表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/34

第29話 「リリィの決意――呪病調査行」

 深紅の峡谷でのダンジョン攻略から一週間が過ぎた。


 俺たちは王都の自宅で、次の行動について話し合っていた。応接室には、リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、エリーゼ、そしてアイが集まっている。


「それで、次はどうするの?」


 エリーゼが紅茶を飲みながら尋ねる。


「そうだな……しばらくは休息を取りたいところだが」


 俺が答えようとしたとき、リリィが小さく手を挙げた。


「あの……お兄ちゃん」


「どうした、リリィ?」


「わたし……お母さんの呪いのことを調べたいの、呪病なんじゃないかって」


 その言葉に、部屋の空気が変わった。


「呪病……」


 リナリアが眉をひそめる。


「それは、最近帝国や周辺国で流行している、あの病気のことですか?」


「うん」


 リリィが頷く。


「この前、市場で聞いたの。呪病にかかった人たちが、どんどん増えているって。そして……治療法がないって」


 俺は深く息を吐く。


 呪病――それは、数ヶ月前から帝国周辺で流行し始めた謎の病気だ。


 症状は様々だが、共通しているのは、魔力が徐々に失われ、最終的には意識を失うこと。そして、誰も治療法を見つけられていないこと。


「リリィ、お前の気持ちはわかる。でも、それは危険すぎる」


 俺が言うと、リリィは首を横に振った。


「でも……わたしには浄化の力がある。もしかしたら、呪病を治せるかもしれない」


「リリィ……」


「お願い、お兄ちゃん。わたし、苦しんでいる人たちを助けたいの」


 リリィの瞳には、強い決意が宿っている。


 その時、シルヴィアが口を開いた。


「悠真様、わたくしがリリィに同行します」


「シルヴィア……」


「リリィの気持ちは理解できます。そして、わたくしも彼女を一人で行かせるわけにはいきません」


 シルヴィアの表情は真剣だ。


「わたくしの力があれば、リリィを守れます」


「私も行くわ」


 エリーゼも手を挙げる。


「呪病は帝国でも大きな問題になっている。皇女として、この問題を解決する責任があるわ」


 俺は三人の顔を見回す。


 どの顔にも、強い決意が宿っている。


「……わかった。でも、無理はするな。危険だと思ったら、すぐに撤退しろ」


「はい!」


 リリィが嬉しそうに微笑む。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 リナリアが心配そうに言う。


「本当に大丈夫でしょうか……」


「シルヴィアとエリーゼがいれば、何とかなるだろう。それに、リリィの浄化能力は本物だ」


 俺が答えると、アイが提案する。


「旦那様、わたしも行きましょうか?」


「いや、お前は俺と一緒に来てくれ。島の調査に協力してくれ」


「島の調査ですね」


「ああ。東の海に浮かぶ孤島の調査、そっちの調査を頼まれたからな」


 こうして、俺たちは二手に分かれることになった。


 リリィ、シルヴィア、エリーゼは呪病の調査へ。


 俺、リナリア、エリア、アイは孤島の調査へ。



 翌朝、俺たちは王都の郊外で集合した。



「それじゃあ、気をつけてな」


 俺がリリィの頭を撫でる。


「うん。お兄ちゃんも気をつけて」


「何かあったら、すぐに連絡しろよ」


「はい」


 シルヴィアが頷く。


