第 5話:燃ゆる魂、レッドの挑戦!
【アバン:深海要塞デフィトパレス】
「……レッドが、折れただと?」
その報告がもたらされた瞬間、深海要塞デフィトパレスの空気は氷点下まで凍りついた。
静寂。それが逆に恐ろしい。
巨大な玉座に座す大総帥ヘリンフェルが、ゆっくりと腰を上げた。
「ほう……」
短く、重い溜息。それだけで幹部たちの背筋に戦慄が走る。
「意外ねぇ。あのビクトリーレッドが、戦場で変身を解くなんて」
妖艶に髪をかきあげるミスーネが口角を上げる。
「ゲラゲラ! 所詮はガキだ! 心がポッキリいきゃあ、おもちゃ同然よ!」
巨漢のハンマンリキが下卑た笑い声を響かせるが、策士オメガメアは冷徹にモニターを見つめていた。
「……いえ。あの赤、まだ死んではいませんよ。その瞳に燻る火種、あれは厄介だ」
「だが、傷は入った」
沈黙を守っていたデフィロスが、静かに断じる。「傷は、一度入ればそこから広がるものだ」
モニターに映し出されているのは、泥まみれで膝をつく**紅かおる**。
その手には、無残に中ほどから折れたビクトリーブレード。
「これだ」
ヘリンフェルが歪んだ笑みを浮かべる。「ビクトリーレンジャー最大の弱点――それは『仲間意識』だ」
「仲間を守る、信じる。戦隊が美徳とするその絆こそが、最大の呪いとなる」
総帥の目が鋭く光る。
「仲間が傷つけば自分も崩れる。鎧ではなく、心を割るのだ。レッドという柱を折れば、チームは勝手に自壊する」
「……不安を育てろ。一度疑念を抱いた心は、自分自身を蝕み続ける」
ヘリンフェルは背後の闇へ命じた。
「アルマジロデスペ。……レッドだけを狙え。守らせ、選ばせ、そして絶望させろ」
「はっ!! 承知いたしましたッ!」
鋼鉄の球体のような怪人が前へ出る。
「希望ほど、絶望に変わりやすいものはない……」
海の底で、どす黒い悪意の笑い声がいつまでも反響していた。
---
【Aパート:希望研究所~市街地】
朝日が差し込む希望研究所。いつもなら賑やかなはずの朝食の時間は、重苦しい沈黙に支配されていた。
地下トレーニングルーム。
「はぁっ!!……はぁ、はぁ……ッ!!」
かおるは猛烈な勢いで竹刀を振るっていた。鋭く、速い。
だが、その剣筋はどこか焦りに満ちていた。
「……違う。こんなんじゃ……っ」
額から滴る汗。その震える手は、昨日折られた剣の感触を覚えていた。
「あの怪人、絶対許さない……!」
隣の流れるプールで、かれん(ブルー)が激しい水しぶきを上げる。
「くそっ!!」
あすは(イエロー)が叩きつけたパンチでサンドバッグが破裂する。
「ちょっと、二人とも落ち着きなさいよ……」
ちさと(ホワイト)が呆れ顔で声をかけるが、その瞳にも不安の色が混じる。
はるこ(ピンク)はリボンを弄りながら、ただじっと、かおるの背中を見つめていた。
その時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
「敵襲よ! 市街地にデデマン軍団、そして――暗至獣出現!」
博士の指示に、四人が即座に顔を上げる。
モニターに映るのは、昨日の怪人・アルマジロデスペ。
「……っ!」
かおるの顔が、一瞬で青ざめた。
「ビクトリーレンジャー、出動!」
「……行こう、かおる」
かれんに促され、かおるは絞り出すような声で答えた。
「……うん」
---
現場は地獄絵図だった。
「助けて!」「誰かー!!」
逃げ惑う人々。暴れまわるデデマン。
「変身!!」
五色の光が弾け、戦士たちが戦場に舞い降りる。
**「勝利への道を切り開き、世界を守り抜く! 勝利戦隊、ビクトリーレンジャー!!」**
名乗りこそ決まったが、アルマジロデスペは余裕の笑みを浮かべる。
「来たな、レッド。また剣を折られたいか?」
「……っ!」
レッドの足が止まる。脳裏をよぎる、剣が粉砕されるあの「音」。
「レッド、集中して!」
ブルーの声でハッと我に返るが、動きに精彩がない。
「遅いッ!!」
アルマジロデスペの猛烈な突進。
「きゃあっ!!」
まともに喰らったレッドが地面を転がる。
「レッドが……負けた……?」
避難する子供の、小さくも絶望に満ちた声。それがレッドの心に深く突き刺さる。
「どうしたぁ!? 守ってみろよ、そのガキをよぉ!!」
怪人が超高速回転で突っ込んでくる。
「レッド、危ない!!」
ブルーが身を挺して割って入る。
ドガァァァン!!
