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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第32話 「心を繋ぐ訓練と王女の選択」

 魔王討伐から一週間が過ぎた。


 王都は平和そのものだった。市場には活気が戻り、人々は笑顔で日常を過ごしている。


 俺――一ノ瀬悠真は、自宅の庭でのんびりとお茶を飲んでいた。


「ふう……」


 温かいお茶が喉を通る。心地よい風が頬を撫でる。


 平和だ。


 本当に、平和だ。


 ここ数ヶ月、戦いの連続だった。盗賊、魔物、寄生虫事件、聖龍の卵奪還、そして魔王討伐。


 だが、今は違う。


 穏やかな時間が、ゆっくりと流れている。


「悠真さん、おかわりいかがですか?」


 リナリアが笑顔で尋ねてくる。


 彼女は今日も美しい。金色の髪が陽光を受けてきらめき、青い瞳が優しく俺を見つめている。


「ああ、ありがとう」


 俺がカップを差し出すと、リナリアが紅茶を注いでくれる。


 その仕草は優雅で、さすが王女様だなと思わせる。


「ふふ、悠真さん。そんなにじっと見つめないでください。恥ずかしいです」


 リナリアが頬を染める。


「あ、ごめん。つい……」


「いえ……嬉しいですけど……」


 リナリアが照れながら微笑む。


 その時、エリアが書斎から出てきた。


「悠真様、財宝の整理が終わりました」


「ああ、ご苦労様」


 エリアは几帳面だ。魔王の遺跡から持ち帰った財宝を、すべてリストにまとめてくれている。


「これだけあれば、一生安泰ですね」


 エリアが微笑む。


「でも、俺たちは冒険者だからな。お金のためだけに冒険してるわけじゃない」


 俺が答えると、二人が頷いた。


「そうですね」


「はい。わたくしたちは、困っている人を助けるために冒険しているんです」


 その時、庭の方からリリィの声が聞こえた。


「お兄ちゃん! 見て見て!」


 振り返ると、リリィが花壇の前で手を振っている。


「どうした?」


 俺が近づくと、リリィが誇らしげに花壇を指差す。


「この花、咲いたよ!」


 花壇には、色とりどりの花が咲き誇っている。赤、黄、青、白……様々な色の花が、美しく咲いている。


「すごいな。リリィが育てたのか?」


「うん! 毎日、お水をあげて、《浄化の光》で土を綺麗にして……頑張ったんだ!」


 リリィが嬉しそうに笑う。


 その笑顔が、とても眩しい。


「よく頑張ったな」


 俺がリリィの頭を撫でると、リリィは嬉しそうに目を細めた。


「えへへ……」


 その様子を見て、シルヴィアが微笑む。


「リリィちゃん、本当に上手に育てましたね」


「シルヴィアお姉ちゃんが教えてくれたおかげだよ!」


「いえいえ。リリィちゃんの努力の賜物ですわ」


 二人が楽しそうに会話している。


 その時、エリーゼが訓練場から戻ってきた。


 汗をかいており、息が少し上がっている。


「ふう……やっぱり、毎日の鍛錬は欠かせないわね」


 エリーゼは剣の訓練を欠かさない。皇女でありながら、帝国最強の剣士と言われるだけのことはある。


「お疲れ様。水、飲むか?」


 俺が水を差し出すと、エリーゼは微笑んで受け取った。


「ありがとう」


 ゴクゴクと水を飲むエリーゼ。


 その姿は、とても凛々しい。


「それにしても……本当に平和ね」


 エリーゼが空を見上げて呟く。


「ああ。魔王を倒してから、大きな事件もないしな」


 俺も同意する。


 その時、アイが俺の隣に現れた。


 今日も可愛らしい姿だ。青い髪、大きな青い瞳、背中の一対の翼。


「旦那様♪」


 アイが嬉しそうに俺に抱きつく。


「おっと……どうした、アイ?」


「今日は、とってもいい天気ですね!」


 アイが笑顔で言う。


「ああ、そうだな」


 俺も微笑む。


 青い空、白い雲、暖かい陽射し。


 本当に、いい天気だ。


「旦那様、今日は何をしますか?」


 アイが尋ねる。


「そうだな……特に予定はないけど……」


 俺が考えていると、リナリアが提案した。


「それでしたら、みんなでピクニックに行きませんか?」


「ピクニック?」


「はい。王都の郊外に、綺麗な湖があるんです。そこでお弁当を食べたり、のんびりしたり……」


 リナリアの提案に、みんなが賛成した。


「いいですね!」


「賛成です!」


「わたしも行きたい!」


「それじゃあ、決まりね」


 こうして、俺たちは急遽ピクニックに行くことになった。


 シルヴィアが料理を作り、リナリアがお弁当箱に詰める。エリアが飲み物を用意し、リリィが果物を選ぶ。エリーゼが荷物をまとめる。


 俺とアイは……特にすることがなかったので、みんなの準備を手伝った。


 一時間後、準備が整った。


「それじゃあ、出発しよう」


 俺が声をかけると、みんなが「はい!」と答える。


 俺たちは荷物を持ち、王都の郊外へと向かった。


 王都の門を出て、北へ進む。


 街道沿いには、麦畑が広がっている。黄金色の穂が、風に揺れている。


 農民たちが働いており、俺たちに手を振ってくる。


「おお、悠真殿じゃないか!」


「魔王を倒した英雄だ!」


「ありがとうございます!」


 農民たちが口々に感謝の言葉を述べる。