「任せてください、悠真様」


「悠真、私たちを信頼してちょうだい」


 エリーゼが微笑む。


「ああ、頼む」


 俺たちはそれぞれの目的地へと向かった。


 リリィたちは帝国方面へ。


 俺たちは東の海へ。


 これが、後に大きな事件へとつながるとは、この時はまだ誰も知らなかった。




 ここからは、わたし――リリィ・セレスティアの視点で語らせてもらうね。


 お兄ちゃんたちと別れて、わたしたちはベルガリア帝国の首都、エルデンバーグへと向かった。


 シルヴィアお姉ちゃんの《聖龍変身》で空を飛び、数時間で帝都に到着する。


 眼下に広がるのは、巨大な石造りの都市。城壁に囲まれた街は、王都よりも大きく、より厳格な雰囲気を漂わせている。


「着きましたね」


 シルヴィアお姉ちゃんが言う。


「ええ。まずは情報収集ね」


 エリーゼお姉ちゃんが答える。


 わたしたちは帝都の郊外に降り立ち、シルヴィアお姉ちゃんが人間の姿に戻る。


 白い髪と蒼い瞳を持つ、美しい女性の姿。


「それじゃあ、市場に行きましょう」


 エリーゼお姉ちゃんが先導する。


 彼女は帝国の皇女だけど、今は質素な旅人の服装をしている。金髪のツインテールを下ろし、フードを被っている。


「エリーゼお姉ちゃん、バレないかな?」


 わたしが心配そうに尋ねると、彼女は微笑んだ。


「大丈夫よ。この格好なら、誰も私が皇女だとは思わないわ」


 市場は活気に満ちていた。


 露店が立ち並び、商人たちが声を張り上げて品物を売り込んでいる。焼きたてのパンの香り、香辛料の匂い、果物の甘い香りが混ざり合っている。


 でも、どこか空気が重い。


 人々の表情に、不安の色が見える。


「……呪病のせいね」


 エリーゼお姉ちゃんが呟く。


「みんな、怯えているわ」


 わたしたちは、まず情報屋を探すことにした。


 市場の奥、薄暗い路地に入ると、小さな酒場があった。


 『黒猫亭』という看板が掲げられている。


「ここね」


 エリーゼお姉ちゃんが扉を開ける。


 中は薄暗く、数人の客が静かに酒を飲んでいる。


 カウンターには、恰幅のいい男性が立っていた。


「いらっしゃい。何を飲む?」


「情報が欲しいの」


 エリーゼお姉ちゃんが銀貨を置く。


「呪病について知っていること、全て教えて」


 男性の表情が変わる。


「……呪病か。危ない話だな」


「知っているのね?」


「ああ。だが、ここでは話せない。二階の個室に来い」


 わたしたちは男性に案内され、二階の個室に入った。


 質素な部屋だが、防音魔法がかけられているのが分かる。


「それで、呪病について何を知りたい?」


 男性が腕を組む。


「まず、どこで発生したのか。そして、誰が広めているのか」


 エリーゼお姉ちゃんが尋ねる。


「……最初に報告されたのは、帝国東部の小さな村だ。三ヶ月前のことだ」


「三ヶ月前……」


「ああ。最初は原因不明の病気だと思われていた。だが、すぐに広がり始めた。村から町へ、町から都市へ」


 男性が地図を広げる。


「今では、帝国全域に広がっている。そして……」


 彼が指差したのは、帝国の北東部。


「この辺りが、最も被害が大きい」


「なぜ、その地域が?」


「わからない。だが、一つ共通点がある」


「共通点?」


「ああ。全ての被害地域で、ある商人が目撃されている」


 わたしの心臓が跳ねる。


「商人……」


「そうだ。黒いローブを着た、怪しい商人だ。彼が訪れた後、必ず呪病が発生している」


