↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/18

第13話 お幸せを祈る前に、お返しいただきます

商事審院へ出した請求の審理は、春の半ばに行われた。

最初の手紙から、二か月近く経っていた。

私は、自分の名を使った紙について、事実を聞かれる人として呼ばれた。

マリア様もソフィさんも、それぞれ自分の代理人と座っている。

セオドア様は傍聴の席にいた。侯爵であっても、妹の案件の裁判官を務めることはできない。


ハルド代表は、今日も丁寧な服を着ていた。

私は袖ではなく、机に置かれた紙を見ることにした。


「当院は、善意で婚姻の支度を進めたのです。若い方のご心境の変化により、支出の回収が困難になりました」


代表はそう説明した。

ナディアさんが、その支出に本人の承諾があるかを尋ねた。

彼は院の担当者が確認したと答えた。

担当者は、別紙の差し替えを指示されたとすでに証言していた。

指示の日付が、銀行に保管された原本の後にある。

偽の署名による融資の申請は、婚約解消の前に行われていた。

心境が変化する前に、人の財産は使われていた。


ワルター様も呼ばれていた。

私は初めて顔を見た。マリア様が学びたかった音楽について、社交の場にふさわしくないと話した人だ。

彼は椅子に深く座り、持参金の管理を院へ任せていたと繰り返した。

ナディアさんが、彼の家の事業へ送金された記録を出した。


「金額と用途を、ご存じでしたか」

「母親のいない娘に、準備の細目を煩わせるのは」


マリア様の手が、膝で動いた。

審理をしている方が、質問への答えを求めた。

彼は視線を逸らしたあと、父に頼まれて署名したと答えた。

何を頼まれたかを読んでいたことも、続けて認めた。

立派な家の名前は、その記録を消してくれなかった。


ブローチの件では、婚約時の預かり品目録が出された。

贈与品ではなく、婚礼の衣装との組み合わせを調べるための預かりだった。

目録には、母君の頭文字まで記されていた。

マリア様はずっと、そのことを知っていたのだ。

返す必要はないと言われると、自分が間違っているのかもしれないと考えてしまっただけで。


私の順番が来た。

偽の手紙について、いつ何を見て、何を求められたかを答えた。

ハルド代表は、私が書いたものを担当者が複写しただけだと主張した。

原本を求められると、見つからないと言った。

私の受付帳と、同じ番号の部品注文の清書が示された。

発送票にあった院の私書箱について、彼は広告を一括発送するためだったと説明した。


「この方の許可を得て、広告を作成したのですか」


審理する方の問いに、代表は答えられなかった。

私は、ここで勝ったと思うより先に、息が吐けた。

自分ではない文章を、自分ではないと、記録の上でも言える。

そのために来たのだった。


決定はその日には出なかった。

追加の照合が終わり、翌月、財産の返還と、不正な手数料の精算が命じられた。

マリア様の預託金六百金貨は、本人の口座へ戻る。融資の責任を彼女の財産へ負わせることは認められなかった。

ソフィさんの三十金貨も戻ることになった。

婚約の解消に伴う請求放棄が、本人へ清算内容を知らせずに預託した元金まで奪う根拠にはならないと判断されたのだ。

彼女の手紙には、実際に返金を約束した院の返信も残っていた。

何も書いていない紙だったら、同じ決定になったかはわからなかった。


結縁院の預託業務は停止された。

新しい婚姻の仲介も、記録の検査が終わるまで禁じられた。

偽造と無断の融資については、別の役所へ記録が送られた。

後日、ハルド代表と署名に関与した者へ刑が言い渡され、ワルター様の家には返還と賠償の責任が残った。

院の看板から長い称号が外された日のことは、新聞で読んだ。


青いブローチが戻ってきた日、マリア様は私の店へ来た。

裏には、小さな頭文字が二つあった。

彼女は胸につけず、掌で包んだ。


「今なら、あの方の幸せを祈れるかしら」


私は考えた。


「お祈りは、お仕事ではありませんから」


彼女は声を出して笑った。


「そうね。今日は、返していただきましたとだけ書きます」


封筒を、私の机ではなく自分の鞄へ戻した。

お代の要らない返事を、彼女は自分で書けるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。