終演
ユリア・イシュ・テネブラエ公爵令嬢の死は、王家から正式に発表された。
発表された内容は、真実ではない。だが全てが嘘という訳ではない。真実を、耳障りの良い言葉でくるんで作った美しい物語にしてあった。
ユリアは生来病弱であり、一年程前には医師から余命を告げられていた。だからこそ、本人の強い希望により、王太子レオンハルトと内々に婚礼の儀を済ませ、最期に王家の血を引く子を残す事を望み、力尽きるように息を引き取った。
幸いにも、残された男児は母の病弱さを継ぐことなく、王宮の乳母たちに守られながら健やかに育っていると伝えられた。
王家とテネブラエ公爵家は、そう発表した。
人々は驚き、美しい公爵令嬢の死を嘆き、そして納得した。
確かに、ユリアは幼い頃から何度も倒れる程病弱だった。王立学園に通っていた頃も、たびたび体調を崩していたことを知る者は多い。母君を亡くす数か月前から、まるで人が変わったようだったという噂もあったが、それも余命を知らされたことによる動揺だったのだろうと貴族達は囁き合った。
「お可哀想に……」
「お若いのに、死を前にして平静ではいられなかったのでしょう。それならば仕方ないわ」
「あれだけ溺愛してらっしゃった王太子殿下も、さぞお心を痛めておられるでしょうね」
「けれど、お世継ぎを残されたのなら……せめてもの救いですわ」
社交界は、そうして都合よく美しい悲劇としてこの話を扱った。
ユリアの体に入っていたマリアンヌが何をしたのか。その子がどのような経緯で宿ったのか。
魂が入れ替わっていた事も、禁術が使われた事も、王家がそれを元に戻そうとしていた事も、当然公にはされないまま。全ては、深い場所に沈められた。
悲劇の王太子妃ユリアは死んだ。
世間はそう認識した。
そして、マリアンヌは、在学中に起こした傷害事件により下された処分を受け入れ、引き続き社交界に現れる事はない。
真実を知る者達だけが、その意味を理解している。
ユリアの体が失われた後、王宮の奥に集められた関係者の間には、重い沈黙が落ちていた。
そこにいるのは、国王、王弟アシュベル、王太子レオンハルト、テネブラエ公爵とユーリス、ボヌフォワ公爵夫妻。そして、マリアンヌの体をした本物のユリアだった。
ユリアは、マリアンヌの体で黒い喪服を身にまとっていた。テネブラエ公爵家の令嬢、そして王太子の妻が亡くなった葬礼の儀の姿だ。
その見た目は、もはやかつてのマリアンヌとは似ても似つかない。一年前醜く太っていた体は健康的に引き締まり、姿勢は美しく凛としている。伏せられた長い睫毛はその白い頬に影を落としていた。
その静けさが、かえって痛々しかった。
「ユリア」
最初に沈黙を破ったのは、レオンハルトだった。彼は、ユリアを、ユリアの魂が入ったマリアンヌを見つめていた。
その目には執着が宿っていた。最愛の人であるユリアの体を失ったばかりの男の、取り返しのつかないものに縋るような目だった。
「俺は……君を愛している。体がマリアンヌのものになったからといって、その想いが変わることはない」
その言葉に、ユリアは静かに目を伏せた。
「レオン様」
「俺は君と結婚する。君がユリアである事はこうして国の中枢は承知している。父上も、叔父上も、テネブラエ公爵もだ。ならば――」
「いいえ」
ユリアは、はっきりと遮った。柔らかな声だった。
だが、その声には一切の揺らぎがなかった。
「それは出来ません」
「何故だ。君はユリアだ」
「ここにいる、真実を知る方々にとってはそうでしょう。けれど、世間にとってユリアは亡くなりました。そして今ここにいる私は、マリアンヌです」
「そんなものは――」
「そんなものではありません」
ユリアは顔を上げた。
その視線は、まっすぐにレオンハルトを見ていた。
