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【完結】魔法が使えない落ちこぼれ令嬢、なぜか学園一の人気者に溺愛されています  作者: モーヒアス


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第二十四話

 その日の午後。

 エリスとレオンは、隊長のいる部屋を訪れていた。


「レオンだ」

「どうぞ」


 扉を開けると、隊長は机の前に座っていた。

 机の上には、いくつもの書類が積まれている。

 どうやら、遺跡についての調査を続けているらしい。


「お二人とも、もう動いて大丈夫なのですか?」

「俺は明日には退院できるそうだ」

「エリス様は?」

「私も問題ありません」

「そうですか」


 隊長は安心したように頷いた。


「それで、今日は何か?」


 エリスは手に持っていた古い紙を見る。


「これを見ていただきたいんです」

「……それは?」

「治癒魔法士の方から渡されました」


 隊長が紙を受け取る。


「古い記録?」

「はい」


 隊長は紙に目を通した。

 最初は何でもないような表情だった。

 けれど。


「……」


 ある一文に目を止めた瞬間、その表情が変わった。


「これは……」

「何か分かりますか?」


 エリスが尋ねる。

 隊長はすぐには答えなかった。

 もう一度、紙を最初から読み直す。

 そして。


「少し待ってください」


 隊長は立ち上がった。


「え?」

「この記録は、私だけの判断では扱えません」


 隊長は部屋の奥へ向かう。


「ですが、その前に確認しておきたい」


 隊長は振り返った。


「この記録にある『生命を司る力』」

「……はい」

「これは、エリス様が使われた魔法と同じものですか?」


 エリスは少し迷った。


「……完全に同じかは分かりません」

「ですが?」

「書かれている内容は、私の魔法とほとんど同じです」

「そうですか……」


 隊長は難しい顔をした。


「やはり、そういうことか」

「何か知っているのか?」


 レオンが尋ねる。


「少しだけです」


 隊長は机の引き出しを開けた。

 そこから、一冊の分厚い本を取り出す。

 かなり古いものだった。


「これは王国の古い記録です」

「王国の……?」

「はい」


 隊長は本を机の上に置いた。


「ただし、一般には公開されていません」

「どうして?」

「内容の一部に、現在も危険とされている場所の情報が含まれているからです」


 エリスの胸が高鳴った。


「……古代遺跡ですか?」

「その通りです」


 隊長は本を開く。

 何度かページをめくり、ある場所で手を止めた。


「ここです」


 そこには、簡単な地図が描かれていた。


「王都より北」

「……」


 エリスは息を呑む。

 前に見た地図と同じ場所だった。


「この遺跡は、今からおよそ三百年前に発見されたとされています」


 隊長は静かに説明する。


「当時の調査隊は、遺跡の内部で特殊な魔力反応を確認しました」

「特殊な魔力?」

「はい」


 隊長は頷いた。


「通常の魔力とは違う性質を持ち、周囲の生命力に影響を与えるものだったそうです」

「生命力に……?」


 エリスが呟く。


「はい」


 隊長はページをめくる。


「植物が異常な速度で成長したり、逆に突然枯れたり。動物の身体に変化が現れたり……」

「そんなことが……」

「調査隊は危険と判断し、遺跡を封鎖しました」


 レオンは地図を見る。


「それが、今も立入禁止になっている理由?」

「正確には、それだけではありません」


 隊長はさらにページをめくった。


「その後、遺跡内部で何度か事故が起きています」

「事故?」

「調査に入った者たちが、突然意識を失ったり、魔力を失ったりしたそうです」


 エリスは黙って聞いていた。

 その話を聞いていると、胸の奥が少しだけ重くなる。


「そして」


 隊長は続けた。


「最も重要なのが、これです」


 古い記録の一文を指差す。


「『生命を司る力を持つ者が、遺跡へ近づいた場合、遺跡が反応した』」

「……!」


 エリスの目が見開かれた。


「それって……」

「はい」


 隊長はエリスを見る。


「今回、討伐隊が森で魔物と遭遇したあと、遺跡から強い魔力反応が出たこととも関係している可能性があります」


 レオンが地図を見る。


「あの魔物は……」

「まだ断定はできません」


 隊長は首を振る。


「ですが、遺跡周辺で確認された異常な魔力と、今回の魔物に残っていた魔力には、共通点がある可能性があります」

「……」


 エリスは自分の手を見る。

 あの魔物に触れたとき、確かに感じた。

 自分の魔法に似た力。

 あれは、偶然ではなかったのかもしれない。


「隊長」

「はい」

「この記録に書かれている『継承者』というのは……」


 隊長の表情が変わった。