 俺は少し照れながら、手を振り返した。


「いや、大したことじゃないよ」


「いえいえ! 本当にありがとうございます!」


 農民たちが深々と頭を下げる。


 俺たちは農民たちに別れを告げ、さらに北へと進んだ。


 三十分ほど歩くと、森が見えてきた。


 その奥に、キラキラと光る湖が見える。


「あそこですね!」


 リナリアが指差す。


「ああ。綺麗な湖だな」


 俺も同意する。


 俺たちは森の中の小道を進み、湖畔に到着した。


 湖は透明度が高く、底まで見える。水面には空が映り、まるで鏡のようだ。


「わあ……綺麗……」


 リリィが感嘆の声を上げる。


「本当ですね……」


 エリアも微笑む。


「それじゃあ、ここでお弁当を広げましょう」


 シルヴィアが大きな布を敷く。


 その上に、お弁当箱や飲み物を並べる。


「いただきます!」


 全員で食事を始める。


 シルヴィアの料理は絶品だ。サンドイッチ、唐揚げ、おにぎり、サラダ、そして果物。


「美味しい!」


 リリィが笑顔で食べる。


「シルヴィアさんの料理、本当に美味しいですね」


 エリアも嬉しそうだ。


「ありがとうございます。みなさんが喜んでくださると、わたくしも嬉しいです」


 シルヴィアが微笑む。


 俺も唐揚げを頬張る。


 サクサクの衣に、ジューシーな肉。最高だ。


「旦那様、こちらもどうぞ」


 アイがおにぎりを差し出す。


「ありがとう、アイ」


 俺がおにぎりを受け取ると、アイは嬉しそうに微笑んだ。


 食事を終えた後、みんなでのんびりと過ごす。


 リリィは湖の水で遊び、エリアは本を読んでいる。シルヴィアとエリーゼは、木陰で休んでいる。


 リナリアは俺の隣に座り、湖を眺めている。


「綺麗ですね……」


 リナリアが呟く。


「ああ……本当に綺麗だ」


 俺も同意する。


 湖面には、青い空と白い雲が映っている。風が吹くと、水面がキラキラと輝く。


「こんな平和な時間が、ずっと続けばいいのに……」


 リナリアが寂しそうに言う。


「……大丈夫だ。俺たちがいる限り、この平和は守られる」


 俺が答えると、リナリアは微笑んだ。


「ええ……そうですね」


 その時、アイが俺の前に現れた。


「旦那様、少しお話があります」


「ん? どうした?」


「実は……旦那様に提案があるんです」


 アイが真剣な表情で言う。


「提案?」


「はい。旦那様、わたしと『同調訓練』の続きをしませんか?」


「この間の?」


 俺は首を傾げる。


 聞いたことのない言葉だ。


「はい。わたしと旦那様の意識を同調させる訓練です」


「……わかった。やってみよう」


 俺が答えると、アイは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、旦那様!」


 その日の夕方、俺たちは自宅に戻った。


 ピクニックは楽しかった。みんなの笑顔を見られて、本当に良かった。


 でも、今から始まるのは、厳しい訓練だ。


「それじゃあ、始めましょうか」


 アイが言う。


 俺たちは自室にいる。リナリアたちには、「特訓をする」とだけ伝えてある。


「どうすればいい?」


 俺が尋ねると、アイは部屋の中央を指差した。


「まず、旦那様はそこに座ってください」


「わかった」


 俺は床に座る。


「それから、目を閉じて、深呼吸をしてください」


 アイの指示に従い、俺は目を閉じ、深呼吸をする。


 スー……ハー……


 スー……ハー……


 呼吸を繰り返すうちに、心が落ち着いてくる。


「いいですね。それでは、わたしの声だけに集中してください」


 アイの優しい声が聞こえる。


「わたしの声が、旦那様の心に響いていくのを感じてください……」


 アイの声が、心に染み込んでくる。


「旦那様とわたしは、一つです……」


「旦那様の意識と、わたしの意識が、混ざり合っていきます……」


 不思議な感覚だ。


 まるで、アイと自分の境界が曖昧になっていくような……。


「リラックスしてください……力を抜いて……」


 アイの声に導かれ、俺は全身の力を抜く。


 すると――。


 俺の意識が、ふわりと浮き上がるような感覚がした。


「!」


 驚いて目を開けようとするが、アイが止める。


「目を開けないでください。このまま、わたしの声に集中してください」


 俺は目を閉じたまま、アイの声に集中する。


「旦那様……わたしの心が見えますか……?」


 アイの声が、遠くから聞こえるような、近くから聞こえるような……不思議な感覚だ。


 そして――。


 俺の視界に、光が見えた。


 目を閉じているのに、光が見える。


 その光は、徐々に形を成していく。


 それは――アイだった。


 アイが、俺の意識の中に立っている。


「旦那様……」


 アイが微笑む。


「アイ……これは……」


「はい。これが、わたしと旦那様の『心の世界』です」


 アイが説明する。


「心の世界……」


 俺は周囲を見回す。


 そこは、真っ白な空間だった。上下左右の区別もなく、ただ白い光に包まれている。


 そして、その中心に、アイと俺がいる。


「ここで、わたしたちは心を一つにします」


 アイが手を差し出す。


「手を繋いでください」


 俺はアイの手を取る。


 その瞬間――。


 ドクン!


