に乗り込み、王都へと戻った。
馬車の中で、桜は俺の隣に座っていた。
疲れているのか、少しうとうとしている。
「……すぅ……すぅ……」
桜の寝息が聞こえる。
「よっぽど疲れてたんだな……」
俺が呟く。
『そうですね……ずっと辛い思いをしてきたんでしょう……』
アイが悲しそうに言う。
「ああ……でも、もう大丈夫だ。これからは、俺たちが桜を守る」
『はい♪』
アイが頷く。
王都に到着すると、俺たちは自宅に戻った。
「ただいま」
俺が扉を開けると、リナリアたちが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、悠真さん」
「悠真様、お疲れ様です」
「お兄ちゃん、お帰り~」
みんなが笑顔で迎えてくれる。
「ただいま。それと、新しい仲間を紹介するよ」
俺が桜を前に出す。
「……初めまして……桜です……」
桜が緊張しながら挨拶する。
「まあ、可愛らしい方ですね」
リナリアが微笑む。
「桜さん、よろしくお願いします」
エリアが丁寧に挨拶する。
「わあ、新しいお友達だ!よろしくね、桜ちゃん!」
リリィが嬉しそうに手を振る。
「ようこそ。ここは安全な場所よ。安心してね」
エリーゼが優しく言う。
「……はい……ありがとうございます……」
桜が小さく微笑む。
「それじゃあ、桜の部屋を用意しないとな」
「わたくしが案内いたします」
シルヴィアが桜を案内する。
二人が階段を上がっていくのを見送りながら、俺は深く息を吐いた。
「今日は疲れたな……」
『お疲れ様です、旦那様♪』
アイが俺の肩に座る。
「でも、桜を助けることができてよかった」
「ええ。桜さん、これから幸せになれるといいですね」
『はい♪私たちが守りますから』
アイが力強く言う。
「ああ、そうだな」
俺が微笑む。
新しい仲間、桜。
彼女を守り、この世界で幸せに生きていけるように、俺たちは全力でサポートする。
そう、心に誓った夜だった。
翌朝。
俺は朝日と共に目を覚ました。
「ふわあ……」
大きく伸びをして、ベッドから起き上がる。
窓の外を見ると、穏やかな朝の光が王都を照らしている。
「今日も平和な一日になりそうだな」
俺が呟く。
『おはようございます、旦那様♪』
アイが俺の隣で目を覚ます。
「おはよう、アイ」
俺がアイの頭を撫でる。
「それじゃあ、朝食の準備をしないとな」
俺が服を着替え、階下へと降りる。
ダイニングに行くと、すでにシルヴィアが朝食の準備をしていた。
「おはようございます、悠真様」
「おはよう、シルヴィア」
「今日の朝食は、オムレツとサラダとパンです」
「いつもありがとうな」
俺が席に着くと、次々とみんなが集まってくる。
リナリア、エリア、リリィ、エリーゼ。
そして――
「……おはようございます……」
桜が、恥ずかしそうに現れた。
昨夜、シルヴィアが用意してくれた服を着ている。白いブラウスに青いスカート。とても似合っている。
「おはよう、桜。よく眠れたか?」
「……はい……久しぶりに、ちゃんとしたベッドで眠れました……」
桜が小さく微笑む。
「それはよかった。さあ、座って。朝食を食べよう」
「……はい……」
桜が席に着く。
みんなで「いただきます」と言って、朝食を食べ始める。
「美味しい……」
桜が涙ぐむ。
「どうした?」
「……こんなに美味しいご飯……久しぶりで……」
桜が涙を拭う。
奴隷時代は、まともな食事も与えられなかったのだろう。
「これから毎日、美味しいご飯が食べられるからな」
俺が優しく言う。
「……はい……ありがとうございます……」
桜が微笑む。
その笑顔を見て、みんなも微笑んだ。
朝食を食べ終えた後、俺は桜を呼んだ。
「桜、少し話があるんだ」
「……はい……」
桜が緊張する。
「心配するな。悪い話じゃない」
俺が微笑む。
「これから、君にはこの家で暮らしてもらう。でも、ただ暮らすだけじゃなくて、君も何か役割を持った方がいいと思うんだ」
「……役割……ですか……?」
「ああ。例えば、家事を手伝ったり、商売を手伝ったり……君にできることをやってもらえればいい」
俺が説明する。
「……私にできること……」
桜が考える。
「無理はしなくていい。ゆっくり考えて、自分にできることを見つけていけばいい」