「その商人の名前は?」


「わからない。だが、彼は『癒しの薬』を売っていたそうだ」


「癒しの薬……」


 エリーゼお姉ちゃんが眉をひそめる。


「それが、呪病の原因だと?」


「恐らくな。薬を飲んだ者から、呪病が発生している」


「なんてこと……」


 わたしは拳を握りしめる。


 誰かが意図的に、呪病を広めているんだ。


「その商人は、今どこにいるの?」


 わたしが尋ねると、男性は少し考えてから答えた。


「最後に目撃されたのは、北東部の『グリーンフィールド村』だ。一週間前のことだ」


「グリーンフィールド村……」


「ああ。だが、気をつけろ。その村は、今では呪病に侵されている。近づくのは危険だ」


「わかったわ。ありがとう」


 エリーゼお姉ちゃんが追加の銀貨を置く。


 わたしたちは酒場を出て、宿を取ることにした。


 『銀の月亭』という、清潔そうな宿だった。


 部屋に入ると、わたしたちは今後の計画を話し合った。


「グリーンフィールド村に行くしかないわね」


 エリーゼお姉ちゃんが地図を見ながら言う。


「でも、危険だと言われましたよ」


 シルヴィアお姉ちゃんが心配そうに言う。


「大丈夫。わたしの浄化能力があれば、呪病を治せるかもしれない」


 わたしが自信を持って言うと、二人は顔を見合わせた。


「……そうね。リリィの力なら、きっと大丈夫」


 エリーゼお姉ちゃんが微笑む。


「でも、無理はしないでね」


「うん」


 翌朝、わたしたちは帝都を出発した。


 シルヴィアお姉ちゃんの《聖龍変身》で空を飛び、北東へと向かう。


 眼下に広がるのは、緑豊かな平原と、点在する村々。


 でも、どこか静かすぎる。


 普段なら見える、畑で働く人々の姿が少ない。


「……呪病の影響ね」


 エリーゼお姉ちゃんが呟く。


 数時間後、グリーンフィールド村が見えてきた。


 小さな村で、二十軒ほどの家が集まっている。


 でも、煙突から煙が上がっていない。


 人の気配が……ない。


「おかしいわ」


 エリーゼお姉ちゃんが言う。


「昼間なのに、誰もいない」


 わたしたちは村の入口に降り立った。


 シルヴィアお姉ちゃんが人間の姿に戻り、わたしたちは慎重に村の中へと入っていく。


 石畳の道は綺麗に整備されている。


 家々も、特に破壊された様子はない。


 でも、人の気配が全くない。


「まるで、ゴーストタウンね……」


 エリーゼお姉ちゃんが剣の柄に手をかける。


 わたしたちは村の中央広場へと向かった。


 そこには、井戸と小さな教会がある。


 でも、やはり誰もいない。


「リリィちゃん、何かいるみたいね」


 シルヴィアお姉ちゃんが何かを感じたようだ。


 私も目を閉じて、周囲の魔力を感じ取る。


 そして……。


「……邪悪な魔力を感じる」


 わたしが目を開ける。


「とても強い、邪悪な魔力。村全体を覆っている」


「邪悪な魔力……」


 その時、教会の扉がギィと開いた。


 わたしたちは身構える。


 扉の向こうから、ゆっくりと人影が現れる。


 それは……村人だった。


 男性、女性、子供……。


 でも、何かがおかしい。


 彼らの目は虚ろで、表情がない。


 まるで、人形のように。


「これは……」


 エリーゼお姉ちゃんが驚く。


 村人たちが、一斉にわたしたちを見た。


 その目には、何の感情も宿っていない。


 次の瞬間――。


「ウオオオオオ!」


 村人たちが叫び声を上げ、襲いかかってきた!