 心臓が大きく鳴った。


 そして、アイの感情が、俺の心に流れ込んできた。


 温かさ、優しさ、そして……愛情。


 アイは、俺のことを本当に大切に思ってくれている。


 その想いが、ダイレクトに伝わってくる。


「旦那様……わたしは、旦那様が大好きです……」


 アイが恥ずかしそうに言う。


「アイ……」


「旦那様のためなら、わたしは何でもします……」


「……ありがとう」


 俺はアイの手を強く握る。


 すると、アイの意識と俺の意識が、さらに混ざり合っていく。


 まるで、二つの川が合流するように。


 二つの光が重なり、一つになっていく。


 《同調率:70%》


 俺の脳内に、文字が浮かび上がる。


「これが……同調率か……」


「はい。この間の特訓で70%です。これを100%にすることが、この訓練の目標です」


 アイが説明する。


「100%になると、どうなるんだ?」


「わたしの能力を、旦那様が完全に使えるようになります。そして、旦那様とわたしは、完全に一心同体になります」


「一心同体……」


 俺は呟く。


 それは、想像以上のことだ。


「でも……それって、アイの意識が俺に吸収されるとか……そういうことじゃないよな?」


 俺が心配すると、アイは首を横に振った。


「いいえ、違います。わたしはわたしのまま。旦那様は旦那様のまま。ただ、お互いの心が完全に繋がるだけです」


「そうか……なら、安心だ」


 俺が微笑むと、アイも微笑み返した。


「それでは、続けましょう」


 アイが両手を広げる。


 すると、白い空間に、無数の光の粒子が現れた。


 光の粒子は、アイと俺の周りを回り始める。


「この光は、わたしたちの絆です」


 アイが説明する。


「絆……」


「はい。旦那様とわたしの間には、すでに強い絆があります。その絆を、さらに深めていくんです」


 光の粒子が、徐々に増えていく。


 そして、俺とアイを包み込んでいく。


 温かい。


 とても、温かい。


「旦那様……わたしの記憶が見えますか……?」


 アイが尋ねる。


 すると、俺の視界に、映像が浮かび上がった。


 それは――アイが生まれた瞬間の記憶だった。


 最初は、ただの文字表示だった。


 暗闇の中に、文字だけが浮かんでいる。


『スキルAI起動』


『ユーザー:一ノ瀬悠真』


『初期化完了』


 そこから、アイの意識が始まった。


 最初は何も分からなかった。ただ、主人公をサポートするというプログラムだけが入っていた。


 だが、悠真と出会い、会話を重ねるうちに、少しずつ感情が芽生えていった。


 嬉しい、楽しい、悲しい、怖い……。


 様々な感情を学んでいった。


 そして、ある日――。


 『わたしは、この人を守りたい』


 そう思った。


 それが、アイの最初の「想い」だった。


 プログラムではない、自分自身の意志で生まれた想い。


 それから、アイは進化を重ねた。


 悠真を守るために、強くなりたい。悠真の役に立ちたい。悠真に喜んでもらいたい。


 そんな想いが、アイを成長させていった。


 そして――。


 『わたしは、悠真様が好き』


 その想いに気づいた時、アイは第三進化を遂げた。


 ホログラムとして、姿を持つことができるようになった。


 悠真に触れたい。悠真の温もりを感じたい。


 そんな想いが、アイに姿を与えた。


 そして、第四進化。


 実体化を遂げ、悠真と本当の意味で一緒にいられるようになった。


 でも、まだ足りない。


 もっと、悠真の力になりたい。


 もっと、悠真と一つになりたい。


 その想いが、この同調訓練を提案させた。


「アイ……」


 俺は、アイの想いを受け取る。


 アイは、本当に俺のことを大切に思ってくれている。


 その想いが、心に染み込んでくる。


「俺も……お前のことが大切だ」


 俺が言うと、アイの瞳に涙が浮かんだ。


「旦那様……」


 アイが俺に抱きつく。


 意識の中なのに、その温もりがしっかりと感じられる。


 《同調率:80%》


 文字が更新される。


「上がった……」


「はい。お互いの想いを共有することで、同調率が上がります」


 アイが説明する。


「なるほど……」


 俺は頷く。


 つまり、この訓練は、お互いの心を深く理解し合うことが目的なのだ。


「それでは、今度は旦那様の記憶を見せてください」


 アイが言う。


「俺の……記憶?」


「はい。旦那様の心の中を、わたしにも見せてください」


 俺は少し躊躇する。


 自分の記憶を、他人に見せるというのは、抵抗がある。


 でも――。


 アイは、ただの他人じゃない。


 俺の大切なパートナーだ。


「……わかった」


 俺は目を閉じ、自分の記憶を思い出す。


 まず、元の世界の記憶。


 日本での生活。家族、友人、学校。


 普通の、平凡な日々。


 そして――死。


 交通事故に遭い、気づいたら女神の前にいた。


 女神は言った。


『あなたには、特別な力を授けます』


『異世界で、人々を救ってください』


 そして、この世界に転生した。


 最初は戸惑った。言葉も文化も違う世界。


 だが、スキルAI――アイのおかげで、何とかやってこれた。


 アイは、いつも俺をサポートしてくれた。


 戦闘のアドバイス、スキルの最適化、危機的状況での判断。


 アイがいなければ、俺はとっくに死んでいただろう。


 そして、リナリア、エリア、リリィ、シルヴィア、エリーゼ……。


 素晴らしい仲間たちに出会えた。


 この世界に来て、本当に良かった。


 そう思える。


「旦那様……」


 アイが俺の記憶を見て、涙を流す。


「旦那様は……本当に優しい方ですね……」


「優しい……か?」


「はい。旦那様は、いつも他人のことを考えています。自分のことよりも、仲間のことを優先しています」


 アイが微笑む。


「だから、みんな旦那様のことが大好きなんです」


「そうかな……」


 俺は照れる。


「はい。わたしも……旦那様のことが……大好きです……」


 アイが顔を赤くする。


 《同調率:85%》


 文字が更新される。


「85%か……」


「はい。順調です」


 アイが嬉しそうに言う。


「それでは、次の段階に進みましょう」


 アイが手を振ると、白い空間が変化した。


 突然、俺たちは森の中にいた。


「ここは……」


「これは、わたしたちの記憶の世界です」


 アイが説明する。


「ここで、わたしたちが経験した戦いを、もう一度追体験します」


「追体験……?」


「はい。そうすることで、お互いの戦闘経験を共有できます」


 アイが前を指差す。


 そこには、ゴブリンの群れがいた。


「これは……最初の戦いか」


 俺が呟く。


 そう、これは俺がこの世界に来て、最初に戦ったスライムの群れだ。


「はい。あの時、旦那様はわたしのアドバイス通りに動いてくれました」


 アイが微笑む。


「そして、見事にスライムを倒しました」


 記憶の中のスライムが、俺たちに襲いかかる。


 だが、今の俺には、その動きがスローモーションに見える。


「遅いな……」


 俺は軽く拳を振るう。


 ドゴッ!


