第77話 星と聖夜の決意
十二月二十四日。
街中がイルミネーションと歓喜に包まれる中、俺はなぎさに招かれて自宅を訪れていた。
両親は不在。
本来なら二人きりの特別な夜……のはずだったが、リビングのドアを開けると、そこには予想外の、けれど見覚えのある後ろ姿があった。
「……松岡先生!?」
「あ、高橋くん。メリークリスマス。なぎさに『叔母さんが来ないとパーティーが始まらない』って、強引に誘われちゃって」
仕事帰りのスーツ姿に、少しだけクリスマスらしい赤いスカーフを巻き、片手には手作りの焼き菓子が入った紙袋を持った松岡先生が微笑む。
かつて俺が水泳に全てを捧げ、密かに憧れ続けた大人の女性。
突然の登場に一瞬だけ心臓が跳ねたが、俺はすぐに、先月この部屋でなぎさに誓った言葉を思い出して背筋を伸ばした。
「松岡先生、お疲れ様です。……まさか先生もいらっしゃるとは思わなくて」
「せっかくなら、みんなで楽しもう? ほら、美味しいお菓子もあるし!」
先生の相変わらずの包み込むような温かさに、頭が下がる思いがする。
だが、その視線を遮るように、鮮やかなサンタクロースの衣装に身を包んだなぎさが俺の前に飛び出してきた。
白いファーがついた赤いミニ丈のワンピース。普段の制服姿とは違う、少し露出のあるその姿に、俺は一瞬で目のやり場に困ってしまう。なぎさが動くたび、首もとのあたりで小さな星のチャームがついたゴールドのネックレスが、リビングの光を反射して健気にきらめいた。
「先輩! 叔母さんばっかり見てないで、私を見てください。今日のサンタは、私なんですから!」
なぎさは俺の腕をぎゅっと抱き寄せ、松岡先生に見せるように満面の笑みを浮かべた。
ふわりと、彼女の髪からいつもの甘いシャンプーの匂いが漂う。
「叔母さん、今日は来てくれてありがとうございます。でも、先輩をドキドキさせるのは私の役目ですからね? 叔母さんには、私たちが仲良くしてるところ、特等席で見守っててほしいんです!」
「はいはい、可愛いサンタさんに先を越されちゃったわね。高橋くん、愛されてるわね」
先生が楽しそうに笑い、お茶を淹れにキッチンへ向かう。
リビングに二人きりになった瞬間、なぎさは俺の耳元で、吐息が触れるほどの距離で囁いた。
「……先輩、分かってますよね? 過去の憧れよりも、今隣にいる私。誰よりも先輩を幸せにできるのは、私だけです」
なぎさは少し強引に俺の手を引き、リビングのテーブルに置かれた手作りのケーキの前へと導いた。
形は少し不格好だが、そこには彼女の真っ直ぐな熱意がこれでもかというほど詰まっている。
「さあ、聖夜のパーティーを始めましょう! 私が用意した最高のプレゼント、楽しみにしていてくださいね?」
目の前のサンタ姿の少女。
その胸元で小さく輝く一番星のような、健気で愛おしい独占欲。
俺にとってこのクリスマスは、過去の残像を完全に置き去りにし、なぎさの愛を真正面から受け止めるための、甘くて温かい決意の夜となった。