マリアンヌの翡翠の目だ。けれどそれは彼がかつて愛したユリアの目だった。姿は違っても、そこにある強さと優しさは、紛れもなくユリアのものだった。
「魂の入れ替わりを表沙汰に出来ない以上、私はユリアとして生きることは出来ません。王太子殿下が突然マリアンヌを妃に迎えるなど、貴族や国民にどう説明なさるのですか」
「それは……」
「私がユリアだと明かせば、禁術の存在も、この一連の事件も、全て知られる事になります。そうなれば王家も、テネブラエ家も、ボヌフォワ家も、ただでは済みません。神聖教会や他国に付け入る隙を与える事にもなるでしょう」
アシュベルが、静かにユリアを見つめていた。その目には、痛ましさ、そして感嘆があった。
ユリアは続けた。
「それに、マリアンヌ様の体には、ボヌフォワ公爵夫人の……帝国の皇家の血が流れています。今の私が王家に嫁げば、戦争のきっかけにもなりかねません。王家に嫁ぐべきだったユリアの体は、もうありません」
レオンハルトは、何も言えなかった。
「ならば、なかったことにするべきです」
その言葉に、ボヌフォワ公爵夫人が小さく息を呑んだ。
「ユリア様……」
「マリアンヌ様が行ったことを、全てなかったことに出来るとは思っていません。亡くなった方々も、お母様も、戻りません。けれど、魂の入れ替わりそのものは、なかった事にしなければなりません」
ユリアの声は、淡々としていた。それが、どれほど悩み、苦しんだ末で出された決断なのか、誰もが分かっていた。
「私はこれから、マリアンヌとして生きます」
そう告げた瞬間、部屋の空気が重く沈んだ。
テネブラエ公爵が、わずかに目を閉じる。ユーリスは俯き、拳を握り締めていた。
レオンハルトは、血の気を失った顔で、焦点の合わない瞳をユリアに向けた。
「嫌だ」
彼は、子供のように呟いた。
「もう私は、レオン様のお気持ちだけで王太子妃になってよい人間ではありません。今の私は、マリアンヌです」
「ユリア、そんなことを言わないでくれ。君だけが、何もかもを失う必要などない」
「いいえ。私だけではありません。皆様が失いました」
「俺は、君を失いたくない」
「レオン様は、もう私を失っておられます」
その言葉は、優しかった。けれど、残酷だった。思わず、といった様子でレオンハルトが涙をこぼした。それに続くように、堪え切れなかった嗚咽が静かな室内に響く。
「ユリアは、亡くなりました。そうするしかありません」
国王は長く沈黙していた。だがやがて、重々しく頷いた。
「……ユリア嬢の言う通りだ」
「父上!」
「レオンハルト。王家として、これ以上の混乱は避けねばならぬ。魂の入れ替わりなどという禁術の存在を公にすることは出来ない。マリアンヌ嬢の体に入ったユリア嬢を、お前の妃とすることも出来ぬ」
レオンハルトは唇を噛んだ。誰も、彼に味方しなかった。
味方しなかったのではない。皆、分かっていたのだ。ユリアの言うことが、最善の道であると。
それが、正しいかどうかは別として。
翌日の夕刻、ユリアは王弟アシュベルに呼び出されていた。
場所は王宮の奥にある、小さな応接室だった。
公務のための謁見室ではなく、かといって私的な居間というほど砕けた場所でもない。窓辺には淡い色の花が控えめに活けられ、磨き込まれた卓の上には、湯気の立つ紅茶が二客分用意されている。使用人はいない。
夕陽が斜めに差し込む部屋の中で、アシュベルは一人、窓の外を見ていた。
王弟という立場にありながら、普段の彼にはどこか気さくな空気がある。
学園長として生徒達に接する時も、王族としての威圧ではなく、若者を見守る年長者の穏やかさをまとっていた。けれど今の横顔は、いつもよりもずっと静かで、どこか覚悟を決めた者のように見えた。