「きゃあ!」


 わたしは思わず後ろに下がる。


「落ち着いて、リリィちゃん!」


 シルヴィアお姉ちゃんが前に出る。


「殺してはダメよ! 彼らは操られているだけ!」


 エリーゼお姉ちゃんが叫ぶ。


 村人たちが次々と襲いかかってくる。


 素手で、棒で、鍬で……。


 動きは鈍いが、数が多い。


「《聖龍の威圧》!」


 シルヴィアお姉ちゃんが龍の威圧を放つ。


 村人たちが一瞬怯むが、すぐにまた襲いかかってくる。


「効かない……!」


「くっ……《剣技・紅蓮の舞》!」


 エリーゼお姉ちゃんが剣を振るう。


 炎を纏った剣が、村人たちの武器を弾き飛ばす。


 でも、村人たちは怯まない。


 素手でも、襲いかかってくる。


「わたしがやるね!」


 わたしは杖を構える。


「《ホーリーライト》!」


 浄化の光が、村人たちを包み込む。


 村人たちの動きが止まる。


 そして……。


「うっ……」


 一人の村人が、膝をつく。


「ここは……どこだ……?」


 彼の目に、意識が戻ってきた。


「効いてる!」


 わたしは続けて魔法を放つ。


「《ホーリーレイン》!」


 空から、浄化の光の雨が降り注ぐ。


 村人たちが次々と、意識を取り戻していく。


「うわあああ!」


「何が……何が起きたんだ……!」


 村人たちが混乱している。


 わたしは杖を下ろし、深呼吸する。


「はぁ……はぁ……」


「リリィちゃん、大丈夫?」


 シルヴィアお姉ちゃんが心配そうに尋ねる。


「うん……何とか……」


 わたしたちは、意識を取り戻した村人たちに近づいた。


 彼らは混乱していて、何が起きたのか理解していない様子だった。


「あの、大丈夫ですか?」


 わたしが優しく声をかける。


「あ、ああ……君たちは……?」


 一人の中年男性が尋ねる。


「わたしたちは、旅の者です。この村で、何があったのか教えてください」


 エリーゼお姉ちゃんが尋ねる。


 男性は頭を抱える。


「わからない……何も覚えていない……」


「覚えていない……?」


「ああ。最後に覚えているのは……一週間前、黒いローブを着た商人が来たことだ」


「黒いローブの商人……!」


 わたしたちは顔を見合わせる。


 情報屋が言っていた商人だ。


「その商人は、何を売っていたんですか?」


「薬だ。『癒しの薬』と言っていた。無料で配っていたんだ」


「無料で……」


「ああ。村には病人が何人かいたから、みんな喜んで飲んだ。俺も、腰痛が治るかと思って……」


 男性が言葉を詰まらせる。


「それから……記憶がない。気がついたら、今だった」


「そうですか……」


 わたしは他の村人たちにも話を聞いた。


 みんな、同じことを言っている。


 商人が薬を配り、それを飲んだ後、記憶がない。


「呪病……じゃなくて、薬によって操られていたのね」


 エリーゼお姉ちゃんが呟く。


「でも、なぜ……?」


「わかりません。でも、この商人を見つけないと」


 シルヴィアお姉ちゃんが言う。


 その時、一人の老婆が近づいてきた。


「あの……娘さんたち」


「はい?」


「ありがとう。あなたたちが、私たちを救ってくれたのね」


 老婆が深々と頭を下げる。


「いえ、当然のことをしただけです」


 わたしが答える。


「でも……まだ、村にいない人がいるの」


「いない人……?」


「ええ。私の孫娘と、何人かの子供たちが……」


 老婆の目に涙が浮かぶ。


「商人が来た後、突然いなくなったの。探したけど、見つからなくて……」


「子供たちが……」


 わたしの胸が締め付けられる。


「その子たちを、助けないと……」


「お願い。あの子たちを探して……」


 老婆が懇願する。


「わかりました。必ず見つけます」


 わたしが約束すると、老婆は安堵の表情を浮かべた。


 わたしたちは村人たちから、詳しい話を聞いた。


 いなくなったのは、五人の子供たち。


 年齢は七歳から十二歳。


 商人が去った後、突然姿を消したという。


「村の周辺を探しましょう」


 シルヴィアお姉ちゃんが提案する。


「ええ。手分けして探すわ」


 エリーゼお姉ちゃんが頷く。


 わたしたちは村人から、さらに詳しく話を聞くことにした。


「ねえ、あの商人はどこへ行ったの?」


 わたしが尋ねると、一人の中年女性が答えた。


「わからないわ。薬を配り終えたら、すぐにどこかへ行ってしまったの」


「どの方向に?」


 エリーゼお姉ちゃんが尋ねる。


「確か……北の方角だったと思うわ」


「北……」


 わたしたちは顔を見合わせる。


「でも、その前に……」


 わたしが言いかけたとき、一人の少年が泣きながら駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん! お姉ちゃんがいないんだ!」


