第49話 星と涙の日曜日
結果は、なぎさの敗北だった。
他校のライバルに一歩及ばず、電光掲示板に表示された彼女の順位は二位。
プールから上がってきたなぎさは、いつもなら真っ先に俺のところへ駆けてくるはずなのに、その時はただ俯いて、肩を小さく震わせていた。
「……先輩」
静かに声をかけてきたなぎさの顔を見た瞬間、俺の胸がツンと締め付けられた。
ゴーグルを外した彼女の目からは、大粒の涙が次々と溢れ、頬を伝って床に落ちていた。
「勝てなかったです……。せっかく先輩が『考えてやる』って言ってくれたのに、私……自分でチャンス、逃しちゃいました……っ」
いつも強気で、星のように眩しい笑顔ばかり見せていたなぎさが、子供のように泣いていた。
その涙を見た時、俺の心の中で何かが静かに動いた。
ただの生意気で可愛い後輩じゃない。
あの日、図書室で「一人の女の子として好き」だと真っ直ぐにぶつかってきてくれた彼女が、今、本気で悔しがって、俺とのデートのためにボロボロ泣いている。
そのまっさらな姿に、俺は知らず知らずのうちに、強く心を惹かれていた。
「浅野」
俺はポケットからタオルを取り出し、なぎさの頭の上からぐしゃりと被せた。
「泣くな。お前のレース、ちゃんと見てたよ」
「……先輩?」
「負けたけど、いい泳ぎだった。……俺は『勝ったら考えてやる』って言ったけど、『負けたら行かない』なんて言ってないだろ」
タオルの隙間から、なぎさが涙で濡れた目を丸くして俺を見る。
「次の日曜日、行くぞ。……だから、もう泣くな」
俺が視線を逸らしながらそう言うと、なぎさはしばらく呆然としたあと、タオルを握りしめながら、夜空で小さく弾ける星のような、切なくて、でも嬉しそうな笑顔を浮かべた。