「呼び立ててしまってすまないな、ユリア君」
二人きりの空間でそう名を呼ばれて、ユリアはほんのわずかにまつ毛を震わせた。
今の彼女は、世間から見ればマリアンヌだ。
けれどアシュベルは、当然のように彼女をユリアと呼ぶ。そのことが、胸の奥に触れるようだった。
「いいえ、アシュベル様。私にお話とは……」
「うん」
アシュベルはしばらく沈黙した。
それから、窓辺から離れ、ユリアの正面へゆっくりと歩いて来ると向かい合うように立つ。
「君は、今回起きた全てを背負おうとしている」
穏やかな声だった。だが、その言葉には強い悲しみが滲んでいた。
「魂の入れ替わりをなかった事にし、ユリアとしての人生を捨て、マリアンヌとして生きる。王家のため、テネブラエ家のため、ボヌフォワ家のため、そしてこの国のために」
「……それが、最も混乱が少ない道です」
「君にとっては?」
その問いに、ユリアはすぐには答えられなかった。
答えようとした唇が、わずかに震えている。
けれど彼女は目を伏せ、整った礼節の奥に感情を押し込めるようにして、静かに微笑んだ。
「私一人の望みで、国の安寧を壊すことは出来ません」
「そう言うと思った」
アシュベルの笑みは、ひどく寂しげだった。
「君は昔からそうだ。自分が苦しい時ほど、人の事を先に考えてしまう。小さな頃から、ずっと」
「……私を、買い被りすぎですわ」
「いいや」
アシュベルは首を横に振った。
「私は君を見ていた。レオンハルトの婚約者として、逃げられない役目を背負わされても、君は誰も恨まなかった。病弱な体で、それでも周囲に心配をかけまいとして笑っていた。学園でも、いつだって誰かのために動いていた」
ユリアは、顔を上げられなかった。
どのような顔をして受け止めればよいのか分からず、戸惑っているように見えた。
「だからこそ、私は黙っていた」
「……黙っていた?」
「君が王太子の婚約者である以上、私の気持ちは決して口にしてはならないものだったからだ」
部屋の中から、音が消えたようだった。
ユリアはようやく顔を上げる。アシュベルの目は、まっすぐに彼女を見ていた。
いつもの穏やかな学園長の目ではない。
王弟として全てを弁えた上で、それでも一人の男として、長く胸に秘めてきたものにそっと触れた目だった。
「ユリア君。私は、君を愛している」
その瞬間、ユリアは息を呑んだ。指先が、握りしめた片手の下で小さく震える。
言葉は出てこなかった。
アシュベルは、ユリアの言葉をせかすような真似はしなかった。ただ、静かに続ける。
「私が結婚をしないと宣言したのは、血筋の問題だけではない。もちろん、それも理由の一つではあった。だが本当は……君がレオンハルトの婚約者となった時、私は自分の想いを終わらせるとともに、ならば他の誰とも添い遂げたくないと思ったからだ」
「アシュベル様……」
「君が幸せになるなら、それでいいと思っていた。君が王太子妃として立ち、レオンハルトの隣で笑うなら、私はすぐ側から見守ればいいと」
ユリアの目に、薄く涙が滲んだ。
それが何の涙なのか、アシュベルには分からない。
ただ、あまりにも思いがけないところから差し出された手に、胸の中が大きく揺れているように見えた。
「だが、今の君は全てを失おうとしている。ユリアとしての名も、家も、人生も、未来も。誰より傷ついた君だけが、全てを諦めなければならないなど、私は受け入れられない」
アシュベルは一歩、彼女へ近付いた。
それ以上近付けば婚約者でもない男女として相応しくないというぎりぎりの距離で、彼は足を止める。
「実の兄に嫁ぐ事は心理的に抵抗があるだろう。君が言っていたように、マリアンヌの体ではレオンハルトの妃にもなれない。ならば、私の妻になればいい」
