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スキルAIがチートすぎて俺、使われてる気がするんだが?  作者: 暁の裏


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第28話 「リリィの涙と呪いの結晶」

 王城の謁見の間。


 アルフレッド・エルディア=ルストニア国王は、一人玉座に座り、重厚な地図を見つめていた。


 地図には、ルストニア王国とその周辺国が描かれている。西部のカーネル村から始まり、グランツの町、王都、そして東部の国境まで。隣国のアルカディア王

 国、エスペリア公国も記されている。


 しかし、今アルフレッドが注目しているのは、地図の端――大陸の東方海域だ。


「陛下」


 侍従長のセバスチャンが部屋に入ってくる。


「報告書をお持ちしました」


「ああ、読ませてもらおう」


 アルフレッドが報告書を受け取る。


 それは、王国海軍の探検隊からの報告だった。


『大陸東方海域調査報告書


 探検隊長 クラウス・フォン・シュトラール


 我々探検隊は、陛下のご命令により、大陸東方海域の未踏領域の調査を実施いたしました。


 出航から七日目、大陸から約三百海里の地点において、これまで地図に記載されていない巨大な島を発見いたしました。


 島の大きさは、目測で東西約五十キロメートル、南北約三十キロメートル。中央部には標高約二千メートルと思われる山が聳え立っております。


 我々は島に上陸を試みましたが、海岸線に強力な魔法結界が張られており、接近することができませんでした。


 また、島からは強大な魔力が感じられ、何らかの古代文明の遺跡が存在する可能性が極めて高いと判断いたします。


 しかしながら、我々の能力では結界を突破することは不可能であり、より強力な魔法使いの同行が必要と考えます。


 以上、報告申し上げます』


「古代文明の遺跡……か」


 アルフレッドが呟く。


「陛下、この島は非常に重要な発見である可能性があります」


 セバスチャンが言う。


「古代文明の遺跡には、失われた魔法技術や知識が眠っていることが多い。もし、それらを手に入れることができれば、王国の国力は飛躍的に向上するでしょ

 う」


「だが、結界が問題だな」


 アルフレッドが地図を見る。


「海軍の魔法使いでも突破できないとなると、相当強力な結界だ」


「はい。そこで、陛下」


 セバスチャンが進言する。


「一ノ瀬悠真殿に、この調査を依頼してはいかがでしょうか」


「悠真殿に……」


 アルフレッドが考え込む。


 一ノ瀬悠真。


 これまで、王都の寄生虫事件、聖龍の卵奪還、帝都防衛戦、そして世界創造の書をめぐる戦いなど、数々の危機を救ってきた英雄だ。


 さらに、彼は娘リナリアと共に旅をしており、リナリアも彼に深い信頼を寄せている。


 いや、信頼以上のものかもしれない。


 アルフレッドは、娘の様子から察していた。


 リナリアは、悠真に恋をしている。


「悠真殿なら、きっと結界を突破できるでしょう」


 セバスチャンが続ける。


「それに、彼には優秀な仲間たちもいる。エリア・ファルメイン殿、シルヴィア殿、リリィ殿、そしてエリーゼ殿。この面々なら、どんな困難も乗り越えられる

 はずです」


「そうだな……」


 アルフレッドが頷く。


「では、悠真殿を呼び出そう。ただし、今すぐではない」


「と、おっしゃいますと?」


「彼らは、つい先日、深紅の峡谷での戦いを終えたばかりだ。少し休息を取らせてやりたい」


 アルフレッドが優しい表情を浮かべる。


「二週間後に出発してもらおう。それまでに、準備も整えられるだろう」


「承知いたしました」


 セバスチャンが頷く。


