表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4、私は私が大嫌い

恋は錯乱、愛は狂乱。

 正直、新鮮だった。

 初めて乗った人力車は思ったよりも速くて、風の中を駆け抜ける感覚や、面白おかしい街のエピソード、見かけが悪いと思っていたスカイツリーの絶景ポイントもとても素敵で。確かに、乾君の言う通りだった。


 彼には悪いが、全く期待なんてしていなかった。今日も退屈な日になると思っていた。でも実際は凄く楽しかった。むしろ、楽しそうな彼を見てると何故だかこっちまで楽しくなっていた。


 なのに、楽しければ楽しくなるほど不安も増えて行く。それが何故かは分からないけれど。それにしても何故、彼はここまでしてくれるのだろうか。


 ランチでお好み焼きを食べて、その後電車に乗り、スカイツリーまで行く。


 変わった店が多いモールを歩きながら、乾君と歩く。真上に見えるタワーは、写真で見るのとは違いなんだか迫力がある。


「うわしょっぱい!」


「ははっ、そりゃそうですよ、塩ですよ塩」


「ふふっ、そうよね」


 お塩の専門店で試食をしてみたり、食品サンプルのお店を覗いて見たり。


「かんざしなんてオシャレねぇ〜、でもちょっと私には似合わないわね」


「素敵ですよ」


「やかましい」


 そんな事をいいつつ、水族館で漂うクラゲをボケっとみたり。静かで青い空間を堪能したり。


 青い空間を観ていると、色々考えてしまう。彼は私のどこが好きなのだろうか。私の持っているものは何なのだろうか。


 本当に分からない。彼は思ったよりも素敵な人だ。でもその分、不安になる。知れば知るほど、彼がわからない。


「桜子さん? つまらなかったですか?」


「えっ? いや、そんなことないわ。こういうのも好きよ」


「それはなにより! でもそろそろ行きましょうか。メインですよ、メイン」


 思ったよりも速いタワーのエレベーターに驚きつつ、展望台へと到着する。周りに広がるのは、飛行機以外では見たことの無い景色。


「うわぁやっぱり、凄い高さね……」


「透明な床ありますよ? 高いところ大丈夫です? 」


「余裕! 行くわよ!」


 ビビる乾君を引っ張って透明な床の上ではしゃいでみたり、お土産でグッズを買ったり。どうしてこんなに楽しいんだろう。一人なら、絶対に来なかっただろうなぁ。


「桜子さん」


「ん? 」


「これ、良かったら……」


 乾君が渡してきたのは、さっき、お店で付けてみた簪だ。いつの間に買ったのやら……。


「――――その、どうも」


 彼の笑う姿はよく見るが、こんなに嬉しそうなのは初めてかもしれない。夕焼け色に染まる街の景色。知っている色なのに、全く知らない世界。


 楽しければ楽しいほど、終わりが不安になる。彼に申し訳なくなってくる。


 そうして、あっという間に時間が過ぎる。まさか、こんなに楽しくなるとは思わなかった。帰りの電車で今日の出来事を話しつつ、地元の駅に戻る。


 残念だけど、門限が八時なので夜景は観られない。


「今日は付き合ってくれてありがとうございました。本当に」


「――――意外と、楽しかったわ」


 嘘だ。本当はすごく楽しかった。


「乾君……」


「なんです?」


 ずっと聞きたかった言葉。今まで聞きたくても聞けなかった疑問。


「どうして、そんなに親切にしてくれるの?」


「桜子さんが、好きだからです」


 真っ直ぐと私の顔を見つめながら、ニコリと笑う乾君。どうして、そんなに迷わずハッキリと言えるのだろうか。私には分からない。


「ねぇ……私のどこが好きなの?」


「全部です」


 全部……全部って、なんなんだろう。彼は私のどこを見ているのだろう。分からない。


「なら、私が死ねと言ったら死ぬの?」


「怖いですが、喜んで」


 なぜ、迷いもなく言えるのだろう。


 口だけならどうとでも言える。私の持っている物なんて、ねじ曲がった性格と結城家の名前だけ。


 ――――結城家の……名前?