ユリアは大きく目を見開いた。
「私なら、君を守れる。王弟の妻という立場なら、誰も軽々しく手出しはできない。マリアンヌとして社交界に出ない君を守れる。君が望むなら、王都から離れて暮らしてもいい」
「……」
「ユリア君」
アシュベルの声が、少しだけ掠れた。
「君だけが犠牲になる必要はない。私に、君の隣に立つ事を……君を愛する事を許してほしい」
静かな告白だった。
けれど、それは決して軽いものではなかった。長い年月、口に出さず、望まず、諦めていた想いをようやく言葉にしたものだった。
ユリアは唇を引き結んで、その後細く息を吐いた。その目に浮かんだ涙が、今にも零れ落ちそうに揺れる。
「……ありがとうございます」
やっと紡がれた声は、震えていた。アシュベルの瞳に、かすかな希望が灯る。
だが、ユリアは深く頭を下げた。
「ですが、そのお気持ちをお受けすることは出来ません」
アシュベルは目を伏せた。
まるで、初めからその答えを知っていたかのように。
「理由を、聞いても?」
「ボヌフォワ家とテネブラエ家の婚約をわざわざ解消し、妻を娶らないと宣言されていたアシュベル様が、今になってマリアンヌを妻に迎えるなど、不自然です」
ユリアの声は、まだわずかに震えていた。けれどその声は驚くほど力強かった。
「そのような事をしては、他家に探られるでしょう。何故なのか、私に何か特別な理由があるのではないかと。そうして、禁術が使われた事に辿り着く者が出ないとは限りません」
「君は……こんな時まで、そこまで考えるのか」
「考えなければなりません」
ユリアは顔を上げる。涙はまだ目に残っていた。マリアンヌの翡翠の目だ。
だが、その奥には決意があった。
「この秘密が明るみに出れば、王家も無事では済みません。禁術の存在を教国に知られれば、国そのものが揺らぎます。私は、これ以上誰かの人生を壊す危険を犯せません」
「君自身の人生は、奪われてしまったというのにか」
アシュベルの声には、珍しく怒りが滲んでいた。ユリアのために怒る声だった。
その優しさに、ユリアはほんの一瞬、苦しげに目を伏せた。
「だからこそです」
小さく、けれどはっきりと彼女は言った。
「私が奪われたからといって、この国の平穏を壊して良い理由にはなりません」
アシュベルは、何も言えなくなった。
俯くユリアの前髪が顔にかかり、その表情は見えない。呆然としたままアシュベルは立ち尽くし、その場には長い沈黙が落ちた。
ユリアは、もう一度深く礼をする。
「アシュベル様のお気持ちは、私には過ぎたものです。生涯忘れません」
その言葉は、美しく、どこまでも誠実だった。そして同時に、ユリアが決してアシュベルの手を取らないことを示していた。
「……君は、本当に残酷だ」
アシュベルが小さく笑った。悲しげな笑みだった。
「私を拒んでおきながら、そんなに綺麗に礼を言う」
「申し訳ありません」
「謝らなくていい。君がそういう人だから、私は君を愛したのだろう」
ユリアの目から、ついに一粒、涙が落ちた。
それは、愛の告白に心を揺さぶられた涙にも、使命のために愛を断つ涙にも見えた。
アシュベルは、それ以上近付かなかった。手を伸ばすこともしなかった。
ただ、ユリアを目の前に静かに切り出す。
「分かった。君の選択を尊重する」
「ありがとうございます」
「だが、覚えていてほしい。君が何と名乗り、どこで生きようと、私にとって君はユリア君だ。困った時は、必ず力になる」
ユリアは、深く頷いた。
「はい。ありがとうございます、アシュベル様」
その声は、涙に濡れていた。けれど、彼女は最後まで背筋を伸ばしていた。
国のため、家のため、秘密を守るため。
差し伸べられた救いを、自らの手で断ち切る姿が、そこにあった。
