第51話 星と月が交わる花火
関東大会の最終日、会場には歓喜と熱気が渦巻いていた。
俺は三年生としての意地を見せ、今年も無事にインターハイへの切符を掴み取った。
これで、俺の最後の夏はまだ終わらない。
「先輩! やりました……やりましたよ!」
プールサイドで駆け寄ってきたなぎさの顔は、水飛沫と涙でぐちゃぐちゃだった。
以前の地区大会で味わった、紙一重の悔しさ。
それをバネに、彼女は執念の泳ぎで、今回はライバルに競り勝ち、さらにインターハイ出場を決めたのだ。
その瞳は、まるで暗闇のプールに飛び込んだ一筋の星の光のように、強い輝きを放っていた。
以前、テーマパークのプールで交わした「デートの約束」が、彼女にとって本当に大きな力になったのかもしれない。
大会を終え、なぎさと共に電車に揺られて地元の駅に戻ってきた。
改札を出ると、夜空の向こうから「ドン、ドン」と腹に響くような音が聞こえてくる。
「あ、花火! 先輩、今日だったんですね。少しだけ見ていきませんか?」
なぎさが目を輝かせて俺の袖を引く。
駅前の通りからは、夜空に咲く大輪の花がよく見えた。
次々と打ち上がる鮮やかな光が、なぎさの横顔を照らし出す。
(……ああ、去年も、一昨年も)
その光景を見た瞬間、俺の脳裏には大切な記憶が蘇っていた。
去年、そして一昨年。俺はこの場所で、佐伯先輩と花火を見上げていたのだ。
「君が、私を広島へ連れて行ってくれるんだって……」そう言って、真っ直ぐな気持ちを俺に伝えてきてくれた先輩。
すべては「二人で大舞台に立つ」という、目標があったからこそ、がんばってこれたのだった。
先輩はいつも凛としていて、俺にとって水泳でも精神面でも、夜空に浮かぶ孤高の月のように、静かに、だけど確かに暗闇を照らしてくれる道標のような女性だった。
「先輩? どうしたんですか、難しい顔して」
なぎさが不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「いや……なんでもない。ただ、去年もここで先輩と花火を見たなと思って」
「……佐伯先輩と、ですか?」
なぎさの問いに、俺は短く頷いた。
目の前で無邪気に花火を楽しむなぎさと、記憶の中で美しく笑う佐伯先輩。
なぎさが、繋いでいた俺の袖を少しだけ強く握った。
「……ねえ、先輩。私、先輩が見てきた景色を、もっと知りたいです」
打ち上がる派手な花火の光にも、記憶の中の綺麗な月明かりにも負けないくらい、まっすぐな瞳が俺を見つめている。
それは、自分も先輩の隣で一緒に輝く星になりたいと願うような、強い眼差しだった。
花火の音にかき消されそうなほど小さな声だったが、その言葉は確かに俺の胸に届いた。
過去の記憶が重なり合いながら、俺たちの「最後の夏」は、さらに熱を帯びて加速していく。




