同一人物多人格
「酒を売っている店は見つけられるか」なんて不安を弾き飛ばすほどその店は目立っていた。
真っ白の壁に木造の屋根ーー周りを凌駕する大きさだった。
さらに人の出入りも数倍多い。
店の前に立っている人好きそうな笑顔の老婆がこちらを手招きしている。
「お、どうもこんにちは。酒を求めるでかい兄ちゃん一行だね。
お入り。どんな酒を嗜むのかい?」
「あーうっと、うあ」
相変わらずのミレイユは放っておき、
「爺さん白鮭と辛辣梅ってやつを一緒に焼いた飯に合うものと香りが強いもん頼む!」
目新しい新しいもの達に興味津々なアルヒトが早々に注文すると店内を徘徊し始めた。
「ここの魚は脂っこいからな辛口の酒がよく合うね。海辺でよく育つアドレットの木の禍々しい実をね
海の中で寝かせて作ったアドグイムだね。風味重視なら辛辣梅の実を漬けて海風がよく当たるところ
保管するアドスイムっていう酒が美味しいよ。
ここは種類に乏しいからねぇ、他のはちいと値がはるし量もなくてね。
最近農業と酪農が盛んな地域あったんだが……消えちまってなぁ。
条件に合う酒の2つは安いから量を買っていきな。」
「色の濃い大きい巻き貝2つと小さい二枚貝6つね。」
「あ、ありがとうゴザイマス。」
酒屋の店主にはミレイユが一番楽しみにしているのがわかったのだろう。
俺の後ろにいるミレイユに酒の入った小さな器をを渡していた。
「両方とも6Ⅼづつと……少しお時間いいですか?
実のなる木があるのに木工産業が盛んではないですよね。
何かあるのですか?」
注文した酒の瓶を袋にまとめながらニヤニヤと止まらない笑顔で話し出す。
「鋭いねぇ。あの木はね海に強いんだ。
水はけがよく塩を内側にため込むから腐らないし硬いから折れない。
最高の素材なんだけど、縦に割れやすくてねー。今んとこ締め上げて建物に使うぐらいしかないね。」
「そうそう魚屋の兄ちゃんとこの長男が伝えに走ってきたからね、
辛辣梅を漬けたものをここに届けてくれてるよ。
帰りにもう一度魚屋によりな。
走って来た長男が魚を捌くために一緒に帰ってくれるらしいよ。」
え、え、え?
「いやー知らない子をあげるのは、どうなのでしょう。遠慮した…………」
「赤髪の質問攻めにした子だよ。
あそこんとこ店主はバンダナで髪を隠しているけれど同じ赤髪だよ。諦めな。」
うわー……、わっるい顔。
「じゃあ貰ってくよ!はい!」
いつの間にか戻って来たアルヒトが固まっている俺の横から手を出し、
品物を受け取り会計を済ませていた。
「たくさん買ってくれたからね、酒を造った後の辛辣梅も持っていき。味は帰って食べてみな。」
ついでにと非売品の辛辣梅を袋に押し込んで手を振ってくれる。
「たくさんありがとうございまーす!」
ぺこ、と頭を下げ扉をくぐるとほんのり空が朱に染まっていた。
「たたいてーたたいてーたたいてーあぶーてーたーたーくー。」
アルヒトの気の抜ける歌を聴きながら深まっていく朱に染まる下り坂を下っていく。
初めて見た世界の色だった。