「それでは、一週間後に悠真殿を呼び出すよう、手配いたします」


「頼む」


 アルフレッドが立ち上がる。


 そして、窓の外を見る。


 青い空、白い雲。


 平和な光景。


 だが、アルフレッドは知っている。


 この平和は、悠真たちの戦いによって守られているのだということを。


「悠真殿……どうか、この調査も無事に成功してくれ」


 アルフレッドが心の中で祈った。



 場面は変わり――



 悠真の自宅、広い庭。


 俺、一ノ瀬悠真は、庭の中央に立っていた。


「それじゃあ、旦那様。今日から本格的に修行を始めましょう」


 アイが俺の前に立つ。


 第四進化を遂げたアイは、もう小さな妖精ではなく、俺の肩くらいの身長を持つ美しい少女だ。


 青い髪がさらさらと風になびき、青い瞳がきらきらと輝いている。背中には大きな翼が生え、頭には光の輪が浮かんでいる。


 まるで天使のようだ。


「ああ、よろしく頼む」


 俺が構える。


「まず、旦那様にわたしの力を使ってもらうには、わたしとの同調率を上げる必要があります」


「同調率?」


「はい。わたしと旦那様の心を完全に一つにすることです」


 アイが説明する。


「わたしと旦那様は、元々パートナーとして結ばれていますが、第四進化によってわたしの力が飛躍的に向上しました。その力を旦那様が使うには、より深いレ

 ベルでの同調が必要なんです」


「なるほど……」


 俺が頷く。


「それで、どうやって同調率を上げるんだ?」


「簡単です。瞑想して、わたしの意識と繋がってください」


「瞑想……か」


 俺が地面に座り、目を閉じる。


「それでは、始めます」


 アイの声が聞こえる。


「旦那様、わたしの声に集中してください」


「ああ」


「深呼吸をして、心を落ち着けて……」


 俺が深呼吸をする。


 スゥー、ハァー。


 スゥー、ハァー。


 徐々に、心が静まっていく。


「わたしの存在を感じてください……」


 アイの声が、遠くから聞こえる。


 俺は意識を研ぎ澄ませる。


 すると――


 頭の中に、青い光が浮かんできた。


「これが……アイの意識……?」


「はい、旦那様。それがわたしです」


 アイの声が、頭の中で響く。


「その光に、意識を近づけてください」


 俺が意識を集中させる。


 青い光が、徐々に大きくなる。


 そして――


 光が、俺の意識に触れた。


 ビリッ!


 電撃のような感覚が走る。


「うわっ!」


 俺が目を開ける。


 同調が途切れる。


「旦那様、どうしました?」


 アイが心配そうに尋ねる。


「いや……なんか、ビリッときて……」


「それは、同調が始まった証拠です。でも、旦那様が驚いて意識を切ってしまいました」


 アイが説明する。


「もう一度、やってみましょう。今度は、驚かないでください」


「わかった」


 俺が再び目を閉じる。


 深呼吸。


 心を落ち着ける。


 青い光が現れる。


 意識を近づける。


 光が触れる。


 ビリッ!


 再び電撃のような感覚。


 でも、今度は驚かない。


 そのまま、意識を光に近づけていく。


 すると――


 光が、俺の意識に溶け込んできた。


「これは……」


 不思議な感覚だ。


 アイの感情、思考、記憶が、少しずつ流れ込んでくる。


 アイが俺を想う気持ち。


 俺を守りたいという強い意志。


 そして――俺への深い愛情。


「アイ……」


 俺が心の中で呟く。


『旦那様……わたしの気持ち、伝わっていますか?』


 アイの声が、直接心に響く。


『ああ……伝わってる』


 俺が答える。


『わたしは、旦那様のことが大好きです』


『ああ……俺も、お前のことを大切に思ってる』


 そう答えた瞬間――


 パァァァ!