やがて、関係者の前で、ユリアは改めて自分の決意を告げた。
「私はこれから、マリアンヌ・ヘクト・ボヌフォワとして生きます」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「ボヌフォワ家とテネブラエ家の婚約は、そのまま維持してください。私はマリアンヌとして、ユーリスお兄様と婚姻を結びます」
ユーリスの肩がわずかに震えた。レオンハルトが驚愕と悲哀がないまぜになった表情で顔を上げる。
「ユリア、それは……」
「同じ家で、家族として過ごすだけです。ユリアだった時と変わりません。何も問題はありません」
ユリアは微笑んだ。それはとても穏やかで、痛々しい笑みだった。
ユーリスは何も言わなかった。
ただ、ユリアを見つめていた。ユリアがユリアだった頃と同じ菫色を宿すユーリスの瞳には、誰にも読む事のできない感情が深く沈められていた。
「マリアンヌとして社交界に出る事は禁じられていますから、丁度良いかと。ですから、これからはテネブラエの領地にこもって生きます。王都に出る事も、必要がなければ控えます」
「せめて」
レオンハルトが口を挟んだ。声は、震えていた。
「せめて、会いたい。時々でいい。君が無事でいると、顔を見るだけでも……」
「それは、お互いのためになりません」
ユリアは、静かに拒んだ。
「レオン様は、私をユリアとして見てしまわれます。私は、マリアンヌとして生きなければなりません。お会いすれば、どちらにとっても苦しくなるだけです」
「俺は苦しくてもいい」
「私が嫌なのです」
その言葉に、レオンハルトは黙った。ユリアは、レオンハルトを責めるような口調では言わなかった。
ただ、事実として告げただけだった。
「私は、もうユリアとしてレオン様の前に立つことは出来ません」
レオンハルトは、何かを言いかけた。口を開き……だが、声にならないまま胸の中に言葉を呑み込んだ。
出立の日は、冷たい風の吹く朝だった。
紋章をつけた馬車が、テネブラエ公爵家のタウンハウスの門前に停められている。
ユリア――世間にとってはマリアンヌである彼女は、深い色の外套をまとい、静かに馬車へ向かっていた。
その隣にはユーリスがいる。彼は、身内だけの式を終えた今、領地にマリアンヌと連れ立って帰る事になっている。
それを見送るように少し離れて、テネブラエ公爵も立っていた。
レオンハルトは、通りの反対側に止めた紋章のない馬車の中からそれを見ていた。
本当は駆け寄りたかった。手を取りたかった。行かないでくれと縋りたかった。
だが、レオンハルトにはもうそんな事をする資格はない。彼女はマリアンヌで、亡くなったユリアの兄、ユーリスの妻となった女性だ。
ユリアは馬車に乗る前に、一度だけレオンハルトの乗った馬車の方を見た。
マリアンヌの顔で、ユリアの目をして。
もちろん外からは誰が乗っているかは分からない。今日ここにいる事は知らせていない。ただ偶然意識が向いただけだろう。レオンハルトは、その視線に息を呑んだ。
「ユリア」
届くはずのない声で、彼は呟いた。
「愛しているよ。これからもずっと……」
涙が頬を伝った。
レオンハルトは嘆き続ける。
周囲から見れば、それは婚約者を失った王太子の美しい悲劇だった。
病弱なユリアを愛し、若くして妻を亡くし、なおその面影を追い続ける、哀れで一途な王子の姿だった。
ユリアとユーリスの乗った馬車がテネブラエの領地に向けて動き出す。
車輪が石畳を踏みしめる音が、遠ざかっていく。
レオンハルトは、その姿が通りの向こうに消えるまで、ずっと見送っていた。
ユリアは死んだ。
マリアンヌはテネブラエの領地へ去った。
そして、全てを知る者達だけが、その間に横たわる真実を、胸の奥に封じ込めたのだった。




