第 3話:希望への第一歩
日本近海の深海、そのさらに底。
太陽の光も、海流の歌も届かぬ闇の底に、巨大要塞デフィトパレスは沈んでいた。鋼鉄の牙を幾重にも突き出したその姿は、まるで世界そのものを噛み砕こうと待ち構える怪物だ。
中央謁見室。
無数の戦闘兵デデマンが列をなし、その前方に四幹部が並ぶ。
将軍デフィロス。
軍師オメガメア。
怪力幹部ハンマンリキ。
妖艶なる怪人創造者ミスーネ。
そして玉座には、総統デストラー。
怒号が最初に響いた。
「たった五人だぞ、たった五人! 三連敗とは何事だ、ミスーネ!!」
ハンマンリキの拳が床を叩く。鋼鉄の床がへこんだ。
ミスーネは長い髪をかき上げ、鼻で笑う。
「またあなた? 力だけの男は騒音まで大きいのね。怪人を創る知性も、作戦を組む頭脳もないくせに」
「なんだと!」
「黙りなさい」
その一言で、空気が凍った。 デストラーが低く問う。
「ミスーネ。今の我らには封印から戻った莫大なエネルギーがある。次は勝てるのだな?」
「ええ。怪人一体、デデマン数十体、さらに絶望界の展開まで同時運用可能。……強化もできるわ」
「どこを強化する?」
「企業秘密」
ハンマンリキが吠え、デフィロスが眉をひそめ、オメガメアは目を閉じた。
その時だった。 部屋全体の照明が、一斉に暗転する。
誰も触れていないのに。幹部たち全員が跪いた。
闇の中から、声だけが現れる。
「……見苦しい」
空気が重く沈む。肺に鉛を流し込まれたような圧迫感。
「敗北から学ばず、責任を擦りつけ合う。愚か者ども」
デストラーですら頭を垂れた。
「大元帥ヘリンフェル様……!」
闇の奥で、二つの紅い眼が開いた。
「ビクトリーレンジャー。どれほどの希望とやらか……この目で見てやる」
オメガメアが震えた声を出す。
「なりません……! 万が一にもお体に」
「結果を出せぬ者が、意見するな」
その一言で軍師は沈黙した。
ヘリンフェルの声だけが、冷たく笑う。
「次の戦い。わしも出る」
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一方その頃。 地上、希望研究所。
まるで世界の裏側だった。
朝日がガラス壁を黄金色に染める中、五人の少女たちが汗を流している。
かおるは竹刀を振るう。「えいっ! やぁっ!」
一振りごとに空気が裂ける。
かれんは流れるプールを逆走するように泳ぐ。「はぁ……っ、ふっ……!」
あすははマットに突進し、タックルの角度を磨く。
ちさとはトラックを風のように駆ける。
はるこが、体操フロアで回転着地を繰り返していた。
立花ジャンヌ博士は腕を組み、満足げにうなずく。
「いいわ。前回の勝利で浮かれていない。成長する子たちは強い」
そこへ、オペレーターのにけが叫んだ。
「博士! 敵影反応!」
利奈が続ける。
「市街地南部に複数反応! デデマン数十体、幹部級三体以上!」
博士の眼鏡が光る。
「……来たわね」
振り向く。
「勝利戦隊ビクトリーレンジャー、出動!!」
五人の返事が重なった。
「はい!!」
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市街地。 逃げ惑う人々。砕かれた車。燃える街路樹。
デデマンたちが笑いながら暴れていた。
その中央で、ハンマンリキが信号機を引き抜いて振り回している。
「弱い! 脆い! 人間どもは脆い!!」
空から五色の光が降り立った。
「そこまでよ!!」
ビクトリーレンジャー参上。
レッド、ブルー、イエロー、ホワイト、ピンク。
かおるの声が鋭く通る。
「あなたたちの好きにはさせない!」
ハンマンリキは鼻で笑った。
「なぜそこまで必死になる」
「守るべきものがあるから!」
「この世のものは、いずれ壊れる」
「それでも守る!」
一瞬の沈黙。 そして乱戦が始まった。
イエローがタックルで三体まとめて吹き飛ばす。
ホワイトが残像を引いて敵陣を裂く。
ブルーの水流が敵を薙ぎ払う。
ピンクのリボンが縛り上げる。