 眩い光が、俺たちを包む。


「これは……!」


 俺が目を開けると、アイも目を開けていた。


 そして、俺たちの体が、淡い光に包まれている。


「同調率が上がりました!」


 アイが喜ぶ。


「現在の同調率は……30%です!」


「30%……まだまだだな」


「はい。でも、初日でここまで上がるのは素晴らしいことです」


 アイが微笑む。


「この調子で修行を続ければ、数週間で100%に到達できるはずです」


「わかった。頑張ろう」


 こうして、俺とアイの修行が始まった。


 しかし――


 修行は、思ったよりも難航した。



 翌日。



「もう一度、瞑想を始めましょう」


 アイが言う。


「ああ」


 俺が目を閉じて、意識を集中する。


 しかし、なかなか青い光が現れない。


「おかしいな……昨日はすぐに見えたのに……」


「旦那様、焦らないでください。心が乱れていると、同調できません」


「わかってる……」


 俺が深呼吸をする。


 スゥー、ハァー。


 心を落ち着ける。


 すると、ようやく青い光が現れた。


「よし……」


 俺が意識を近づける。


 しかし、光に触れようとした瞬間――


 光が消えた。


「あれ?」


「旦那様、意識が散漫になっています」


 アイが指摘する。


「もっと集中してください」


「すまん……もう一度……」


 俺が再び意識を集中する。


 しかし、何度やっても光に触れることができない。


 一時間後。


「はあ……はあ……」


 俺が汗を拭う。


「ダメだ……全然うまくいかない……」


「旦那様、無理をしないでください。精神的に疲れると、余計に同調できなくなります」


「でも……」

「今日はここまでにしましょう。明日、また頑張りましょう」


 アイが優しく微笑む。


「わかった……」


 俺が立ち上がる。


 しかし、心の中には焦りがあった。



 三日目。



「旦那様、今日は別の方法を試してみましょう」


 アイが提案する。


「別の方法?」


「はい。瞑想だけでなく、実戦を通じて同調率を上げる方法です」


「実戦……」


「はい。わたしと模擬戦をしながら、わたしの動きを予測してください。そうすれば、自然とわたしの意識と繋がれるはずです」


「なるほど……それなら、やってみよう」


 俺が構える。


「それでは、始めます」


 アイが手を上げる。


「《天使の光弾》」


 光の球が、俺に向かって飛んでくる。


「くっ!」


 俺が《時間操作》で時間を遅くする。


 光の球の動きがスローモーションになる。


 俺が避ける。


「次は、どこから来る……?」


 俺がアイの動きを観察する。


 アイが右手を振る。


「右から……!」


 俺が予測して、右に跳ぶ。


 しかし――


 光の球は、左から飛んできた。


「え!?」


 ドォン!


