第5話「分断」
白い空間が——軋む。
歪み。
崩れかけた境界。
黒が混ざる。
そして——
“見られている”
巨大な何か。
形はない。
だが確実に“上”にいる。
全てを見下ろすように。
人面犬が低く唸る。
「気持ち悪ぃな」
ゆたかが睨む。
「こいつが元やな」
桃太郎。
一人だけ、動いている。
視線を——落としている。
見ない。
選んでいる。
震えながらも。
女の動きが鈍る。
明らかに。
アクロバティックさらさら。
存在が“軽くなる”。
不安定に。
ゆたかが言う。
「効いとる」
一歩。
前に出る。
今度は——
自分が見る。
女ではない。
その“奥”
黒幕。
直接ではない。
だが——
確実にそこにある“歪み”
それを——
“観る”
その瞬間。
空間がビリつく。
“ザワッ”
巨大な影が揺れる。
人面犬が笑う。
「おいおい」
一拍。
「見られてんのは向こうだけじゃねぇってか」
ゆたかが答える。
「そういうことや」
桃太郎が続ける。
「観測は一方ではない」
静かに。
だが確信を持って。
黒が揺れる。
わずかに。
初めて。
“反応”
そのとき——
外。
現実。
なな。
目を閉じたまま。
呼吸を整えている。
周囲。
人々はまだ——
侵食されている。
立ち尽くす者。
倒れる者。
呟く者。
「……見える……」
神父が指示する。
「視線を遮断してください」
ななが布を掴む。
片っ端から。
目を覆う。
「ほら!見るな!!」
必死に。
一人。
また一人。
正気に戻る。
だが——
数が多すぎる。
神父が呟く。
「持ちません……」
一拍。
「内側が先に崩れれば、すべて終わります」
内側。
白い空間。
黒幕の圧が強くなる。
空間が歪む。
桃太郎が一瞬、揺れる。
視線が上がりかける。
「っ……」
危ない。
戻りかける。
その瞬間。
ゆたかが言う。
「見るな」
短く。
強く。
桃太郎が歯を食いしばる。
「……分かっている」
下を見る。
無理やり。
意思で。
人面犬が横で言う。
「いいねぇ」
一拍。
「それだ」
女が叫ぶ。
「見ろや!!」
激しく動く。
空間を跳ねる。
桃太郎の周囲を回る。
視界に入ろうとする。
何度も。
何度も。
だが——
見ない。
一切。
そのたびに。
女の動きが鈍る。
遅くなる。
ゆたかが呟く。
「依存やな」
一拍。
「見てもらわな成立せえへん」
人面犬が笑う。
「ダセぇな」
その言葉。
女の動きが止まる。
一瞬。
揺れる。
存在が。
だが——
次の瞬間。
“ドンッ!!”
圧が爆発する。
黒幕の干渉。
直接。
空間がねじれる。
ゆたかたちが吹き飛ぶ。
桃太郎も崩れる。
視線が——
上がりかける。
「っ……!」
そのとき。
声。
冷たく。
はっきりと。
「なぜ見ない」
沈黙。
ゆたかが立ち上がる。
笑う。
「興味ないからや」
一拍。
「お前に」
空間が震える。
黒が揺れる。
さらに。
人面犬が吐き捨てる。
「つまんねぇんだよ」
一拍。
「そういうの」
桃太郎が続ける。
静かに。
「従わない」
その瞬間——
“ザワッ”
巨大な影が、大きく揺れる。
空間が裂ける。
ヒビが走る。
初めて。
明確に。
“崩れ始める”
外。
現実。
ななが気づく。
「……軽なった?」
空気。
明らかに。
重さが減る。
神父が確信する。
「干渉しています」
一拍。
「内側が効いています」
ななが笑う。
「やるやん……!」
内側。
ゆたかが拳を握る。
「通るな」
一歩。
前に出る。
黒幕を見る。
今度は——
完全に。
“観測する側”として。
人面犬が並ぶ。
桃太郎も。
三人。
揃う。
黒幕に向けて。
■ 第9章 第5話 終