「……はい……頑張ります……」
桜が決意を込めて頷く。
「それと、もう一つ」
俺が真剣な表情で言う。
「君は、もう奴隷じゃない。だから、俺のことを『ご主人様』とか呼ぶ必要はない。普通に『悠真さん』とか呼んでくれればいい」
「……でも……」
「君は、俺たちの仲間だ。対等な関係でいたい」
俺が優しく言う。
桜は、しばらく俺を見つめた後、小さく頷いた。
「……わかりました……悠真……さん……」
「ああ、それでいい」
俺が微笑む。
「桜さん、一緒に頑張りましょうね♪」
アイが励ます。
「……はい……アイさん……」
桜が微笑む。
こうして、桜は俺たちの新しい仲間になった。
彼女がこの世界で幸せに生きていけるように、俺たちは全力でサポートする。
そう、心に誓った朝だった。
数日後。
桜は少しずつ、この家での生活に慣れてきた。
最初は緊張していた彼女も、今では自然な笑顔を見せるようになった。
「悠真さん、お茶をどうぞ」
桜が俺にお茶を差し出す。
「ありがとう、桜」
俺がお茶を受け取る。
桜は、家事を手伝うことを自分の役割に決めたようだ。
シルヴィアと一緒に料理をしたり、掃除をしたり、洗濯をしたり。
最初は不慣れだったが、シルヴィアの丁寧な指導のおかげで、すぐに上達した。
「桜さん、とても飲み込みが早いですわ」
シルヴィアが褒める。
「……ありがとうございます……でも、まだまだです……」
桜が謙遜する。
その姿を見て、俺は心から安心した。
桜は、少しずつだが確実に、この世界での生活に適応している。
そして、笑顔が増えている。
それが何より嬉しい。
「悠真さん」
桜が俺に声をかけてくる。
「ん?どうした?」
「……あの……本当にありがとうございます……」
桜が深々と頭を下げる。
「私を助けてくれて……ここで暮らさせてくれて……」
「気にするな。当然のことをしただけだ」
俺が微笑む。
「……でも……私……何も返せるものがなくて……」
「返すものなんていらないよ。君が笑顔でいてくれるだけで十分だ」
俺が優しく言う。
「……悠真さん……」
桜の目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます……」
桜が微笑む。
その笑顔は、初めて会った時とは全く違う、本当に幸せそうな笑顔だった。
「桜さん、本当に良い笑顔になりましたね♪」
アイが嬉しそうに言う。
「……はい……皆さんのおかげです……」
桜が照れながら答える。
こうして、俺たちの家族に新しいメンバーが加わった。
桜――同じ世界から来た、大切な仲間。
彼女と共に、これからも平和な日々を過ごしていく。
そう、心に誓った日々だった。
その夜、俺は一人でバルコニーに立っていた。
星空を見上げながら、今日一日のことを振り返る。
「色々あったな……」
俺が呟く。
「旦那様、何を考えているんですか?」
アイが俺の肩に座る。
「いや、桜のことを考えていてな」
「桜さん、最近笑顔が増えましたね」
「ああ。それが何より嬉しい」
俺が微笑む。
「同じ世界から来た仲間を助けることができて、本当によかった」
『はい♪これからも、みんなで幸せに暮らしましょうね』
アイが優しく言う。
「ああ、そうだな」
俺たちは、しばらく星空を見上げていた。
穏やかで、温かい夜だった…
――私の名前は、志賀 桜。悠真さんに助けられるまで、私はずっと暗闇の中にいました。異世界に転生したと思ったら、いきなり奴隷市場。
誰も信じられない。誰も助けてくれない。
毎日が恐怖で、絶望しかありませんでした。でも……悠真さんが現れてくれた。オークション会場で、あの変態が私を買おうとしていた時。
悠真さんは、躊躇なく大金を払って私を救ってくれました。「俺も、君と同じ世界から来たんだ」その言葉を聞いた時、涙が止まりませんでした。同じ日本人。同じ世界から来た人。
初めて、この世界で心から安心できた瞬間でした。今は、悠真さんたちと一緒に暮らしています。
リナリアさん、エリアさん、リリィちゃん、シルヴィアさん、エリーゼさん、そしてアイさん。
みんな優しくて、温かくて。私、もう大丈夫です。
ここが、私の居場所だから。これから、恩返しができるように頑張ります。
―― 桜




