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異世界戦国記~戦国の世に大うつけ者で戦闘スキルが無いと追い出されたけど天下布武やっちゃうよ~  作者: ボルトコボルト


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第51話 魔木トレントと規格外の収穫

 陽の光を遮る鬱鬱とした密林の中、湿った土と生臭い植物の匂いが立ち込めていた。


 果心居士の転移魔法で着地した直後、俺、帰蝶、池田恒興、果心居士、杉谷善住坊、そして気配を消した霧隠才蔵の六人は、尋常ではない空気を察知して即座に武器を抜いていた。


 シュッ!


 気配もなく、蛇のように細長い木々の枝が、帰蝶の白く細い首筋を目掛けて鋭く伸びてきた。


 しかし帰蝶は眉ひとつ動かさずに寸前で体をかわし、俺は間髪入れずに腰の刀を滑らせるように引き抜いた。


 シュパッ!!


 居合い一閃。閃光のような一撃が帰蝶を襲った触手状の枝を綺麗に切断する。俺は素早く刃を返し、帰蝶を庇うように一歩前へ出て刀を構え直した。


 その直後、足元の腐葉土を突き破って突起のような太い根が襲いかかる。


「おのれッ! させるかよッ!」


 恒興が雄叫びを上げ、上段から刀を叩き下ろして根を叩き切ると、そのまま前方に地蹴りを食らわせて突進。勢いを乗せた豪快な水平斬りで、目の前に立ちはだかる巨大な幹を横一文字に薙ぎ払った。


 ドゴォン!!


 激しい衝撃音が響き渡るが、大木の幹の半分ほどまで食い込んだところで、恒興の刀がピタリと止まってしまった。


「ちっ……! 硬ぇ! 斬り通せなかったっす!」


 恒興は苛立ち混じりに毒づくと、大木の幹を靴底で強く踏みつけ、強引に刃を引き抜いた。


 その瞬間、すぐ横に聳え立っていた別の大木がメキメキと音を立てて砕け散った。


 善住坊が両手で構えた特注火縄銃の極厚銃身をフルスイングし、鈍器として大木を一撃で叩き折ったのだ。豪快に土煙が舞い散る中、善住坊が恒興の元へ足早に駆け寄る。


「おう、恒興の坊主! 助けはいらなかったようだな!」


「はいッ、大丈夫っす! これでもアニキについて毎日地獄の鍛錬とモンスター狩りをこなしてるっすからね!」


 息を整えながら胸を張る恒興に、善住坊は周囲を警戒しながらニッと不敵な笑みを浮かべた。


「ははは! ところでこいつら……普通の木じゃねえぞ。『トレント』の群れだ!」


 トレント――樹木が魔力を帯びて徘徊する、強靭な外皮と巨体を持つ高ランクの植物型モンスターだ。


「やっぱりトレントっすか……! しかし、一撃で斬り通せなかったっす。まだまだ自分の修行が足りないっすね」


「いやいや、落ち込むな。トレントの表皮は鉄並みに硬い。そこらの並の武士なら刀の刃がこぼれて表面に浅い傷をつけるのが精精だ。ここまで深く刃を叩き込めただけでも上等すぎる成果だぞ」


 シュッ!


 会話の隙を突くように、別のトレントから伸びた極太の枝が再び帰蝶の背後から迫る。


 恒興と善住坊がハッと息を呑んで俺の方を振り返った瞬間――


 ザシュッッ!!


 俺は一歩踏み込み、腰の刀を片手で一閃させた。放たれた衝撃波と刃が襲いかかるトレントを根元から水平にすっぱりと両断する。断ち切られた巨木が地響きを立てて崩れ落ちていった。


「う、嘘だろ……アニキは片手の一閃でトレントを両断っすよ!? 俺は両手で全力で打ち込んでも半分……はぁ、やっぱりまだまだ修行が足りないっす!」


「ははは! 吉法師様と自分を比べるんじゃねえよ。吉法師様のレベルと身体能力は完全に規格外なんだからな。まあ、お前も十分頑張ってるさ」


「もっと頑張るっす!」


 恒興と善住坊が俺の元へと歩み寄ってきた。


「アニキ、流石の切れ味っす!」


「おう、だが気を抜くなよ。まだ森の奥から無数の気配が寄ってきてる」


「あ〜ん、怖かったわぁ! 吉法師様、助けてくれてありがとう! やっぱりかっこ良くて素敵!」


 周囲のトレントが蠢く中、帰蝶は両手の毒ナイフを鞘へ放り込むと、何事もなかったかのように俺の腰に抱きついてきた。


(ふへっ……思い切り胸が腕に当たってるんですけど……)


