第 2話:わたしたちは 敗北戦隊マケルンジャー?
海の底。
光の届かぬ深海に、巨大要塞デフィトパレスは沈黙しながら脈打っていた。
黒い金属壁面を這うように赤い稲妻が走る。
封印が解け、本来の力を取り戻した要塞は、まるで息を吹き返した怪物のようだった。
中央司令室。
玉座に座る総統デストラーの前に、三幹部と軍師オメガメアが並ぶ。
ハンマンリキが床を踏み鳴らした。
「たった五人だぞ、五人! それに二度も好きにやられるとはどういうことだ、ミスーネ!」
女幹部ミスーネは長い脚を組み替え、鼻で笑った。
「騒音ね。筋肉は声まで大きいのかしら」
「何だと!」
「前回は封印直後。こちらの出力が安定していなかった。それだけの話よ。……でも今は違う」
彼女の指先には、無数の刃物。
ナイフ、鋏、鎌、裁断刃。どれも妖しく磨かれていた。
デストラーが低く問う。
「何を企んでいる」
ミスーネは唇を吊り上げる。
「希望は、肉体より心を切り裂く方が早く死ぬ。今回はそれを証明して差し上げます」
オメガメアが一歩前に出た。
「総統。私も同行を。彼女たちの戦闘心理を観察したい」
「好きにしろ」
ハンマンリキが舌打ちした。
「俺だけ蚊帳の外か」
誰も返事をしなかった。
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一方、希望研究所。
白いドーム状の訓練施設で、五人の少女たちは汗を流していた。
紅かおる。
竹刀を振るうたび、空気が裂ける。
「えいっ! やぁっ!」
黄島あすは。
レスリングマットを這うように突進し、ダミー人形を吹き飛ばす。
「まだまだぁ!」
白田ちさと。
トラックを風のように駆ける。
森山ももこ。
平均台の上で身体をひるがえし、針穴のような一点に着地する。
岬かれん。
流れるプールを逆流に抗いながら泳いでいた。静かな顔。けれど誰より強い芯を秘めた瞳。
立花博士が腕を組む。
「いい仕上がりね」
にけがモニターを見るなり叫んだ。
「希光学園正門付近に異常事態! 女子生徒が次々と襲われています!」
利奈の顔が青ざめる。
「制服のスカートが切り裂かれています……被害拡大中!」
博士の目が鋭くなる。
「勝利戦隊ビクトリーレンジャー、出動!」
五人「はい!」
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希光学園前通り。
泣き崩れる女子生徒たち。
裂かれたスカートの布が風に舞っていた。
中心に立つ男が、鋏を鳴らして笑う。
「いい悲鳴だ。もっと聞かせろ」
その前に、五人が降り立つ。
「待ちなさい!」
かおるの声が響く。
男は振り向いた。
「次はお前らの番か」
皮膚が裂け、骨が軋み、身体が異形へと変わっていく。
巨大な鋏腕。刃だらけの胴体。口元は裂けた笑み。
「我が名はハモノデスペ!」
かおるが前へ出る。
「みんな、変身よ!」
五人「ビクトリーレンジャー!!」
五色の閃光。爆ぜる希望。
ビクトリーレッド。
ブルー。
イエロー。
ホワイト。
ピンク。
ハモノデスペが咆哮する。
「切り刻め、デデマン!」
黒い戦闘員の群れが押し寄せる。
拳。蹴り。跳躍。連携。
五人は流れるように敵を薙ぎ払った。
レッド「レッドブレード!!」
ブルー「ウォーターウェーブ!!」
イエロー「高速タックル!!」
ホワイト「影斬り!!」
ピンク「リボンサンダー!!」
爆発。悲鳴。戦闘員が散る。
だがハモノデスペは笑っていた。
「本番はここからだ」
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イエローが飛び込む。
「あたしが行く!」
鋭いタックル。完璧な角度。
普通の敵なら終わっていた。
だが、ハモノデスペは受け止めた。
「遅い」
鋏が閃く。
ビリッ。
イエローのスーツ胸部が裂ける。
「あっ……!」
さらに肩、腰、脚。
布ではない。超繊維ビクトファイバーが、紙のように切れていく。
イエローの呼吸が乱れる。
「うそ……そんな……」
「力自慢ほど壊れる音がいい」
あすはの膝が落ちた。
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レッド、ホワイト、ピンクが飛び出す。
「これ以上やらせない!」
三方向同時攻撃。
完璧な包囲。
だが。
チッ、チッ、チッ。
刃が三度鳴っただけだった。
レッドの肩。
ホワイトの太腿。
ピンクの腕。
スーツが裂ける。
「そんな……!」
ホワイトが初めて速度で負けた顔をした。
ピンクのリボンが落ちる。
ハモノデスペは嗤う。
「鎧が強いんじゃない。心が弱いんだ、お前たちは」
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レッドへ巨大な一撃が振り下ろされる。
かおるは悟った。間に合わない。
その瞬間。青い影が飛び込んだ。
「かおるっ!!」
轟音。青い爆炎。 煙が晴れる。
そこに立っていたのはブルー。 身体中に裂傷。肩で息をしている。
かれんが、庇ったのだ。レッドの喉が震えた。
「……かれん」
ハモノデスペが腹を抱えて笑う。
「いいぞ。実にいい。お前たちは今日から敗北戦隊マケルンジャーだ!」
敵幹部もデデマンも大笑いした。
レッドは歯を食いしばり、ブルーを抱き上げる。
「撤退する! 全員、下がって!」
悔しさだけが、地面に残った。
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希望研究所。
誰も喋らなかった。
裂けたスーツがテーブルに置かれている。
それは衣装ではなく、誇りの残骸だった。
ももこが小さく呟く。
「……こわかった」
ちさとは俯いたまま。
あすはは拳で壁を叩く。
「くそっ!」
かおるは頭を下げた。
「博士……私がリーダーなのに」
博士は首を振る。
「違うわ」
彼女は裂けたスーツを持ち上げる。
「これは切られたんじゃない。あなたたちの自信が裂かれたの」
五人が顔を上げる。