「……その言葉まで書かれていましたか」

「はい」


 エリスは頷く。


「一番下に」

「そうですか……」


 隊長はしばらく黙り込んだ。

 そして。


「私も詳しくは知りません」

「え?」

「ただ、王国には古くから一つの伝承があります」


 隊長はゆっくりと言葉を続けた。


「生命を司る力は、誰にでも使えるものではない」

「……」

「その力を持つ者は、代々受け継がれてきたと」


 エリスの胸が大きく鳴った。


「つまり……」

「はい」


 隊長はエリスを見る。


「『継承者』とは、その力を受け継いだ者を指している可能性があります」


 エリスは何も言えなかった。

 生まれつきの、少し変わった魔法。

 それくらいに思っていた。

 けれど、もし本当に受け継がれてきたものなのだとしたら、自分の知らない誰かが過去に、この力を使っていたことになる。


「……私の両親は、このことを知っていたのでしょうか」


 エリスが呟く。

 隊長は少し困ったような顔をした。


「それについては、私には分かりません」

「そうですか……」

「ただ」


 隊長は続ける。


「一つだけ言えることがあります」

「何でしょう?」

「エリス様の力について、王国が積極的に調べているわけではありません」

「……え?」

「少なくとも、現在の王国には、その力を持つ者についての記録はほとんど残っていません」


 エリスは少しだけ安心した。

 けれど、同時に疑問も残った。

 なら、なぜこの古い記録だけが残っているのだろう。


「隊長」


 レオンが口を開いた。


「今回の魔物が、遺跡と関係している可能性は?」

「高いと思っています」

「なら、遺跡を調べるんだろう?」

「もちろんです」

「俺も行こう」

「駄目です」


 隊長は呆れたように息を吐いた。


「レオン様は怪我をしたばかりでしょう」

「でも、俺はもう――」

「公爵様から、くれぐれも無理をさせないよう言われています」

「……また父上か」

「それだけではありません」


 隊長はエリスを見る。


「エリス様もです」

「私も?」

「はい」

「どうして?」

「今回の件に関係している可能性が高いからです」


 エリスは黙った。


「だからこそ、慎重に動く必要があります」

「……分かりました」


 エリスは頷いた。

 隊長は少し安心したように笑った。


「遺跡の調査には、王国の専門家も参加する予定です」

「いつ頃ですか?」

「まだ決まっていません」


 隊長は地図を見る。


「ですが、近いうちに調査隊を編成することになるでしょう」

「そうか……」


 レオンが残念そうな顔をする。


「俺たちは待ってるしかないか」

「その通りです」

「……分かった」


 レオンは素直に頷いた。

 エリスも、もう一度古い記録を見る。

 そこに書かれた言葉。


『継承者』


 まだ何も分からない。

 自分の力が何なのか。

 誰から受け継いだのか。

 なぜ遺跡と関係しているのか。

 そして、なぜあの魔物が自分の力と似た魔力を持っていたのか。

 分からないことばかりだった。

 けれど初めて、手掛かりが見つかった。


「エリス」

「何?」


 レオンが隣から声をかける。


「退院したらさ」

「うん」

「王立図書館に行こう」

「……図書館?」

「ああ」


 エリスは少し驚いた。


「今、この状況で?」

「だからだよ」


 レオンは笑った。


「分からないことを調べるなら、本を読むのが一番だろ?」

「……ふふっ」


 エリスは思わず笑った。


「そうね」

「だろ?」

「レオンはしばらく激しい運動は禁止だもんね」

「分かってる」

「無理をしたら駄目だからね」

「分かってるって」

「本当に?」

「……はい」


 レオンは苦笑した。

 隊長も、その様子を見て小さく笑った。


「では、明日の朝には退院できるよう手配しておきましょう」

「本当ですか?」

「はい」


 レオンの表情が明るくなる。


「やった」

「ただし、退院後もしばらくは無理をしないこと」

「へいへい、分かりましたよ」


 レオンが肩を落とす。

 エリスはそんなレオンを見て笑った。


 古代遺跡。

 生命を司る力。

 継承者。

 そして、謎の魔物。


 まだ何一つ答えは出ていない。

 けれど、明日になればまた王都の日常へ戻ることができる。

 そして、久しぶりに王立図書館でレオンと本を読む時間が、少しだけ楽しみになっていた。




 その一方で、王都北部。

 誰も近づくことを許されていない、古い遺跡では。


「……」


 誰もいないはずの地下深く。

 淡い光が、ゆっくりと明滅していた。

 その光は、まるで何かを待っているかのように、静かに、そして確実に強くなっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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