第78話 星と答え合わせ
あ、ごめんなさい! ケーキのお皿、予備を持ってくるの忘れちゃいました。
ちょっと取ってきますね!
なぎさがサンタの衣装を揺らしながら、やけに元気な声を上げてリビングを慌ただしく飛び出していった。
嵐のような賑やかさが去り、部屋には俺と松岡先生の二人だけが残される。
「ふふ、なぎさったら、相変わらず元気ね」
松岡先生がお茶を一口すすり、穏やかな眼差しを俺に向けた。
「高橋くん、なぎさと本当に仲が良いのね。さっきから見ていて、なんだか微笑ましくなっちゃった」
かつての憧れの人から向けられる、一点の曇りもない称賛。
俺は一瞬、手元のコップを見つめ、意を決して口を開いた。
「……先生。俺、中学の時、先生のことが本当に好きだったんです」
不意の告白に、先生が小さく目を見開く。
「あの頃、俺が必死に泳いでいたのは、全部先生に見てほしかったからなんです。……修学旅行で栞を贈ったのも、俺なりの、精一杯の気持ちでした」
ずっと胸に仕舞い込んでいた過去を言葉にすると、重荷がスッと降りていくような感覚があった。
「……ありがとう、高橋くん。そんな風に思ってもらえて、先生、とっても幸せ者ね」
先生はいつもの温かい眼差しで、教え子の過去の想いを優しく受け止めてくれた。
「いいんです。……でも」
俺はそこで言葉を区切り、扉の向こうにいる「誰か」を思い浮かべるように続けた。
「今は、なぎさが隣にいてくれる。あいつの星みたいに真っ直ぐな煌めきが、今の俺を支えてくれてるんです。俺……なぎさのことが、本当に大好きなんです。あいつの笑顔に、俺は救われてるんだと思います」
その時、リビングの扉がわずかに揺れた気がした。
扉のすぐ後ろ、廊下の暗がりに赤いサンタ衣装の影が潜んでいることに、俺はまだ気づいていない。
自分の戦略通りに二人きりの状況を作ったはずのなぎさが、そこで自分の名前と共に語られた真っ直ぐな「大好き」という言葉に、どんな顔をして胸を熱くさせているのか。
「……っ」
ずっと抱えていた過去への焦燥感が綺麗に溶けていくような、甘い安堵の涙が溢れそうになり、なぎさが自分の口元を両手で必死に押さえていることも、俺はまだ知る由もなかった。




