第6話「本体戦」
白が、崩れる。
ヒビ。
空間そのものに走る亀裂。
黒が滲み出る。
“観測される側”が——
初めて、揺れている。
ゆたかが前に出る。
「通るで」
一歩。
踏み込む。
その瞬間——
“ドンッ!!”
圧が落ちる。
上から。
見えない何かが、叩きつけてくる。
人面犬が歯を食いしばる。
「ぐっ……!」
桃太郎も膝をつく。
だが——
倒れない。
視線は上げない。
あくまで。
“見ない”
ゆたかが笑う。
「効いとる証拠や」
拳を握る。
黒の歪みを——
“殴る”
“ガンッ!!”
音が響く。
触れた感触。
初めて。
確実に。
“そこにある”
空間が震える。
“ザワッ”
黒が波打つ。
人面犬が笑う。
「おいおい」
一拍。
「殴れんじゃねぇか」
一気に踏み込む。
牙を剥く。
“ガブッ!!”
噛みつく。
何もないはずの空間に。
だが——
手応えがある。
引き裂く。
“ビリッ”
黒が裂ける。
声はない。
だが——
明らかに“嫌がっている”
そのとき。
アクロバティックさらさら。
女が暴れる。
空間を跳ねる。
狂ったように。
「やめろや!!」
叫ぶ。
初めての焦り。
ゆたかが言う。
「繋がっとるからやろ」
一拍。
「お前も一緒に崩れる」
女の動きが乱れる。
明らかに。
黒幕と“同一構造”
桃太郎が立ち上がる。
ゆっくりと。
視線は落としたまま。
それでも——
進む。
「切る」
短く。
一歩。
踏み込む。
手を伸ばす。
黒の歪みへ。
直接。
触れる。
“ビリッ”
電流のような感覚。
全身を走る。
桃太郎の体が震える。
「っ……!」
だが——
離さない。
人面犬が叫ぶ。
「いいぞ!!」
ゆたかが続く。
「そのままや!!」
桃太郎が言う。
「……見る必要はない」
一拍。
「在ると認識すればいい」
その言葉。
空間が揺れる。
黒が歪む。
“観測のルール”がズレる。
人面犬が笑う。
「なるほどな」
一拍。
「見なくてもいいってか」
ゆたかがニヤリとする。
「選べるようになったな」
その瞬間——
“バキンッ!!”
大きな亀裂。
黒の中心に。
走る。
女が悲鳴を上げる。
「やめろやぁぁぁ!!」
暴れる。
跳ねる。
だが——
遅い。
完全に。
遅くなる。
ゆたかが踏み込む。
「終いや」
拳を振りかぶる。
狙いは一つ。
黒幕。
“観測の核”
そして——
“ドンッッ!!”
直撃。
空間が——
砕ける。
白が崩れる。
黒が裂ける。
光が差し込む。
人面犬が笑う。
「終わったな」
だが——
その瞬間。
“静寂”
完全な無音。
全てが止まる。
そして——
声。
今までで一番近く。
はっきりと。
冷たく。
「理解した」
一拍。
「観測される側に回るか」
ゆたかが眉をひそめる。
「……まだおるな」
黒は消えない。
裂けただけ。
崩れきらない。
桃太郎が言う。
「終わっていない」
人面犬が吐き捨てる。
「しぶといな」
だが——
確実に。
弱っている。
女が崩れる。
膝をつく。
呼吸が荒い。
「……なんでや……」
一拍。
「見てくれへんのや……」
震える声。
ゆたかが言う。
「終わりや」
一歩。
近づく。
だが——
まだ決着ではない。
“核”は残っている。
■ 第9章 第6話 終




