第45話 星と秘伝の隠し味
「……今日もここで食べるのか?」
「はい! 先輩の隣が、私の一番落ち着く場所ですから」
屋上の踊り場。
なぎさはいつもと同じように、夜空の星のようにきらきらとした笑顔で弁当箱を広げた。
ふと、なぎさが「あ!」と思い出したように、自分の箸を止める。
「そうだ、先輩! 今日はハンバーグを多めに作ってきたんです。よかったら一個、食べてくれませんか?」
「え? いや、悪いよ」
「いいんです、無理やり食べさせるのが私のスタイルですから! はい、あーん!」
強引に差し出された木箸の先に、照りよく焼き上がった手作りハンバーグがあった。
俺は根負けして、それを口に運ぶ。
(……!?)
噛み締めた瞬間、俺の身体に衝撃が走った。
口の中に広がる肉汁の旨味、絶妙な挽肉の練り加減。ソースに隠された、微かな酸味と甘みのバランス。
それは、中学時代。
放課後の調理室で、松岡先生が試食させてくれた、あのハンバーグの味と全く同じだった。
すべてを優しく包み込んでくれるような、あの温かい太陽が作った料理の味。
「……浅野、これ」
「どうしました? 先輩。そんなに感動してくれました?」
「……これ、どうしたんだ? どこかで習ったのか」
「ええ。うちの叔母直伝のレシピなんです。叔母、ものすごく料理が上手なんですけど、『これだけは私の自慢だから、あなたに教えてあげる』って、特訓させられたんですよ」
なぎさは誇らしげに胸を張った。
その屈託のない笑顔までもが、記憶の中の松岡先生と重なり、俺の動揺は深まっていく。
(……似ているだけじゃない?)
大きく澄んだ瞳、至近距離でまぶしく輝く星のような明るさ、そしてこの「料理上手な叔母」が作るハンバーグの味。
俺の中で、今までバラバラだったピースが音を立てて繋がり始めていた。
目の前のなぎさが、俺が大切に思い出の中に閉じ込めていた過去の記憶を、鮮やかな「現在」として引きずり出してくる。
「……美味しいよ。すごく」
「本当ですか!? やった! 叔母に報告したら、きっと驚くだろうな。私のファン第一号は先輩だったって!」
無邪気に笑うなぎさの姿を見ながら、俺は確信に近い思いを抱いていた。
彼女は、松岡先生と深く繋がっている。
その事実が、これからの二人の関係をどう変えていくのか。
俺は、まだ温かいハンバーグの余韻の中で、鋭い熱量を持ってまっすぐに迫ってくる、星のようななぎさの瞳から目を逸らせなかった。