 少年は七歳くらいで、茶色の髪と大きな瞳を持っている。


 涙で顔がぐしゃぐしゃになっていて、必死に何かを訴えようとしている。


「落ち着いて。何があったの?」


 わたしは少年の目線に合わせて膝をつく。


「お、お姉ちゃんが……お姉ちゃんがいなくなっちゃったんだ……」


 少年が泣きじゃくる。


「えっ……」


「朝起きたら、お姉ちゃんがいなくて……探したけど、どこにもいないんだ……」


 少年の声が震えている。


「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」


 わたしは少年の肩を抱く。


「大丈夫。必ず見つけるから」


「ほ、本当に……?」


 少年が涙目でわたしを見上げる。


「うん。約束する」


 わたしが微笑むと、少年は少しだけ落ち着いたようだった。


「お姉ちゃんの名前は?」


 シルヴィアお姉ちゃんが優しく尋ねる。


「マリア……マリアって言うんだ。十二歳で、金髪で……」


 少年が一生懸命説明する。


「わかったわ。他にも、いなくなった人はいるの?」


 エリーゼお姉ちゃんが村人たちに尋ねる。


 すると、何人かの村人が前に出てきた。


「うちの息子も……」


「娘が……」


「姪が……」


 次々と声が上がる。


 どうやら、五人の子供たちがいなくなっているらしい。


「みんな、商人が去った後にいなくなったの?」


 わたしが確認する。


「ええ……気がついたら、もういなかったわ」


 老婆が悲しそうに頷く。


「この子たちは、商人が配った薬を飲まなかったのよ。子供だから、大人が味見してからって言って……」


「それで、助かったのね」


 シルヴィアお姉ちゃんが呟く。


「でも、なぜ連れ去られたの……?」


「わからないわ。でも、きっと商人が……」


 老婆の目に涙が浮かぶ。


「お願い。あの子たちを見つけて……」


「必ず見つけます」


 わたしが力強く約束する。


 少年がわたしの服の裾を握りしめる。


「お姉さん、本当にお姉ちゃんを見つけてくれる……?」


「うん。絶対に見つける」


 わたしが頭を撫でると、少年は少しだけ笑顔を見せた。


「僕も一緒に行く!」


「ダメよ。危険だから」


 エリーゼお姉ちゃんが優しく言う。


「でも……!」


「大丈夫。私たちに任せて。必ずお姉ちゃんを連れて帰ってくるから」


 シルヴィアお姉ちゃんが少年の肩に手を置く。


「……わかった。お姉ちゃんを、お願いします」


 少年が深々と頭を下げる。


 わたしたちは村人たちから、子供たちの特徴や、いなくなる前の状況について詳しく聞いた。


 五人の子供たち。


 マリア(十二歳、金髪、青い目)


 トーマス(十歳、茶髪、茶色い目)


 エミリー(九歳、黒髪、緑の目)


 ルーカス(八歳、赤毛、茶色い目)


 サラ(七歳、金髪、灰色の目)


