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15/18

第15話 姉は、恋文の原本を持っていました

姉は、予告より半日早く着いた。

髪を後ろで結び、旅行鞄を肩にかけていた。夫の診療の都合で出発を早めたらしい。

私の店を見るなり、椅子が思ったより小さいと言った。


「侯爵様も、ここに座るの?」

「斜めに座られます」


姉が笑った。

父の葬儀以来、二人きりでこんな話をするのは初めてだった。


私はお茶を出した。

姉は鞄から封筒を取り出した。見覚えのある、薄い紙の端が出ている。


「昔の手紙ですか」

「あなたの清書は、夫が持っている。これは、私の最初の下書き」


私は息を止めた。

何でもあなたのために捨てられる、という文になる前の手紙だった。

姉の文字は、今より線が細い。

父の具合が悪いので、しばらく家を離れられません。

それでも、あなたに会いたいです。

こちらへ来て、一緒に暮らすことを考えてくださいませんか。


私は、その手紙を覚えていた。

好きな相手へのお願いが、こんなに現実的でよいのかと思っていた。

もっと美しく、もっと献身的な文にすれば、もっと愛されると思った。


「父が亡くなってから、あなたは私に何も頼まなくなった」


姉が言った。


「お金を頼まなかったことだけじゃないの。家へ帰りたいとか、寂しいとか。それを言えば、私の生活を捨てさせると思った?」


私はカップを置いた。

少し音がした。


「思いました」


姉は、そこで私を急かさなかった。

私は今まで、頼むなら相手が断りにくい言い方にするか、自分で全部するかの二つだと思っていた。

相手が断れる頼み方があると、仕事では知っている。

自分のことだと、それがわからなくなる。


「次の冬、家へ一週間ほど帰ってもいいですか」


私は言った。

姉が目を丸くした。


「いいわよ。寝床は、今でも二階にある」

「私は、店を畳むつもりはありません」

「帰省する妹に、閉店してから来てとは言ってないでしょう」


二人で笑った。

ずっと避けていた話は、思い出したより大きく、口に出したより小さかった。


夕方、セオドア様が来た。

姉がいることは、私が朝の便で知らせていた。

彼は戸口で帽子を取り、名乗ろうとした。

最初の音が、すぐには出なかった。

私は、姉の顔を見た。

姉は普通に待っていた。

医師の家でいろいろな人に会っている人だ。それに、誰かを急かすのが礼儀だと考える人でもない。


「セオドア・クローヴェルと、申します」

「ルイーザです。妹の店に、お仕事をくださっていると」


侯爵様は頷き、少し考えた。


「仕事のない日にも、会ってもらっています」


私はお茶の盆を持ったまま止まった。

姉が私を見た。

私は、頷いた。


「はい。私が、お誘いした日もあります」


セオドア様の目が、こちらへ向いた。

姉は椅子を少し横へずらし、二人の顔を順番に見た。


「では、お茶は三つね」


それだけだった。

身分を確かめることも、私の代わりに返事を決めることも、しなかった。


夜、姉は泊まる部屋で髪をほどきながら言った。


「話しているときの、あなたの顔が違うのね」

「どんなふうに?」

「次に何を言えば喜ばれるか、考えていないときがある」


私は自分の頬を触った。

そういう顔を、私はしていたのだろうか。

姉は旅行鞄を閉じ、昔の下書きをそのまま戻した。

私に持たせるために来たのではなかった。

あの言葉を書いた人が、今でも同じ家で、別の言葉を選びながら暮らしている。

私はそのことを見せてもらったのだった。

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