 光の球が、俺に命中する。


「ぐっ……!」


 俺が吹き飛ばされる。


「旦那様、予測が外れましたね」


 アイが微笑む。


「わたしは、右手を動かすフェイントをして、実際には左から攻撃しました」


「くそっ……読めなかった……」


「もう一度、やってみましょう」


 再び模擬戦が始まる。


 しかし、何度やっても俺はアイの動きを予測できない。


 アイの攻撃は、常に俺の予測を上回る。


「はあ……はあ……」


 俺が膝をつく。


「ダメだ……全然ダメだ……」


「旦那様……」


 アイが心配そうに俺を見る。


 こうして、三日間が過ぎた。


 しかし、同調率は30%のまま、全く上がらなかった。



 四日目の夜。



 俺は自分の部屋のベッドに横になり、天井を見つめていた。


「なんでうまくいかないんだ……」


 俺が呟く。


 アイとの同調。


 それは、アイの力を使うために絶対に必要なことだ。


 でも、俺にはできない。


 何か、決定的に欠けているものがあるような気がする。


 でも、それが何なのかわからない。


「くそ……」


 俺が拳を握りしめる。


 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


 コンコン。


「誰だ?」


「わたくしです、リナリア」


 扉の向こうから、リナリアの声が聞こえる。


「リナリア……入っていいぞ」


 扉が開き、リナリアが部屋に入ってくる。


 彼女は、白いナイトガウンを着ていて、髪を下ろしている。


 いつもと違う姿に、俺は少し驚く。


「どうした、リナリア。こんな夜遅くに」


「悠真さん……最近、元気がないように見えます」


 リナリアが俺の隣に座る。


「修行のことで、悩んでいるんですよね」


「ああ……そうだな」


 俺が素直に認める。


「アイとの同調がうまくいかなくて……焦ってるんだ」


「そうですか……」


 リナリアが俺の手を取る。


「悠真さん、わたくし、思うんです」


「何を?」


「悠真さんは、いつも完璧でなければならないと思っていませんか?」


 リナリアの言葉に、俺はハッとする。


「完璧……」


「はい。悠真さんは、これまでたくさんの困難を乗り越えてきました。王都の危機も、聖龍の暴走も、帝都の戦いも、すべて解決してきました」


 リナリアが続ける。


「だから、悠真さんは自分に厳しいんです。いつも完璧でなければならない、失敗は許されない、そう思っているんじゃないですか?」


「それは……」


 俺が言葉に詰まる。


 確かに、そうかもしれない。


 俺は、いつも結果を出さなければならないと思っていた。


 みんなを守らなければならない。


 期待に応えなければならない。


 そして、失敗は許されない。


 そう思っていた。


「でも、悠真さん」


 リナリアが優しく微笑む。


「完璧な人間なんて、いません。失敗することもあります。うまくいかないこともあります」


「リナリア……」


「わたくしたちは、そんな悠真さんを責めたりしません。むしろ、一緒に乗り越えたいと思っています」


 リナリアが俺の手を握る。


「だから、焦らないでください。ゆっくりでいいんです」


 リナリアの言葉が、俺の心に染み込む。


 そうか。


 俺は、一人で背負い込もうとしていたのか。


 でも、俺には仲間がいる。


 リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、エリーゼ、そしてアイ。


 みんなが、俺を支えてくれている。


「ありがとう、リナリア」


 俺が微笑む。


「少し、気が楽になった」


「良かったです」


 リナリアが嬉しそうに微笑む。


 そして――


 リナリアが、俺の肩に頭を寄せる。


「リナリア?」


「少しだけ……このままでいさせてください……」


 リナリアの声が、少し震えている。


「……ああ」


 俺が答える。


 リナリアの体温が、俺に伝わってくる。


 彼女の髪から、甘い香りが漂う。


 しばらく、二人は黙っていた。


 静かな夜。


 窓の外では、月が静かに輝いている。


「悠真さん……」


 リナリアが小さな声で呟く。


「わたくし……悠真さんのこと……」


 その言葉を遮るように、俺がリナリアの頭を撫でる。


「わかってる。ありがとう、リナリア」


 リナリアの頬が、少し赤くなる。


「……はい」


 その夜、リナリアは俺の部屋で少し話をした後、自分の部屋に戻っていった。


 そして俺は、心が少し軽くなったことを感じながら、眠りについた。



 五日目。



 俺は、再びアイとの修行を始めた。


 しかし、今度は焦らない。


 ゆっくりと、自分のペースで。


「それでは、瞑想を始めましょう」


 アイが言う。


「ああ」


 俺が目を閉じる。


 深呼吸。


 心を落ち着ける。


 青い光が現れる。


 ゆっくりと、意識を近づける。


 焦らない。


 じっくりと。


 光が、俺の意識に触れる。


 ビリッ。


 電撃のような感覚。


 でも、今度は落ち着いて受け入れる。


 光が、徐々に俺の意識に溶け込んでくる。


『旦那様……』


 アイの声が聞こえる。


『ああ……聞こえる』


 俺が答える。


『旦那様、心が落ち着いていますね』


『ああ。昨日、リナリアと話をして、少し気が楽になったんだ』


『そうですか……良かったです』


 アイの声が、嬉しそうだ。


『それでは、もう少し深く繋がってみましょう』


 意識が、さらに深く溶け合う。


 アイの記憶が、少しずつ流れ込んでくる。


 俺が異世界に転生した瞬間。


 初めてスライムと戦った時。


 リナリアと出会った時。


 数々の冒険。


 そして――始まりの塔での戦い。


 アイが俺を守るために、ゼノの攻撃を受けて消滅しかけた時。


『アイ……お前……』


『はい。あの時、わたしは本当に消えるかと思いました』


 アイの声が震える。


『でも、旦那様の想いが、わたしを呼び戻してくれました』


『アイ……』


『だから、わたしは旦那様のために力になりたいんです』


 パァァァ!