レッドの剣閃が火花を散らす。
押していた。 だが。地面が鳴った。
空が黒く染まった。
昼間だというのに、太陽が消えた。
雷雲ではない。
もっと禍々しい、意志を持つ闇。
そこから声が落ちてきた。
「待てい」
全員が止まった。
闇の中心から、巨大な影が降り立つ。
長い外套。黒き角。人の形をしながら、人であることを拒絶した存在。
「我が名はヘリンフェル」
その名を聞いた瞬間、幹部たちすら一斉に膝をついた。
「ディフィーペア大元帥」
レッドが剣を構える。
「あなたが……!」
「希望の戦士と聞いた。ならば試してやろう」
右手が上がる。 黒雷が生まれた。
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雷が落ちた。 爆音はなかった。
ただ、五人の身体が同時に跳ねた。
「きゃああっ!!」
スーツに黒い亀裂が走る。
ブルーが膝をつく。
ホワイトの呼吸が乱れる。
ピンクの指先が震える。
イエローが歯を食いしばる。
レッドだけが前へ出ようとした。
「まだ……!」
二発目。 今度は地面ごと砕けた。
変身システムが悲鳴を上げる。
マスクが点滅し、スーツが解除され始める。
「うそ……」
かれんの声が掠れる。
かおるは剣を杖に立とうとしたが、身体が動かない。
ヘリンフェルは見下ろすだけだった。
「弱い」
その一言が、どんな攻撃よりも深く刺さった。 変身解除。
五人の素顔がさらされる。
デストラーが嗤う。
「女子高生ごときが、我らに逆らうからだ!」
ヘリンフェルは踵を返した。
「今日は顔見せだ。次は街ごと消す」
闇と共に去っていく。
残された五人は、立つことすらできなかった。
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研究所医務室。
包帯。治療ライト。静かな機械音。
身体の傷は浅い。 だが心の傷は深かった。
その夜、かおるは眠れなかった。
窓辺に立ち、夜空を見る。 星がひとつも見えない。
「どうすれば……」
リーダーなのに。誰も守れなかった。
何もできなかった。
背中に、柔らかな温度が触れた。
「まだ起きてたの?」
はるこだった。 パジャマ姿で、髪を下ろした彼女は昼間よりずっと大人びて見える。
「……寝られなくて」
「私も」
はるこは隣に並び、同じ夜空を見る。
「怖かった?」
かおるは少し黙ってから、うなずいた。
「……うん」
「そっか」
笑わない。責めない。
ただ、その答えを受け止めてくれる声だった。
「私も怖かったよ」
はるこはそう言って、かおるの肩に頭を預けた。
「でもさ。怖いって思えるなら、まだ終わってないよ」
かおるの喉が熱くなる。
「……はるこ」
「ひとりで背負わないで」
そのまま、そっと抱きしめられる。
細い腕なのに、不思議なくらい安心した。 ドアが開いた。
「ずるい!」
ちさとだった。 その後ろからあすは。
「二人だけでいい空気つくってんじゃないよ!」
さらに、かれんが毛布を引きずって入ってくる。
「私も混ぜてぇぇ!」
五人は顔を見合わせ、吹き出した。
泣きそうな夜だったのに。 笑えてしまった。
かおるは気づく。 まだ、希望はここにある。
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翌朝。 誰より早く、かおるは訓練場にいた。
そこへ四人が来る。言葉はいらなかった。
博士が現れる。
「行くのね」
「はい」
「相手は格上よ」
「知ってます」
「それでも?」
かおるは振り返る。
「昨日の私たちは、負ける前から負けてました」
四人が並ぶ。
「今日は違う」
博士は、ふっと笑った。
「なら行きなさい。死ぬほど痛い勉強になるわ」
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昨日敗れた広場。
そこにヘリンフェルは立っていた。
まるで待っていたかのように。
「来たか」
「逃げません」
レッドの声に迷いはない。
