第63話 【プレイヤー】の咆哮と雌伏の誓い
出仕停止処分という実質的な追放処分を受けた俺は、帰蝶、直子、ゆずの三人を伴い、父の居城・古渡城や自身の本来の拠点であった那古野城へは立ち寄らず、そのまま志賀城へと帰還した。
那古野城はもともと寝起きするためだけに立ち寄っていた城なので、身の回りの荷物など何一つない。着の身着のままでの移動であったが、何の支障も問題もなかった。
「ふふっ……信長様、元服の儀が終わったということは……アタイたち、いつでも『大人のお付き合い』ができますわね?」
古渡城での重苦しい空気を振り払うかのように、帰蝶が妖艶な笑みを浮かべて俺の腕にすり寄ってきた。
「そうだね。これで晴れて大人だ。転生者ならではの魅惑のテクニックをたっぷり見せてあげるよ」
俺が珍しくノリ良く言葉を返すと、隣にいた直子までもがすっと歩み寄り、俺の反対側の腕に抱きついてきた。
「私も……参加希望です」
「ぼ、僕も……っ! 吉法師様……じゃなかった、信長様と一緒がいいよっ!」
ゆずまでもが顔を真っ赤に染め、緊張で身体をこわばらせながらもしっかりと主張してくる。
「ええええっ!? おいおい、俺の初めての相手がまさかの四人プレイ(4P)って、いくらなんでもハード構成が過剰すぎないか!?」
俺が半ば本気で頭を抱えておどけて見せると、帰蝶がぷくっと頬を膨らませ、直子とゆずを牽制するように胸を張った。
「何を仰ってますの! 順番はアタイが絶対に一番目ですからね!」
「「じゃあ、私(僕)が二番目!」」
直子とゆずのセリフが、恐ろしいほどの精度で綺麗にハモった。
「はははっ、二人とも息がピッタリだな。……まあ冗談は置いといて、いまは女買いやイチャイチャに興じている場合じゃない。いまは牙を研ぎ澄まし、爪を隠す時期だ。みんな、俺についてきてくれるか?」
「「「勿論です(よ)!」」」
三人娘の息の合った力強い言葉に、俺は深く頷いた。
志賀城に到着すると、俺はすぐさま大広間に家臣や仲間たちを全員集め、古渡城での元服の儀の一部始終を打ち明けた。
「――というわけで、スキル鑑定で【プレイヤー】とかいう謎のスキルが出ちゃってさ。『大うつけ者に相応しい無能スキル』って大爆笑されて、古渡城から追放されちゃったよ」
俺がさらりと告げると、大広間に集まっていた猛者たちが一斉に激高した。
「ぬ何とおぉぉぉッ!? 我が主・信長様を追放だとぉッ!? あの分からず屋の老害どもめ、絶対に許さんぞッ!」
剛剣の達人・鐘捲自斎が怒髪天を突く勢いで拳を振り上げ、激しい怒りを露わにする。
「おうよッ! 俺が古渡城まで飛んでいって、あの腐れ重臣どもを大銃で片っ端からぶちかましてやりましょうかッ!?」
杉谷善住坊が重厚な鉄の銃身をドカンと床に叩きつけ、殺気を撒き散らす。
「親父は何をやっているんだ……! 信長様が追放されるのを黙って見ていただけなんて、政治家としてどうなんだ……っ!」
平手政秀の息子である平手久秀も、実の父親の手落ちに悔しさを滲ませる。
「ほっほっほ……皆様、そうお怒りになられますな。やるべき事は何一つ変わっておりませぬよ」
果心居士は怪しい笑みを浮かべ、静かに煙管をくゆらせている。
「がっはっは! まったく馬鹿げた話だぜ! そんな下らん雑音なんぞ気にするな信長様! 俺がアンタを天下人にしてやる! 俺は天下一の剣豪になる男、新免無二だぞッ!」
新免無二が豪快に笑い飛ばせば、その隣で朱塗りの巨大な槍を担いだ滝川慶次が、不敵な笑みを口元に浮かべた。
「ふっ……戦場で圧倒的な実力の差を見せつけてやれば、誰も文句は言えなくなる。ただそれだけのことさ」
荒武者たち、ドワーフの技術者たち、忍びたち……志賀城に集う全ての仲間が、俺のために怒り、俺を慰め、そして俺と共に天下へ挑むことを改めて強く誓ってくれたのだ。