 光が、さらに強くなる。


『同調率が上昇しています!』


 アイの声が響く。


『40%……50%……60%……』


 どんどん上がっていく。


 俺とアイの心が、一つになっていく。


 そして――


『70%到達!』


 アイが喜ぶ。


「やった……」


 俺が目を開ける。


 アイも目を開けて、嬉しそうに微笑んでいる。


「旦那様、すごいです! 一気に40%も上がりました!」


「ああ……リナリアのおかげだ」


 俺が微笑む。


「リナリア様……」


 アイが少し複雑な表情をする。


「あの……旦那様」


「ん?」


「わたし、リナリア様に少し意地悪してしまったこと……」


 アイが申し訳なさそうに言う。


「深紅の峡谷で、旦那様とキスをした時、リナリア様を挑発してしまって……」


「ああ……あの時は、リナリアが暴走しかけて大変だったな」


 俺が苦笑する。


「すみません……わたしも、嫉妬していたんです」


「嫉妬?」


「はい。リナリア様は、旦那様とずっと一緒にいて、普通に会話できて、触れることもできる」


 アイが少し寂しそうに言う。


「わたしは、第四進化するまで、旦那様に触れることすらできませんでした」


「アイ……」


「だから、実体化した時、嬉しくて……つい、リナリア様に自慢してしまいました」


 アイが頭を下げる。


「ごめんなさい」


「いや……俺もあの時、もっと気を配るべきだった」


 俺がアイの頭を撫でようとする。


 手が、アイの頭に触れる。


 温かい。


 柔らかい。


「アイ……お前、触れるようになったんだな」


「はい……第四進化で、実体化しましたから」


 アイが嬉しそうに微笑む。


「でも、旦那様」


「ん?」


「わたし、リナリア様に謝りたいです」


「そうか……なら、後で一緒に謝りに行こう」


「はい」


 こうして、俺とアイの同調率は70%に到達した。


 しかし、それからまた数日経っても、同調率はそれ以上上がらなかった。


 70%の壁。


 それを超えるのは、簡単ではなかった。



 八日目の朝。



 俺が朝食を食べていると、セラフィナが部屋に入ってきた。


「悠真様、国王陛下からお呼びです」


「国王陛下から?」


 俺が驚く。


「はい。至急、王城にお越しいただきたいとのことです」


「わかった。すぐに行く」


 俺が立ち上がる。


「みんなにも伝えてくれ」


「承知いたしました」



 三十分後。



 俺、リナリア、エリア、シルヴィア、リリィ、エリーゼ、そしてアイは、王城の謁見の間にいた。


 玉座には、アルフレッド国王が座っている。


「よく来てくれた、悠真殿」


 アルフレッドが微笑む。


「陛下、お呼びとのことですが……」


「ああ。実は、重要な依頼がある」


 アルフレッドが侍従に合図すると、大きな地図が運ばれてきた。


「これは……」


 地図には、大陸と、その東方海域が描かれている。


 そして、海域の一部に、赤い印がつけられている。


「これは、つい先日、王国海軍の探検隊が発見した島だ」


 アルフレッドが説明する。


「大陸から約三百海里の地点にある、これまで地図に記載されていなかった島だ」


「新しい島……」


 エリアが興味深そうに地図を見る。


「はい。しかも、この島には強力な魔法結界が張られており、我が国の魔法使いでは接近することすらできませんでした」


 アルフレッドが続ける。


「また、島からは強大な魔力が感じられるそうです。恐らく、古代文明の遺跡が存在するのでしょう」


「古代文明……」


 俺が呟く。


「そこで、悠真殿にお願いしたい」


 アルフレッドが俺を見る。


「この島の調査を、依頼したい」


「調査……」


「結界を突破し、島の内部を探索し、何があるのかを確認してほしい」


 アルフレッドが真剣な表情で言う。


「もし、危険なものがあれば、それを封印するか、破壊してほしい。そして、もし有用なものがあれば、それを持ち帰ってほしい」


「わかりました」


 俺が答える。


「ただし、準備が必要です。いつ出発すればいいですか?」


「二週間後に出発してほしい」


 アルフレッドが言う。


「それまでに、船や物資を準備しよう。報酬は、成功報酬として200,000ルス。さらに、島で発見した財宝はすべて君たちに帰属する」


「200,000ルス……」


 リリィが目を輝かせる。


「わかりました。依頼を受けます」


 俺が頷く。


「ありがとう、悠真殿」


 アルフレッドが微笑む。


「詳細は、後日また連絡する」


「承知しました」


 俺たちは、謁見の間を後にした。


 王城の廊下を歩きながら、エリアが言う。


「新しい島……楽しみですね」


「ええ。古代文明の遺跡なんて、ワクワクするわ」


 エリーゼも興奮している。