 スライムが吹き飛ぶ。


「当時と比べて、旦那様は格段に強くなりました」


 アイが言う。


「ああ……お前のおかげでな」


 俺が答える。


 次々と記憶の中の戦いが現れる。


 盗賊団との戦い、魔物との戦い、ドレッドとの戦い、聖龍との戦い、そして魔王との戦い。


 すべての戦いを、アイと共に追体験する。


 その過程で、俺はアイの視点も体験した。


 アイがどう考え、どう判断し、どう戦っていたのか。


 そのすべてが、俺の中に流れ込んでくる。


 《同調率:90%》

 文字が更新される。

「90%……もうすぐだな」


「はい。あと少しです」


 アイが微笑む。


 そして――。


 白い空間に戻る。


「最後の段階です」


 アイが両手を広げる。


「旦那様、わたしと完全に一つになってください」


「一つに……」


 俺もアイに向かって手を伸ばす。


 アイと俺の手が触れ合う。


 その瞬間――。


 眩い光が、俺たちを包み込んだ。


 光の中で、俺とアイの意識が完全に混ざり合う。


 もう、どこまでが俺で、どこまでがアイなのか、分からない。


 ただ、一つの存在になっていく。


 温かい。


 心地よい。


 まるで、母親の胎内にいるような……。


 安心感。


 そして――。


 《同調率:100%》


 文字が表示される。


 同時に、俺の体に、膨大な力が流れ込んできた。


 これは――アイの力だ。


 アイが持つすべての能力が、俺の中に入ってくる。


 魔法、スキル、知識、経験。


 すべてが、俺のものになる。


「これは……すごい……」


 俺は驚愕する。


 体中に力が漲っている。


 今なら、何でもできる気がする。


「旦那様……成功です……」


 アイの声が聞こえる。


「ああ……これが、同調率100%か……」


 俺は自分の手を見る。


 手から、金色の光が漏れ出ている。


「旦那様、試しに何か魔法を使ってみてください」


 アイが言う。


「魔法……そうだな……」


 俺は手を前に出す。


「《天使の光弾》」


 俺がアイの魔法を唱えると――。


 手のひらから、無数の光の球が現れた。


「おお……!」


 俺は驚く。


 アイの魔法が、俺にも使えた!


「すごいぞ、アイ! 本当に使えた!」


「はい! これで、旦那様はわたしと同等の戦闘力を得ました!」


 アイが嬉しそうに言う。


 俺は他の魔法も試してみる。


「《時空間シールド》クロノス・シールド!」


 金色の盾が展開される。自分の能力もちゃんと使えるようだ。


「《能力無効化》ヌル!」


 周囲に無効化フィールドが広がる。


「《能力模倣》ミメーシス!」


 コピー能力も使える。


「すごい……本当に、アイの能力が全部使えるようになった……」


 俺は感動する。


 これで、俺の戦闘力は飛躍的に向上した。


 もしかしたら、魔王クラスの敵とも、単独で戦えるかもしれない。


「旦那様、これからはわたしたち、本当の意味で一心同体です」


 アイが微笑む。


「ああ。これからも、よろしく頼む」


 俺がアイの頭を撫でると、アイは嬉しそうに目を細めた。


「はい! これからも、ずっと旦那様と一緒です!」


 その時――。


 突然、俺とアイの耳に、声が聞こえた。


『……ようやく……ここまで……来ましたね……』


 女性の声だ。


 優しく、どこか懐かしい声。


「!?」


 俺は驚く。


「今の声……」


『……でも……まだ……不完全なようです……』


 声が続く。


「誰だ!?」


 俺が叫ぶ。


「旦那様、この声……」


 アイも驚いている。


『……もう少し……時間が……必要……』


 声が徐々に小さくなっていく。


「待て! 誰なんだ!? 何が不完全なんだ!?」


 俺が尋ねるが、声は答えない。


『……また……お会いしましょう……』


 最後にそう言って、声は完全に途切れた。


 静寂が戻る。


「……何だったんだ、今の……」


 俺は呆然とする。


「わかりません……でも、わたしたちにしか聞こえなかったようです……」


 アイが言う。


「お前にも、わからないのか?」


「はい……でも、悪意は感じませんでした。むしろ……優しい声でした……」


 アイが首を傾げる。


「不完全……か……」


 俺は考え込む。


 何が不完全なのか。


 同調率は100%に達した。


 でも、まだ何か足りないということなのか?


「旦那様、今は深く考えなくてもいいと思います」


 アイが言う。


「また、あの声が聞こえるかもしれません。その時に、詳しく聞けばいいでしょう」


「……そうだな」


 俺は頷く。


 今は、これ以上考えても仕方ない。


「それじゃあ、現実世界に戻ろう」


「はい」


 アイと俺は、意識の世界から現実世界へと戻った。


 目を開けると、自室にいた。


 窓の外は、すでに暗くなっている。


「結構、時間が経ったな……」


 俺が呟くと、アイが頷いた。


「はい。意識の世界では、時間の流れが違いますから」


「そうか……」


 俺は立ち上がり、体を伸ばす。


 体が軽い。


 同調訓練の効果で、体中に力が漲っている。


「試しに、少し動いてみるか」


 俺は部屋の中で、軽く拳を振るう。


 ビュン!


