第44話 星と足跡の重なり
部活が終わった後の駐輪場。
西日が長く伸びる中、なぎさは当然のような顔で俺の横に並んだ。
「先輩、一緒に帰りましょう! 推しと同じ空気を吸いながら帰るのが、一番のリカバリーなんです」
「……お前なぁ。まあ、いいけど。途中までだぞ」
仕方なく歩き出した俺の横で、なぎさは夜空の星のようにきらきらと楽しげに笑いながら、今日あった出来事を次々と話してくる。
彼女の屈託のない真っ直ぐさに、俺の心は少しずつ、静かに解されていくのを感じていた。
ふと、俺は気になっていたことを口にする。
「浅野さ、お前のタイムなら私立の強豪校からも声がかかってただろ? なんでわざわざ、うちみたいな普通の公立に来たんだ?」
なぎさは一瞬だけ足を止め、悪戯っぽく微笑んだ。
「やっぱりわかっちゃいます? はい、実は推薦、いくつか頂いてました。でも、全部断っちゃったんです」
「……断った? もったいないな」
「もったいなくないですよ。だって、私にはどうしてもここで泳ぎたい理由があったんです。誰に何を言われても、自分の心が『ここだ』って決めた場所で頑張りたかったから」
その言葉に、俺は目を見開いた。
かつて自分も、水泳の強豪校へ行く道がありながら、「松岡先生の母校」という理由でこの学校を選んだ。
松岡先生がどんな場所で学び、どんな景色を見て、あの優しい価値観を育んだのか。それを知りたいと思ったからだ。
(……俺と同じだ)
目の前の少女が、自分と全く同じ、青臭くて真っ直ぐな理由でここに立っている。
なぎさを「ただ先生に似ている後輩」だと思っていた俺の胸に、かつてない親近感と、それを超えた何かが芽生え始めていた。
「……変なやつだな、お前も」
「ふふっ。先輩に言われるのが一番嬉しいです!」
なぎさが弾むように先を歩く。
その背中を追いかけながら、俺は無意識に、あの温かい太陽のような松岡先生にあげた「栞」のことを忘れている自分に気づき、少しだけ焦燥感を覚えた。