「でも、結界が強力なんでしょう? 大丈夫かな……」


 リリィが少し不安そうだ。


「大丈夫だ、リリィ」


 俺がリリィの頭を撫でる。


「俺たちなら、きっと何とかなる」


「うん!」


 リリィが元気に答える。


 俺たちは、王城の正門を出た。


 そして、自宅に向かって歩き始めた時――


「リリィ!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえた。


「え?」


 リリィが振り返る。


 そこには、一人の中年男性が走ってきていた。


 茶色い髪、優しそうな顔。


 質素な服を着ている。


「お父さん!」


 リリィが驚く。


「リリィのお父さん……?」


 俺が呟く。


 男性がリリィの前に立つ。


「リリィ……良かった……やっと会えた……」


 男性が息を切らしている。


「お父さん、どうしたの? お城まで……」


「それが……お母さんが……」


 男性の表情が曇る。


「お母さんが……病気になったんだ……」


「えっ!?」


 リリィが驚く。


「病気……どんな病気なの!?」


「わからないんだ……急に体調を崩して、今は寝込んでいる」


 男性が悲しそうに言う。


「医者にも診てもらったが、原因がわからないと言われた」


「そんな……」


 リリィの目から、涙が溢れる。


「お父さん……お母さんは……大丈夫なの……?」


「わからない……でも、リリィの力なら、何とかできるんじゃないかと思って……」


 男性が懇願する。


「リリィ、お母さんを助けてくれ……」


「お父さん……」


 リリィが俺を見る。


 その目には、助けを求める光が宿っている。


「お兄ちゃん……」


「わかった」


 俺が頷く。


「すぐに行こう」


「本当!?」


 男性が驚く。


「ええ。リリィのお母さんを診させてください」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 男性が何度も頭を下げる。


「それで、お母さんはどこに?」


「王都の南部、貧民街の近くにある家です」


「わかりました。案内してください」


 俺たちは、男性の後について歩き始めた。


 王都の南部。


 それは、王城や商業地区とは対照的に、古い建物が立ち並ぶ地域だ。


 道は狭く、建物は老朽化している。


 ここに住む人々は、あまり裕福ではない。


「こちらです」


 男性が、一軒の小さな家の前で立ち止まる。


 木造の二階建て。


 壁は所々剥がれていて、屋根も古い。


「中へどうぞ」


 俺たちは、家の中に入った。


 一階には、簡素な居間がある。


 古い家具、質素な食器。


 そして、階段を上がると、二階には二つの部屋がある。


「お母さんは、こちらの部屋です」


 男性が、奥の部屋の扉を開ける。


 部屋の中には、ベッドに横たわる女性がいた。


「お母さん!」


 リリィが駆け寄る。


 女性は、茶色い髪を持つ優しそうな顔立ちだ。


 しかし、その顔は青白く、額には汗が浮かんでいる。


「リリィ……来てくれたのね……」


 女性が弱々しく微笑む。


「お母さん……」


 リリィの目から、涙が溢れる。


「悠真さん、お母さんを診てあげてください!」


「ああ」


 俺がベッドの横に座る。


「アイ、診断を頼む」


「はい、旦那様」


 アイが姿を現す。


 周囲の人々が、驚く。


「この人は……?」


「俺の仲間のアイです」


 俺がアイに合図する。


 アイが女性の額に手を当てる。


 淡い光が、女性の体を包む。


「……これは……」


 アイの表情が曇る。


「どうした、アイ?」


「旦那様……これは、病気ではありません」


「病気じゃない?」


「はい。これは……呪いです」


「呪い!?」


 全員が驚く。


「呪い……そんな……誰が……」


 男性が呆然とする。


「呪いの種類は……《衰弱の呪い》です」


 アイが説明する。


「この呪いは、対象の生命力を徐々に奪っていきます。放置すれば、一週間以内に……」


 アイが言葉を濁す。


「そんな……」


 リリィが泣き崩れる。


「でも、大丈夫です」


 アイが続ける。


「リリィさんの《ピュリファイ・エッセンス》なら、この呪いを浄化できます」


「本当!?」


 リリィが顔を上げる。


「はい。でも、早く浄化しないと、手遅れになります」


「わかった! 今すぐやる!」


 リリィが母親の手を取る。


「お母さん、大丈夫だよ。わたしが治してあげるから」


「リリィ……ありがとう……」


 母親が微笑む。


「《ピュリファイ・エッセンス》!」


 リリィの手から、白い光が溢れ出す。


 光が、母親の体を包む。


 パァァァ!