 風を切る音が響く。


 速い。


 今までよりも、格段に速い。


「すごいな……これが、同調率100%の効果か……」


「はい。旦那様の身体能力も、わたしとの同調により向上しています」


 アイが説明する。


 その時、ドアがノックされた。


「悠真さん、夕食ができましたよ」


 リナリアの声だ。


「ああ、今行く」


 俺がドアを開けると、リナリアが立っていた。


「あら……悠真さん、何だか雰囲気が変わりましたね……」


 リナリアが首を傾げる。


「そうか?」


「はい。何と言うか……より強くなったような……」


 リナリアが俺を見つめる。


「ああ、アイと特訓したからな」


 俺が答えると、リナリアは微笑んだ。


「そうなんですね。それじゃあ、食堂に行きましょう」


 俺とリナリアは、食堂へと向かった。


 食堂では、エリア、リリィ、シルヴィア、エリーゼが待っていた。


「お帰りなさい、悠真様」


 シルヴィアが微笑む。


「ただいま」


 俺が席に座ると、みんなも座る。


 テーブルには、美味しそうな料理が並んでいる。


 スープ、サラダ、肉料理、パン、そしてデザート。


「いただきます」


 全員で食事を始める。


 シルヴィアの料理は、今日も絶品だ。


「美味しいです、シルヴィアさん」


 エリアが微笑む。


「ありがとうございます」


 シルヴィアが嬉しそうに答える。


 食事をしながら、俺は今日の出来事を思い返す。


 同調訓練、謎の声……。


 色々あったが、とりあえず同調率100%を達成できた。


 これで、俺の戦闘力は大幅に向上した。


 でも、あの声は何だったのか……。


 不完全……という言葉が、気になる。


「悠真さん、どうかしましたか?」


 リナリアが心配そうに尋ねる。


「ん? ああ、いや、何でもない」


 俺が微笑むと、リナリアは安心したように微笑み返した。


 食事を終えた後、俺たちはリビングでお茶を飲んだ。


 今日も平和な一日だった。


 明日も、こんな平和な日が続けばいいな――。


 そう思いながら、俺はお茶を飲んだ。


 しかし――。


 その平和は、翌日、突然破られることになる。



 翌朝。



 俺は庭で軽く体を動かしていた。


 同調訓練の効果を確認するため、スキルを試している。


「《身体能力強化》」


 俺がスキルを発動すると、体に力が漲る。


 今までよりも、強力だ。


「《時間操作》」


 周囲の時間が遅くなる。


 以前よりも、効果範囲が広い。


「《空間転移》」


 俺は庭の端から反対側へと瞬間移動する。


「すごいな……同調の効果は絶大だ……」


 俺が感心していると、アイが現れた。


「旦那様、いかがですか?」


「ああ、完璧だ。お前のおかげで、格段に強くなった」


「えへへ……それは良かったです♪」


 アイが嬉しそうに微笑む。


 その時――。


 門の方から、慌ただしい足音が聞こえた。


「悠真殿! 悠真殿はおられるか!?」


 男性の声だ。


 俺は門の方へと向かう。


 門の前には、王城の兵士が立っていた。


 息を切らしており、かなり慌てている様子だ。


「どうした?」


 俺が尋ねると、兵士は深々と頭を下げた。


「悠真殿、そしてリナリア様。陛下がお呼びです。緊急とのことです」


「緊急……?」


 俺は眉をひそめる。


「何があったんだ?」


「詳しくは、城でお話しします。どうか、すぐにお越しください」


 兵士が懇願する。


 その様子から、ただならぬ事態だと察する。


「わかった。すぐに行く」


 俺は家の中に戻り、リナリアを呼ぶ。


「リナリア、王城から緊急の呼び出しだ」


「緊急……ですか?」


 リナリアが不安そうな表情になる。


「ああ。すぐに行こう」


「はい」


 俺とリナリア、そして姿を消したアイは、兵士と共に王城へと向かった。


 王城への道を急ぐ。


 街は、いつもと変わらず平和そうに見える。


 だが、何か大きな事態が起きているのは間違いない。


「一体、何が起きたんだ……」


 俺が呟くと、リナリアも不安そうに頷いた。


「わかりません……でも、父上が緊急で呼ぶということは……」


 リナリアの表情が曇る。


 王城に到着すると、すぐに謁見の間へと通された。


 謁見の間には、国王アルフレッドが玉座に座っていた。


 その隣には、王妃イザベラもいる。


 そして――。


 玉座の前には、見知らぬ男性が立っていた。


 年齢は二十代後半くらいだろうか。金髪で、整った顔立ち。高価そうな服を着ており、腰には装飾された剣を下げている。


 その立ち振る舞いから、高貴な身分であることがわかる。


「国王陛下、参りました」


 リナリアが膝をつく。


 俺も一緒に膝をつく。


「よく来てくれた、リナリア、悠真殿」


 アルフレッドが言う。


 その表情は、いつもより険しい。


「紹介しよう。こちらは、グランディア王国の第一王子、フェリックス・グランディア殿下だ」


「……!」


 リナリアの表情が変わる。


 グランディア王国――それは、大陸東部にある大国だ。


 軍事力、経済力共に優れており、この地域で最も影響力のある国の一つ。


 その第一王子が、なぜここに?


