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【完結】魔法が使えない落ちこぼれ令嬢、なぜか学園一の人気者に溺愛されています  作者: モーヒアス


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第十九話

 王都の城門前は、騒然としていた。


「レオン様!」

「誰か、医療班を呼べ!」

「早くしろ!」


 倒れたレオンを、騎士たちが取り囲んでいる。

 隊長はレオンの身体を支えながら、必死に呼びかけた。


「レオン様!聞こえますか!」


 返事はない。

 先ほどまで普通に歩いていた。

 疲れてはいた。

 それでも、自分の足で王都まで戻ってきた。

 それなのに、城門をくぐる直前、突然倒れた。


「……一体、何が」


 隊長がレオンの身体を見る。

 そのとき。


「血が……」


 誰かが呟いた。

 レオンの服の背中が、赤く染まっている。


「怪我をしていたのか!?」

「いつからだ?」

「分かりません!森では少し負傷していましたが、こんな傷は……!」


 騎士たちが慌てる。

 やがて。


「どいてください!」


 王都の医療班が駆けつけた。

 治癒魔法士たちがレオンの周囲へ集まる。


「患者は?」

「レオン・ヴァレンシュタイン様です!」

「……!」


 その名前を聞いた瞬間、治癒魔法士たちの顔が変わった。


「すぐに運びます!」

「待ってください!」


 一人の治癒魔法士がレオンの背中を確認する。

 そして。


「これは……」


 顔色が変わった。


「何か分かりましたか?」

「背中にかなり深い傷があります」

「深い……?」

「はい。それだけではありません」


 治癒魔法士が傷口へ手をかざす。

 次の瞬間。


「……っ!」


 手を引いた。


「どうした!」

「魔力が……」


 治癒魔法士の額に汗が浮かぶ。


「傷口に、異常な魔力が残っています」

「異常な魔力?」

「普通の魔物のものではありません」


 隊長の顔が強張る。


「治せないのか?」

「ここでは判断できません。すぐに治療室へ運びます!」

「頼む!」


 騎士たちはレオンを担架へ乗せた。


「急いでください!」


 医療班が走り出す。

 隊長もその後を追った。


「レオン様……」


 誰もが不安そうな顔をしている。

 今回の討伐は成功した。

 誰も死なずに戻ってきた。

 それなのに最後の最後で、レオンだけが倒れた。




 王都の医療施設。

 レオンはすぐに治療室へ運び込まれた。


「傷を確認します!」


 治癒魔法士が服を切り開く。

 背中には、大きな傷があった。

 右肩から背中にかけて。

 魔物の爪によって深く裂かれている。


「……これは」

「かなり深いですね」

「まず止血を!」


 治癒魔法が発動する。

 淡い光が傷口を包む。

 普通の怪我なら、これだけで一旦出血は止まる。

 傷も徐々に塞がっていく。

 しかし。


「……どうして」


 傷は閉じなかった。


「もう一度!」

「はい!」


 別の治癒魔法士も加わる。


 二人。


 三人。


 次々と魔法を重ねていく。

 それでも傷口はほとんど変わらない。


「おかしい……」

「治癒魔法が効いていません」

「これは……」


 一人の魔法士が首を振った。


「効いていないんじゃない」


 傷口を見つめる。


「治そうとしても、魔力が弾かれているんだ」

「そんなことが……」

「傷そのものに、何かが絡みついている」


 別の治癒魔法士が魔力を探る。

 すると。


「……この魔力」

「どうした?」

「さっき森で見た魔物の魔力と似ています」


 室内の空気が変わった。


「まさか……」

「レオン様は、あの魔物に何かされたのでは?」


 隊長も治療室へ入ってきた。


「どうなんですか?」

「まだ分かりません」


 治癒魔法士が答える。


「ですが、このままでは危険です」

「危険……?」

「出血だけではありません」


 治癒魔法士はレオンを見る。


「身体の中へ、異常な魔力が入り込んでいます」

「取り除けないのか?」

「今のところは……」


 隊長の顔が青ざめる。


「つまり……」

「このまま魔力が広がれば、内臓や生命維持に必要な器官まで影響する可能性があります」

「そんな……」

「できる限りのことはします」


 治癒魔法士はそう言った。


「ですが、我々だけでは……」


 言葉を濁した。

 隊長には、その意味が分かった。

 簡単な傷ではない。

 このままでは、レオンの命が危ない。




「当主様!」


 治療室の外から声が響いた。

 駆けつけたのは、レオンの父である公爵だった。


「レオンは?」

「中で治療を受けています」

「容体は?」


 隊長が言葉に詰まる。


「……まだ、分かりません」

「どういうことだ」

「傷が、通常の治癒魔法では塞がらないのです」


 公爵の表情が険しくなる。


「魔物の攻撃か?」

「はい」

「森で何があった?」


 隊長は、これまでの戦いを説明した。


