表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆたかの怪奇列島第9章「アクロバティックさらさら」  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

第4話「臨界」

落ちる。


底のない場所へ。


音が消える。


重さも消える。


ただ——


“見えている”


ゆたかが目を開ける。


そこは——


白い空間。


上下も、左右もない。


境界が曖昧。


だが——


“いる”


遠く。


女。


アクロバティックさらさら。


現実よりも近い。


現実よりも濃い。


人面犬が横に立つ。


「ここが中か」


軽く肩を回す。


「気持ち悪ぃな」


ゆたかが周囲を見る。


「桃太郎は?」


その瞬間。


“音”


足音。


規則的。


振り向く。


桃太郎。


立っている。


だが——


様子がおかしい。


目が開いている。


だが焦点が合っていない。


そして——


“増えている”


周囲に。


同じ桃太郎が。


何人も。


同じ顔。


同じ姿。


ただし——


違う。


それぞれが、違う方向を見ている。


人面犬が低く言う。


「分裂してやがる」


ゆたかが理解する。


「認識やな」


一拍。


「全部“見てる桃太郎”や」


そのとき。


一人の桃太郎が呟く。


「……見なければならない」


別の一人が言う。


「……逃げるな」


さらに別の一人。


「……正しくあれ」


声が重なる。


増えていく。


同時に。


空間が歪む。


女が動く。


軽く。


跳ねるように。


そして——


桃太郎たちの間を、すり抜ける。


触れない。


ただ——


“見せる”


一人の桃太郎の前で止まる。


顔を覗き込む。


近い。


異常な距離。


「……見て」


囁く。


その桃太郎が固まる。


完全に。


固定。


人面犬が舌打ちする。


「まずいな」


ゆたかが前に出る。


「分けるで」


一歩。


踏み込む。


“ドンッ!!”


拳を振るう。


空間に。


見えない壁。


ヒビが入る。


その瞬間。


一人の桃太郎が弾けるように消える。


人面犬が笑う。


「効いてるな」


だが——


すぐに。


別の桃太郎が増える。


同じように。


「……見なければ」


止まらない。


増殖。


ゆたかが舌打ちする。


「キリないな」


そのとき。


女が——


こちらを見る。


初めて。


ゆたかと人面犬を。


視線が合う。


一瞬。


“重い”


人面犬が顔をしかめる。


「……おい」


一拍。


「こいつ、強くなってねぇか」


ゆたかも感じる。


圧。


明らかに増している。


神父の言葉がよぎる。


“完全固定”


ゆたかが呟く。


「臨界か」


その瞬間——


空間全体が震える。


白が歪む。


黒が混ざる。


境界が崩れる。


そして——


“現れる”


巨大な影。


形はない。


だが——


確実に“いる”。


空間そのものが、見ている。


人面犬が低く言う。


「……出てきやがったな」


ゆたかが睨む。


「黒幕か」


声はない。


だが——


圧が語る。


“観測している”


女が笑う。


「ほら」


一拍。


「見られてるで?」


その言葉。


全ての桃太郎が反応する。


一斉に。


上を見る。


巨大な“何か”を。


その瞬間——


全員が止まる。


完全に。


固定。


人面犬が吐き捨てる。


「終わりだな」


ゆたかが歯を食いしばる。


「まだや」


一歩。


前に出る。


女を見る。


そして——


その奥を見る。


黒幕。


直接ではない。


だが——


“繋がっている”


ゆたかが言う。


「そこや」


狙いを定める。


人面犬が笑う。


「やる気かよ」


ゆたかが答える。


「当たり前やろ」


拳を握る。


力を込める。


空間が軋む。


そのとき。


桃太郎。


一人だけ。


動く。


ゆっくりと。


視線を——


下げる。


巨大な“何か”から。


外す。


震えながら。


それでも。


下げる。


ゆたかが気づく。


「……戻りよる」


人面犬がニヤリと笑う。


「いいねぇ」


桃太郎が呟く。


「……見ない」


一拍。


「選ぶ」


空間が揺れる。


女の動きが止まる。


黒幕の圧が、わずかに揺らぐ。


臨界の中で——


初めての“抵抗”


■ 第9章 第4話 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