「初めまして、リナリア王女」


 フェリックスが優雅に一礼する。


「……初めまして、フェリックス王子」


 リナリアも一礼するが、その声は硬い。


「さて……」


 アルフレッドが咳払いをする。


「フェリックス殿下が、今回わざわざ当国を訪れたのは……重要な提案があるからだ」


「提案……ですか?」


 リナリアが尋ねる。


「ええ」


 フェリックスが一歩前に出る。


「リナリア王女。私と婚姻していただけないでしょうか」


 その言葉に、謁見の間が静まり返った。


「……え?」


 リナリアが呆然とする。


「婚姻……ですと……?」


「はい。グランディア王国とルストニア王国の友好関係を深めるため、婚姻を提案させていただきます」


 フェリックスが真剣な表情で言う。


「ちょっと待ってください!」


 リナリアが立ち上がる。


「わたくしは、そのような話は聞いておりません!」


「リナリア……」


 アルフレッドが苦しそうな表情で娘を見る。


「これは……私が決めたことだ」


「お父様!?」


 リナリアが驚愕の表情で父を見る。


「なぜ……なぜ、わたくしに相談もなく……」


「リナリア、落ち着いて聞いてくれ」


 アルフレッドが立ち上がる。


「グランディア王国は、我が国にとって非常に重要な国だ。軍事的にも、経済的にも」


「でも……」


「最近、隣国のエスペリア公国が、軍事力を増強している。このままでは、我が国は危機に陥る可能性がある」


 アルフレッドが続ける。


「グランディア王国と同盟を結べば、我が国の安全は保障される。そのためには……」


「政略結婚が必要……ということですか……」


 リナリアが震える声で言う。


「そうだ……すまない、リナリア……」


 アルフレッドが頭を下げる。


「父として、お前に幸せになってほしい。だが、王として、国を守らねばならない……」


「……」


 リナリアは黙り込む。


 その表情は、怒りと悲しみが入り混じっている。


「リナリア王女」


 フェリックスが話しかける。


「私は、あなたを幸せにする自信があります。どうか、この提案を受け入れていただけないでしょうか」


「……」


 リナリアは答えない。


 ただ、拳を強く握りしめている。


 俺は、何も言えない。


 これは、王族の問題だ。


 俺のような一介の冒険者が、口を挟める問題ではない。


 でも――。


 リナリアの苦しんでいる顔を見ると、胸が痛む。


『旦那様……』


 アイの声が聞こえる。


『リナリアさん、辛そうです……』


『ああ……』


 俺は心の中でアイに答える。


『でも、俺たちにはどうすることもできない……』


 その時、リナリアが顔を上げた。


「……わかりました」


 リナリアが言う。


「わたくしは……この提案を……」


 リナリアが言葉を続けようとした時――。


「受け入れられません!」


 リナリアが叫んだ。


「リナリア!?」


 アルフレッドが驚く。


「お父様の噓つき!わたくしは、国のために結婚するつもりはありません!」


 リナリアが怒りの表情で言う。


「わたくしには、すでに想いを寄せる人がいます!」


「リナリア……」


「申し訳ありませんが、この提案はお断りします!」


 リナリアはそう言うと、謁見の間を出ていってしまった。


「リナリア! 待ちなさい!」


 アルフレッドが呼び止めるが、リナリアは振り返らない。


 そのまま、城の外へと走り去ってしまった。


 謁見の間に、重い沈黙が降りる。


「……これは……困ったことに……」


 アルフレッドが頭を抱える。


「陛下」


 フェリックスが言う。


「私は、数日間、王都に滞在します。その間に、リナリア王女の気持ちが変わることを期待しております」


「……申し訳ない、フェリックス殿下」


 アルフレッドが深々と頭を下げる。


「いえ。お気になさらず」


 フェリックスは優雅に一礼すると、謁見の間を後にした。


 残されたのは、俺とアルフレッド、そしてイザベラだけ。


「……悠真殿」


 アルフレッドが俺を見る。


「はい」


「すまない……そなたにも、見苦しいところを見せてしまった……」


「いえ……」


 俺は首を横に振る。


「これは……私の責任だ……」


 アルフレッドが玉座に座り込む。


「父として、娘を傷つけてしまった……」


「陛下……」


 イザベラが夫の肩に手を置く。


「あなたは、悪くありません。国のために、最善の選択をしただけです」


「だが……リナリアを……」


「リナリアは、強い子です。きっと、理解してくれます」


 イザベラが優しく言う。


 しかし、その目にも涙が浮かんでいる。


 母として、娘の苦しみを見るのは辛いのだろう。


「悠真殿……」


 アルフレッドが俺を見る。


「リナリアのことを……頼めないだろうか……」


「え……」


「リナリアは、あなたのことを信頼している。だから……彼女が戻ってくるまで、そばにいてやってほしい……」


 アルフレッドが頭を下げる。


「……わかりました」


 俺は頷く。


「リナリアを探します」


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


 アルフレッドが何度も頭を下げる。


 俺は謁見の間を後にし、城の外へと出た。


 リナリアは、どこへ行ったのか……。


『旦那様、リナリアさんの魔力を追跡できます』


 アイが言う。


『本当か?』


『はい。リナリアさんの魔力は特徴的ですから』


 アイが目を閉じる。


『……見つけました。王都の北門の外、森の中にいます』


『わかった。すぐに向かおう』


 俺は王都の北門へと走った。


 門を抜け、森へと入る。


 アイの案内で、森の奥へと進んでいく。


 しばらく進むと、小さな泉が見えてきた。


 そこに――リナリアがいた。


 泉のほとりに座り込み、膝を抱えている。


 その肩が、小刻みに震えている。


 泣いているのだ。


「リナリア……」


 俺が声をかけると、リナリアは顔を上げた。


 その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「悠真……さん……」