 未知の魔物。


 額の紋様。


 異常な魔法耐性。


 そして、最後の一撃。


「……そうか」


 公爵は拳を握った。

 息子が大きな功績を上げた。

 それを喜ぶより先に今は、息子の命のほうが重要だった。


「王宮の治癒魔法士にも連絡しろ」

「すでに連絡を取っています」

「分かった」


 公爵は治療室の扉を見る。


「……レオン」


 小さく呟いた。




 どれくらい時間が経ったのか。

 治療室の中では、治癒魔法が何度も繰り返されていた。

 レオンの傷は少しも良くならない。


「……」


 レオンの指が、わずかに動いた。


「!」


 治癒魔法士が気づく。


「意識が戻ります!」

「レオン様!」


 隊長が駆け寄る。

 ゆっくりとレオンが目を開けた。


「……ここは」

「王都の医療施設です」

「……そうか」


 レオンは小さく息を吐いた。


「俺……倒れたのか」

「はい」

「みんなは?」

「全員無事です」

「……そうか」


 レオンは安心したように目を閉じる。


「よかった……」


 それだけ言った。

 隊長は胸が苦しくなった。

 自分の命が危ないというのに、最初に気にするのは仲間のことだった。


「レオン様」

「ん?」

「今、治療を続けています」

「ああ」

「ですが……」


 隊長は言葉を選ぶ。


「傷が、なかなか塞がらないそうです」

「……」


 レオンは少し黙った。


「そうか」

「必ず助けます」


 隊長は強く言った。


「絶対に」


 レオンは微かに笑った。


「……ありがとう」


 そして少しだけ目を開く。


「エリスは?」

「……」


 隊長は答えられなかった。

 まだ知らせていない。


「まだ……」


 レオンは苦しそうに息を吐く。


「会ってないのか」

「はい」

「……そうか」


 レオンは目を閉じる。


「会いたいな」


 小さな声だった。


「エリスに……会いたい」


 その言葉を聞いた隊長は、もう隠しておくことはできないと思った。

 レオンがこんな状態になっていることを、エリスに伝えるべきだ。


「公爵様に、エリス様への連絡をお願いしてきます」

「……頼む」


 レオンは目を閉じた。


「俺……ちゃんと戻ってきたって……伝えたい」

「ええ」


 隊長は頷いた。


「必ず伝えます」




 その頃。

 エリスは王都にある自宅で、本を読んでいた。

 いつものように静かな時間だった。

 レオンたちが戻ってきた。

 そう聞いていた。


「……そろそろ帰ってくる頃かな」


 エリスは本を閉じた。

 無事に帰ってきてくれれば、それでいい。

 今回の討伐がどんな結果になったのか。

 どんな魔物と戦ったのか。

 きっと帰ってきたら、レオンは嬉しそうに話してくれる。

 そんなことを考えていた。

 そのとき、玄関から慌ただしい音が聞こえた。


「エリス!」


 父の声だった。


「お父様?」


 エリスは立ち上がる。

 いつもとは違う父の声が、明らかに焦っていた。

 部屋を出とそこには、青ざめた父が立っていた。


「どうしたのですか?」

「……レオン殿が」

「……え?」


 その名前を聞いた瞬間。

 胸の奥が大きく跳ねた。


「レオンが……どうしたのですか?」


 父は一瞬、言葉を詰まらせた。

 そして。


「王都へ戻ってきた直後に、倒れたそうだ」

「……」


 エリスの顔から血の気が引いた。


「今、治療を受けている」

「怪我を……?」

「魔物から受けた傷らしい」

「どこを……?」

「背中だ」

「……治療は?」

「通常の治癒魔法では、傷が塞がらないそうだ」


 その言葉を聞いた瞬間。

 エリスの頭の中が真っ白になった。


「……」


 レオン。


 遠征まではいつも笑っていた。

 大丈夫だと言っていた。

 無茶はしないと約束した。

 それなのに。


「……お父様」

「なんだ?」


 エリスは父を見た。

 震える声で。


「私……レオンのところへ行きます」

「エリス……」

「お願いします」


 エリスは胸元を強く握った。


「私なら……」


 言葉が止まる。

 生命魔法のことを誰にも知られてはいけない。

 父からも、ずっとそう言われてきた。

 力を知られれば、利用されるかもしれない。

 危険な目に遭うかもしれない。

 だから。隠してきた。

 けれど今は……。


「……私なら、助けられるかもしれません」


 父は何も言わなかった。

 ただ、エリスの顔を見つめている。

 娘が何を決意したのか、その目を見れば分かった。


「……行きなさい」

「お父様……」

「レオン殿のところへ行ってやれ」


 エリスは頷いた。


「はい」


 そして走り出した。

 レオンのもとへ。

 今度は私が彼を助けるために。

 何を失っても。

 何を知られても。

 それでも絶対に、彼を死なせたくなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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