「ビクトファイバーはダイヤの十倍強い。でも真価は装着者の心。恐れれば紙より脆くなる」
静寂。
「だから鍛えるのは身体じゃない。勝つイメージよ」
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五人は散った。
かおるは竹刀を振り続け、手の皮が破れた。
あすはは男子部員を投げ続け、誰も近寄れなくなった。
ちさとは血の滲む足で走り続けた。
ももこは着地誤差一ミリも許さなかった。
だが、かれんだけが、いない。
博士は研究所中を探した。
教室。部室。プール。屋上。
そして最後に食堂へ向かう。
いた。 岬かれんが、食パンを食べていた。
一斤目ではない。 十斤目だった。 博士が絶句する。
「……何をしているの」
かれんは口いっぱいのまま答えた。
「悩むと……食べちゃうの……」
そこへかおるが現れる。
「やっぱりここにいた」
博士が振り返る。
「知っていたの?」
かおるは笑う。
「昔からです。泣きたい時、怒った時、困った時。かれんはパンに逃げるんです」
かれんが赤くなる。
「言わないでよ……!」
博士はそっと席を外した。
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食堂に二人きり。
かおるが向かいに座る。
「怖かった?」
かれんは沈黙したあと、小さくうなずいた。
「……あなたが倒れるのが」
その一言で、かおるの胸が締めつけられた。
「私も怖かった。かれんが傷つくのが」
かれんが目を見開く。
かおるは立ち上がり、彼女を抱きしめた。
強く。逃がさないように。
「気を確かに持って。大丈夫。私がいる」
かれんの肩が震える。
「……ずるい。そんなこと言われたら、また戦えるじゃない」
「戦って」
「命令口調?」
「お願い」
かれんは、かおるの胸元で小さく笑った。
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再び警報。
にけ「敵から挑発通信! “マケルンジャー、再戦しろ”です!」
あすはが立ち上がる。
「上等だ!」
博士が五人を見る。
「勝つイメージだけ持っていきなさい」
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市街地跡地。 ハモノデスペが待っていた。
「来たか、敗北戦隊」
レッドが前へ出る。
「その名前、返してもらう」
変身。 今度は一度、光が揺らいだ。
トラウマ。 だが五人は目を閉じる。
守りたい人。 信じる仲間。 勝つ未来。
再び光が爆ぜる。 完全変身。
ハモノデスペが一歩下がった。
「何だ、その目は」
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戦闘員軍団が押し寄せる。 今度の五人は違った。
イエローが群れの中心へ飛び込み、投げ、極め、叩きつける。
「昨日のあたしと思うな!」
ホワイトは残像のように駆け抜け、敵が遅れて倒れる。
ピンクは笑いながら舞い、雷光のリボンでまとめて縛り上げた。
レッドの剣筋は迷いがない。ブルーは静かに前へ出る。
「あなたの相手は、わたし」
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ハモノデスペが鋏を振るう。前回と同じ軌道。
だがブルーは紙一重でかわす。
「見えてる」
二撃、三撃、四撃。 すべて外れる。
「なぜだ!」
「恐怖で曇っていた目が、晴れただけ」
ブルーの掌底が腹部へめり込む。 ウォーターウェーブ炸裂。
敵が吹き飛ぶ。
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ハモノデスペは絶叫し、最後の大技を放つ。巨大な刃がレッドへ。
だがレッドは両手で受け止めた。真剣白刃取り。
「もう、負けない」
全員が並ぶ。
レッド「レッド!!」
ブルー「ブルー!!」
イエロー「イエロー!!」
ホワイト「ホワイト!!」
ピンク「ピンク!!」
「ビクトリー!!」
五本の光が一点へ。
「ビクトリーシュート!!」
直撃。
ハモノデスペは爆発した。
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デストラーが吠える。
「絶望界を開け!」
闇の渦が生まれる。
だがハモノデスペはそこへ届く前に崩壊した。
出力強化のしすぎで身体が耐えられなかったのだ。
ミスーネが顔をしかめる。
「……設計ミスではないわ。運が悪かったの」
「黙れぇぇぇ!」
総統の雷鳴が要塞を揺らした。
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希望研究所。五人は戻ってきた。
誰もいない作戦室で、かおるとかれんが握手する。
だが、その手は離れなかった。 ももこがニヤつく。
「へえー?」
ちさとが咳払い。 あすはが笑う。
「岬先輩、顔赤いっすよ」
かれんが慌てる。
「ち、違うから!」
かおるがしれっと答える。
「違わないけど?」
全員が固まった。 博士が天井を見上げる。
「若いってすごいわね……」
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窓辺に女神ビクテネの光が現れる。
「立花博士。ビクトリーレンジャー。よく越えましたね」
かおるが前へ出る。
「これまではあなたが地球を守ってくれた」
四人が並ぶ。
「これからは、私たちが守る」
「そしていつの日か、あなたが帰ってこられる星にする」
五人の手が重なる。
絆。勝利。希望。
その光は、前回より少し強かった。
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<次回予告>
雑念を捨てきれないレッド・かおる。
五人の心が揃わなければ、新たな合体技は完成しない!
そこへ、怒り狂う総統デストラー自ら出陣!
次回、勝利戦隊ビクトリーレンジャー第3話!
『希望への第一歩』
みんな、絶対見てね!




