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ゆたかの怪奇列島第9章「アクロバティックさらさら」  作者: こうた


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第7話「決着」

ひび割れた空間。


白は崩れ、黒が滲む。


境界は、もう曖昧。


それでも——


“まだいる”


黒幕。


完全には消えない。


ただ——


弱っている。


確実に。


女が膝をつく。


肩で息をする。


もう、あの軽さはない。


「……なんでや……」


声が震える。


「なんで見てくれへんのや……」


顔を上げる。


涙。


歪んだままの表情。


それでも——


人間の顔。


ゆたかが止まる。


一歩手前で。


桃太郎も並ぶ。


人面犬は少し後ろで様子を見る。


女が言う。


「見てもらえたら……」


一拍。


「おるって分かるやろ……?」


沈黙。


それが全て。


存在証明。


他人の視線。


それに依存していた。


桃太郎が静かに言う。


「分かる」


一歩。


近づく。


「だが、それでは足りない」


女の目が揺れる。


「……なんでや」


ゆたかが言う。


「自分で決めてへんからや」


一拍。


「お前が“おる”かどうかは」


さらに一歩。


「お前が決めることや」


女が震える。


理解できない。


受け入れられない。


「……無理や……」


小さく呟く。


その瞬間——


“ザワッ”


黒が動く。


背後。


巨大な影。


まだ、見ている。


そして——


声。


冷たく。


静かに。


「それを認めるな」


一拍。


「価値は他者が決める」


女の体がビクッと震える。


再び——


飲まれかける。


ゆたかが舌打ちする。


「しつこいな」


一歩。


前に出る。


黒を見る。


今度は——


完全に。


“観る側”として。


「お前も同じやろ」


一拍。


「見られたいだけや」


空間が揺れる。


黒が、わずかに歪む。


初めての“否定”


人面犬が笑う。


「図星か?」


桃太郎が続ける。


「だから観測する」


一歩。


踏み込む。


「他者を縛ることで、自分を保つ」


静寂。


黒が揺れる。


大きく。


不安定に。


女がその変化を見る。


初めて。


黒を見る。


自分ではなく。


“外”を。


「……あれ……」


一拍。


「なんや……これ……」


ゆたかが言う。


「お前も見られとる側や」


女の目が見開く。


理解が入る。


崩れる。


「……一緒やったんか……」


一滴、涙が落ちる。


桃太郎が言う。


「選べ」


静かに。


だが強く。


「見る側になるか」


一拍。


「見られる側で終わるか」


沈黙。


長い沈黙。


そして——


女が、ゆっくりと顔を上げる。


黒を見る。


初めて。


真正面から。


「……もうええわ」


小さく。


だが確かに。


その瞬間——


“ザワッ!!”


黒が大きく揺れる。


支えを失う。


一気に。


崩れ始める。


ゆたかが踏み込む。


「今や」


拳を振るう。


桃太郎も動く。


人面犬も飛び込む。


三方向から——


“核”へ。


“ドンッッ!!”


衝撃。


空間が完全に砕ける。


白が消える。


黒が裂ける。


光が広がる。


そして——


静寂。


完全な。


無音。


女の体が、ゆっくりと崩れる。


軽く。


元の姿へ。


ただの人のように。


「……ちょっと楽やわ」


微笑む。


ほんの少しだけ。


「見られんでも……ええんやな」


ゆたかが言う。


「せやな」


桃太郎も頷く。


「それでいい」


人面犬が鼻を鳴らす。


「やっとかよ」


女の体が光に変わる。


消えていく。


静かに。


完全に。


現実。


東京。


人々が、ゆっくりと正気に戻る。


倒れていた者。


立ち尽くしていた者。


皆、目を開ける。


「……あれ?」


混乱。


だが——


終わった。


なながその場に座り込む。


「……はぁ……」


神父が空を見る。


「終息確認」


一拍。


「ですが——」


やはり。


“いる”


完全には消えていない。


ゆたかが空を見ずに言う。


「次やな」


桃太郎も言う。


「来る」


人面犬が笑う。


「どんどん面白くなってきたな」


風が吹く。


今度は——


少しだけ重い。


■ 第9章「アクロバティックさらさら」 完

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