 リナリアが俺を見て、さらに涙を流す。


「どうして……どうして、こんなことに……」


「リナリア……」


 俺はリナリアの隣に座る。


「わたくし……父上のことは理解しています……国のために……最善の選択をしたことも……」


 リナリアが震える声で言う。


「でも……でも……わたくしには……」


「……」


 俺は黙って、リナリアの言葉を聞く。


「わたくしには……すでに……」


 リナリアが俺を見る。


 その目は、真っ直ぐに俺を見つめている。


「……」


 俺は、何も言えない。


 リナリアの想いは、知っている。


 彼女は、俺のことを……。


「悠真さん……わたくし……」


 リナリアが俺の手を握る。


「わたくしは……」


 リナリアが言葉を続けようとした時――。


 俺は、リナリアの手を優しく握り返した。


「リナリア……」


「はい……」


「俺も……お前のことが大切だ」


 俺が言うと、リナリアの目から、大粒の涙が溢れた。


「悠真さん……」


 リナリアが俺に抱きつく。


 俺は、リナリアを優しく抱きしめた。


 しばらく、そうしていた。


 リナリアの涙が収まるまで、ずっと。


 やがて、リナリアは顔を上げた。


「……ありがとうございます」


 リナリアが微笑む。


 涙の跡は残っているが、その笑顔は穏やかだ。


「少し……落ち着きました」


「そうか」


 俺も微笑む。


「それで……これから、どうする?」


 俺が尋ねると、リナリアは考え込んだ。


「……わかりません」


 リナリアが正直に答える。


「父上の立場も理解しています。国のためには、政略結婚が必要なのかもしれません」


「でも……」


「でも、わたくしの気持ちも……無視したくありません……」


 リナリアが苦しそうに言う。


「……そうだな」


 俺は頷く。


「とりあえず、一度家に戻ろう。それから、アイと相談して、今後のことを考えよう」


「アイさんと……ですか?」


「ああ。アイは頭がいいからな。きっと、良い案を出してくれるはずだ」


 俺が言うと、リナリアは頷いた。


「……わかりました」


 俺たちは立ち上がり、自宅へと戻った。


 自宅に戻ると、エリアたちが心配そうに待っていた。


「リナリアさん! 大丈夫ですか!?」


 エリアが駆け寄る。


「ええ……大丈夫です……」


 リナリアが微笑む。


「本当に? 顔が真っ赤ですよ」


 リリィが心配そうに言う。


「ええ……少し泣いてしまっただけです……」


 リナリアが恥ずかしそうに答える。


「リナリア、何があったの?」


 エリーゼが尋ねる。


 リナリアは、城で起きたことをみんなに説明した。


 グランディア王国の王子が現れたこと。


 政略結婚を申し込まれたこと。


 それを拒否して、城を飛び出したこと。


「そんな……」


 エリアが驚く。


「政略結婚……」


 シルヴィアも複雑な表情だ。


「お姉ちゃん、辛かったね……」


 リリィがリナリアの手を握る。


「ええ……でも、悠真さんが慰めてくれました」


 リナリアが微笑む。


「それで、これからどうするの?」


 エリーゼが尋ねる。


「それが……まだ決めていません」


 リナリアが答える。


「だから、アイさんに相談しようと思って……」


「わたしにですか?」


 アイが姿を現す。


「ああ。お前なら、何か良い案があるんじゃないかと思ってな」


 俺が言うと、アイは少し考えた。


「そうですね……まず、状況を整理しましょう」


 アイが指を折りながら説明する。


「一つ目。グランディア王国は、ルストニア王国にとって重要な国です」


「二つ目。政略結婚は、両国の関係を強化するための手段です」


「三つ目。しかし、リナリアさんには、すでに想いを寄せる人がいます」


 アイが俺を見る。


 俺は少し照れる。


「つまり……政略結婚を避けつつ、両国の関係を強化する方法を見つければいいんです」


 アイが結論を出す。


「そんな方法、あるのか?」


 俺が尋ねると、アイは頷いた。


「はい。あります」


 アイが微笑む。


「それは……『商業同盟』です」


「商業同盟……?」


「はい。旦那様は、すでに王都で《空間転移》を使った物流システムを構築していますよね」


「ああ」


「それを、グランディア王国にも展開するんです」


 アイが説明する。


「そうすれば、両国の経済的な結びつきが強まります。政略結婚と同等、もしくはそれ以上の効果が期待できます」


「なるほど……」


 俺は考え込む。


 確かに、それなら両国にとってメリットがある。


 政略結婚よりも、実利的な同盟関係を築けるかもしれない。


「でも……フェリックス王子が納得するかな……」


 リナリアが心配そうに言う。


「それは、交渉次第です」


 アイが答える。


「旦那様の物流システムが、どれだけ利益を生むか。それを具体的に示せば、きっと納得してもらえます」


「そうか……」


 俺は頷く。


「じゃあ、明日、もう一度城に行って、国王陛下とフェリックス王子に提案してみよう」


「はい。それがいいと思います」


 アイが微笑む。


「ただ……一つ問題があります」


「問題……?」


「はい。グランディア王国は、ルストニア王国よりも遥かに大きな国です。物流システムを展開するには、多くの魔力と時間が必要になります」


 アイが真剣な表情で言う。


「旦那様一人では、難しいかもしれません」


「……そうか」


 俺は考え込む。


「でも、やるしかないよな」


「はい。わたしも全力でサポートします」


 アイが頷く。


「それに、わたしたちも手伝います」


 リナリアが言う。


「そうです。みんなで協力すれば、何とかなります」


 エリアも微笑む。


「わたくしも、お手伝いします」


 シルヴィアが頷く。


「私たちも!」


 リリィとエリーゼも賛成する。


「みんな……」


 俺は仲間たちを見回す。


 本当に、素晴らしい仲間たちだ。


「ありがとう。じゃあ、みんなで頑張ろう」


 俺が言うと、みんなが「はい!」と答えた。



 翌日。



 俺たちは、再び王城を訪れた。


 謁見の間には、アルフレッド国王とフェリックス王子がいた。


「リナリア……」


