第79話 星と涙の勝利
「……お待たせしました! お皿、ありましたよ!」
数分後、リビングのドアが勢いよく開いた。
戻ってきたなぎさは、手に数枚の小皿を抱え、やけに元気な声を上げてリビングを慌ただしく動き回っている。
だが、その頬は心なしか上気しており、大きな瞳は薄っすらと膜を張ったように潤んでいた。
「なぎさ? 顔、赤いぞ。どうかしたのか?」
俺が思わず尋ねると、なぎさは慌てて視線を泳がせ、サンタの衣装の裾をぎゅっと掴んだ。
「な、なんでもないです! キッチンがちょっと暑かっただけですよ。ほら、叔母さんも、先輩も、ケーキ食べましょう!」
なぎさは無理に笑顔を作ってお皿を並べる。だが、その手元はどこかおぼつかない。
松岡先生は、そんな姪の様子を全て見透かしたような、慈愛に満ちた眼差しで見つめていた。
「……そっかぁ。それじゃあ、私はこのケーキをいただいたら、そろそろ失礼するわね」
「えっ、もう帰っちゃうんですか? 叔母さん」
なぎさが驚いたように顔を上げる。
先生は俺となぎさを交互に見て、優しく微笑んだ。
「ええ。明日は仕事が早いし……それに、トナカイ役の私は、可愛いサンタさんに時間を譲って退散することにするわ」
先生はそう言って、俺に向かって小さくウィンクをした。
その茶目っ気のある大人の気遣いに、俺の胸に小さな予感がよぎる。
先生はゆっくりと立ち上がり、コートを羽織った。
「高橋くん、素敵なクリスマスをね。なぎさ、あまり先輩を困らせちゃダメよ?」
「わ、分かってますよ……!」
玄関まで見送り、ドアが閉まる音が響く。
外の冷たい空気が遮断され、暖房の効いたリビングには、俺と、サンタ姿のなぎさの二人だけが取り残された。
静寂が部屋を支配する。
なぎさは俺に背を向けたまま、テーブルの上の食べかけのケーキをじっと見つめていた。
小さく上下する彼女の肩に合わせて、サンタ衣装の首もとにある星のチャームが、健気にきらめいたまま細かく揺れている。
「……なぎさ?」
俺が声をかけると、彼女の肩が大きく跳ねた。
ゆっくりと振り返ったなぎさの顔には、もう隠しきれない大粒の涙が溢れていた。
(――あぁ、そうか。あいつ、全部聞いていたんだ)
潤んだ瞳と鉢合わせした瞬間、俺の頭の中で全てのパズルが繋がった。
皿を取りに行ったあの数分間、なぎさはあの扉の向こうで、俺の過去の告白も、そして「なぎさが本当に大好きだ」という今の本音も、全部受け止めてくれていたのだ。
「……バカ先輩。あんなの、ずるいです……」
サンタの帽子を少し歪ませながら、なぎさは泣き笑いのような、言葉にできないほど愛おしい表情で俺を見つめていた。