 まったく恐怖を感じているようには見えない表情だが、ここで無粋なツッコミを入れるのは野暮というものだ。俺は苦笑しながら、帰蝶の柔らかい黒髪をよしよしと優しく撫でてやった。


 その時、少し離れた位置から重厚な声が響いた。


「ほっほっほ、儂のような老いぼれに絡み付くだなんて、百年早いですぞ。――黒炎よ、燃え尽きて消え去るがいい」


 果心居士の胴体に巻き付こうとしていたトレントの枝が、一瞬にして不気味な黒い漆黒の炎に包まれた。黒炎は一瞬で枝を伝って本体へと燃え広がり、叫び声すら上げさせずにトレントを一瞬で灰へと変えた。


「あ~あ! 果心のおっさん、なんて勿体無いことをしやがるんだ! トレントの木は市場に持っていけば驚くほどの高値で売れるんだぜ!?」


 善住坊が大きな単眼を丸くし、心底惜しそうに溜息をついて果心居士を睨んだ。


「ほっほっほ、左様であったか。ならば炎術は厳禁ですな。では『魔弾』にて退治いたしましょう。……それ!」


 果心居士が細い人指し指をすっとトレントへ向けた瞬間、目に見えぬ圧縮された魔力の弾丸が放たれ、幹の根元に浮き出ていたトレントの顔面の額を正確に撃ち抜いた。トレントはピクリと震えて動きを止めた。


「善住坊、トレントの木ってそんなに高く売れるのか?」


 俺は刀の血を払いながら善住坊に尋ねた。


「おう、めちゃくちゃ高く売れるぜ吉法師様! トレントの木材は重厚でとてつもなく硬く、歳月が経っても反りが一切生じねぇ。おまけに傷もつきにくく、湿気や水気、虫害にも異常に強いんだ。耐久性で言えば間違いなく高級木材の最高峰だな。トレントで作られた家具は一生物どころか何世代も受け継がれるし、頑丈な軍船を造るための最上級の硬材としても引っ張りだこなんだよ」


「ほっほっほ、素材として極上とあらば、余さず収納いたしましょう」


 果心居士が右手を静かに下ろすと、地面の影が不気味に広がり、俺たちが倒した巨大なトレントたちの死骸が、ずずずと底なしの影の中へ沈み込んで消えていった。


(なるほどな……特注の船や高級家具の材料になるのか。なら、1本持ち帰って領地で増やせるか試してみる価値はあるな)


 俺はまだ倒していない近くのトレントに視線を合わせると、テイム(従属)のスキルを発動させた。


 直後、魔力の光がトレントを包み込む。テイムに成功したトレントは攻撃行動を完全に停止させ、何本もの太い根を足のように器用に動かしながら、のそのそと愛嬌のある動きで俺の側まで歩み寄ってきた。


「よし、コイツは俺がテイムしたから絶対に攻撃しないでくれよ」


 俺は側にやってきたトレントのゴツゴツとした硬い幹を、ペットのように優しく撫でてやった。


「はぁ……アニキは相変わらず常識外れすぎるっすね……」


「ああ……凶暴なトレントをその場で従属させて使役するなんて、普通じゃ絶対に考えられねぇぞ……」


 目の前の光景に、恒興と善住坊は呆れ果てた顔で開いた口が塞がらない様子だ。


「ほっほっほ、既存の常識に捕らわれない柔軟さこそが、偉業を成し遂げる主君には必要なのですぞ」


 果心居士が嬉しそうに白い髭を撫でる。


「よし、陣形を決めるぞ! 善住坊と果心居士は遠距離から迫るトレントを魔法と撃破で倒してくれ。俺とツネは近接で群がるトレントを叩く。帰蝶の護衛は、このテイムしたトレントに任せる!」


「おう、遠距離射撃なら任せときな!」


「ほっほっほ、お易い御用ですぞ」


「アニキ、了解っす! 片っ端から叩き斬るっす!」


「え~っ!? 木くずのモンスターが護衛だなんて嫌ですわ~! アタイは吉法師様に守って欲しいのに~!」


 不満たらたらで駄目をこねる我儘な帰蝶の声を心地よいBGMとして聞き流しながら、俺たちは最高級の素材を求めて密林の奥へと突き進んでいくのだった。

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