3、デートじゃないわ、遊ぶだけ
一番人気のデートコースってどこでしょうね?
「丸一日……!ではよろしくお願いします。予定は僕におまかせを。最近は天気も変わりやすいですが……まぁ問題は無いでしょう」
そうして、人生初のデートというスケジュールが週末に入り込む。スケジュール管理ノートに書いた文字は青。我ながら、見るからにテンションが低い。
それから放課後まで、まるで何事も無かったかのように乾君は静かだ。というより、いつも通りだ。たまに目が合えばニッコリとこちらを見るだけ。
私の方はと言えば、片瞼と口角がピクリと動くのみ。外から見ればきっと、微妙すぎる光景だろう。
しかし、ここで問題が発生した。いや、そもそも問題しか発生していないが。どうせ一回きりのデートだ。気にするだけ無駄な事だ。
だけど実は、私は、人生で一度もデートなどした事が無いのだ。
練習しようにもやりようがないし、対策を練ろうと調べても想像が出来ない。私は一体、どうして4日も間を空けてしまったんだろうか。
考えれば考える程、考え事が増えていく。乾君はどうかと見てみれば、人をデートに誘った癖に女の子と楽しそうに話している。やはり本性はチャラ男なのだ。歌にもあるでしょう?狼なのよ、男って奴は。
どうしてアイツは緊張のきの字も浮かべてないのか。やはり慣れているのか。こっちは要らない苦労を背負っているってのに。これは、ストレスだ。
授業が全く身に入らない三日間が過ぎ去り、デートを明日に控えてしまう。そもそもデートという呼び方が悪い。デートじゃない、一緒に遊ぶだけ。
いや違う、私が一人で遊んでそこについでに乾君がいるの。そうよ、デートじゃないわ、遊ぶだけ。そう考えよう。うん、無理ね。
「ねぇ柚葉、どっちがいいと思う? やっぱりパステルイエローかな、それとも赤? あ、メイクもいつものでいいのかな、髪型変えるべき?」
「――――お姉ぇ」
「でもイエロー……? いや、夏柄ワイドパンツ無地で行こう。よしこれだ。これで……何? 」
「デート、嫌なんじゃ無かったの?」
「――――――――あっ」
常に全力を出す悪い癖が出てしまった……のだろう。一体なにをしていたのだろうか。適当に過ごすだけじゃない、適当でいいのよ適当で、そうね。そうよ。
「さて、早く寝るわ。明日は頭スッキリさせないとね」
「お姉ぇ」
「何?」
「お楽しみに」
「やかましい!」
そんな訳でデート当日。若干寝不足な気がしないでもないが何の問題もない。待ち合わせの駅に着いてみれば、乾の野郎、どこにもいやがらない。SNSのフレンド登録もしていないので、メールを送信する。もう帰ろうかな。
「あの〜」
「ナンパならお断り……い、乾君……!?」
現れたのは、普段の犬っぽさも無い七分丈のメガネボーイ。バッチリ髪も立てている。いつもより明らかに爽やかた。
「――――お待たせ」
「大丈夫ですよ、今来た所です。今日の髪型も素敵ですね! 制服じゃないのも可愛いです」
「さぁて、行きますか!これチャージしておきました。使ってください」
交通費くらい自分で出す。全く舐めてくれるわ。
「いいわ、チャージしてあるし。んで? どこ行くの? 」
「舞台は……浅草です!」
――――このクソ暑い時期に……やっぱりダメね。さようなら乾君。さようなら今日の快適さ。
そんな訳で、電車一本で浅草に到着する。30分間会話らしい会話もない。乾君は幸せそうたが。なんだかいたたまれない。
「さて、着きましたね。浅草って来たことありますか?」
「無いわね。用事がないもの」
「なるほど、じゃあ回りますか! 予約までちょっと時間ありますし」
そんな訳で、初めて雷門を見る。写真で見るより提灯が大きく、思ったよりも感心する。みんなが写真を撮りたがるのも分かる……かもしれない。
「大っきいですよねぇ〜、さぁて、せっかくだし、参拝しますか」
仲見世通りを歩いていると、修学旅行生や外国人が喜びそうなお店がズラリと並んでいる。
「こういうの観ると、京都の修学旅行思い出しません?」
「やっぱり京都だったのね。確かにこんな感じだったような」
「見て下さいよ!サイバーサングラスですね!」
お店に置いてあるのは、和風でもなんでもないレンズが繋がったサングラス。というかもうゴーグルでしょうそれ。でも、ちょっと面白いかも。
「そう言えばなんでメガネなの?」
サングラスで思い出したが、なんでメガネなんだろう。普段はかけてないのに。
「普段はコンタクトなんですけど、ちょっとイメージ変えようかなぁって」
「ふーん。いいんじゃない?」
悔しいけど、乾君のメガネはとても似合っている。意地でもハッキリは言わないが、正直意外と良い。
そんなこんなで、クジを引いて二人揃って凶を引いて結んだり、外国人だらけで風情がないわとか言ってみたり、戻りながら試食をしたりして、意外と楽しく満喫する。少し汗ばんでいると、目の前にはアイスの屋台。
「ソーダとミルクと抹茶にオ〜ルェンジ……どれにします? 僕はシンプルにソーダですね」
「ふふっ、ちょっと、なんでオレンジだけ……あっ、私ソーダ」
「いいねぇ……若いって……」
おじさんが何故か切ないセリフを言っているが、どうせろくな事考えてないんだろう。なぜニヤニヤしてんだか。
アイスを食べながら、初めてゆっくりと乾君を見る。正直、きちんと見た事は無かった。注意して見ると、乾君は、スっと車道側に移動したり、いつの間にか冷たい飲み物を持ってきたり、歩くスピードを合わせてくれたり。やっぱり慣れてるのかしら。
「その……良くするの? こういうの」
「いえ? 初めてですよ?」
「詳しいのね、初めてにしては」
今のは……ちょっとキツかったかもしれない。ていうかどうしてこんな事を聞いたのだろう。
「この街が好きなんです。とっても賑やかで、みんな楽しそうで……ちょっと夜は怖いですけどね……夢から覚める、みたいな?」
「夢から覚める?」
「でも僕は、そういう所も好きなんです。悪い所も全部。それを含めて、この街でしょう?」
乾君は正直、普段なにを考えているのか分からない人間だ。私の言う事を聞いたり、ニコニコ笑ってるだけだと思いきや、いきなり大胆になったり。
彼と話しながら雷門に戻る。昼に近づくにつれ通りの人はどんどん増えている。流石休日の観光地、普段なら絶対に来ないだろうなぁ。
「乗り物酔いは大丈夫でしたよね?」
「え? なんで知ってるの?」
「あれ? 一年の臨海学校で言ってたじゃないですか」
そう言えば、そんな事を話したような気もする。よく覚えてたわね乾君。たしか、同じ保健委員だったような。
「さて珍しいですよ〜! はいっ人力車です! あっ予約した乾です」
「人力車!?」
「予約の乾様ですね? ではこちらへ!」
人力車なんて、わざわざ乗らないと人生で体験する事はないだろう。なんだか緊張する。しかも、座ってみれば距離が近い。こいつ、これが目的か……!
「ちょっと近くなっちゃいますけど、これが一番わかりやすいんですよ」
「?」
僕は浅草巡りが好きですね