「かれん!!」
吹き飛ぶブルー。レッドは動けない。怖い。また自分のせいで仲間が傷つく。
「そうそう、その顔だ! “守りたいのに守れない”絶望の味はどうだぁ!?」
レッドは子供を抱きかかえ、土煙の中で震えていた。
膝が笑う。変身の光が明滅し、安定しない。
「……私……私は……」
---
【Bパート:葛藤と決意】
その夜、研究所の空気は最悪だった。
食卓には手付かずの料理。かおるの席は空席のままだ。
「……私は、かおると話してくるわ」
博士が席を立つ。
かおるの部屋。灯りの消えた暗がりに、彼女はうずくまっていた。
「……怖いんです、博士」
消え入りそうな声。
「私、リーダーなのに。一番怖がってる。レッド失格だよ……」
博士は否定せず、静かに隣に座った。
「かおる。怖いと思えるのはね、それだけ守りたいものがあるからよ」
「……え?」
「本当にどうでもいいなら、恐怖なんて感じない。あなたは仲間を、世界を愛している。だから怖いの。それは弱さじゃないわ」
博士はかおるの目を見つめる。
「戦隊はね、『怖くない人』が集まる場所じゃない。『怖くても、前へ行く人』たちの場所なのよ」
「……!」
「自分だけで背負わないで。仲間を、信じなさい」
博士が去った後、かおるは窓の外の夜景を見つめた。
その時、通信ブレスレットからノイズ混じりの声が響く。
『こちらブルー! 敵の夜襲よ!』
『数が多すぎる……っ! でも、ここは通さない!』
仲間たちの必死の声。戦っている。今、この瞬間も。
『かおる……待ってるから。信じてるから!』
最後にはるこの声が聞こえた。
胸の奥で、小さな火花がパチリと弾けた。
「……みんな……!」
---
【Cパート:反撃の時】
街はアルマジロデスペの猛攻に晒されていた。
「レッドがいない程度で、このザマか!」
ボロボロになりながらも立ち上がる四人。だが限界は近い。
そこへ、一筋の赤い閃光が走り抜けた。
「待たせたな!」
「かおる!!」
そこに立っていたのは、迷いを振り払ったビクトリーレッドだった。
「また折れに来たか、レッド!」
「違う。……今度は、みんなで立ち向かいに来た!」
レッドの剣が燃えるように輝く。
「ブルー!」「了解!!」
ブルーの水流で動きを止め、「イエロー!」「任せな!」
イエローの足払いで体勢を崩す。「ホワイト!」「そこよ!」
ホワイトの攪乱から、「ピンク!」「捕まえたわ!」
ピンクのリボンが怪人を捕縛する。
「ハァァァッ! レッドブレード!!」
会心の一撃が、怪人の装甲を叩き割った。
「な、何ィ……!? なぜ貴様、恐怖に怯えていたはずでは!」
「怖いよ! 今だって震えてる!」
レッドが叫ぶ。
「でも、一人じゃないから……みんながいるから、私は一歩踏み出せるんだ!!」
「「「「当然でしょ!!」」」」
四人の声が重なる。
「おのれぇぇぇ!! 絶望界、発動ッ!!」
怪人が巨大化し、空を闇が覆う。
「戦艦勝利、発進! ビクトリーホープ、合体だ!!」
巨大ロボ、ビクトリーホープが大地に立つ。
絶望の闇の中でも、五人の心は一つだった。
「怖いままでも、私たちは進む! それが勝利への道だ!!」
**「勝利剣・ビクトリーインパルス!!!!」**
巨大な光の刃が闇を切り裂き、アルマジロデスペを一刀両断する。
「ば、馬鹿なァァァ! 希望だとぉぉぉ!!」
大爆発。
晴れ渡った空に、眩しい朝日が差し込んだ。
---
【エピローグ】
「いやー、昨日はマジでヒヤヒヤしたぜ!」
「でも、最後のかおる、ちょっとカッコよかったかも」
朝食のテーブルで、あすはとちさとが笑い合う。
「おかえり、かおる」
はるこの言葉に、かおるは心からの笑顔で答えた。
「……うん。ただいま!」
---
<次回予告>
ビクトリーピンク、森山はるこにまさかの恋の予感!?
お相手は同級生のさくらちゃん。
「えっ、デートの誘い!? どうしよう!!」
だが、そんな時に限って怪人が現れて……。
正体がバレたらおしまい!? でも街は守らなきゃ!
次回!!
「ヤバい バレそう もうひとつのわ・た・し」
勝利の女神が微笑むのは、どっち!?