「逃げない、か」
黒雷が放たれる。
今度は五人が前へ出た。
全員で受ける。 吹き飛ばされる。
だが、立つ。また雷。
また倒れる。また立つ。
イエローが叫ぶ。「何発でも来い!」
ホワイトが血を拭う。「速さなら、まだ負けてない」
ブルーが仲間の前へ出る。「次は私が受ける!」
ピンクが笑う。「もう泣かないって決めたの!」
レッドが剣を握る。「みんな!」
その声に、四人が振り向く。
「私たち、何のために戦うの!?」
「希望のため!」
「仲間のため!」
「街のため!」
「未来のため!」
「そして……!」
五人の声が重なる。
「五人で勝つため!!」
光が弾けた。
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ヘリンフェルが初めて目を細めた。
「……ほう」
レッドが駆ける。
ブルーの水流が加速を与える。
ホワイトが死角へ回る。
イエローが足元を崩す。
ピンクのリボンが腕を縛る。
レッドが叫ぶ。
「今よ!!」
五色の力が連結する。
ピンク「ピンクフラワーリボン!」
ホワイト「ホワイトシャドウスラッシュ!」
イエロー「イエローサンダーストレート!」
ブルー「ウォーターウィンドアタック!」
レッド「レッドファイアダイナミック!!」
五連撃。爆発。
大元帥ヘリンフェルが、半歩下がった。
幹部たちが凍りつく。
あのヘリンフェルが。下がった。
レッドが息を切らしながら笑う。
「届いた……!」
ヘリンフェルは胸の焦げ跡を見て、低く笑った。
「面白い」
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五人は最後の武器、ビクトリーレーザーを構える。
「レッド!!」
「ブルー!!」
「イエロー!!」
「ホワイト!!」
「ピンク!!」
レッドが前へ。
「ビクトリー!!」
全員で叫ぶ。
「シュート!!」
巨大な五色の奔流がヘリンフェルを呑み込む。 轟音。 煙。
幹部たちが息を呑む。
煙の中から、ヘリンフェルが現れた。
傷を負いながらも、立っている。
だが確かに傷ついていた。
「今日はここまでにしてやる」
デストラーが慌てる。
「だ、大元帥様!」
「黙れ」
ヘリンフェルは五人を見る。
「次に会う時までに、もっと強くなれ」
レッドが答える。
「言われなくても」
「ふっ」
闇が閉じる。
敵は去った。
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静寂。そのあとで。
五人同時にへたり込んだ。
「つ、疲れたぁ……」
かれんがそのまま仰向けになる。
あすはが笑う。
「でも勝った……いや、違うな」
ちさとが空を見る。
「届いた、だね」
はるこがかおるの肩をつつく。
「リーダー、泣いてる」
「泣いてない!」
でも目は潤んでいた。 かおるは四人を見る。
昨日の自分なら言えなかった言葉を、今日は言えた。
「ありがとう」
四人が笑う。
「今さら?」
「遅いって」
「もっと言って」
「毎日言って」
「パン奢って」
「かれんは黙って」
笑い声が青空へ昇っていく。
研究所では博士が腕を組んでいた。
「……上出来よ」
まりが微笑む。
「ようやく始まったわね」
にけと利奈もうなずく。
そう。 これは大勝利ではない。
世界を救った日でもない。
ただ、五人が本当の意味で“チーム”になった日だ。
敗北を知り。 弱さを知り。
支え合う強さを知った。
その一歩目。
勝利戦隊ビクトリーレンジャー。
希望への第一歩が、いま刻まれた。
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< 次回予告>
デデマンしか出てこない!?
怪人ゼロの不気味な作戦!
そして敵が狙うのは、五人の正体……!?
かおる 「まずい……知られたら学校生活が終わる!」
かれん 「私のパン購入履歴まで!?」
次回、第4話!
『ビクトリーレンジャーの秘密!?』
みんなで見よう!




