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第11話 「お気の毒に」は、曲の終わりまで

マリア様の音楽院の審査は、晴れた日に行われた。

私は演奏を聴くことはできなかった。入室できるのは、受験する本人だけだ。

彼女は門の前で私とセオドア様へ手を振り、楽譜を持って中へ入った。

私は自分の鞄の紐を握っていた。

その手を見て、兄君が言った。


「私たちが、試験を受ける顔に」

「なっていますね」


二人で少し離れた場所へ移動した。

何もできない待ち時間は、仕事の待ち時間よりずっと長い。


マリア様は、昼前に出てきた。

途中で一か所、弾き直したという。

私が残念でしたねと言いそうになる前に、彼女は続けた。


「でも、最後まで弾きました。お水が飲みたいです」


私たちは近くの店に入った。

合格の話も、失敗の話も、まずはお水の後だった。


二週間後、結果が届いた。

入学は認められ、基礎の課程から始めることになった。

マリア様は自分から、身近な人を招いて小さな演奏会をしたいと言った。

お祝いだけでなく、自分が王都から逃げるのではないと知らせたいらしい。

私への招待状も、彼女が書いた。

少し丸い文字だった。


会場は、侯爵家の小広間。

招かれた人の中には、以前のお茶会にいた方もいた。

私は借りた紺の服を着て、端の椅子に座った。姉が昔着ていたもので、袖だけ少し直している。

給仕の方が水を置いてくれた。

緊張して、飲めなかった。


一人の夫人が、マリア様の手を取った。


「本当に、お気の毒でしたわね。けれど、音楽を慰めになさるなら」


彼女は手を引かなかった。

笑顔のまま、言った。


「慰めにもなりました。でも、以前から学びたかったのです」


私は、その声を聞いていた。

私の下書きにはない言葉だった。


「ここでお話ししておきたいことがあります」


マリア様が客のほうへ向いた。

婚約を解消することには同意していること。

音楽を学ぶ希望を撤回したことはなく、別の説明を聞いた方には訂正してほしいこと。

預けた財産の清算は、代理人を通じて進めていること。

その三つを、静かに話した。

金額も、ほかの人の事情も言わなかった。


「今日は、それについてのお話は、ここまでにいたします。曲を聴いていただけますか」


彼女は椅子へ座った。

私は背筋を伸ばした。

演奏は、緊張がわかる始まりだった。最初の和音に、強さがありすぎた。

けれど、続けるうちに右手の音が軽くなった。私は、次の音を待ちたいと思った。

途中で小さく間が開いた。

弾き直さず、そのまま続いた。


最後の音が消えるまで、セオドア様は動かなかった。

拍手が始まってから、手を上げた。

彼が一番大きく拍手をしているように、私には聞こえた。


帰りに、マリア様が私へ来た。


「どこで間違えたか、わかりました?」

「わかりませんでした。でも、少しだけ、あなたが考えたところは」

「あります。そこです」


彼女は笑った。

私が褒めるために何もわからないふりをしていないと、わかったのだろう。


「入学まで、練習します。お金が戻るのを待って、始めるのを遅らせたくありません」


侯爵家には学費を立て替えられる余裕がある。

すべての人に同じ余裕がないことは、ソフィさんの話で知っていた。

でも、今この人が弾いた曲は、この人のものだ。

私は頷き、入学の日を楽しみにしていますと伝えた。


セオドア様が、玄関まで送ってくれた。


「妹の声が、戻りました」

「もともと、ありました。私は、少し聞いただけです」


彼は頷いた。

私の袖が少し長いことに気づき、階段で手を差し出した。

私はその手を借りた。

演奏の途中では平気だったのに、玄関のたった二段で、胸が落ち着かなくなった。

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