 みんな、商人が去った夜から行方不明になっている。


「村の周辺を探しましょう」


 エリーゼお姉ちゃんが提案する。


「ええ。手分けして探すわ」


 シルヴィアお姉ちゃんが頷く。


 わたしたちは村の周辺を探し始めた。


 まず、北の森を捜索する。


 木々が鬱蒼と茂り、薄暗い。


 鳥のさえずりと、風で葉が揺れる音だけが聞こえる。


「《探知魔法》!」


 わたしは杖を掲げ、周囲の生命反応を探る。


 でも、動物の反応しか感じられない。


「いないね……」


「次は東の畑を探しましょう」


 シルヴィアお姉ちゃんが言う。


 わたしたちは東の畑へと向かった。


 広大な麦畑が広がっているが、人の気配はない。


 畑の端から端まで探したが、子供たちの姿は見つからなかった。


「南の川はどうかしら」


 エリーゼお姉ちゃんが提案する。


 わたしたちは村の南を流れる川へと向かった。


 清流が静かに流れている。


 川岸を歩きながら、慎重に探す。


「ここにもいない……」


 わたしは焦り始める。


 どこにいるの、子供たち……。


「残るは、西の方角ね」


 エリーゼお姉ちゃんが地図を確認する。


「西には何があるの?」


 わたしが尋ねると、一緒についてきていた村人の一人が答えた。


「西には……古い洞窟があります」


「洞窟……?」


「ええ。昔、鉱山として使われていた場所です。今は閉鎖されていますが……」


「閉鎖されているなら、子供たちがそこに……」


 シルヴィアお姉ちゃんが言葉を切る。


「行ってみよう」


 わたしたちは西へと向かった。


 村から十五分ほど歩くと、小高い丘が見えてきた。


 その麓に、古びた木の扉が見える。


「あれが、洞窟の入口……」


 エリーゼお姉ちゃんが言う。


 近づいてみると、扉は半開きになっている。


 そして、地面には……。


「足跡……」


 わたしは地面を指差す。


 複数の小さな足跡と、一つの大きな足跡。


「子供たちと……大人一人」


 シルヴィアお姉ちゃんが分析する。


「しかも、この足跡は新しい。昨夜か、今朝のものだわ」


「やっぱり、みんなこの中に……」


 わたしは洞窟の入口を見つめる。


 暗く、冷たい空気が漏れ出している。


「リリィ、邪悪な魔力を感じるか?」


 エリーゼお姉ちゃんが尋ねる。


 わたしは目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。


 すると……。


「感じる……強い邪悪な魔力が、洞窟の奥から……」


 わたしの体が震える。


 それは、とても不快で、吐き気を催すような魔力。


「呪病の魔力と同じ……いや、もっと濃い」


「商人がいるのね」


 エリーゼお姉ちゃんが剣の柄に手をかける。


「おそらく。そして、子供たちも」


 シルヴィアお姉ちゃんが真剣な表情で言う。


 わたしは深呼吸をする。


 怖い。


 でも、子供たちを助けないと。


 マリアを待っている少年の顔が、頭に浮かぶ。


 あの涙……。


 わたしは、あの子を泣かせたくない。


「行こう」


 わたしが一歩前に踏み出す。


「リリィちゃん、無理はしないで」


 シルヴィアお姉ちゃんが心配そうに言う。


「大丈夫。みんなが一緒だから」


 わたしが微笑むと、二人も頷いた。


「そうね。一緒なら、きっと大丈夫」


 エリーゼお姉ちゃんが言う。


 わたしたちは、洞窟の入口に立つ。


 半開きの木の扉を、完全に開ける。


 ギィィィ……


 古い蝶番が軋む音が響く。


 中は真っ暗で、何も見えない。


「《ライト》」


 わたしが杖を掲げると、光の球が現れ、周囲を照らす。


 洞窟の内部が見えてくる。


 石造りの壁、天井からは鍾乳石が垂れ下がっている。


 地面は湿っていて、苔が生えている。


「気をつけて。罠があるかもしれない」


 エリーゼお姉ちゃんが警戒しながら前を歩く。


 わたしたちは慎重に、洞窟の中へと足を踏み入れた。


 入口から少し進むと、通路は二手に分かれている。


「どっちに行くべきかしら……」


 シルヴィアお姉ちゃんが呟く。


 わたしは再び、魔力を感じ取ろうとする。


「……右。邪悪な魔力は、右の通路から強く感じる」


「わかったわ。右に行きましょう」


 エリーゼお姉ちゃんが頷く。


 わたしたちは右の通路へと進む。


 通路は少しずつ下っていて、奥へ行くほど空気が冷たくなっていく。


 壁には、古い松明の跡がある。


 かつて、この鉱山で働いていた人々が使っていたのだろう。


「静かすぎるわね……」


 シルヴィアお姉ちゃんが呟く。


 本当に、静かすぎる。


 足音と、遠くで水が滴る音だけが聞こえる。


 それが、逆に不気味だった。


 さらに進むと、通路は広い空間へと繋がっていた。


 天井は高く、いくつもの鍾乳石が垂れ下がっている。


 そして、その奥には……。


「扉……」


 石でできた、大きな扉があった。


 扉には、複雑な魔法陣が刻まれている。


