憎悪と嫌悪
5.正義
700年前、現状を憂いた1人の女が生涯を投じ、一つの理念を唱え続けた。
【無知は罪、知恵はリスク、学びはふか、疑いは権利、暴力は正義、嫉妬は天秤、思い込みは大罪】
当時奇抜だった彼女を聖人とし、今の教えは形成された。
現在の学び舎では勉強を開始する前に教えを確認する。
「ハイ皆さんー。今日も大事な教え言えるかなぁー?せーの!」
「「「「「「「「無知は罪、権利は許し、義務は絶対!」」」」」」」
「よくできました。シェタン様は皆に守護をくださるでしょう!」
シェタン様、世の中に合うよう教えを改変された強き女性の名だ。
6.新天地
3人で旅立ったシルニス、ミレイユ、アルヒトたちは疲労困憊であった。
そして通路の右にある、気に食わない学び舎から聞こえる声が余計に気分を下げさせる。
「あーー煩い。暑すぎてイライラするのに耳障りな指導聞いちまって余計にテンション下がるー」
アルヒトは限界だった。
とりあえず横にいたシルニスに体重を預けるとーー
「アルヒト、もたれかかるな、あづい」
拒否されてしまった。
仕方がない、とシルニスの向こうにいるミレイユを襲いにいく。
「ミレイユゥゥゥゥ」
「キャーーーーーーーーー」
現在シルニスたちは海の名所である故郷から右に約30㎞進んだ場所ーー中型の庇護地に滞在している。
この地は戦闘を目的とした武装が禁止されており、よその集団を観光で受け入れている珍しい場所であるため、混乱の起きている今最も安全な択だ。
「あーつーいー」
「ね、熱い……」
「筋肉だるまだからな、私より暑そう。」
ぎゃいぎゃいうるさい2人は邪魔だが納得してしまうほど暑い。
もともとは風の涼しい草原と洞窟ばかりの場所にいたからか、まったく耐性がない。
さらに宿に向かう最中誰1人として武装をせずラフな格好でいることがアルヒトをものすごく
ソワソワさせる。
案内された宿は木の柱を海中に挿し、海上に2階の家が建つ建築方式になっていた。
「きれーい!海の上に浮かばせるなんてロマンチックだね。」
見たことがない家にミレイユはテンションが上がるがーー
「そうか?この風じゃあ安定した火は起こせないし鉱石は錆びるぞ。皮や木も消耗が速い。」
「だね。それに幅広く大量に植物を育てられませんし、家畜も無理そうですね。
次に繋がらないでしょう。」
「だな。だからこそ制限をうまく活用してるな。」
アルヒトはものづくり関連の視点を、シルニスは農耕と畜産関係の視点から切り込んでくる。
「ロマンがない!今ここで「綺麗」って言葉が出ず、生存戦略に行くあたり汚れてる、心がどす黒い!
焼野原!」
領に入った瞬間から建物の影や中から突き刺さるような視線と後ろから3人の足音がついて回っていた。
こんな会話してたら後ろからつけてくる人が1人増えちゃってるよ。
「ミレイユは肌が焼野原だな。」
「ひどい!僕のは小麦色!」
挙動不審になっているとアルヒトが僕の腕を人差し指でなぞりながら辛辣な言葉を吐いてくる。
(チェ、日に焼けたって赤くなって戻る、誰かさんたちとは違うんだい。)
「日に焼けた肌もピンクブロンドの短い髪もかわいいよ!」
「えぇ、たれ目気味のエメラルドの瞳もかわいいですよ。」
しかめっ面な僕の顔を見て愛おしそうにアルヒトの手が髪を、シルニスの手が右のまぶたを触ってくる。
「くすぐったいよ!」




