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第60話 星と、月と、太陽と

 放課後の教室は、驚くほど静かだった。


 オレンジ色の西日が机の端を掠め、俺の前には一枚のプリントが置かれている。


「進路希望調査票」


 これまで何度も目にしてきたはずのその紙が、今はインターハイのスタート台よりも重く、鋭く俺を試しているように見えた。


 俺はペンを握ったまま、耳の奥で響く三つの「声」を思い出していた。



「……どうかな、大学でもまた、私と一緒に泳がない?」


 佐伯先輩の、凛とした声。競泳の世界でさらなる高みを目指し続ける彼女と同じ大学へ行き、またあの眩しい隣で泳ぐ未来。


 それは、競技者として最も正しく、そして刺激的な「道」だ。



「勝手に遠くに行かないでください……!」


 なぎさの、震える声。


 引退した俺のために不器用にケーキを焼き、真っ直ぐに「好き」をぶつけてくれた後輩。


 地元の大学に残り、彼女の隣で、穏やかで温かな「今」を守り続ける日々。



「高橋くんらしく頑張ってね」


 そして、中学の卒業式で松岡先生がくれた、温かな声。


 再会した彼女は相変わらずちょっと抜けていて、でも、そこにいるだけで俺を「少年」に戻してくれる。


 彼女の背中を追って教育大学へ進み、誰かの原点になれるような自分を目指す生き方。



 未来(月)か、今(星)か、それとも原点(太陽)か。


 窓の外からは、まだ現役で練習を続ける水泳部の、かすかなホイッスルの音が聞こえてくる。


 俺は、一文字も埋まっていない調査票の第一志望欄を、じっと見つめた。


 ここを埋めれば、何かが決まる。


 そして、選ばなかった別の未来は、永遠に消えてしまう。


 胸の奥が、熱く、激しく波打つ。


 俺は深く、深く息を吐き出すと、ようやくペン先に力を込めた。


 カリッ、と。



 ペンが紙を噛む感触が、指先から脳へと伝わる。


 俺は、自分の心の中にある、たった一つの答えを書き込み――。


 **第一志望:        **


【星編 第一部完】

 いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!


 第60話をもちまして、【太陽編 第一部】【月編 第一部】【星編 第一部】それぞれの第一部が完結となりました。


 進路希望調査票を前に、俺が最後に選んだ道――。

 ここからは、俺が選んだ「三つの未来」をそれぞれ描く、マルチエンディング(ルート分岐)方式で物語が進行します!


 読者の皆様がお好きな未来から、心の向くままにお楽しみください。


【月編】(第61章〜)

選択: 佐伯先輩の待つ「体育大学」へ

見どころ: 競泳の世界での切磋琢磨、そして一人暮らしの生活が始まる、一度はすれ違った二人の本当の戦いと恋。


【星編】(第71章〜)

選択: なぎさのいる「地元の大学」へ

見どころ: 自分のために真っ直ぐ泣いてくれた後輩。地元に残る決心をして、残りの高校生活を彼女と歩む、温かで等身大の恋模様。


【太陽編】(第81章〜)

選択: 松岡先生を追って「教育大学」へ

見どころ: 10年の歳月、引かれた境界線。かつての少年が「大人の男」になり、あの懐かしい原点(先生)の隣に並び立つまでの物語。


 まずは、佐伯先輩との未来を描く**【月編】(第61章:月と一間の水面)**から投稿を開始します!


 俺が選ぶそれぞれの水面を、最後まで一緒に見届けていただけたら嬉しいです。

 このあとも「続きが気になる!」「この恋を応援したい!」と少しでも思っていただけたら、ページ最下部にある【☆☆☆☆☆】をポチッと星に変えて評価していただけたり、ブックマークを登録していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

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