第94話 太陽と生意気な贈り物
始まった夏は、目まぐるしい速さで駆け抜けていった。
県大会、関東大会と、生徒たちは俺たちの想像を超える執念と成長を見せ、あれよあれよという間に全国中学校水泳競技大会――『全中』の切符を掴み取った。
そして、迎えた、全国の舞台。
大歓声が響くメインプールの電光掲示板に、男子四百メートルメドレーリレー「七位」の文字が灯った瞬間、俺たちの夏が終わった。
「――よくやった! 胸張れ、お前ら最高だったぞ!」、
プールサイドから戻ってきた部員たちの肩を抱く。
目標だった全国での入賞。
快挙以外の何物でもないはずなのに、全力で戦い抜いた子どもたちは、悔しさと達成感が入り混じった顔で、誰も彼もが子供のように大泣きしていた。
大粒の涙を流しながらお互いの健闘を称え合う彼らの姿に、胸の奥が熱くなる。
熱狂の余韻を残したまま、新幹線を乗り継ぎ、夜の帳が下りた地元の駅へと戻ってきた。
改札前の広場に集合し、遠征の全日程を終えていよいよ解散しようとした、その時だった。
「高橋先生! 松岡先生! ちょっと待ってください!」
いつも練習で文句ばかり言っていた、あの生意気な中心メンバーの男子生徒が、少し照れくさそうに俺たちを呼び止めた。
驚いて足を止めると、部員全員が綺麗な円陣を組むようにして、俺たちの前に並び直す。
「……これ、みんなから。受け取ってください」
差し出されたのは、部員全員の文字がびっしりと書き込まれた、寄せ書き入りのTシャツとスポーツタオルだった。
「今までご指導ありがとうございました。本当に、生意気なことばっかり言ってすいませんでした。……でも、高橋先生と松岡先生がいなければ、俺たちリレーで全国なんて絶対に行けなかったですし、部活の本当の楽しさを知らないまま引退してました。……本当に、ありがとうございました!」
代表して声を張り上げた生徒の目が、またみるみるうちに涙で潤んでいく。
周りの部員たちも、つられるように鼻をすすり始めた。
「なんだよ、お前ら……」
不意打ちのサプライズに、俺は思わず堪えきれずに笑ってしまった。
あんなにバラバラで、手を焼かせてばかりだった生意気なガキどもが、こんなに立派な顔をして感謝を伝えてくるなんて、反則だろう。
「あ……、う、うう……っ」
ふと隣を見ると、松岡先生がすでに両手で顔を覆って号泣していた。
さっきのプールサイドでも誰より泣いていたのに、子どもたちの真っ直ぐな言葉に完全に涙のダムが決壊したらしい。
肩を激しく震わせ、小さな子供のようにしゃくり上げている。
「松岡先生、泣きすぎですよ」
俺は苦笑しながら、そっと彼女の背中に手を添えた。
この五ヶ月、一緒に泥臭くプールサイドで汗を流してきた相棒への、心からの労いを込めて。