「封印魔法……?」


 エリーゼお姉ちゃんが眉をひそめる。


「いや、違うわ。これは……閉じ込める魔法」


 シルヴィアお姉ちゃんが扉に近づく。


「中に何かを閉じ込めるための魔法よ」


「みんなが……この中に?」


 わたしの心臓が速く打つ。


「恐らく。そして、商人も」


 エリーゼお姉ちゃんが剣を抜く。


「この扉を開けるわよ」


 シルヴィアお姉ちゃんが魔法陣に手を当てる。


「《解除》!」


 魔力が流れ、魔法陣が光る。


 そして……カチャリと音がして、扉の錠が外れる。


「開いたわ」


 わたしたちは扉を押し開ける。


 ギギギギギ……


 重い石の扉が、ゆっくりと開いていく。


 そして、その先には……。


 暗闇が広がっていた。


 でも、奥から微かな光が見える。


 そして……声が聞こえる。


 子供の泣き声。


「子供たち……!」


 わたしは駆け出そうとする。


 でも、シルヴィアお姉ちゃんが腕を掴む。


「待って。慎重に」


「でも……」


「わかるわ。でも、罠かもしれない」


 わたしは歯を食いしばる。


 シルヴィアお姉ちゃんの言う通りだ。


 慎重にならないと。


「ゆっくり進みましょう」


 エリーゼお姉ちゃんが先頭に立つ。


 わたしたちは、扉の先へと進んだ。


 通路は徐々に広くなっていく。


 そして、やがて巨大な空間へと出た。


 天井は見えないほど高く、壁には無数の松明が灯されている。


 その中央に……。


 五人の子供たちが、縛られていた。


 石柱に、鎖で。


「マリアちゃん!」


 わたしは叫ぶ。


 子供たちは、みんな意識があるようだった。


 でも、口には猿轡がされていて、声を出せない。


 マリアが、必死に目でこちらを見ている。


 その目は……警告している。


 危ない、と。


「リリィ、下がって!」


 エリーゼお姉ちゃんが叫ぶ。


 その瞬間――。


 わたしたちの周囲に、魔法陣が浮かび上がった。


 魔力障壁が展開され、わたしたちは閉じ込められる。


「しまった……!」


「ふふふ……よくぞ、来たな」


 暗闇の中から、声が響く。


 そして、影の中から……。


 黒いローブを着た男性が現れた。


 商人だ。


「よくぞ、私の罠にかかってくれた侵入者たちよ」


 男性が笑う。


 その声は、冷たく、邪悪だった。


「子供たちを解放しなさい!」


 エリーゼお姉ちゃんが剣を構える。


「解放? ふふふ……なぜ、そんなことをする必要がある?」


 男性が首を傾げる。


「この子たちは、私の実験材料だ。新しい呪病の薬を試すための、ね」


「なんですって……!」


 わたしは怒りで震える。


 子供たちを……実験材料だと?


「許さない……絶対に許さない……!」


 わたしの体から、浄化の光が溢れ出す。


「おや? これは……聖女の力か?」


 男性が興味深そうに言う。


「面白い。聖女の力を持つ者が、ここに来るとは」


「リリィ、落ち着いて!」


 シルヴィアお姉ちゃんが肩を掴む。


「冷静にならないと」


 わたしは深呼吸をする。


 そうだ。


 冷静にならないと。


 感情に流されては、子供たちを助けられない。


「それで……お前たちをどうしようか」


 男性が顎に手を当てる。


「殺すのは簡単だが……もったいないな」


「何を……」


「お前たちも、実験材料にしてやろう」


 男性が指を鳴らす。


 すると、魔力障壁の外から……。


 複数の人影が現れた。


 目は虚ろで、武器を持っている。


「また、操られた人々を……!」


 エリーゼお姉ちゃんが叫ぶ。


「そうだ。彼らは私の忠実な駒だ」


 男性が笑う。


「さあ、お前たちも私の駒になるがいい」


 男たちが、ゆっくりとバリアの中へと入ってくる。


 バリアは、外から中には入れるが、中から外には出られない仕組みのようだ。


「どうする……」


 わたしは杖を構える。


 殺してはいけない。


 彼らは操られているだけ。


 でも、どうやって……。


「リリィ、浄化できる?」


 シルヴィアお姉ちゃんが尋ねる。


「やってみる……」


 わたしは杖を掲げる。


 そして――聖女として立つリリィの戦いが始まる。


 はい、リリィです!


 今回は、わたしが主役の回でした。どうでしたか?


 呪病の真相を探るために、お兄ちゃんと離れて行動するのは、最初はすごく不安でした。でも、シルヴィアお姉ちゃんとエリーゼお姉ちゃんが一緒だったから、頑張れました。


 グリーンフィールド村で起きたことは、本当に怖かったです。操られた村人たちを傷つけずに助けるのは、とても難しかったけど……わたし、やり遂げられました!


 次はどんな冒険が待っているんでしょうか。少し怖いけど、お兄ちゃんとみんながいれば、きっと大丈夫!


 それでは、次回もお楽しみに!


 ――リリィ・セレスティア


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