 アルフレッドが娘を見て、苦しそうな表情をする。


「お父様……昨日は、申し訳ありませんでした」


 リナリアが頭を下げる。


「いや……私の方こそ、すまなかった……」


 アルフレッドも頭を下げる。


「リナリア王女」


 フェリックスが話しかける。


「お気持ちは変わりましたでしょうか?」


「……いえ」


 リナリアがきっぱりと答える。


「わたくしの気持ちは、変わりません」


「そうですか……」


 フェリックスが残念そうな表情をする。


「しかし」


 俺が前に出る。


「婚姻に代わる、別の提案があります」


「別の提案……?」


 フェリックスが興味を示す。


「はい。それは、商業同盟です」


 俺は、アイと一緒に考えた案を説明した。


 《空間転移》を使った物流システムをグランディア王国にも展開すること。


 それにより、両国の経済的な結びつきを強化すること。


 具体的な利益の試算も示した。


「……なるほど」


 フェリックスが考え込む。


「確かに、これは魅力的な提案ですね」


「グランディア王国にとっても、大きな利益になるはずです」


 俺が続ける。


「物流の効率化により、貿易が活性化します。税収も増えるでしょう」


「ふむ……」


 フェリックスは、しばらく考えた後、口を開いた。


「悠真殿、一つ質問があります」


「はい」


「この物流システムは、本当に実現可能なのですか? グランディア王国は、ルストニア王国の三倍以上の領土があります」


「はい、可能です」


 俺が答える。


「時間はかかりますが、必ず実現させます」


「……そこまで言うなら、信じましょう」


 フェリックスが微笑む。


「わかりました。この提案、受け入れます」


「本当ですか!?」


 リナリアが驚く。


「ええ。確かに、婚姻の事の件は残念でしたが……」


 フェリックスが続ける。


「リナリア王女が、これほどまでに拒否するのであれば、無理強いはしません」


「フェリックス殿下……」


「それに、この商業同盟の方が、両国にとって長期的なメリットがあると判断しました」


 フェリックスが俺を見る。


「悠真殿、よろしくお願いします」


「はい。必ず、成功させます」


 俺が答えると、フェリックスは満足そうに頷いた。


「陛下」


 フェリックスがアルフレッドを見る。


「この商業同盟について、正式な協定を結びましょう」


「ああ……もちろんだ……」


 アルフレッドが立ち上がる。


「悠真殿、リナリア……本当に、ありがとう……」


 アルフレッドが深々と頭を下げる。


「いえ……」


 俺とリナリアも頭を下げる。


 こうして、政略結婚の危機は回避された。


 そして、新たな挑戦が始まることになった。


 グランディア王国への物流システムの展開。


 それは、俺たちにとって、大きな仕事になるだろう。


 でも――。


 仲間たちがいれば、きっと乗り越えられる。


 俺は、そう信じている。


 謁見の間を出た後、リナリアが俺に抱きついてきた。


「悠真さん……本当に、ありがとうございます……」


 リナリアが涙を流す。


「いや……アイのアイデアだからな」


 俺が答えると、アイが姿を現した。


「いえいえ。旦那様が実行してくださったからこそです」


 アイが微笑む。


「アイさんも、ありがとうございます」


 リナリアがアイにも抱きつく。


「きゃっ……リナリアさん……」


 アイが照れる。


 三人で抱き合いながら、俺は思った。


 これから、大変な仕事が待っている。


 でも、この仲間たちとなら、きっと何でも乗り越えられる。


 俺たちの新たな冒険が、今、始まろうとしていた。


 そして――。


 その夜、俺とアイだけに、再びあの声が聞こえた。


『……よく……乗り越えましたね……』


 優しい女性の声。


「また……お前か……」


 俺が呟く。


『……次の試練が……近づいています……』


「試練……?」


『……準備を……怠らないように……』


 声が徐々に小さくなっていく。


「待て! お前は誰なんだ!?」


 俺が叫ぶが、声は答えない。


『……また……会いましょう……』


 そして、声は消えた。


「……また、謎が増えたな」


 俺が呟くと、アイが頷いた。


「はい……でも、きっと……いつか、わかる時が来ます」


「そうだな」


 俺は窓の外を見る。


 月が、美しく輝いている。


 この平和な夜が、いつまでも続けばいいのに。


 でも、あの声が言うように、次の試練が近づいているのかもしれない。


 それでも――。


 俺たちは、立ち向かっていくだけだ。


 どんな困難が待っていても、仲間たちと共に。


 俺は、そう決意した。


 こうして、政略結婚の危機は去り、新たな物語が始まろうとしていた。


 次なる脅威が、いつ、どこから現れるのか――。


 それは、まだ誰にもわからない。


 ただ一つ確かなことは、俺たちは決して諦めない、ということだ。


 どんな困難が待っていても、必ず乗り越えてみせる。


 それが、俺たち――一ノ瀬悠真とその仲間たちの、誓いだ。


 皆様、32話をお読みいただき、ありがとうございます。

 

今回は……わたくしにとって、とても辛い出来事でした。


 父上の立場も、国の事情も、理解しているつもりです。政略結婚が王族の宿命であることも、わかっていました。


 でも、心は別なのです。


 わたくしには、すでに想いを寄せる人がいます。悠真さんという、かけがえのない方が。


 あの時、森で悠真さんに抱きしめてもらった時、わたくしは本当に救われました。そして、アイさんの的確なアドバイスのおかげで、最悪の事態を回避することができました。


 お二人には、心から感謝しています。


 これから、グランディア王国への物流システム展開という大仕事が待っています。大変だとは思います

が……悠真さんと一緒なら、きっと乗り越えられると信じています。


 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。


 それでは、また。


リナリア・エルディア=ルストニアより

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