 眩い光が、部屋中を照らす。


 そして――


 母親の体から、黒い霧のようなものが浮き上がってきた。


「これが……呪いの正体……」


 エリアが呟く。


 黒い霧は、リリィの浄化の光に触れると、ジュウウウという音を立てて消えていく。


 やがて、黒い霧は完全に消えた。


「はあ……はあ……」


 リリィが息を切らす。


「リリィ、大丈夫か?」


 俺がリリィの肩を支える。


「うん……ちょっと疲れただけ……」


 リリィが微笑む。


 そして、母親を見る。


 母親の顔色が、みるみる良くなっていく。


 青白かった顔が、健康的な色を取り戻す。


「あら……体が……軽くなった……」


 母親が起き上がる。


「お母さん!」


 リリィが母親に抱きつく。


「リリィ……ありがとう……あなたが助けてくれたのね……」


「うん……」


 リリィが涙を流しながら頷く。


「お母さん……良かった……」


 感動的な再会のシーン。


 俺たちも、思わず微笑む。


 しかし――


「旦那様」


 アイが真剣な表情で俺に囁く。


「この呪いは、偶然かけられたものではありません」


「どういうことだ?」


「《衰弱の呪い》は、高度な呪術です。素人にはかけられません」


 アイが説明する。


「つまり、誰かが意図的に、リリィさんのお母さんに呪いをかけたということです」


「意図的に……」


 俺が眉をひそめる。


「誰が、何のために……」


「それは、まだわかりません。でも、危険な存在がいることは確かです」


 アイが警告する。


「わかった。原因を調べよう」


 俺が立ち上がる。


「リリィのお父さん」


「は、はい」


 男性が緊張する。


「お母さんに、最近、変わったことはありませんでしたか? 誰か怪しい人物に会ったとか、変なものをもらったとか」


「変わったこと……」


 男性が考え込む。


「そういえば……一週間前、お母さんが市場で買い物をしていた時、変な恰好の商人に声をかけられたと言っていました」


「商人……」


 俺が顔をしかめる。


「その男は、何か渡しましたか?」


「ええ……確か、お守りのようなものをもらったと言っていました」


「お守り……それは今、どこに?」


「お母さんの部屋に……」


 男性が母親に尋ねる。


「あなた、あのお守りはどこ?」


「ああ……あれなら……机の引き出しに……」


 母親が指差す。


 俺が机の引き出しを開けると、小さな布の袋が入っていた。


「これか……」


 俺が袋を取り出す。


 袋からは、微かに黒い魔力が漏れ出している。


「アイ、これを調べてくれ」


「はい」


 アイが袋に手を近づける。


 しかし、袋に触れた瞬間――


 パリィン!


 袋が砕け、中から黒い結晶が現れた。


「これは……呪いの結晶……」


 アイが驚く。


「この結晶が、呪いの源だったんです」


「やはり、意図的だったか……」


 俺が拳を握りしめる。


「でも、なぜリリィの母親に?」


「わかりません。でも、これは放置できません」


 アイが真剣な表情で言う。


「この呪いをかけた犯人を見つけないと、また同じことが起こるかもしれません」


「そうだな……」


 俺が考え込む。


「リリィのお父さん、その商人の特徴を、もっと詳しく教えてください」


「ええと……お母さんから聞いた話では、男は背が高く、声は低かったそうです。顔はフードで隠れていて、見えなかったと……」


「他には?」


「男は、お守りを渡す時、『これを持っていれば、幸運が訪れる』と言ったそうです」


「幸運……か」


 俺が呟く。


 典型的な詐欺の手口だ。


 いや、これは詐欺ではない。


 呪いをかけるための罠だ。


「その男は、市場で他の人にもお守りを配っていませんでしたか?」


「それは……わかりません」


「わかりました。調べてみます」


 俺が立ち上がる。


「みんな、これから市場に行って、情報を集めよう」


「はい」


 全員が頷く。


「リリィ、お前はお母さんのそばにいてあげてくれ」


「でも……」


「大丈夫だ。俺たちで何とかする」


 俺がリリィの頭を撫でる。


「お母さんが心配だろ?」


「……うん」


 リリィが頷く。


「ありがとう、悠真さん」


「気にするな。仲間だろ」


 俺が微笑む。


 そして、俺たちはリリィの家を後にした。


 王都の市場へ向かうために。


 呪いをかけた犯人を見つけるために。


 果たして、犯人は誰なのか。


 そして、その目的は何なのか。


 悠真たちに新たな脅威が迫ろうとしていた――




今回はリリィの母親が登場し、彼女の家族の絆が描かれました。いつも明るく元気なリリィですが、母親の危機に直面した時の涙は、彼女がまだ幼い少女であることを思い出させてくれます。


浄化能力で母親を救ったリリィ。しかし、なぜ彼女の母親が狙われたのか?黒いローブの男の正体は?新たな脅威の影が忍び寄る中、悠真たちは二週間後に迫る島の調査と、この呪いの謎を同時に追うことになります。


暁の裏

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