「みんな、ありがとう……! いまは雌伏の時だ。圧倒的な力を蓄えて、奴らの度肝を抜いてやろうぜ!」
「「「おおおおおおお――――っっっ!!!」」」
志賀城の屋根を揺るがすほどの地響きのような大歓声が、天へと駆け上がった。
集会が終わった後、古渡城から遅れて志賀城へ戻ってきた老臣・平手政秀が、申し訳なさそうに俺の前で平伏した。
「信長様……申し訳ございません。志賀城下をここまで発展させられたのはひとえに信長様の実力だというのに、その功績を信秀様に十分にお伝えできなかったばかりに、大うつけ者の烙印を押され、挙句の果てに出仕停止処分にまで追い込まれてしまうとは……っ! どうか、この志賀城を信長様の新たなる拠地として、いつでもいつまでもお使いくだされ……!」
「政秀、頭を上げてくれ。志賀城に置いてくれて感謝するよ」
涙を流して自分を責める政秀に、俺はニヤリと笑ってみせた。
「安心しろ政秀。親父はすべてお見通しだったよ。『周囲の雑音を力で黙らせるほどの手柄を立てて戻ってこい』ってさ」
「そ、そうだったのですか……! ならば是が非でも、誰もがひれ伏す絶大な功績を打ち立てねばなりませんな! 粉骨砕身、頑張りましょう!」
それから数日後。
志賀城に数多くの供回りと膨大な荷物を積み込んだ大車列が到着した。率いていたのは、養徳院と池田恒興だった。
「信長様! 私と恒興も古渡城と那古野城を完全に引き払って参りましたわ! 今日からこの志賀城で暮らします! 信長様を陥れるような意地悪な方々と一緒にいるなんて、耐えられませんもの! 信長様、本当におつらかったでしょう……っ!」
養徳院は城門を潜るなり、感極まった様子で俺を力いっぱい抱きしめてくれた。豊かな母性の温もりが全身を包み込む。
「アニキ……! 俺……俺は一生、アニキについて行くっすよ……っ!」
涙目になった恒興が、俺の裾にしがみついてくる。俺はくすりと笑い、恒興のボサボサ頭をガシガシと撫でまわした。
「ツネ、俺はこれっぽっちも落ち込んじゃいないぞ。いまは雌伏の時だ。牙と爪を磨ぎ澄ませて、奴らに真の力を見せつけてやるんだ」
「うっす! アニキの命なら、どこへでも特攻するっす!」
(うーむ……恒興の奴、どんどんヤンキー漫画の忠実な舎弟みたいなノリになっていくな……)
さて、感動の再会も済んだところで、そろそろ本気で『新兵器の開発』に着手するとしよう。
今回取り組むのは、現在運用している火縄銃を根底から覆す『次世代型鉄砲の超進化』だ。
まず、銃身の内部に螺旋状の溝を掘る『ライフリング(条線)』加工を施す。これにより弾丸に回転が加わり、命中精度と飛距離が劇的に跳ね上がる。
次に、従来の球形鉛弾ではなく、空気抵抗を極限まで減らした『円錐形弾頭』を採用。
さらに、火薬と弾丸と発火薬(ライフル用雷管)を一つの金属製ケースにまとめた『金属薬莢入り実包』を製造する。これによって、雨や湿気といった天候に左右されない、薬室の後ろから弾薬を装填する『後装式センターファイア構造』が実現するのだ。
撃発機構をシンプルかつ堅牢な『ボルトアクション方式』に統一できれば、連射速度と信頼性は戦国時代の常識を遥かに超越する。
現実の日本の歴史においても、信長は『早合』と呼ばれる竹筒に一発分の火薬と弾丸をセットにした簡易カートリッジを導入し、装填時間を大幅に短縮させていた。
ならば、現代知識とダンジョンのチートな錬金術、そしてゆずやドワーフ、根来衆の技術力を結集させれば……完璧なボルトアクションライフルを作ることだって、絶対に可能なはずだ。
クックック……待っていろよ、織田の老害ども。俺の【プレイヤー】スキルと超現代兵器の威力を、骨の髄まで叩き込んでやるからな!