 まさか、いや、彼はそんな人じゃ……でも、私の良い面なんてそれくらいしか無い。


「僕は、桜子さんが好きです」


「口だけでしょ?」


 私は、何を言っているのだろうか。


「信用出来ないのよ。好きなんて言われても。家の事もあるし」


「家なんて関係ないです。僕は、桜子さんと出会って、桜子さんと話して、その時気が付いたんです。もしかして、これが僕の全てなんじゃないかって」


「たった、それだけで?」


「恋って、そういうものじゃないですか?」


 なぜ、こんな事を言ってくれるのだろうか。


「私は……ゴメンだけど、無理よ、私には無理。本当に、ゴメンなさい」


 どうして、こんな私を好きでいてくれるのか。私の事は、私ですら嫌いなのに。


「――――そっか、それが桜子さんの答えなら。分かりました。でも忘れないで。僕は貴方のことが好きです」


 どうしてそんなに真っ直ぐで居られるの?

 どうしてそんなに迷わないでいられるの?

 どうして?


 分からない。私には、分からない。


「ディナーの気分じゃあ無いですよね。もう門限に近いですし……帰りましょう。送ります」


「――――ええ」


 暗い中、乾君に送って貰い家に着く。帰りは殆ど無言になってしまった。


「明日からは、いつも通りです。もう迷惑はかけません。ありがうございました」


「――――それはっ!」


 そうして、最高の日は、最悪の日に変わる。こんなにも良くして貰ったのに。どうして私はこうなのだろうか。どうして、あんな事を言ってしまったのか。


 乾君は最後まで笑っていた。私なら、きっと泣いてしまうだろうに。でもきっと彼も……。


 その日以来、乾君は朝と帰りの挨拶以外、殆ど私に話しかけなくなっていた。


「おはよう」

「また明日」


 この二言だけ。どうして私はあんな事を言ってしまったのだろうか。なぜ彼を傷つけてしまったのだろうか。私は私が大嫌いだ。


「お姉ぇ、デートしてから暗いね。そんなに嫌な奴だった……わけじゃないわよね。ずっとそれ見てるし」


「意外と……ううん、凄く楽しかった」


「付き合うの?」


「――――振ったわ」


「ならなんでそれ見てるの」


「怖かったのよ……私が嫌いって言っても、嫌がらせしても好きって……どこが好きなのよ……私のどこが……わからないのよ」


 どうして言えないのだろう。

 妹には、素直に言えるのに。


「パパが言ってたけど、人って知らない事に怖がるんですって。そのひと、お姉ぇの事大好きなんだろうねぇ」


「そんなこと……」


 そして、数日が経つ。


 あんな事を言った手前、私からは話しかけ辛い。彼も、前より話しかけてはくれない。当たり前の事だ。


「乾君……この間の……」


「桜子さん。大丈夫です。気にしてませんから」


「その……そう……」


 無理だ。


「乾君、その……新しく喫茶店が出来たんですって……」


「桜子さん。気を使ってくれなくても良いんです。ありがとう。じゃあ、また明日」


 もう、無理だ。


「ねぇ、どうしたの桜子。なんか、乾君とその……距離感おかしくない? 」


「ぜーんぶ、私が悪いのよ」


「でしょうね」


「――――まぁそうなんだけど」


「そんなに困ってるなら、おじいちゃんに話してみれば? 凄い人って聞いたけど」


 お爺様に?


 確かに、お爺様ならこういう状況に慣れてるかもしれない。お手上げだ。私にはもう何も出来ない。


「由香、いつもありがと」


「いつもこうだといいのに……どういたしまして」


高校生の時、ごちゃごちゃ考えてたな〜ってね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