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第13話 太陽と決戦の地

 新幹線の速度が落ち、車内に目的地を告げるアナウンスが流れ始めた。


 右肩に伝わっていた心地よい重みと体温が、急に「現実」として俺の意識に突き刺さる。


「……ん、……ふぇ?」


 隣で小さな声がした。


 肩に乗っていた頭がゆっくりと離れ、松岡先生の体が揺れる。彼女はまだ半分夢の中にいるような顔で瞬きを繰り返していたが、窓の外に見える「新大阪」の文字と、俺の肩を交互に見た瞬間、弾かれたように背筋を伸ばした。


「……えっ!? あ、あ、あの、高橋くん!? 私、今……」


 彼女は自分の両肩を抱くようにして、みるみるうちに顔を真っ赤に染めていった。耳の付け根までリンゴのように赤い。


「……寝てましたね。一時間半くらい」


「う、嘘……! ごめんなさい! 肩、重かったよね? 痛くない? 痺れてない!?」


 慌てふためいて、俺の右肩をペタペタと叩こうとして、それさえも「あ、ごめん、触っちゃダメだよね!」と手を引っ込める。その挙動不審な動きが、いつもの「頼りない先生」そのもので、俺の緊張も一気に解けた。


「大丈夫ですよ。軽いもんっすから」


 本当は、重みよりも鼓動のうるささの方が問題だったなんて、口が裂けても言えない。


「もー……。先生失格だよね、引率なのに生徒に寄りかかって寝ちゃうなんて。……高橋くん、これ、絶対に鬼頭先生には内緒だよ? 約束だよ?」


 彼女は泣きそうな顔で、でも真剣に俺の目を見つめてくる。


「わかってますよ。……お好み焼きとたこ焼きの約束に、飲み物も追加しときますね」


「えっ、追加? さらに?」


「……約束ですからね」


 俺は少し意地悪く笑って、座席の上の荷物棚からエナメルバッグを下ろした。


 扉が開き、大阪の、湿り気を帯びた熱風が車内に流れ込んでくる。


 それと同時に、胸の奥がピリッと引き締まった。この熱気の向こうに、全国から集まる怪物が待っている。


「さあ、行きましょう。先生の楽しみな『美味しいもの』が待ってますから」


「あ、ちょっと待って! ファイル……金魚の栞、あった!」


 慌ててバッグを整える彼女を追い越して、俺はホームへと降り立った。

 

 肩に残った微かな重みの余韻を振り払うように、深く息を吸い込む。


 いよいよ、決戦の地。

 

 「先生、迷子にならないでくださいよ」


 「ならないってば!」

 

 そんなやり取りをしながら歩き出す俺たちの背中を、八月の強烈な太陽が照らしつけていた。

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